うみどりを襲撃しに来た裏切り者鎮守府の部隊は、深雪達により全員沈黙させることに成功。出来損ないは身動きが取れないように白雲による凍結が行き届き、カテゴリーCは戦艦が意識を、空母は戦意を失っていた。そして擬似カテゴリーKは、片や艤装が凍結、片や艤装を剥がされて内部の忌雷を食い尽くされるという大惨事。
コレだけやられておいて、身体の方はほぼ無傷と言ってもいい。カテゴリーCの戦艦が、深雪と時雨から攻撃を受けたことで軽傷を負っているものの、少なくとも見た目に傷が見えるわけではないため、綺麗なモノである。
「……こいつらの忌雷もだけどさ、
ここからはこの戦闘の後始末になるのだが、基本は凍結で終わらせているため、片付けなくてはならない残骸などは全く無い。代わりにそこにあるのは、凍りついて動くことの出来ない出来損ないが2体である。
完全に凍結しているおかげで、体液を撒き散らすようなこともしなければ、自爆すらも出来ない状況下に置かれている。凍結がそのシステムまでをも凍りつかせて、出来損ないとしての存在価値をゼロにしているようだった。
「決まってるだろう。何も出来ない内に破壊するべきさ。今なら僕が撃っても面倒なことにはならないんじゃないかな」
「体液を撒き散らすことは無いと思うけどな」
「なら迷うことは無いんじゃないかい?」
時雨は見ていたくもないと壊すことを優先したがっている。だが、深雪はそれに待ったをかけた。
「屁理屈ばかりのコイツらだぞ。もし出来損ないをぶち壊したとしてだ、
そんな深雪の言葉に、艤装を凍結によって破壊された最後の擬似カテゴリーKがピクリと反応した。それを見た電が図星なのですと頭を抱える。
あちら側の言い分の狡さは理不尽なレベル。殺意を向けてここに向かってきているのに、少しでも反撃すれば被害者ヅラ。正当防衛が成立するように戦っても、一方的に嬲られたと吹聴しかねない。
大本営を中心にした軍の全てが、特異点側に味方をしてくれるだろう。だが、この戦いを暴露した時、国民はどう思うか。出来損ないなどを公にするわけには行かないため、その証拠をハッキリと出せない現状、その嘘を嘘であると断言する要素が1つもない。その上、深雪達は無傷だがあちらは艤装を破壊されている。何も知らない者が見た場合、どちらが被害者かと考えれば、出任せでも強く発言するあちら側に世論が倒れかねない。
だからこそ、事実として出来損ないすらも殺さない手段を考えたい。既に死んでいるのに、その理由を押し付けてくるようなことすらあり得るのだが。
「……これだから人間は。全部自分の都合のいいように考える」
「久々に聞いたなそれ。でも、お前の気持ちはわかる。あたし達はやられたからやり返しただけなのに、被害者ヅラされたら堪ったモンじゃねぇよ。過剰防衛とか絶対言わせねぇ。そうしなきゃこっちが死んでたっつーの」
「珍しく同意見だ。殺そうとしてきた者を返り討ちにして何が悪い」
時雨の悪態も、今回ばかりは否定しない。相手は本当に人間なのだから。
「じゃあさ、出来損ないからまず忌雷引っこ抜いてみたら? それでどうなるか知っておいた方がいいよ」
「電もそう思うのです。寄生されて、適合出来なくて、こんなバケモノになっちゃったなら、忌雷が無くなれば元に戻れるかもなのです」
グレカーレの案と、それに乗っかる電。確かにと、深雪もそれには納得した。
出来損ないになった時点で生ける屍になっている可能性はかなり高いが、だとしても忌雷をそのままにしておく理由はない。せめて何もない姿に戻して、それでダメなら弔いたい。
「よし、ならまずコイツらの忌雷を引っこ抜こう。1号、やれそうか?」
深雪専属として常に待機している特機1号が、深雪の襟から這い出てくる。出来損ないを見て、とりあえずやってみると敬礼をすると、凍りついて動けない出来損ないの身体に触手を這わせた。
少し探したようだが、いつも通りそれが体内に突き入れられると、より深く弄っていく。勿論、体液などには触れないように。いくら特機であっても
腐食性の体液は厳しい。
「お、見つけたか」
特機の反応が変わり、奥から引き抜こうとする動きに。出来損ないにも忌雷が寄生しているのだから、他と同じように掻き集めて1体に戻すことも可能なようである。
だが、これまでの寄生とは違うことがここからわかる。
「あたしの時とかさ、ここまで外側に反応無かったよね」
「ああ、グレカーレの時は抜いてから元に戻ったな。でもコイツらは……」
忌雷に適合出来ずに身体が異常な変質をしているからか、特機が体内の忌雷の要素を掻き集めるだけでも、表側に出てしまった要素が少しずつ失われていく。肥大化した部分や、触手まみれになった部分は、徐々に鳴りを潜め、人間らしさ艦娘らしさが取り戻されていった。
特機の作業も佳境に入ると、原型が残らない程にされていた顔がわかるほどに修復されていた。だが、それでも変わらない部分はある。
「……これは……」
「ああ……やっぱり、ああなっちまった時点で……」
支えが無くなり、力無く項垂れる頭。全てを失った表情。濁り切った瞳。そこからわかることはただ一つ。予想通り、
忌雷の寄生による侵蝕が適合しなかったことで暴走してしまっており、本来傷つかないはずが、体内をズタズタにしてしまっているのだろう。そしてそれは身体の全て──脳にまで影響している。何もない者に対して洗脳が施されるくらいなのだから当然と言えば当然。
