後始末屋の特異点   作:緋寺

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絶対的な支配者

 裏切り者の鎮守府へと向かう中、空襲を受けたうみどり。それは秋月が隊長を務める防空隊によって食い止められるが、それを放った空母が含まれる()部隊が向かってきていることも判明。それには忌雷の対処が特に得意である、特異点深雪を筆頭とした部隊が迎撃に出た。

 相手には出来損ないまで含まれている。ムーサが濃い匂い、発酵臭と称しつつ、さらに美味しそうとまで言ってしまっているため、共に出撃するのは良かったが、制御は必要であるとも考えている。

 

「ムーサ、出来損ないは身体からヤベェ液を出せるんだ。いくらお前でも触ったら死んじまうかもしれねぇ」

「ソウナノ?」

「ああ、僕は一度喰らってるんだけど、酷いなんてものじゃない。身体は黒く溶けていくように腐るんだ。痛みも普通ではなかった」

 

 思い出すだけでもゾッとする話。身体が腐り落ちるだなんて、考えたくもない。

 だがムーサはそこまで危機感を持っていないようである。やってくる連中が食事を運んでくる程度にしか考えていない。

 

 ムーサとて姫級の1人。かなり力を持つ個体であり、軽巡洋艦ではあっても戦艦並みの力を持っていると言ってもいい。敵との戦闘で、その力を遺憾無く発揮することが出来れば、負けはないだろう。

 しかしそれは、敵が単純な艦娘であったらの話。擬似Kがいる時点で、何かしらの能力を持っていそうだし、とにかく出来損ないがいるというのが大問題。迂闊に近付けないこともあり、慎重にことを運ばないと大惨事になる。

 ただでさえムーサはご馳走を目の前にしてヤケにテンションが高いようにも思えた。慢心は必ず足を掬われる。そうならないように、常に気を張っておかねばならないだろう。

 

 

 

 

 出撃してそこまで時間がかかることもなく、水平線の向こうに敵部隊の姿をその目で見ることになる。

 敵としての認識はあるものの、その姿はやはり艦娘。しかし、こちらへの、特に深雪(特異点)への敵意は、これまでの敵と同じであると感じる。

 

「早速仕掛けてきやがった」

 

 あちらは会敵した瞬間から砲撃開始。艦娘の見た目の方はそうでもないのだが、出来損ないからはやたらと強力な火力の砲撃が飛んでくる。その攻撃元が、出来損ない。

 海賊船では、分不相応な主砲を装備して身体を壊すものの、即座に再生して元通りになるという性質を見せている。駆逐艦であろうが戦艦の主砲を当たり前のように扱い、身体が壊れる無茶を自己修復で補うという荒業で補う、まさにバケモノの戦い方。

 

「久しぶりに見たね……相変わらず気分が悪い」

 

 時雨が舌打ちをしながらその姿を捉えた。遠目でもわかる、そのグロテスクな見た目を。

 2人いる出来損ないは、どちらも忌雷に侵蝕され、顔すらうまく認識出来ないような有様だった。目や耳を触手が貫き、顔を包み込むように蠢く。身体も一部肥大化したり、甲殻のような装甲に包まれたりと大惨事。そのせいで制服すらまともに着せられていないことから、それが身内でなければ誰かもわからない始末。

 

 残り4人は見た目は完全に艦娘。擬似カテゴリーKもそうなっているということは、つい先日寄生されていた浜風と同じような状態。姿は艦娘でも、中身は忌雷によって洗脳済み、そして艤装の中にはたっぷりの忌雷ということになるか。

 

「アレと一緒に来てんのに何も感じないってのがもうダメだねぇ。普通なら仲間がアレだったら嫌なもんでしょ」

 

 グレカーレも嫌そうに呟く。一度戦っているからこそ、その醜悪さは嫌というほどわかる。だからこそ、装備した電磁波照射装置もしっかりと構えた。忌雷に通用するなら、出来損ないにもおそらく効く。

 

「砲撃は躱しながら、まずは近付くぞ。一応話は聞いておく。もしかしたら、脅されてやってるだけかもしれねぇ」

「なのです。なるべく傷つけずに終われるなら終わりたいのです」

「出来損ないはそうもいかないだろうけどね」

 

