後始末屋の特異点   作:緋寺

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正々堂々

 深雪達が高波を救っていた時、うみどりには敵の本隊が襲撃を仕掛けていた。その数は陽動部隊の3倍。出来損ないも『増産』持ちの擬似カテゴリーKも多く配置され、それ以外にも多数の戦力を取り揃えていた。忌雷も当然、相当数用意されている。

 カテゴリーCもおり、その力は普通の艦娘かもしれないが、精神面での攻撃。互いに()()()()()()という感覚から抵抗を感じさせ、しかし洗脳教育によって倫理的な考え方が取り払われていることで、一方的に攻撃をする。()()()に特化したような教育が施されているようなもの。

 

 ここまで揃えれば、特異点とその仲間達がいないうみどりを殲滅させられると高を括っていたのだろう。ただの艦娘相手ならば、擬似カテゴリーKの方が圧倒的に上。そうでなくても、普通なら回避不能な忌雷による寄生で、敵を仲間に引き込んで戦力差をさらにつける。

 インチキを使っているとはいえ、こと鎮守府を相手に使えば常勝とも言える作戦。裏切り者の提督は、この短時間でそれなりに頭を使ったと言えよう。

 

 だが、あくまでもそれは()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「まぁカテゴリーCならこんなところでしょう。練度はギリギリ限度まで行ってないくらいかしらね」

 

 たった1人に対して、複数人でかかる敵艦娘達。相手が自分より練度が高かろうが、1人相手なら寄ってたかって終わらせることだって出来る。しかもその相手は主砲すら持たずに、砲撃雷撃が飛び交う海の上で刀を握り締めるという、どう見ても戦うつもりが無いようにしか見えない、さらに言えば戦闘向きでは無い神風型。

 普通ならズルとも言えるくらいの圧倒的な差。だが、うみどりの筆頭駆逐艦は、特異点から見ても普通では無い。それを、肌で感じることになる。

 

「ただの艦娘同士なら、この戦いは間違いじゃないわね。強い鎮守府との演習とかだと定石よ。でもね、そもそも喧嘩を売る相手を間違えてるのよ貴女達は」

 

 砲撃が飛び交う中、それを避けながら前進する神風。何人いようが、どれだけ撃たれようが、その精度がまだ避けられる範囲にあるならば、それはもう攻撃されていないのと同じ。隙間を縫いながら、手近な艦娘の近くまで辿り着いた。

 当たらないというだけでも驚きを隠せないのに、一度も撃つことなく手が届くのではという範囲に近付かれ、回避すらままならぬ状態。

 

「1つ」

 

 もう反応すら間に合わない。そのときには既に、神風はその艦娘の艤装、それも最も重要である主機に一刀入れていた。

 艦娘本体には一切傷つけず、戦う手段のみを奪う一撃。それだけで機能停止し、その場から動けなくなってしまっていた。浮力だけは失われていないようなので、そのまま沈んで溺れ死ぬなんてことはないが、少なくともこの戦場では役に立たないモノとなる。

 

「2つ」

 

 返す刀でさらに手近にいた艦娘の主機を斬る。ただの刀と侮っているせいで、その刀が艤装すら易々と斬ってしまうことが理解出来ない。その半分以上は神風の技量に準ずるものではあるのだが。

 

「今ならごめんなさいで済ましてあげる。貴女達のそんな馬鹿げた考え方も、裏切り者の巫山戯た洗脳教育でついたモノなんでしょ。同じ人間として、まだ更生の余地があるもの」

 

 主砲も持たない神風型が、ただ刀を二振りしただけで艦娘を2人撃退。それに対しての敵艦娘の反応は──『インチキを使っている』である。神風の強さが認められない。目の前で見たことが信じられない。だったらコレは、敵がズルをしているとしか考えられない。

 そこまで幼稚な考えにされているとは、神風も思っていなかった。そのキッカケは見ないものとしても、長年の血が滲むような鍛錬をズルの一言で片付けられるのは、神風としてもカチンと来る。だが、それでキレていたら話にならない。ここで冷静に努められるのが、神風の強さ。

