後始末屋の特異点   作:緋寺

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チーム戦

 6体もの出来損ないは、酒匂と睦月、そして潜水艦の2人が無傷でその行動を食い止めていた。傷を付ければ腐食性の体液を撒き散らすことになるが、そこは少々乱暴ではあるものの刺股を使ったことで、近付くことなく攻略している。

 決して楽勝というわけではないのが、有利を保ったままの戦闘は自信に繋がる。慢心などは絶対にしないが、元々あった恐怖心は失われ、勇気を持った戦闘を繰り広げることが出来た。

 

「固まってれば、電磁波も纏めていけるにゃし!」

「これなら少しは安全だね」

 

 伊203とスキャンプが刺股を使って出来損ないを上手く1箇所に集めたことで、2人がかりの電磁波照射が全個体に当てられることとなり、その動きは非常に鈍くなっていた。動けないわけではないが、忌雷の感覚は確実に遅くなり、攻撃もまともに出来ていない。砲撃を放とうとしているのも見えたが、それはすかさず伊203が対処。強烈な蹴りを入れることで、手に持つタイプの主砲はすぐに手放させた。

 尚、そちらにも忌雷が仕込まれていることを危惧し、酒匂が即座に砲撃で破壊。兵装そのものも木っ端微塵にしている。これならもし忌雷が潜んでいたとしても、纏めて全て破壊されているだろう。

 

「殺すなら殺すけど」

 

 手早い終わりを求める伊203は、出来損ないの息の根を止めることを提案する。絞め殺そうとしても、直接触れることになるため、腐食性の体液を受ける可能性がある。やるなら魚雷で全てを木っ端微塵。

 

 しかし、酒匂はちょっと待ってとストップをかけた。

 

「出来れば、この子達から忌雷を取り出せないかな……もしかしたら、この状態でも生きてるかもしれないよ」

 

 こんな姿にされていても、忌雷さえ抜けば艦娘に戻れるのではと提案したのだ。

 だが、酒匂は知らない。出来損ないになった時点で、その命が失われていることを。忌雷を抜き取ったからといって、何か変わるかと言われれば、戦闘力や体液などの脅威が失われるのみ。

 

「抜き出してもいいけど、それがすぐに対処出来ない。深雪がいないから燻せないし、ムーサがいないから食べてももらえない。放置は絶対に出来ないけど、どうする」

 

 こういう時の伊203は、割と強く出る。効率的に、最も速い方法を提案する。それは流石に忌雷を抜き出すのは今はダメであるということ。生きていようが死んでいようが、この場に忌雷が現れること自体がよろしくない。

 

 ちなみに、忌雷を抜こうと思えば抜ける。念のためと特機のうちの1体を預かっているのは、救護班の長たる酒匂。その力を使えば治療は可能である。

 1体くらいなら特機が絡め取っておけるが、ここにいる出来損ないは6体。その全てをどうにかすることは出来るわけがない。

 

「……そ、そうだよね、ちょっと無理言っちゃったよね。せめて深雪ちゃん達が戻ってくるまでは、酒匂達がここに食い止めておこう」

「それがいい。速くはないけど、確実だから。結果遅くなるよりは、今を維持するべき」

 

 ごめんねと謝る酒匂に、気にしないでと首を振る伊203。これまでの経験上、救える者は救いたいと考えるのは間違っていないし、出来損ないをこのように機能停止に近い状態にまで持っていけたことも初めて。やれるなら治療を施したい気持ちは、伊203にも理解出来る。

 

「サカワ、優しすぎるのも考えモンだぞ。あたいにゃコイツらが無事とは到底思えねぇ」

 

 スキャンプが酒匂に正直な気持ちを伝える。期待しておいて、結局ダメだった時の落胆は苦しい。なら、先に少しでも精神的なダメージを軽減するために、自身で悪役を買って出る。酒匂に対してのスキャンプらしい、少々不器用な優しさ。

 そして酒匂はそれをわかっているからこそ、そんなことを言われても気分を害するどころか、気遣ってくれたことを感謝した。

 

「うん、大丈夫。治せるなら治してあげたいって思っただけだから。酒匂だって……無くなった命が元に戻るなんて思ってないよ」

 

 少し悲しい笑み。だが、後ろは向こうとしない。あくまでも前を向き続けて、敵より仲間を念頭に置く。

 

「悲しいけど、睦月達が失敗したわけじゃないのね……悪いのは、この子達の鎮守府の提督にゃし」

「うん……そうだね。こんなことをしたんだから、ちゃんと罪は償ってもらいたいね」

 

