後始末屋の特異点   作:緋寺

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その姿を取り戻し

 裏切り者鎮守府からの襲撃は完全に制圧完了。カテゴリーCは長門とトラによる圧倒的な火力によって全員が気絶状態。擬似カテゴリーKは艤装を全て破壊されているため、その力を発揮することも出来ずに放置。一部は戦意喪失までしている。そして一番厄介であろう出来損ないは、『操縦』の曲解を持つ者がやられたことでほぼ機能停止となった。

 

 ここまで終わったことで、ようやく休めるようになった神風は、大きく息を吐いた。ドッと来る疲れに、明日はもう動けないなと悟る。相変わらず、本気を出すと翌日に響く自分の身体が恨めしいと苦笑した。

 

「おーい! 大丈夫か!?」

 

 ここで、陽動部隊との戦いを終わらせた深雪達が帰投。互いに無事であることを喜ぶ。深雪はこちらでも何も起きていなかったことでより安心した。

 どれだけの人数が来たかパッと見でわからないくらいに、知らない艦娘達が其処彼処にいた。だが、その全員が艤装を破壊されているか、演習用の模擬弾をまともに喰らって気を失っているかの2択。

 

「ご覧の通り、襲撃は食い止めたわ。そっち、陽動だったみたいね」

「ああ……高波から聞いて急いで戻ってきたんだけど、何も無くて良かったぜ」

「高波……? そっちでは1人救えたのね。それはよかった……わ……」

 

 新たに挙がった高波の名前で少し喜んだのも束の間、その扱いに言葉を失った。

 

「ンー♪ 定期的ニ出テキテクレルノイイナァ♪」

「よ、喜んでもらえて、よかったかも、です……」

()()……ジャナカッタ、高波、ズット私ニオヤツ出シ続ケテネー」

 

 未だ食欲が尽きないのか、『増産』の曲解をオヤツサーバー扱いしているムーサによって高波は抱え込まれており、忌雷を増産するたびに目の前でそれを食べる様を見せつけられていた。

 忌雷という存在がそもそも恐ろしいモノであるのに、それを当たり前のように生きたまま口に含んでいく姿は、それが深海棲艦であることなど関係無く恐ろしい。高波はもう恐怖心が麻痺しつつある程になっている。妙な渾名も変に受け入れてしまっているくらいである。

 

「……一度目を逸らさせてもらうわ」

 

 神風は一度思考を放棄した。今は疲れているし、考えたくもなくなるものである。

 

「ああ……ちゃんと説明する。こっちは高波以外はダメだ。しっかり洗脳されてて、あたしらの話は聞いちゃくれねぇ。代わりに時雨が延々と説教してる」

「こちらも多分似たようなモノね。高波はやっぱり忌雷を抜いたから正気に……って、そうじゃなかったら忌雷を増やし続けることなんて出来ないか。もしかして、グレカーレの?」

 

 流石は神風だと深雪は首を縦に振った。『羅針盤』を使った洗脳解除、本来の道に引き戻す策は、ヒトによっては通用することを証明されている。ならば、襲撃本隊に対してもそれをやってみる価値はある。

 大半は『羅針盤』を使ったところで、教育の段階から歪められているせいで効かないだろうが、1人や2人でもいいので救えそうな者がいるのなら、そこに賭けたいと考えるのは普通のこと。

 

「グレカーレ、また力を貸してくれ」

「いいよー。まだこっちにも救えそうなヤツいるんだねぇ。ならやらない理由無いもんねぇ」

「ああ、少しでもいい方向に持ってけるなら、やっておいて損は無いからな。電も手伝ってくれ」

「なのです! 救えるのなら、みんな救いたいのです!」

 

 うみどりに一旦戻ることも考えたが、悪い方向に考え直してしまう可能性もあるため、ここは早急に処置をしていくこととなった。

 

 

 

 

 結論から言えば、『羅針盤』の影響下となって正気を取り戻したのは僅か2人。他の者達は、自らの道を今の鎮守府の道であると完全に刻まれてしまっているため、何をしても特異点に対して敵意しか持っていなかった。そういうもの達は、更なる願いで『羅針盤』を解除している。『羅針盤』のせいで更生も不可能になるかもしれないと考えると、そこは取り除いておかないと大変なことになる。

 

「2人だけでも、元に戻って良かったぜ。やっぱりこんな教育がおかしいって思えるヤツはいるんだよな、うん」

 

