後始末屋の特異点   作:緋寺

589 / 1163
聞く耳持たず

 うみどりを襲撃してきた裏切り者の部隊は、深雪達にとっては練度が低いと思える相手だった。

 苗床となっている擬似カテゴリーKをムーサが軽々と戦闘不能に追い込み、最も厄介であろう出来損ないはグレカーレの機転から凍結にまで持っていくことに成功。カテゴリーCも、戦艦側は深雪と時雨の連携により意識を飛ばされ、その光景を間近で見ることになった空母は戦意喪失によりもう戦えない状態。

 

 残すところ、あと1人。ムーサが反応しないところから、忌雷の苗床になってはいない。しかし、予想では出来損ないのコントローラーと考えられている。それが持っている能力由来なのかはわからない。

 

「あとお前だけだぞ。聞こえてないだろうけど、意思が無いなら攻撃もしねぇ」

 

 一応、深雪は自分達の意思を伝える。耳栓型イヤホンを身につけているため、深雪のその言葉は届かない。だが、周りの仲間達がここまで簡単にやられてしまっては、いくら忌雷による洗脳があったとしても敗北を悟ることくらいは出来るのではないかと、深雪は一縷の望みに賭けていた。

 せめて1人くらいは何事もなく終わってもらいたい。特に擬似カテゴリーKならば、特機によって忌雷を抜き取ってしまえば、ある程度話がわかる者になってくれるかもしれないのだから。

 

 だが、その願いは残念ながら特異点でも叶えられなかった。優しい願いではあったのだが、最後の1人の戦意は、残念ながら衰えていなかったのだから。

 

「くそ……! やっぱ話聞いてくれねぇかよ!」

 

 砲撃を放つ擬似カテゴリーKに悔しそうな表情を見せた深雪は、やはり同じように接近を試みる。カテゴリーC相手ならば、ぶん殴ってでも止めるが、こちらは忌雷に寄生されているという前提条件があるのだ。もしかしたら本来はあちら側ではないのに、忌雷によってこんな性格に変えられているかもしれない。前例としてトラや居相姉妹のような者もいるのだ。その可能性も当然捨て切れない。

 ならばやることは1つ。傷付けずに接近し、その体内から忌雷を引き抜く。そうすれば、この攻撃性も失われるかもしれない。それでも撃ってきたら、その時はその時。カテゴリーCの戦艦にやったように、実力行使で黙らせる。戦意喪失してくれるのならば、それでおしまい。

 

「深雪ちゃん、あのヒトの力……近付いたら危ないかもしれないのです」

 

 出来損ないが対処出来たため、電が深雪の隣に立つ。近接戦闘をせねばならないのならば、電にも一家言あるのだから、参加しない理由がない。

 

「何か気付いたか?」

「あのヒトが出来損ないを操っていたと思うのです。それで、今はその出来損ないが動けないなら……その力を解除してるとか、考えられませんか?」

 

 砲撃を巧みに避けながら、電はこの状況を冷静に分析して深雪に伝える。時雨も逆側で回避しながらの接近を試みているが、電のそれを聞いた事で、深雪を置いて前進する事を控えた。言われてみれば、危険な感じもする。

 

 電の考えはこうである。

 あの擬似カテゴリーCが得た力は、まさに決めたモノに対して自分の思い通りにコントロールすること。意識はそのままに身体だけ動かすなんてことが出来るのではないかと。出来損ないには意識がないが、だからこそ簡単にコントロール出来ていると。

 表すならば、『操縦』の曲解。そこそこ曖昧な命令でもコントロール下に置いてしまえば思い通りに操れる。自分が意識しなくても、オートで動いてくれる。最初の命令に従って、身体だけが勝手に。

 それならば、出来損ないであっても部隊の一員として動かすことが出来るだろう。無差別攻撃もしない。思い通りに攻撃も防御もしてくれる。一挙手一投足までコントロールしているわけではないのだから、『ついてこい』『攻撃しろ』『自分を守れ』くらいの簡単な命令でやりたい放題。

 

「あり得る話だな。電やグレカーレの電磁波で動きが止まったのは?」

「あくまでも命令をして身体を動かしてるだけだから、基本の性能は操られているモノの通りになっている……とかかなと思うのです」

「なるほどな、あくまでも、そいつの行動を自分の思い通りにするっていうことか。なら、万が一あたし達の誰かがそれにやられたら」

「自分の意思に反して、身体が勝手に深雪ちゃんを攻撃しちゃうのです、多分」

 

 本当にそうだったとしたらと考えるとゾッとする。やりたくもないのに特異点の力を電や仲間達に向けて使うことになりかねない。深雪に通用するかは何とも言えないところではあるのだが、それでも他の誰かには効く可能性は非常に高い。それこそ、電にだって。

 

 まだ確証はなく、電の憶測でしかないのだが、これまでの出来損ないの行動からもあり得る話である。

 

「条件はわからないかい?」

 

 その話を片耳で聞いていた時雨は合流を選択。これまでも未知の力を使い続けてきた敵のことを考えると、いくらあちらの練度が自分達に届いていなくても、ちょっとしたことで形勢逆転されかねないため、慎重に行く必要がある。

 カテゴリーCならば心配はないのだが、既に擬似カテゴリーKであることはわかっているため、そこはここまで実力差があっても不安要素。

 

「わからないのです……でも、()()()()はあり得るかなって」

「確かにね。これまでもそんなことばかりだった。白雲だって触れたら力が流し込めるわけだし」

 

 あくまでも憶測。それこそもっと別の手段、最悪は遠隔でも意識したモノを操縦出来てしまう可能性は捨てきれない。とはいえ、だったらもうやってるかとも思うため、やはり『触れる』が一番濃厚。

