後始末屋の特異点   作:緋寺

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特異点はいなくても

 襲撃してきた裏切り者の艦隊のうち、たった1人、『増産』の曲解を与えられていた擬似カテゴリーK、高波を救うことが出来た深雪達。その能力はそのままに、グレカーレの『羅針盤』によって本来の心を取り戻したことで、今はムーサのオヤツサーバーとして、それはもう大切に扱われている。

 

 その高波から与えられた情報。それが、()()()()()()()()()()()

 

「急いで戻るぞ。忌雷があること考えりゃ、何してくるかわからねぇ」

「なのです。同じ力を持ってるとしたら、もっと危険なのです」

 

 今回のこの戦場では、そこまで苦戦をすることはなかった。だが、それはここでの戦いから分析が上手く行ったからである。

 今うみどりに残っているもの達は、正直これ以上の能力を持つ者が多い。しかし、特異点としての力を持ってはいないため、対処するにも実力行使くらいしか手段がない。

 

 特機は一応2体がうみどり待機になっているため、本当に緊急時は、誰かがそれを寄生させ、擬似カテゴリーWとなって戦うことも視野に入れている。そしてそれ以上に、特機を使った忌雷寄生の治療も率先して行う。たった2体とはいえ、出来るのと出来ないのとでは大違いである。

 

「高波、第二波は大体どれくらいの規模かわかるか?」

「え、えっと……すぐに答えられないかもですが、この部隊よりは多いかも、です」

 

 高波も詳しい情報は聞いていない。だが、鎮守府にあとどれくらいの人数が残っているかくらいはわかっている。

 

「ここより多い、か。出来損ないで賄ってるかもしれねぇけど、そうなると厄介だぞ」

 

 こちらの組には白雲という無傷で出来損ないを食い止めることが出来る仲間がいたから、ここまで簡単に終わらせることが出来た。万が一の時も、深雪による消し飛ばす砲撃も可能であるため、被害は最小限に食い止められる。しかし、うみどり側にはそのどちらもいない。出来損ないにいいようにやられる可能性すらある。

 最初に深雪達が先陣を切ると予測したような敵の策。少数であっても全力で叩かなければならないことを、うみどりが理解しているからこそ可能な陽動。うみどりの情報が全て行っていると考えた方がいい。

 

「今は急ぐしかねぇ。間に合わないと……」

 

 深雪はギリッと奥歯を噛み締めた。

 

「救える奴が救えなくなるかもしれねぇ」

 

 

 

 

 その頃、うみどり。高波が深雪達に伝えた通り、別方向からの敵部隊の襲撃が始まっていた。深雪を陽動部隊で引っ張り出せたことをほくそ笑みながら、少数部隊の仲間達を囮に本命をぶつける。

 勿論『増産』の曲解を持つ擬似カテゴリーKもおり、あちらでは高波1人だったが、こちらにはより早く洗脳を進められるようにと3人。そこに出来損ないを6人と、陽動部隊の3倍の数を投入。さらに、カテゴリーCや擬似カテゴリーKはさらに数を増やして、うみどりにいる者よりも少しは少ないという程度の大部隊を向かわせていた。

 深雪達が戦っている中、気付かれないように回り道をしたことで、戦闘はまだ起きていないものの、うみどりが既に視界に入っているような場所。なんだかんだで速力にも違法改造が施されていた。

 

 だが、そのような大部隊を前に、既に出撃していた者がいる。敵空母からの空襲を全て撃ち墜としている防空隊はうみどりに張り付いて守り続けているが、そこから前に出なくてはならない。

 それを担うのは、やはりと言うべきか、深雪達とは違う方向で戦場をどうとでも出来る者。

 

「なかなか数が多いわね。でも、中にはまだ話がわかる子がいるのかもしれないのよね」

 

 敵部隊に対して真正面で受け止める気満々なのは、筆頭駆逐艦神風。今回は最初から刀装備。主砲すら装備していないのは、こちらの方が()()()()()()()()()()()()()である。

 

「主砲は模擬弾を装填している。撃ったところで傷は負わない。安心してぶちかませばいいぞ、トラ」

「了解だ。私達の砲撃が一番危険かと思ったけれど、それならなんとかなるんだな、長門」

「ああ、ちょっと大きく吹っ飛ばされるだけだ。あちらは殺意があるが、我々は演習と見做して戦えばいい」

 

 神風の後ろに控えるのは、大火力を誇る戦艦の2人。ただし装填しているのは演習用のペイント弾。衝撃はあれど、怪我は簡単にはしないようにしている。

 

 深雪達が思っていたことは、こちらでも考えられていた。あちらからは殺す気で来ているのに、こちらから攻撃をして少しでも傷がついたら、鬼の首を取ったかのように特異点の、うみどりの悪性を訴えてくる。自分達の事を棚に上げて、その数倍は悪辣な事をしているのに、ほんの少しの蚊に刺されたような傷であっても、危害を加えられたと騒ぎ立てることだろう。

 それも見越して、あくまでも傷をつけずに、しかし確実に()()()()()()()()()戦いを心掛ける。正当防衛に徹する。

 

「……あのぅ、また梅は最前線なんですかぁ!?」

「ごめんなさいね。でも、相手を無傷で終わらせるのに一番適してるのって梅なのよ。妙高さんが守ってくれるから安心して前進してね」

「お任せください。梅さんは必ずや守り通しますから」

 

