後始末屋の特異点   作:緋寺

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余裕ある戦い

 うみどりを襲撃する裏切り者の鎮守府の艦娘達。そのうちの2人は出来損ないと化しており、それでも平然としている艦娘達に、深雪達は少なからず嫌悪感を抱く。

 だが、ただ1人、ムーサだけは感覚が違った。嫌悪感などなく、むしろこの場に()()()を届けてくれた者達という、普通では考えられない認識。そしてそれを実行に移したことで、擬似カテゴリーKにされていた1人はその場で戦闘不能へと追いやった。

 

「フー、全部食ベ切ッチャッタ。前ノ子ハ20体持ッテタノニ、10体シカナインダモン。サッキバラ撒イタカラダヨネ」

 

 艤装を無理矢理引き剥がし、内部に潜んでいた忌雷を食い尽くしてしまったのだ。

 そもそもが攻撃に紛れ込ませて、部隊の誰かに寄生してやろうという魂胆だったこともあるのだが、それに対しては電磁波照射装置がしっかりと効いているため、被害を受けるようなことはなかった。

 

 このムーサという存在は、まだあちら側には知られていないため、正直()()()()とすら感じるこの行動は、洗脳されているであろう敵艦娘が目にしたとしても動きが止まってしまう程の光景。

 特にカテゴリーC、忌雷による洗脳も施されていない、そんなことしなくても裏切り者の言いなりになってしまっているような者は、あまりのことに口を開いてしまっていた。

 

「……お前ら、まだやるのか?」

 

 そんな敵に対して深雪が尋ねる。忌雷による寄生が未然に防がれたことよりも、未だ海に浮かんでいる忌雷を拾い集めてニコニコしているムーサに対しての戦意喪失っぶりに、若干同情すらしていた。

 何せ、深雪達もムーサの捕食を見るのは初めてのこと。忌雷は敵の使う手段の中でも特に脅威ではあるのだが、それをここまで簡単に終わらせてしまう者が仲間にいるだなんて思ってもいなかった。

 ムーサは特異点の願いから生まれた存在。その願いが『忌雷の排除』なのだから、こと忌雷に対しては無敵と言ってもいいだろう。

 

 しかし、ここまで来てカテゴリーCの艦娘の様子がおかしいことに気付いた。深雪が尋ねても無反応。そして、何を言っても何も言い返してこない。ムーサの行動を見て驚き、戦意を喪失しかけていても、だからと言ってここまで無反応なのはおかしいと感じる。

 

「深雪、こいつら耳栓、いや、通信機を耳につけてるみたいだ」

 

 ムーサの行動に唖然としつつも、それに時雨は気付いた。艦娘達は全員、何やら耳栓のようなイヤホンを身につけていた。

 

 これは非常にわかりやすい特異点対策の1つである。何故なら、特異点Wでの戦いで、特異点の言葉に乗って、説得に応じてしまった者が3人もいるからである。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()というルールが出来たのだろう。外部の言葉はシャットアウトし、自分達の言葉は聞こえるようにしている。よく見れば胸元にマイクのようなモノまで見えた。

 集音性を極力抑えたそれは、自分の声だけをイヤホンに届けるような設計。とにかく深雪の声を耳に入れたくないという意思の現れである。全員がそれを装備している辺り、裏切り者のやり方は徹底していると言えよう。

 

「聞く耳持たずってことかよ。これもあっちの裏切り者の小賢しい手ってことかよ」

「だろうね。さっきの会議の時も、君は大々的に口の悪さを披露しただろう」

「んだよそれ。じゃあ、もし説得出来そうなヤツがいても無理ってことかよ」

「無理矢理にでも奪えばいいんじゃないかい?」

 

 敵味方共に攻撃の手が止まってしまったが、深雪達が攻撃してこないことをいいことに、敵艦娘達ははっと我に返ったように首を振り、ボソリと何かを呟いた。

 その瞬間、動きが止まっていた出来損ない達が再び動き出す。ムーサの行動であちらも一時的に機能停止していたため、その動きはここにいる誰かと紐づいているのではと想起させる。

