後始末屋の特異点   作:緋寺

596 / 1158
本当の高次

 うみどりを襲撃する裏切り者の本隊と交戦中の神風達は、6人いた擬似カテゴリーKのうち2人を戦闘不能にまで追い込んだ。残すところはあと4人。この中に出来損ないをコントロールしている能力者と、忌雷をばら撒いている者がいるとして、早急に終わらせたい者はあと2人。

 もしかしたらその2人のうち1人は、後ろに控える者と同様に出来損ないをコントロールしている者である可能性はある。そうならば、より早く出来損ないを止めることが出来るだろう。

 

 だからといって気が逸ることもない。急いでやるわけでもなく、あくまでも冷静に。ここで急いでしまっては、あちらの思うツボになりかねない。急いては事を仕損じる。

 

「仲間がやられてるのに、かかってこないのね。それでも部隊なわけ? 普通なら、仲間がやられそうって時には、それを妨害とかくらいするでしょうに。そういうところがなってないわね」

 

 次に目をつけた神風が一旦刀を鞘に納め、居合の構えに。それすら知らない擬似カテゴリーKの3人目は、神風の物言いが気に入らず、苛立ちを抑えることもなく主砲を神風に向けた。

 

 この時点で、先に終わらせた『発電』の曲解持ちとは違うことがわかる。ただ撃ってくるだけならば、それには何かの力が乗っているようなことはない。千島棲姫が持っていた『燃焼』ならば、砲撃を放つことなく触れてくるか鎖のような距離を取れるような武器を使う。

 

「避けても当たるようなことはないか。それに、秋月みたいに弾切れが無いなんてこともない。さっきの子みたいに何かわからないけどさらりと終わるタイプかしら……?」

 

 砲撃を軽々避け、一気に近付いた神風は、1人目と同じようにさらりと艤装を斬り飛ばす。居合抜きによる一撃のため、1人目よりも鋭い一刀。

 だが、今回は上手く行かなかった。同じように刀で斬り放ったのだが、少々鈍い音がしたくらいで、全く傷がついていなかった。

 

 艤装をここまで硬化させるような力はあったかと、脳内で検索をかけると、思い当たる力は2つ。海賊船や特異点Wで見られた『装甲』か、今も頼れるトラの持つ『ダメコン』。傷が少しだけついて、それでも即座に修復するのが後者であり、傷一つついていない今の反応から考えれば、この力は前者、『装甲』の曲解であると判断出来る。

 実際、この『装甲』が神風にとっては最も厄介と言える。今回は生身を傷つけないように艤装だけを破壊しておきたいのに、それが完全に封じられたようなもの。

 

「あら、私とは相性が悪い子もいるのね。戦場だもの、仕方ないわ」

 

 この力は神風とはどうしても厳しい。だが、それで動揺するようなこともない。あちらは自身の力をかなり過信しているようで、神風の一撃を弾き飛ばしたことでドヤ顔を決めているようだが、そんな神風の態度を見て、気分が悪そうな表情に変わる。何故太刀打ち出来ない相手に対して冷静でいられるのだと不思議な様子。

 事実、神風がどれだけ攻撃を打ち込んだところで、この敵の艤装は一切傷がつかない。逆に刀が刃こぼれしそうな程に火花が散っている。それでも、神風はお構いなしに攻撃を繰り出し続けた。

 

「もしかして、無駄なことなのに何故やり続けるんだとか思ってる?」

 

 図星を突かれて、苛立ちを表情に出してしまう。そして、そんな様を見て改めて神風は落胆したように息を吐いた。

 

「貴女、本当にわかってないわね。私がさっき言ったこと、覚えていないの?」

 

 そんなことを言われてもピンと来ない辺り、やはり高次ではなく高慢。自分が強くなったことに自惚れ、仲間すら頼らず見下しているからこそ、こういう時に周りが見えていない。自分しか見ておらず、そして──()()()()()()()()()()()

 

「これはチーム戦。貴女達だって纏まって来てるのに、仲間がピンチになったら助けようとすらしない。個人戦が束になったところで、貴女達()()じゃ、私達うみどりの足元にも及ばないのよ」