 幸い、その砲撃はそこまで精度の高いものではない。ただ威力があるだけ。

 また、カテゴリーCである戦艦と空母の攻撃はあまり練度を感じられなかった。

 いや、本来ならば高練度なのかもしれないが、これまでの数多の戦いを経て、深雪達の練度は格段に上昇しているため、相対的に低く見えるだけである。あちらも練度限界に近いくらいの強力な艦娘なのだが。

 

「砲撃をやめろ」

 

 一切攻撃することなく、話が出来る距離まで接近。深雪はまだ艦娘姿のまま、攻撃の意思は()()()()()無いという体裁で声をかけた。

 声色から明らかに怒りが含まれているが、だとしても当たり散らすような攻撃はしない。撃てば終わらせられることくらい理解しているが、それでも自重している。あちらがどれだけ洗脳されているかを知るためでもある。

 

 だが、深雪の言葉を遮るかのように、出来損ないが前に立ち、身体を壊しながら異常な火力を振るってくる。命中したらそのまま命まで持っていかれるような砲撃を、普通なら出来ないくらいの連射で。思考回路は既に焼き切れていると言ってもいい。ただ特異点を潰すだけの機械にされている。

 

「話をするつもりは無いってことか」

 

 話が出来そうなカテゴリーCに何度も声をかけるが、無視の一点張り。今更何を話しても意味がなく、何をしようがやることは変わらない。ならば話すだけ無駄。

 

「だったら、まずはそいつらを黙らせるぞ。白雲」

「かしこまりました。手筈通りに」

 

 既に鎖に自らの力を注ぎ込んでいた白雲は、出来損ないの砲撃を華麗に回避しながら接近し、その鎖を振るう。動きを止めることを優先するのならば、白雲の凍結が最も適しているため、最初から準備させていた。白雲もそのために先陣を切ったのだから、その準備を怠ることはしない。

 

 しかし、白雲のこの戦い方は、既にあちら側のデータに入っていた。海賊船での戦いでも出来損ないの体液ばらまきを食い止め、特異点Wの戦いでも鎖を振り回しながら周囲を凍らせるその技は、要警戒として認識があったのだろう。

 前に立つ出来損ない達は、鎖の届かない場所にステップを踏んだかと思えば、白雲を優先的に狙い始めた。意思は無くとも、最も脅威と思われるものを徹底的に排除するために。

 

「む……お姉様」

「わかってる。これも予想は出来てる」

 

 やはり出来損ないを先に処理しなくてはならない。これをどうにかしなくては、まともに話も出来やしない。

 

「お前らの誰かがコイツらを動かしてるんだろ。話がしたいだけだ。一度止めてくれ」

 

 深雪は至って冷静に接する。あちらには殺意があろうが、あくまでもまずは話し合いから進めようと努める。

 だがやはり聞く耳を持たない敵部隊は、出来損ないを壁にするように砲撃をやめることはなかった。万が一出来損ないに当たったとしても、即座に自己修復されるのだから、フレンドリーファイアを考慮すらしない。

 

「いくら出来損ないでも、お前らの仲間だろうが。そんな戦い方して何も思わねぇのか」

 

 と言ったところで、戦い方を変えることもない。躊躇すらせず、むしろ攻撃を一層激しくするほど。

 裏切り者の洗脳教育がしっかり行き届いているのだろうと確信しつつ、深雪は大きく溜息を吐いた。話せる距離での戦いで、深雪達からは全く手を出しておらず、あちらから猛烈な攻撃をされても意に介さないくらいに回避し続けているというのに、その実力差もわからずにただただ攻撃をしてくるだけ。

 

 あまりにも拙い。あまりにもレベルが低い。これまでの敵には、まるで追いついていない。

 

「忌雷、バラ撒イテルヨ。コッチ向カッテキテル」

 

 そんなムーサの言葉で、なるほどと理解した。話すこともなくただ攻撃しているのは、足下から忍び寄る忌雷に気付かせないようにするカモフラージュ。誰か1人に寄生さえしてしまえば、こちらの戦力は瓦解すると睨んでいたのだろう。だから精一杯の虚勢を張って、懸命に忌雷の行動から目を逸らそうとしていた。

 だが、ムーサにはそれは効かない。むしろ、目の前の敵より忌雷のことしか見ていないくらいなのだから、カモフラージュも何もあったものではない。ミスディレクションしようとしているのに視線が変わらないようなもの。

 