 

 ちなみにムーサも今は最後の擬似カテゴリーKには近付いていない。慎重にしているとかではなく、ただ単に食べられる忌雷を持っていないからというだけ。()()()()()と言ってしまっても過言ではない。

 今は逆にその方がありがたいと深雪は苦笑した。余計な事をされて被害が拡がっても困る。それに、ムーサは姫なのだから、いざ操縦されて戦うことになったら、一筋縄では行かないだろう。

 

「とりあえず電磁波ぶつけてみるよ。イナヅマ、一緒にぶち込んじゃえ」

「なのです。あまりヒトに向けてやることではないのですけど、致し方なし、なのです!」

 

 体内の忌雷にも影響を与えるかもしれないと、電とグレカーレは揃って電磁波照射装置を敵に向けて照射。相変わらずの見えない攻撃であり、あちらは何をされたのかはわからない。ただ探照灯で光を当てられただけとも感じられるが、その効果は真っ先に発揮された。

 体内の忌雷に何かが起きるわけではないのだが、無線イヤホンとして使っている耳栓に明らかな影響が出たのだ。おそらく大きなノイズが走ったのだろう。途端に顔を顰め、砲撃に使っていない方の手ですぐさまそれを外した。

 本来なら身につけたままでありたかったのだろうが、そのノイズは耐え難いモノだったのだろう。また、イヤホンで通信する仲間ももういないようなもの。戦意喪失中の空母にも何を言っても無駄そうなので、自分1人での戦闘継続のため、深雪の言葉を聞くことになろうが関係ないとその装備を捨てる。

 

「やっと聞く耳持ったな。さっきからさんざん聞いてるけどよ、答えろ。まだやるのか?」

 

 言葉が通じるようになったことで、改めて戦闘を続けるかを問う深雪。だが、敵はそんな深雪の言動を侮辱と感じたか、攻撃の手を緩めるどころかさらに激しくした。

 忌雷に寄生されているせいで、姿形は艦娘のままでもプライドだけは高くなっているのか、なめられているとでも考えたようである。

 

 深雪はこれ見よがしに大きな溜息を吐いた。

 

「お前、本当に良いように使われてるだけなんだな。自分の危険も理解出来ないくらいなのかよ」

 

 何を言っても聞いていない。耳栓が無くなっても、深雪の声は届いていない。プライドを傷つけられたせいか、元々そういう気質か、怒りで我を忘れて何も耳に入っていないようであった。

 こうなってしまうともう説得は不可能である。ならば実力行使しかない。元々カテゴリーCにやったことなのだから、一度決めたら抵抗なんてない。

 

「僕は実弾だ。撃てないよ。撃ちたいけどね」

「やめろよ絶対に。殺すのだけはダメだ。アイツも被害者だからな」

「わかってるよ。わかりたくもないんだけど」

 

 相変わらずの時雨だが、それで済んでいるだけマシだと思い、行動を進めていく。

 

 電の憶測は精度が高そうであると考え、触れないように対処するにはどうするか。そうなると、やはり重要になるのは白雲の凍結。なのだが、出来損ないと同じように凍らせると大きく傷がつく可能性が高い。傷付けることに抵抗がない白雲がやったら尚更である。

 そのため、凍らせるなら兵装と艤装のみ。本体は無傷で終わらせる。そうすれば、傷付けられたと文句を言われることもなく、正当防衛で相手にのみ否を与えることが可能。

 

「だったら、久しぶりにコイツだ」

 

 深雪が左腕を敵に翳すと、途端に溢れ出す煙幕。それは敵だけではなく戦場を包み込んでいく。

 その中でどれだけ撃とうとも、深雪達には当たらない。そして、それ以上の効果が発揮される。

 

「これ……あの()()()()()の時のなのです!」

「おう、あっちからは見えねぇ。でも、こっちからは何処にいるか手に取るようにわかる。あの時の煙幕だ。今のあたしなら、自分で考えて出せるみてぇだ」

 

 うみどりデッキ上で発生した戦標船改装棲姫との戦い。その時に覚醒した、深雪の煙幕の力。煙幕に触れている敵の居場所を的確に把握出来る。これによって、視界を封じた煙幕の中であっても、確実に接近し、最適な場所に立てる。

 

「白雲、行けるな?」

「無論でございます。お姉様の力に包まれ、白雲はより一層力が入るというもの。生身は傷つけず、艤装のみを破壊しましょう」

 

 すぐさま動き出した白雲は、煙幕によって何も見えないにもかかわらず、その感覚のみで敵の背後に回った。撃ってきたところで当たらない。ジャミングなどを使っているわけでもなく、煙幕の効果で仲間は傷つかない。特異点の優しい力は何処までも健在。

 

「貴様は殺意を持ってここに立つにもかかわらず、お姉様はその命を奪わないどころか、無傷で救おうと加減をしてくれている。無礼を反省する機会も与えてくださる。感謝し、償うがいい」

 

 そして、鎖を艤装に軽く触れさせた瞬間、内部の駆動系を一気に凍結させた。こうなればもうまともに動かすことなんて出来ない。ギリギリ海上に立つことは出来ても、移動することすらまともに出来なくなっていた。

 おまけと言わんばかりに兵装も軒並み凍結。本体には凍傷はおろか、冷たさを少し感じる程度にまで抑え込んでいる。

 これもまた、神風との鍛錬によって鍛えられた、白雲の集中力、精神性の成長の賜物である。

 

 

 

 

 これによって最後に残った敵もまともに戦えなくなった。

 結果としては完勝。裏切り者の鎮守府からの刺客は、これまでより練度が低かったおかげで、誰も傷つく事なく全てを終わらせることが出来た。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。