 

「くっそ……そのまま止まってりゃいいのによぉ!」

 

 悪態をつく深雪だが、そんな言葉も敵には届かない。止まっていた時間がまた動き出すように戦闘が再開される羽目に。

 

「ムーサ! そこの引っ剥がした奴はどっかにやっとけ! 戦闘に巻き込んじまう!」

「ハーイ、戦エナインダカラ、ジットシテテネ。ソウジャナキャ、食ベチャウゾォ」

 

 などとムーサが言ったところで、この擬似カテゴリーKにもイヤホンはついたまま。近くで話しても聞こえていない。ムーサはつまらなそうに首根っこを掴み上げると、そのまま戦場の外に行くくらいまで投げ飛ばしてしまった。

 艤装を引っ剥がすことが出来るくらいの膂力なのだ。艤装を装備していない艦娘くらいなら、それで簡単に飛んでいってしまう。まだ忌雷には寄生されたままではあるので、何かしらの脅威になるかもしれないのだが、艤装もなく今はただ溺れないように浮かんでいるだけという有様なので、ひとまずその場から退かすだけで終わる。

 

 厄介なのは、やはりその腐食性の体液。その有用性を理解しているため、身体を壊しながらの高速移動で接近をしつつ、わざと身体を壊して体液をばら撒くようなことまでしてくる。

 それを狙っているのが、この中の誰か。深雪達の想定では、まだ残っているもう片方の擬似カテゴリーK。

 

「まずは黙らせるぞ! 白雲、もう一度頼む!」

「勿論です。これ以上動かれても癇に障るだけ。いい加減にその動きを止めてもらいましょう」

「なら、あたしがこっちも重ねたげる!」

 

 ここで白雲とグレカーレの連携。出来損ないも忌雷に寄生されてこうなっているのだから、電磁波が効くはず。そう考えたグレカーレが、電磁波照射装置を出来損ないに向けて放つ。

 すると予想通り、出来損ないの動きが少しだけ鈍った。出来損ない自身も周囲を忌雷の力によって見ているため、それが電磁波によってその視覚が一時的にブラックアウトされたのだ。

 

「素晴らしいですグレ様」

 

 そして白雲から放たれる鎖が少しでも掠めた瞬間、出来損ないの身体は一気に凍りつく。腐食性の体液は身体を貫くように氷と化し、修復すら出来なくなった。

 だが、まだ生きている。凍りついても死ぬ事なく、出来損ないはそこで何を見ているのかもわからないガラス玉のような目で深雪を見つめていた。

 

「次!」

「電磁波が効くなら、電もやるのです!」

 

 グレカーレの機転のおかげで、出来損ないの行動を止める手段が確実となったため、電もすぐにそれを実践。精密性ならば誰にも負けないほどのコントロールで、電磁波をもう1人の出来損ないに放つ。

 先程と同じようにその瞬間だけ動きが鈍った。動きが完全に止まったわけではないが、おそらくこの中の誰かがコントロールしていたとしても、それすらも一時的に止めるだけの効果があるようである。

 

「殺されないだけマシだと思うがいい。お姉様のお慈悲に咽び泣け」

 

 高圧的に力を放つと、出来損ないのもう片方も一気に凍結。白雲が言うように、これでもまだ命を奪っていない。凍らせるだけ凍らせて動きを止めて、何もさせない状態で放置している。動かないならば無害と言えるだろう。

 

 真にどうにかしないといけないのは、洗脳されているとはいえ自分の意思を持ってこの戦場に参加している、まだ艦娘のカタチを維持している者。1人はムーサが食欲故の速攻を仕掛けて終わらせているものの、まだ3人残っている。しかも1人は擬似カテゴリーK。

 もう片方とは違ってムーサがすぐに動かないということは、見た目だけは艦娘のままだがしっかりと()()()()()ということに他ならない。フレッチャーのように偽装が出来るのか、それともまた違う力を持っているのか。