 

「……自分達は相手を見下し、同じ土俵にも立たずに一方的に嬲ろうとしているのに、いざやり返されたらズルなんて言うんだ。正々堂々を投げ捨ててる連中がズルなんて言葉使っちゃダメよ。それに、まず人数差を考えてみなさいな。私は1人、貴女達は何人? 普通なら燃費が取り柄の非力な神風型に、それだけの人数を割いてるのよ? たった1人の()()()艦娘だっていうのに」

 

 話しながらも3人目の艤装を斬り払った。砲撃なんて全く当たる気配がない。説教しながら1人ずつ始末していく神風の姿は、敵艦娘からしたらもう死神か何かにしか見えなかった。

 

「それに、こっちが加減してることくらい見てわかるでしょ。これでも貴女達を傷つけないように努力してるのよ? これだけハンデをあげてるのに、何言ってるのよ。貧弱、軟弱、脆弱、練度だけの木っ葉にしか思えないわよ」

 

 神風が軽くバックステップで離れる。それだけでも、敵艦娘からしたら一度に想定以上の移動量。自分達の数倍の脚力になっていると感じ、やはり違法改造だと罵る。自分の兵装の方が余程違法改造がなされているのに、それは棚上げ。相変わらず、自分は良くて相手は悪い、典型的なダブルスタンダード。

 

「はぁ……一度痛い目に遭っておきなさい」

 

 神風が下がったのは当然、理由があるからだ。先程まで自分がいたところを通過するように、強大な火力を誇る演習用模擬弾が1人の艦娘を呑み込み、その場から退場させた。身体中ペイントまみれでふっ飛ばされたその艦娘は、衝撃だけで気を失いかけている。

 

「まともに当たってしまったな。クリティカルというヤツか」

「あそこまでふっ飛ばして大丈夫だったか……?」

「構わん構わん。あちらもここを命懸けの戦場だと理解している。その上でこちらは演習用の弾を使っているんだ。それが納得出来ないような輩では無いだろう。忌雷に寄生されているならまだしも、アレはそれもないただの艦娘だからな」

 

 それを放ったのは、長門──ではなくトラである。長門は隣で少しサポートをしただけ。神風が一歩引いたら撃てと合図を出したに過ぎない。

 

 近代化戦艦棲姫の一撃は、並の艦娘とは比べ物にならないくらいに重い。うみどりの中では最大の火力を誇る長門であっても、トラのこの一撃には敵わない。艦娘と深海棲艦の違いが顕著に出ているところ。

 故に、あえてトラに撃たせている。死なないことが確定している弾を使い、今の心持ちで艦娘を撃つことに慣れてもらうため。

 

「艦娘は思った以上に頑丈だ。模擬弾なら何処に受けても傷などつかんよ。少し飛ばされて、衝撃で気絶するくらいだ」

「なるほど、なら安心だ。もう少し狙っていこう」

 

 トラがすかさず第二射。その砲撃も凄まじいの一言であり、掠っただけでも大破しそうなほどの火力。模擬弾とは思えない音と共に、また1人が薙ぎ倒される。

 

 流石にこうなると神風に寄ってたかってなんて言っていられない。うみどりから現れた深海棲艦に恐れを抱きつつ、あちらを先にやらないとまずいと狂乱状態で向かっていった。

 

「長門、アレ混乱しているように見えるんだけど」

「構わん。奴らは我々を始末しにここに来ているんだ。やろうとするということは、当然やられる覚悟も持ってきているに決まっている。そんな覚悟もない者は戦場に立つ資格もない。だが奴らは戦場にいる。ならば、やられても文句は言えない。だから撃てばいい」

「なるほど確かに。合点がいった」

 

 長門の理論に納得したトラは、より軽く、より強く砲撃を放った。流石に正面から撃たれれば回避くらいは出来るようだが、ここにいるのはトラだけでは無い。

 