身体に害があるように、脳に害があるのなら、寄生が進行すればその機能に障害を齎す。頭を開いて見たわけではないにしろ、忌雷の影響で脳が破壊されているのは、火を見るより明らか。
「……せめて綺麗な身体にしてやろう。それも後始末の一種だろ」
「なのです……いくら特異点でも、失われた命は取り戻せないのです」
悲しそうに、苦しそうに、その処置を進める。そして、特機が最後にグッと引き抜くと、いつものサイズの忌雷が抜き取られた。
「まともに制服も着せてもらえず、バケモノにされたら命も落とす。僕は出来損ないより、それを是とする君達まともな艦娘の方が気に入らない。バケモノより腐ったバケモノじゃないか」
氷漬けではあるが、元の姿に戻った出来損ないを見て、時雨は戦意喪失しているカテゴリーCを睨み付ける。
出来損ないはもう死んでいるようなモノ。何も言えないのだから仕方ない。擬似カテゴリーKは忌雷に寄生されているということもあり、思考操作も含まれていると思われる。だがここにいるカテゴリーCはそのような影響すら無いのにもかかわらず、この出来損ないを使って何とも思っていない。
「まさか、これも平和のための犠牲とでも言うのかい? 君達のいわば同志が、命を落としてバケモノになっているんだ。君達人間がどうなろうと僕は構わないけれど、仲間である君達は何とも思わないのかい?」
その醜悪な人間性に対して苦言を呈する時雨。唯一傷すらなくただ戦意を喪失しているだけの空母に向けて、まるで説教するように吐き捨てる。
「何も思わないからこうしているんだろうね。何か思っていれば、もう少し何か言えただろうさ。それでも何も出来ないということは、君達にとってコレはその程度の存在なんだろう。全く、こんなモノを生み出しておいて、よくもまぁ自分達は平和を望んでいるなんて言えたものだよ」
唾でも吐き捨てるかのように言い放つと、深雪が次の出来損ないから忌雷を抜く方に目を向けた。
そちらもやはり息絶えており、元の姿に戻れたとしても蘇るようなことはない。心底悲しそうに深雪は息を吐いた。
「君達はこんな深雪の姿を見ても、特異点は悪だと吐き捨てるのかな。バケモノになった人間を元の姿に戻し、それでも救えなかったことを悲しむ、人間
「あいよー。正論は聞こえなくして、真実は見えないようにしてるってことだもんね。目を背けるのだけは上手なんだよなぁアイツら」
時雨の指示に従い、片っ端から電磁波を照射する。イヤホンから激しいノイズが走った事で、不快感からそれを投げ捨てる艦娘達。唯一気を失っている戦艦のカテゴリーCだけは、それでも目を覚ますことはなかった。
「さて、都合の悪いことは聞きたくないと駄々を捏ねるバカな人間には、ちゃんと、もう一度、懇切丁寧に教えてあげなくちゃいけない。そして聞かないといけない。ここまでする深雪の何処が悪なのかを、自分の考えで、その口で言ってもらうよ」
時雨の説教はまだ始まったばかりであった。
出来損ないの忌雷を抜き取った深雪が次にやらねばならないことは、艤装を破壊したことで戦闘不能となった擬似カテゴリーKからも忌雷を抜き取ること。
もしかしたら、忌雷が無くなれば話がわかるものである可能性もある。それこそ、トラのように。
「どうせ動けねぇだろ。じっとしてろ」
まずは、おそらく『操縦』の曲解を持っているであろう擬似カテゴリーKへ。その能力はまだ未知であり、持っているであろう能力も憶測の域ではあるのだが、治療は慎重に執り行う。
「先に聞いておくけど、お前があの出来損ないを操っていたでいいのか?」
深雪の問いには何も答えない。ただ睨み付けるだけ。
「まだ自分の立場がわかっていない様子。お姉様、もう少し凍らせますか」
「やめとけ。やりすぎたらマジでこっちが加害者になりかねねぇ。そうなったら不利になるのはあたし達だ」
「……申し訳ございません。少し頭に血が上っておりました」
「大丈夫だ。あたしだって気に入らねぇよ。そうしたくなる気持ちもわかる。まだコイツらのなかではあたしは悪人みたいだしな」
苦笑しながら、深雪は特機をその擬似カテゴリーKに向けた。
艤装は破壊したとはいえ、それは拘束しているわけでもない。そこから動けないだけで、両手はフリーと言える。まずは拘束のために、白雲が鎖によって両腕を縛る。凍結の力は通っているが、凍らせると考えていないので、それはただの冷たい鎖。鎖まで操縦出来たり、鎖経由で白雲がコントロールされても困るため、縛ったところで鎖を手放し、ただの鎖として何も出来なくした。
その上で特機による治療開始。いつも通り特機が触手を突き入れて、すぐさま忌雷を引き抜いていく。出来損ないよりはそれも簡単にこなし、あっという間に体内から力の源が失われた。
「……これでもあたしの言葉は聞きたくないか」
忌雷が無くなれば、それによって施された洗脳は失われる。だが、それが無くなったからと言って、
「……だんまりか。まぁそうだよな。元はアイツらと同じなんだ。考え方は忌雷があろうが無かろうが同じだよな」
大きく溜息を吐いた。治療をしたところで敵は敵。戦場の力関係は、そこから何も変わらない。
でもそれは最初から予想出来たこと。嫌な気持ちにはなるが、ダメージは遥かに小さい。残念という気持ちだけはどうしてもあるというだけ。
治療の甲斐なく状況は同じ。だが、ひとまずは落ち着きを取り戻した。