 

 この言葉で怒りが最高潮に達し、反撃に出ようとした瞬間だった。

 

「おそらく『装甲』の力を持っています。神風さんがどれだけ斬っても傷がつかないというのはそういうことです。ですが、梅さんの力は()()()()()()()()()

「『解体』は傷付けることなくバラバラにすること、ですねっ」

 

 神風にばかり気を取られていたことで、既に後ろに回り込んでいた妙高と梅のコンビが、敵の艤装に触れていた。軽くタッチするだけでその力は浸透し、一気に内部から分解。嫌な音を立てて崩れ出した。

 確かに『装甲』によって傷はついていない。だが、傷は付かずとも分解することは出来る。

 

 梅の『解体』は神風とは逆。『装甲』に対して圧倒的有利な力でもあった。

 

「ありがと、梅。私だけだったら厳しかったわ。首を刎ねる以外に選択肢が無くなっちゃってた」

「こ、怖いこと言わないでくださいよぅ。というか、そっちの方が大変なんじゃ……」

「いいえ、そっちの方が簡単よ。相手の命のことさえ考えなければ、こんな()()、私だけで一網打尽にしてるわ」

 

 これはもう聞こえるように、残った3人に聞かせるように、少し大きな声で話した。

 

 練度限界に近いところまで鍛えられている艦娘のことを素人呼ばわりする程の実力者であることは、ここまでの戦いで嫌と言うほど見せつけられているため、何も文句が言えない。

 しかも、ここまで本当に誰も身体に傷がついていないのだ。自己修復で多少の傷はすぐに治ってしまうが、それすらも一度も起動していない。本当に、徹頭徹尾、本体に傷をつけるどころか触れてもいない。何も文句が言えない完全敗北を喫している。

 そのため、残り3人のうちの1人、おそらく『増産』持ちは、既に戦意を完全に失っていた。何をやっても勝ち目がない。自分達の力では絶対に勝てない。それを悟ってしまっていた。

 

「懸命な判断よ。ジッとしてれば何もしないわ」

 

 そんな敵が見えたため、神風は笑顔でそう言ってのけた。だが──

 

「うん、まぁ、()()だけどね」

 

 そんな敵に、子日と夕立が既に迫っていた。『増産』持ちは、ここにいるだけで大きな被害を齎す。それを止めるために、忌雷を対処するために動き回っていた2人は、その苗床の破壊に乗り出していた。

 

「反応ビンビンだよ! あの子の艤装、ぶっ壊しちゃって!」

「ぽーい! まっかせてーっ!」

 

 トップスピードで駆け抜ける2人は、戦意喪失している敵に向かうと、人体への影響などお構いなしに電磁波を照射。艤装内部で増えている忌雷の機能を抑えつけると、夕立が完全にゼロ距離にまで接近し、主砲を艤装に押し当てる。

 

「動いたら痛いことになるからジッとしてて」

 

 そして、躊躇なく引き金を引いた。艤装が爆散し、内部の忌雷は全て木っ端微塵。さらに、接続部から剥がれるように破壊されたことで、これ以降の増産は不可能となった。

 子日が念入りに周囲を見回して、忌雷が存在しないことを確認。それがわかったことで、高らかに宣言。

 

「もう忌雷が増えることは無いよーっ!」

 

 それを聞いて、擬似カテゴリーK達は周囲を見回した。この戦場には、ここにいる『増産』持ち以外にも、同じ力を持つ者が配備されていた。忌雷を多くばら撒くことで、うみどりの誰かを仲間に引き込み、より戦いやすいように持っていこうという算段だった。

 だが、その全てが子日と夕立が艤装を破壊済み。ばら撒いた忌雷も一網打尽にしていた。『増産』持ちは全員、ギリギリ沈まないくらいの艤装の破壊で、その場から動けない状態にされている。

 

