神風達の戦いは順調と言えるだろう。攻略するのも時間の問題。
ならば出来損ないの方はというと──
「や、やっぱり強いぞよ!?」
どうにもこうにも苦戦を強いられてしまうものである。その砲撃から逃げ回る睦月は、悲鳴をあげながらも、掠るどころか衝撃すら受けることなく回避し続けていた。
お返しに振り向きざまの砲撃を放つものの、リミッターが外れた回避力でそもそも当たらず、稀に掠める程度に当たったところで自己修復してしまうため、まともにダメージは与えられない。それが1体だけならばまだしも、複数体いるのだから余計に恐ろしさを感じていた。
撃って傷付けたことをとやかく言う敵は今のところいない。いたところで酒匂は反論する気満々だったが。
「やっぱり、酒匂達だと簡単には斃せないよね。でも睦月ちゃん、こういう時だからこそ!」
「仲間を、頼るのね!」
救護班としての在り方。自分達は前線に出るタイプでは無いと理解し、サポーターに徹すること。仲間が苦しむのならば、それを和らげるために隣に立つ。傷付いたのならば治療し、撤退するのならば手を貸す。それが当たり前のバックアップ部隊。
そしてそれは、救護班だけに言えたことではない。救護班に救われるのだから、救護班を救う。持ちつ持たれつ一連托生。それがうみどりである。
故に、睦月も酒匂も、ここでやることは
その者達の戦いをよりやりやすくするために、睦月はその動きをなるべく止める。
「止まって!」
まずは装備していた電磁波照射装置を出来損ない達に向けて放った。この時点で出来損ないにも電磁波が通用するかはわかっていないが、忌雷に寄生されていることはわかっているのだから、何かしらの影響は与えられると確信して使う。
すると、電磁波照射装置を向けられた出来損ないの動きが明確に鈍くなった。動きが完全に止められるわけではないとはいえ、リミッターが外れた動きでの攻撃と回避が無くなるだけでも随分と変わる。
「動き、遅くなったのね!」
「でも止まりはしないんだね。充分、だよね!」
加えて酒匂も電磁波照射。睦月が狙ったモノとは別の個体に対して照射し、その動きを鈍らせる。
この行動がかなりいい方向に進むことを知るのに、そう時間はかからなかった。
「ん……?」
気付いたのは2人同時。動きが鈍った出来損ない達が、
ここに現れている出来損ない達は6体。その全てを、若干離れている擬似カテゴリーKの何者か──神風は既に目をつけている──がコントロールしている。
だが、コントロールと言っても操り人形のようにその行動全てを意のままにしているわけでは無い。ある程度簡単な命令を与え、それ通りに動くようにしているようなもの。複雑な命令もある程度は可能だが、やること自体はそこまで細かく指定する必要がないため、コレで済んでいる。
その命令が、非常に単純な『敵を斃せ』というもの。自分達は味方であるなどのインプットも命令する際に済んでおり、全てが済んだら後は全自動。いくら忌雷が脳まで侵蝕していても、その命令1つで非常に強力な戦闘員として仕上がっている。
今この時でも多少は遠隔操作が利いているのもミソで、やろうと思えばそれこそ操り人形のようにすることも可能。ある意味、
しかし、今その操縦者が神風によって圧をかけられている状態。そのプレッシャーによって、出来損ないに向けられる意識が薄れていた。そうなると全自動で行動することが上手く利いてくるのだが、そうなると今度は団体行動をする上での支障が現れる。
「今、手前のがつんのめったから隊列崩れたにゃし?」
「だね。いくら強くても、いくらバケモノにされちゃっても、そういうところは酒匂達と近いんだよ。急に前の仲間が止まったら、ブレーキ利かずに衝突しちゃう」
「人数多かったらその分動きにくいのは当然なのね。睦月だって引っかかっちゃう」
「うん、酒匂も危ない時あるよ。ということは──」
ここで出来損ないに対しての考え方が明確に決定された。姿形は異形となっても、出来ることは艦娘とそう大して変わっていないということ。むしろ、単純な命令を実行するだけとなったことで、個人技は強力であっても団体行動が上手く出来ていない。
所詮は身体を命令によって動かされているだけ。全自動で動くようになったのならば、出来損ない自体の技量に依存するカタチとなるが、それでも程度がしれている。
2体くらいまでなら、互いを邪魔するようなことにはならないだろう。だが、圧倒しようと数を並べた場合はこうなる。全員が十全に動けているなら連携は取れるが、電磁波照射という対抗策を得たことで、それすら崩れた。
「怖がる必要、無かったぞよ。見た目が違うだけで
「だよね。リミッターは外れてるから気をつけなくちゃいけないけど、そこまで滅茶苦茶じゃないんだよ。それなら、やれるよね」
「にゃし! もうあんなの怖くないのね!」
確かに強いが、その脆さも気付けたならば、恐怖心なんて何処かに行ってくれる。これまでの戦いを前線で戦ってこなかったにしても、これ以上の敵がいることは充分知っていた。それに、この2人はその敵の毒牙にもかかったことがある。