 神風と共に真正面から突撃することになるのは、艤装のみを確実に破壊することが出来る『解体』を持つ梅。そしてそれを守ることが出来るのは、全ての攻撃を無力化する『ジャミング』の妙高。この2人は、敵部隊に対して真っ直ぐ突っ込むことになる。

 

 梅が艤装に触れてしまえばおしまい。そのまま機能停止まで持っていける、必殺の一撃。しかも生身には解体が効かないため、確実に無傷で無力化出来るおまけ付き。

 そんな梅への攻撃は、妙高のジャミングで全てを逸らす。あちらも無傷なら、こちらも無傷である。勿論慢心はしないため、ジャミングがあるからと弾幕に突っ込むようなことはしないが。

 

「う、うぅぅ……ど、どうせ島でも最前線なんです! 前哨戦って思って、やってやりますよぅ!」

「その意気その意気。私達がちゃんと守ってあげるから安心して。ただ問題なのはあっちね……」

 

 そう言いながら視線を向けた方向にいたのは、対出来損ないとして結成された、電磁波照射装置装備の部隊。

 こちらも深雪達が予想し、そして成功させたことを実証するために動いている。出来損ないには忌雷が寄生しているのだから、この電磁波が効くはずであると。

 

 その部隊に志願したのは、優しくも逞しく、出来損ないであっても救いたいと考えて前に出たのは酒匂。そして──

 

「緊張しないで。大丈夫、絶対上手く行くから」

「にゃ、にゃしぃ……やれる、絶対やれるぞよ」

 

 睦月である。

 

 この後に来る島での戦いでは、対地戦闘、上陸用舟艇のコントロールが出来るということで、戦場のメインになりそうであるため、そこで苦しまないようにここで大役を担って度胸をつけてやると考えた。酷かもしれないが、しかしこれを最終的に望んだのは他ならぬ睦月なのだ。

 梅と同じように、島では最前線である可能性を考えれば、優しすぎるのも厳しいし苦しい。そのため、ここで()()()

 

「酒匂達のお仕事は、出来損ないに電磁波を当て続けること。それで絶対に足を止めてくれる。攻撃は自力で避けることになるけど、そこは大丈夫だよね?」

「も、勿論にゃし。睦月だって、ここまでいっぱい頑張ってきたもん。努力は結果になる、はずなのね」

「うん、そうだよ。だからまずは、しっかり食い止めよう!」

 

 酒匂と睦月は電磁波照射装置を真正面に構え、向かってくるであろう出来損ない達がいる方を見据えた。忌雷に寄生されたことで変質し、異形と化した艦娘達は、ずっと見ているだけでも苦しい。だが、せめて解放してやりたい。そのためには、今やれる事をしなくてはいけない。

 

「大丈夫。何も起きないから」

 

 そんな2人に心強い味方が海中から頭を出してきた。

 

「ああ、こいつの言う通りだ。サカワはあたいが守るし」

「睦月は私が守る。任せて」

 

 伊203とスキャンプが出来損ない対策に乗り出している。勿論、素手で触るのは流石にまずいため、戦い方は考えて。特に伊203は一度腐食性の体液で痛い目を見ているため、今回はしっかり対策もとっている。

 そこにスキャンプが加わっているのは、伊203のやり方にギリギリついていけているから。そして、こちらの部隊に酒匂が名乗りを上げたからである。好意を持つ酒匂が、あんなことで怪我をするなんて気に入らない。ならば自分が守ると、意気込みも凄まじい。

 

「つっても、ぶち殺しちゃダメなんだろ」

「うん。だからコレ」

「……なんつー原始的な武器だよ。あたいらは潜水艦なんだぞ」

 

 伊203が持っているのは、なんと『刺股』である。スキャンプもそれを持っており、それを使って出来損ないを食い止めようとしていた。酒匂も睦月もキョトンとすることしか出来ない。

 

「これで絡め取って、機能を停止させる。大丈夫、他にも策はあるから」

「おう、あたいもコイツ正気かと思ったけど、まぁやれるだろ。サカワ、ムツキ、ひとまず任せてくれや」

 

 サムズアップする伊203と、ニッと笑うスキャンプに、2人はわかったと納得して、背中を預ける覚悟も決めた。

 

「それじゃあ、作戦開始。スキャ子、ついてこれるね」

「大丈夫だ。テメェにさんざん振り回されたからな。嫌でもついていけるようになっちまったよ」

「ならいい。行くよ」

「おうよ。サカワ、ちょっと待ってな。軽くシメてきてやっからよ」

 

 潜水艦の2人は海中へ。本来なら使わない刺股という武器を持つことで支障がありそうなものだが、2人の自信からきっと大丈夫だと信じることにした。

 

「2人なら大丈夫だね。酒匂達はやれることをやろう」

「にゃし! なんか心が軽くなったみたいなのね!」

「だね。でも、油断は禁物だからね」

「勿論にゃしぃ!」

 

 緊張は抜け、いつもの調子が戻ってきた睦月に、酒匂は笑顔を見せた。

 

 

 

 

 深雪達はいなくても、仲間達は関係ない。むしろ、全員深雪達の大先輩なのだ。特異点とは違えど、ここでの戦いは乗り越えられる。

 

 敵はそもそも勘違いしているのだ。うみどりは特異点だけで成り立っているわけじゃないことを。ただの艦娘相手ならば余裕なのだと思い込んでいるからこそ、足を掬われる。

 

 

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