「あとはこいつらっぽい?」

「みたいだね。でも神風ちゃんがあんまり近付こうとしてないから、近付いたらダメなのかも」

「ぽい? じゃあ、滅茶苦茶突っ込むのはやめとくっぽい。遠くからバカスカ撃つっぽい!」

「それもダメだよぉ。アレでも傷付けたら面倒なことになるって言ってたでしょ?」

「ぽぃ……面倒っぽい」

 

 この場に現れて一番カオスに陥れそうな人材。夕立は今のところ手綱が握られているが、ゴーを出されたら最後、一切の容赦無く、ここにいる敵を殲滅してしまうだろう。艤装が破壊されて攻撃の手段すら失われた敵であっても、トドメを刺すことを躊躇わない。生身相手ですら平気で手を下すだろう。

 今は心に余裕を持ち、幾度となく説教も受け、うみどりにも相応しい艦娘に戻ってはいるが、カテゴリーMではなくても人間に対して深い恨みを持っているのだ。しかも相手が30年前に自分を陥れた者と同じであるのならば尚更。攻撃を止めているだけでも理性が働いている方である。

 

 そんな夕立が現れたからか、擬似カテゴリーKの1人が動き出した。それは、別の戦場で深雪達が遭遇している、出来損ないをコントロールする『操縦』の曲解を持つと思われる者と同種。

 電の予想通り、触れたらその者の身体のコントロールを奪えるという非常に厄介な力の持ち主。夕立に触れてしまえばこちらのモノと考えたのだろう。そして、生身に攻撃をすることを禁じていることを逆手に取り、自分の身体を盾にしながら進めば、抗うにしても触れることは出来ると考えた。

 

「……はぁ、あまりガッカリさせないでちょうだい」

 

 しかし、やはり神風からしたら素人丸出しであった。夕立の方に突っ込もうとした時、それは()()()()()()()()()()()()()()

 

 大きく溜息を吐いた神風は、徐に刀を鞘に納めると、深く構えて強く踏み出す。艤装のパワーアシストを全て脚に持っていき、目にも留まらぬスピードでその擬似カテゴリーKに突撃。数倍の速度で間合いに入った瞬間、神速の抜刀を決めた。

 斬られたことすら理解出来ず、気付けば艤装は真一文字に真っ二つ。しかし肌には傷一つつくことなく、そこから恐ろしいことに、艤装が()()()()()()()

 

「覚えておきなさい。これ、本気でやったら貴女は今頃こうなっていたってことよ」

 

 勢いが止まらず海面に転がる擬似カテゴリーKを一瞥すると、最後の1人を睨み付ける。

 艦娘なんて枠組みにはもう入らない。自分を高次の存在だと思っていたのは自惚れが過ぎた。本当の高次の存在が何たるものかを、今ここで()()()()られた。

 

「まだやるならやるで構わないわよ。これだけ見て実力差がわからない奴なんて、そろそろ見てるのも気分が悪いもの」

 

 また刀を鞘に納めて、ゆっくりと近づく。ただただ恐怖しかなかった。脚が震え、力が抜け、その場にへたり込む。

 

「……あら、流石に理解出来たかしらね。忌雷が寄生していても、そんなこと出来る子がいたのはちょっと驚きよ」

 

 バシバシとぶつけられる殺意も緩んだことで、ようやく生きている心地がした。しかし、戦意なんてもう何処にも無かった。擬似カテゴリーKだというのに、忌雷による思考調整もされているというのに、目の前の()()()()を目の当たりにしたことで、それを上塗りするほどだった。

 

 実際、寄生している忌雷の力が電磁波で少々抑え込まれていたというのもコレの理由。子日がラスト1人に対して効くかはわならないが電磁波を照射していたことが、戦意喪失の最後の一手に繋がった。

 

「でも、艤装だけは破壊させてちょうだい。ここから何かされても困るから」

 

 それに抵抗することすら出来ず、神風は最後の擬似カテゴリーKの艤装を貫き、その力を奪った。

 

 

 

 

 うみどり強襲の本隊はこれで全てが終わる。カテゴリーCは長門とトラによる一方的な演習によって全滅。擬似カテゴリーKは全員が能力を使えなくなり、それによって出来損ないのコントロールも不可能になった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。