 電磁波と刺股によって動けなくされている出来損ないを改めて見つめる酒匂と睦月。こんな存在を生み出した裏切り者に、明確な怒りを覚えながら、電磁波の照射をより強くした。

 

 

 

 

 出来損ないの動きが止められていることを知った神風は、そちらをサポートするためにも、擬似カテゴリーKの中にいる出来損ないの操縦者に狙いを定める。

 

「あっちのためにも、先にやらせてもらうわよ。覚悟はいいわよね」

 

 刀を構え、容赦なく突き進む神風。

 

 眼前にいる擬似カテゴリーKは、出来損ないと同じ数の6人。そのうち、出来損ないをコントロールしているのは1人、もしくは2人と目星をつけている。1人は明確に出来損ないの方に視線をやったため、まずはそちらを始末するつもりで動き出した。

 とはいえ、あちらは忌雷が寄生していることにより、何かしらの能力を持っている可能性が非常に高い。それこそ、6人のうちの数人は、『増産』持ちの苗床の可能性もある。忌雷に一斉に襲われたら、神風もかなり厳しい。

 

 故に、この段階から神風には助っ人が現れる。

 

「合流します。我々は神風さんをサポートした方がいいでしょう」

「ええ、よろしくお願いね。梅、貴女は妙高さんと私が守るわ」

「が、頑張ります!」

 

 神風1人で荷が重いというわけではないのだが、カテゴリーCを相手にするよりは慎重に行かねばならない敵ではあるため、ジャミングの妙高、そして解体の梅と共に攻略を開始した。

 

「何かしらの力は持ってそうだけれど、まだ見当がついてないわ。使ってきてないし、あっちはまだ控えめみたいだから」

「控えめというよりは、神風さんを警戒しているのでしょう。恐怖を感じている者もいそうですが」

「私の何処が怖いってのよ。こんなにか弱い艦娘だっていうのに」

「か弱い艦娘は刀を振り回すようなことはしません」

 

 漫才のようなやり取りをしながらも、まずは手近な敵から片付けるために動く。出来損ないをコントロールしている者は、特に奥に引っ込んでいるようで、戦力の維持に努めているようだった。

 戦術としてはそこまで間違っていない。1人崩れたら一気に6人が機能停止する可能性があるのだから、そのコントローラーを大切にするのは普通のこと。戦闘力がある者が前に立つのは、艦隊運営としても定石。

 

「貴女は何が出来るわけ?」

 

 タンと跳び、そして眼前まで移動。妙高と梅もそれに合わせて速度を上げる。

 急に近付かれた擬似カテゴリーKは、全力を出すために主砲を前方へ。そこから分析を開始。

 

「神風さん、ジャミングはありますがちゃんと回避はしてくださいね」

「当然。あちらが必中とか持ってたら嫌だもの」

 

 敵の能力は未知数だ。どんな能力を持っているかなんて、見てすぐにはわからない。しかも今回の擬似カテゴリーKは深海棲艦の姿ではなく艦娘の姿。深海棲艦特有の何かというものもない。ぱっと見で能力持ちであるどころか、裏切り者の艦娘であることすらわからないのだ。既に襲ってきていること、そしてイリスの目による判定によって敵だとわかっているだけ。

 そんな相手から繰り出される謎の力は、見てから回避なんてことが出来るかもわからない。それが出来るのは、相応の力を持っている達人のみ。

 

 考えている間に、その擬似カテゴリーKが一発砲撃を放ってきた。恐慌状態で乱射するようなことではなく、冷静に向かってくる神風に対して一切躊躇なく。

 しかし、神風のいる場所は、妙高のジャミングが発揮される範囲内である。この砲撃を放つ直前に、主砲の向きが本人の無意識のうちに強制的に変えられ、神風にはまるで当たらない場所に飛んでいった。

 

「そう、貴女は()()()()()()は出来ないのね。少し安心したわ」

 

 回避行動は不要と、そのまま真正面から主砲を斬り飛ばす。手には一切傷つけず、ただそれだけを失わせる。

 しかし、まだわからない。それこそ梅のように触れられたら終わりなんて力もあるかもしれない。妙高のように範囲内に影響する力も予想したが、主砲が破壊出来た時点でそれもない。

 

「自分の身体にだけ影響を与えるタイプかしら。トラみたいなダメコン? それとも白雲みたいに触れたモノを凍らせるとか? 放電する力というのもあったわよね」

 

 すぐさま後ろに回り込み、艤装の基部を叩き斬る。それに対して何もして来なかったということは、戦闘に特化した能力ではないのかもしれない。神風は予想を続ける。

 