真の恐ろしさを知っているのだから、
「チームワーク、あって無いようなモノなのね。ちょっと前を止めちゃえばー?」
先程と同じように電磁波を照射し、1体の出来損ないの動きを鈍らせる。すると、その近くにいた出来損ないと衝突。動きが連鎖的に止まる。
「こちらの動きもうまく合わせれば」
そして酒匂は立ち回り方によって動きを抑制させ、わざと直線上に並ぶように持っていく。仲間を避けようと動いても、そこには狙わなくてはならない敵の姿はなく、先頭に立つ出来損ないは電磁波によって行動を制限。
こちらからダメージを与えるわけでもなく、あちらが勝手にぶつかってダメージを受けるのみ。それもまた自己修復で無かったことになるものの、戦いは徐々に一方的なモノになっていく。
「へいへーい、こっちにゃしぃ」
出来損ないを誘うように、あえて少しだけ近くを通りつつ、すぐにステップを踏んで出来損ないを誘い出す。その際に強力な砲撃を放たれるものの、それは軽々と回避。
睦月とてうみどりの一員。燃費特化の艦娘という点から、どうしても前線では活躍することがない裏方という役割を持つことになり、同じような立ち位置の梅が『解体』を手に入れたことで妙に差がついてしまっていたが、だとしてもケッコンカッコカリは済んでいるくらいに練度は高く、技術面ではそれだけのモノを持っている。
今でこそ目立たない存在ではあるが、並の艦娘相手ならば互角以上の戦いには余裕で持っていけるだけの技量はあるのだ。周りが特殊すぎるだけ。
「ナイスだよ睦月ちゃん、うまく誘導出来てる!」
「牧羊犬の気分にゃしぃ!」
酒匂も共に同じことをすることで、出来損ない達は徐々に同じような場所に集まるようになっていた。離れて行動すればまだ勝機はあったかもしれないが、誘導に簡単に乗ってしまうのは、結局のところ忌雷に寄生されているからという他ない。
「さ、うまく集まったよ。これなら戦いやすいよね。お願い、スキャンプちゃん」
そして、これが狙いである。変にバラけているから狙いが定めにくい。ならば、少しでも近しい場所に集めてしまった方が処理がしやすい。
この酒匂の考えが、潜水艦達のやりたいことに見事に合致する。
「汚いモノには触れたくないから」
「だからコレかよ。泳ぎづれぇったらねぇな」
「それはスキャ子が下手なだけ」
「ンだとコラ。ちゃんとテメェに追いつけてるだろうが」
集まりつつある出来損ないの足下。そこに潜んでいた伊203とスキャンプが、ここで行動を起こす。海中から急速浮上を行い、刺股を真上に掲げながら、魚雷のように突撃したのだ。
真下からかち上げられるようにされた出来損ないは、見事に宙に浮いた。2人でやったことで、飛んだのは2体。
「次、こっち」
「あいよ。オラァ!」
その刺股を次は手近な出来損ないの胴に打ち込む。刺さるわけではなく、ただ無理矢理押し込むようなカタチにはなっているが、余計な傷をつけて体液を撒き散らせるくらいならコレでいいと、伊203は強引に手首を捻った。
すると、刺股に挟まれているようなモノである出来損ないは、その場で綺麗に横転。伊203の膂力もさることながら、ジャストなタイミングで睦月が電磁波を照射していたのも利いている。動きが鈍ったところに遠心力を利用した一撃が入ったので、耐えられずに倒れるのも当然のこと。
「睦月、グッド」
「にゃし!」
サムズアップする伊203に、睦月もサムズアップを返した。
「そういうこったな。サカワ、頼むぜ!」
「任せて!」
同じようにスキャンプも刺股を操り、酒匂の電磁波も合わせて横転させる。一度転がしてしまえばすぐには復帰出来ない。それに、さらに刺股を使って位置を調整。
「Kill two birds with one stone、だぜ」
すると、最初に吹っ飛ばした出来損ないが、転がした出来損ないの真上に落ちてくることになり、避けることも出来ずに相討ち。嫌な音を立ててその場に倒れ伏した。
伊203も同じように倒れた出来損ないを移動させたが、どちらかといえば落ちてくる出来損ないに直撃させるように、刺股で挟んだ出来損ないを放り投げている。スキャンプよりもさらに強引なやり方に、睦月は苦笑した。
「これもまた武器になるから」
そして更に伊203は、ぶつかり合って倒れ伏した出来損ないを刺股で挟み込んだかと思えば、そのまま残っている出来損ないにぶん投げた。これには自動操縦状態の出来損ないは対応出来ず、見事に直撃。グチャリと聞こえたような気がしたが、自己修復で見えなくなっているので問題無し。
「相変わらず無茶苦茶するなアイツ」
「あはは……でもそれがフーミィちゃんのいいところでもあるから」
スキャンプもこの強引な戦い方には呆れ顔。酒匂も困ったような笑みを浮かべることしか出来なかった。
出来損ないを見事に翻弄することが出来ている仲間達。危険なことには変わりないが、有利なことにも変わりない。特に睦月は、敵に対する恐怖心がもう何処にも無かった。