「……とはいえ、練度が足りないな。うみどりを下に見ているのか。まさか、深雪(特異点)がいなければ取るに足らない存在だと思っているのでは」

「かもしれないな。ここの艦娘を()()だと思っている」

「私としてはそれなりに普通だと思っているのだが」

「いや、普通の艦娘ならこんなことを受け入れないと思う。慣れているんだろうけど、それでもやっぱりちょっとズレてる気がする」

 

 何なら談笑なんてしながら、長門も砲撃。避けたところから撃ち抜かれ、大火力による圧倒的な弾幕に為す術がない。

 

「あとは忌雷を気をつけないとね。どうせばら撒いてるでしょうから」

 

 神風が目を向けるのは海中。こうして戦っている最中に忌雷をばら撒き、寄生させ、仲間を増やそうとしてくるだろう。敵を減らすことも出来る一石二鳥な策。

 だが、これまで何度似たような策を喰らっていると思っているのだと、神風は溜息を吐く。ここでそういうことをしてくるなんて、誰にでも予想が出来るモノだ。

 

 そのために、既に動いている者もいるのだから。

 

「ほーい! ちょっと遅れてゴメーン! 電磁波照射! 照射! 照射!」

 

 そんな戦場を縦横無尽に駆け回っているのは子日である。恐ろしいスピードで動き回り、海中という海中に電磁波を照射し続けるため、ちょっとした装備の変更を行なっていたのだ。

 それが、速力増強の缶タービン編成。非武装の代わりにスピードに特化したその装備で、敵の弾を掻い潜りながら電磁波照射装置を使い続ける。

 

「ぽいぽーい! 浮かんできたのからぶっ壊すっぽーい!」

 

 そしてそれに悠々と追いついているのが夕立。子日が電磁波を照射し、それによって浮かび上がってきた機能停止中の忌雷を容赦なく破壊していく。

 夕立も忌雷には少し()()()()()があるため、容赦なく、慢心なく、確実に始末していった。子日との相性もなかなかのものである。

 

「子日! あっちにもいそうっぽい!」

「りょーかい! どんどん行くよー!」

「ぽーい!」

 

 実際に忌雷の行動が見えているわけじゃない。しかし、素早く動き続けているおかげで、数打ちゃ当たるが成功していた。多く配置されている『増産』の曲解持ちがばら撒いた忌雷は、次から次へと破壊され、その増産主は驚愕で目を見開く。

 

「あとからムーサが咽び泣きそうっぽい。こんなにご馳走が用意されてたなんてーって」

「あはは、あるかもねぇ。あっちでも似たようなこと起きてるかもしれないけどね」

「ぽい、ありそうありそう。で、ムーサが無理矢理捕まえて、わざと生ませて食べ続けてたりして」

「そこまでするかなぁ」

 

 こちらも戦場だというのに余裕をもっているのがよくわかる。今は海の掃除を優先しているが、それが終わったら間違いなく()()()()()気満々。チラチラと増産主に狙いを定めているのも見て取れた。

 その目から、『次はお前だ』と言っているように思え、『増産』持ちの擬似カテゴリーKは恐怖に震える。

 

「これでもまだまだやる気なのよね、貴女達は。こちらはこちらで貴女達の()()を正々堂々と真正面から打ち破っているんだけど」

 

 カテゴリーCは長門とトラに引き付けられているため、神風は後ろに控えている『増産』持ちではない擬似カテゴリーKに狙いを定めた。

 

「貴女の中の誰かが、あの出来損ないを操っているのよね。視線でわかったわよ。まずはそれを止めてもらわないといけないわ。鬱陶しいから」

 

 刀を構え、お前達は獲物だと知らしめる神風。それもまた、ただただ恐怖を与えることとなる。

 

 

 

 

 こちらの戦いは順調と言えるだろう。攻略するのも時間の問題。

 ならば出来損ないの方はというと──

 

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