「量産だったらもっと触りに来るかしら。ならグレカーレの羅針盤……精神面なら何も出来ないのは当然か。まぁ、何でもいいか」

 

 とはいえ、基部が破壊された時点で戦闘は不能。この状態で触れられても困るため、すぐさま本体からは離れる。

 

「本当なら首を刎ねてるんだけどね、貴女達も一応は艦娘じゃない。後から忌雷は抜いてあげるから、今はそこで待ってなさい。砲撃もなるべく当たらないようにしてあげるから」

 

 神風の慈悲は、その擬似カテゴリーKにとっては見下されていると感じるのだろう。ギリッと歯軋りが聞こえたような気がしたが、気にせず次の敵を見据える。

 

「次、さっさと来なさい。貴女達は私達を始末しに来たんでしょ。なのに何なのその屁っ放り腰は。戦う度胸もない子が、戦場になんて立つんじゃないわよ」

 

 慈悲は何処へやら、次は完全な煽り。怒りを発露させて、より冷静さを失わせようとする策。少々姑息かと神風は内心苦笑していたが、そもそも自分達の立場を使いつつ、少しでも傷付いたら文句を言いそうな()()()輩相手なら、コレくらいしてもバチは当たらないだろうと、説教ついでに言い放つ。

 

「どうせ私達は力も何もない雑魚とでも思ってたんでしょう。特異点がいるからここまでやってこれただけの運がいい艦隊とでも思っていたのかしら。実際そういうところもあるかもしれないし、あの子がいないとどうにもならなかった場面もいくつもあるけれど、それが戦力に繋がると思ってる時点で貴女達はダメダメなのよ」

 

 2人目に接近。その擬似カテゴリーKは、主砲ではなく手を前に掲げた。ここから考えられる力はいくつかあるが、そのどれもが回避がまだ簡単な部類。そして、バチリと電気が流れたところで、その力は判明した。

 

「『発電』ね。那珂ちゃんが相手した駆逐水鬼が持ってたっていう、出力アップと放電で触れただけで感電させる力だったかしら。刀だと少し不利になるわね。でも」

 

 放電した瞬間、即座に神風の後ろから砲撃が飛んできていた。ここにいるのは神風だけではない。ジャミングをしている妙高だけでもない。勇気を振り絞って前線に立つ、梅だっている。

 

「悪いけど、これってチーム戦なの。貴女だってそんな団体で来てるんだから理解してるでしょ」

 

 砲撃を放たれて怯んだ隙に、神風が既に懐に踏み込んでいた。放電はすぐには出来ない。だが、『発電』の効果で艤装の出力が上がっているため、神風からの攻撃は見てからでも瞬時に反応、避けながら一気に前進した。

 砲撃を放ってきた梅に対して、許しがたい感情を持ったようで、まず始末してやると意気込んでいた。だが、妙高のジャミングは本体の突撃すらも逸らす。

 

「残念ですね。ただの突撃なら警戒の必要もありません。それに、正面に立ってしまったなら、それはもう梅さんの範囲です」

「ごめんなさい、今は静かにしててください」

 

 擦り抜ける隙に、梅はその擬似カテゴリーKの艤装にタッチした。放電しているため、感電しないように本当に一瞬。パシンと叩いた音が聞こえるくらい。

 だが、たったそれだけでその力は十全に発揮される。梅が触れた部分が『解体』によって崩壊し、バキッと音が鳴った途端、出力が上がっている影響もあって艤装が大破した。

 

「で、出来ましたぁっ」

「お上手です。動いている艤装なら、梅さんが軽く触れるだけでも自壊します。タービンの駆動に耐えられないでしょうからね」

「はいっ、少し触れればいいだけなら、まだ大丈夫、ですっ」

「それが難しいのですけどね。ですが、それは私がサポートしましょう。貴女は無傷で近付けさせます。タッチアンドゴーです。飛行訓練ではありませんけど」

 

 梅と妙高、その力の相性は抜群であり、うみどりの中でも特に組むべき者達と言える。今後も2人はタッグで戦場に出ることが確約された瞬間でもあった。

 

 

 

 

「これでもまだ雑魚だと思うなら、そう思っていなさい。高次じゃなくて、高慢の存在になってるだけなんだもの」

 

 残り4人。まだ人数差はあちらにあるが、不利だとは思っていない。それに、神風は既に気付いていた。

 この擬似カテゴリーK達は、既に見たことのある曲解能力を与えられた、これまでの敵の()()()()であることに。

 

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