 

「話を聞いてもらえないなら、一度痛い目を見てもらわなきゃならねぇよな。ただの艦娘なら、汚ぇ体液も心配いらねぇんだからよぉ!」

「ああ、同感だね。命を奪うなとは言われているけれど、痛めつけてはいけないとは言われていない」

「だな。落とすくらいはしてもいいだろ」

 

 深雪と時雨は心配がいらなくなった出来損ないを視界から外し、まだ少しムーサに対して恐怖を感じているような表情の戦艦と空母の方に目を向けた。

 気を取り直そうとしているが、出来損ないがあっという間に敗北するところを見て、再び恐怖がぶり返してきているようだった。

 白雲の凍結のことは間違いなく知っているはずなのに、ここまで呆気なくやられるとも思っていなかったようで、そういうところからも甘く見ていると感じる。自身の実力を過信していたのか、情報を持っているだけではどうにもならない要素が多すぎる。

 

「相手が戦艦だろうと関係ねぇ。でも、そのままでいられたら困るんでね。一度気を失ってもらうぞ」

「それが嫌だったら、その耳栓を外してもらえるかな。まぁ聞こえていないだろうから、容赦なく行かせてもらうよ」

 

 深雪と時雨は並んで突撃開始。空母は接近されるだけでも不利になるため、戦艦が前に出たようだが、体格差など全くお構いなし。そしてこちらは深雪と時雨の2人である。

 戦艦は主砲を構えるが、それではもう間に合わないくらいの距離には近付いていた。どう見ても徒手空拳は素人である。

 

「お前も組んで戦うのって、滅多に無いよな」

「近接戦闘は基本的に組まないだろうに。僕1人でもどうにか出来たよ」

「違いねぇ。あっちは素人だから、な!」

 

 近接戦闘も可能であることは、あちらにはあまり情報が行っていない。そのおかげか、敵戦艦は接近されたことで無理矢理艤装を振り回して追い払おうとする完全な素人の動きを見せる。そんなことでどうにかなるような2人ではなく、砲塔は空を切った。

 その懐に潜り込んでいたのは、ストライカーの時雨。本当ならば背部大口径主砲で直接ぶん殴りたかったようだが、そうすると下手したら命を奪いかねないため、()()()()()()()()何も持たない素手による拳をその鳩尾に叩き込む。

 

「撃っていないんだ。何も文句は言わせない。加減されていることくらい自覚出来るだろう?」

 

 蹲りそうな戦艦の胸倉を掴み、そのまま立たせて軽く押す。その瞬間、深雪が時雨の真後ろから跳んできていた。

 

「だから今は寝てろ。そっちは殺す気なのにこっちは生かすんだ。それで被害者ヅラするんじゃねぇぞ」

 

 そして、側頭部に向けて強烈な蹴り。艤装も装備しているので、その衝撃は並ではなく、一瞬で意識を刈り取られた。

 

「次は君だよ。とは言っても、もう戦意なんて無いだろうけど」

 

 あっという間に駆逐艦に文字通りの駆逐をされた仲間の戦艦を見て、振り切ろうとした恐怖は完全にぶり返していた。戦艦は意識が刈り取られたが、空母は戦意を刈り取られていた。その場に腰を抜かしており、震えながら深雪と時雨を涙目で見ているだけ。

 

「無様だね。でも、そういう感情が持ててるだけマシなのかもしれないよ。更生の余地がありそうだからね」

「違いねぇ。怖いと思えるなら、本当に怖いモノを理解しておけよ」

 

 

 

 

 これで残すところは擬似カテゴリーKただ1人。それでも、ここには大きな実力の差があった。

 




今回の話で、これまで書いてきた話が通算2000話となりました。1500話達成の時に2000話はいかないって言ってたのにね。しかもまだ終わりが見えないっていう。
あと気付いたら、総文字数も1000万を超えていたようです。これは流石に自分でも知らなかった。
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