「ありがとな。電、グレカーレ、早速やってくれ」

「なのです!」

「あいよー。ぶっ放す!」

 

 ムーサがその位置を完全に把握しているため、そこに向けて2人は電磁波照射装置を放った。見た目は探照灯、しかし光を放つわけではないので、何がされたかはわからない、全く見えない攻撃が海上に放たれた。

 角度をつけながら前方に隈なく照射し続けることで、その隙間なく進行を阻止する。そして、その成果はすぐに現れた。

 

「ワァ、浮カンデキタ浮カンデキタ♪」

 

 ムーサが喜ぶのも無理はない。電磁波をまともに受けたことで、深雪達に向かってきていた忌雷は機能を一時的に停止。気絶したかのように海面にぷかぷかと浮かび始めていた。

 それをすかさず拾い集めたムーサは、ニコニコしながら敵に見せつける。

 

「コンナニイッパイアリガトネ。アンタ達ノ切リ札ナノカナ。デモ、私ニハ、タダノ()()()ナンダ」

 

 そして、これ見よがしに1つを口に入れた。

 

 ムーサが忌雷を食べる光景を見るのは深雪達も初めてのこと。寄生による被害を笑えないくらい出しているそれを、自ら体内に取り込むというのはどうにも理解が出来ない行為。

 流石にそんな光景を見たら、敵であっても攻撃の手を止めてしまうくらいに驚いた。

 

「ング、ング……ン、味ハ変ワラナイネ♪ 美味シー♪」

 

 そしてこの反応。狂気の沙汰にしか思えない光景。ただ口に入れただけでなく、一応は深海棲艦の一部である忌雷の装甲を当たり前のように噛み砕き、その体液だって身体に有害なモノでありそうなのに何も害はなくむしろ美味しそうに啜り、飲み込んだ後も満足げな表情で2つ目を頬張る。

 

「私ノ御馳走ヲ作ッテクレテルノハ、アンタダネ」

 

 2つ目の忌雷を飲み込んだムーサが目をつけたのは、姿自体は艦娘のままである擬似カテゴリーKの片方。艤装が苗床となっている、ただ忌雷をばら撒くだけの力を得た者。

 本来ならば鎮守府を簡単に壊滅させられる脅威でしかないのだが、ムーサにしてみたら、ただ大好物を生産し続けるビュッフェか何か。

 

 その目は捕食者の目。忌雷に対して絶対的な力を持つ、真なる忌雷キラーとして生まれた者の、この状況においての絶対的な支配者。

 

「ソレジャア……イタダキマース♪」

 

 あまりの光景に攻撃すら忘れていた擬似カテゴリーKは、向かってくるムーサへの反応が遅れてしまった。時既に遅し、主砲を構える前に、ムーサはゼロ距離へと近付いたかと思えば、殴るわけでも蹴るわけでもなく、好物が詰まった苗床を引き剥がすために、身体と艤装の隙間に手を突っ込んで無理矢理引き裂いた。

 こんなテンションでもやはり姫。その膂力は異常と言ってもよく、ここまで接近してしまえば、徒手空拳の心得があったとしても簡単には回避出来ない。ましてや練度は高めであっても洗脳を受けているような艦娘に、これを回避する術など存在しない。

 

 酷い音と共に背中から無理矢理剥がされた艤装は、そのまま海へと落ちる。艤装のアシストが失われた敵は浮力すら失いその場に沈みかけた。海上歩行もままならぬ状態で戦場に取り残されるという、あまりにも酷い状態。

 

「ウワァ、コッチニモイッパイダ♪ マダマダ食ベレソウダナァ♪」

 

 艤装に手を突っ込んで忌雷を引き摺り出したムーサは、戦場だというのにまた敵の前で忌雷を捕食。本来ならば艤装から逃げ出してもいいのに、ムーサという絶対的な捕食者の前に忌雷すらも身動きが取れなくなってしまっていた。

 

 

 

 

「……お前ら、まだやるのか?」

 

 深雪はなんとか言葉を紡ぐ。ムーサのそれは、味方すら呆気に取られるモノ。それでもこの戦いを終わらせるためにも、どうにか前に進もうとした。

 だが、ここまで凄惨な光景を見せられたら、敵も戦意を喪失しかけていた。忌雷を喰う者が特異点側に、いや、世界に存在しているなんて、聞いたことが無かったのだから。

 

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