 その2人は、先の高波と同じように、これまでやってきたことがどれだけ酷いことだったかを自覚し、罪悪感で吐き気を催していた。実際に嘔吐するようなことはなかったものの、顔色は悪く、涙を流す者もいた。それに釣られて高波も罪悪感がぶり返していたほどであった。

 

「『羅針盤』でまともになったのは、そのまま勧誘でいいかな?」

「いいんじゃねぇか? 高波の負担、軽減してやれよ。忌雷増やせるヤツもう1人いただろ」

「オヤツサーバー2人目イルノ!?」

 

 目がキラキラしているムーサは一旦置いておく。『増産』持ちは基本ムーサに忌雷を作り続ける存在になりそうなのだが、そこは伊豆提督に相談してから。ムーサは今回の戦いの中でもよく働いてくれた方ではあるが、こればっかりはあまり気軽にOKが出せないモノである。

 

「んじゃあ、残りは忌雷を抜いてく。燻さなくちゃいけねぇから、どうしても時間がかかっちまうな」

 

 既に陽動部隊から忌雷を3体抜いているため、特機は3体増えたところ。そろそろ数が増えてきたため、番号を振るのも難しくなってきている。

 ここにいる擬似カテゴリーKは、多く配備されていた『増産』持ちに加え、出来損ない6体を加えると余裕で2桁に届いてしまう。1体1体丹精込めて燻していく必要がある上、この作業を深雪しか出来ないということもあるので、嫌でも時間がかかるもの。引き抜くだけ引き抜いて、特機に掴ませておくということも出来るが、万が一を考えると、外に出した状態にするよりは、1人ずつ丹念に処置した方が堅実。

 

「それも手伝えたらいいのですけど……」

「大丈夫大丈夫。これは多分、吹雪でも出来ねぇことだよ。あたしだけの特権ってことで、今はやってくぜ。でも、あたしは電にもやれるようになってもらいたいって願っておく。そしたら」

「いつかやれるようになるかもですね。わかったのです。でも、何かあったらすぐに言ってほしいのです」

 

 電はあくまでも増幅装置。1を10にする存在。0を1に出来る深雪とは、最初から造りが違う。特異点として覚醒しているとしても、出来ることと出来ないことがある。深雪の言う通り、これに関しては特異点としては先輩である姉、吹雪でも出来るかわからない。

 それでも深雪は、電にも出来るようになってもらいたいと思ってはいた。深雪が願えば、電はそのように変化していく。今は無理でも、そのうち可能になるかもしれない。

 

「っし、じゃあ……」

「深雪ちゃーん! こっちからお願いしていい?」

 

 誰から忌雷を抜いていこうと考えたところで、酒匂から声をかけられた。今は機能停止しているものの、突然動き出す可能性を考えると、どうしても電磁波の照射は止められず、刺股による拘束も解けない。

 他の連中は艤装も破壊されているのでどうとでもなるが、出来損ないはそれこそ何をしでかすかわからないため、優先順位は高いと言える。それが6体といるのだから一層である。

 

 出来損ないの治療はそこから命持たぬ亡骸にするということ。バケモノの姿より、綺麗な身体で弔ってやりたい。それもあって、より優先順位を上げた。

 

「酒匂さん……出来損ないはもう、死んでることはわかってる。忌雷を抜いても、何も取り戻せない。それは覚悟しておいてくれ」

 

 そこを先んじて伝えると、酒匂は明確にショックを受けていた。実際に処置をして、その全貌を見ている深雪の口から伝えられたら、信じざるを得ない。特異点の力であっても、死者を蘇らせるような奇跡は起こすことは出来ない。

 

「……うん、大丈夫。元々それは覚悟してた。そんな都合のいいこと、起きるわけないもんね。スキャンプちゃんにもそれは言われてるから」

「だったら……ああ、すぐにやるよ」

 

 一時的に電磁波の照射を止めてもらう。これは特機にも影響を与えかねない。

 すると、出来損ないはまた蠢き始めた。やはり電磁波による弱体化は非常に効果的。しかし、それが無ければ勝手に動き出すまである。刺股で押さえ込んでいなければ、また暴れてしまう可能性もある。

 

 だが、それはすぐに収まった。動こうとした出来損ないが、突如身体を硬直させる。

 

「……せめてもの罪滅ぼしを……させてください……」

 

 そこには、破壊された艤装でギリギリ動いている、『羅針盤』によって正気を取り戻した擬似カテゴリーKの姿があった。隣には神風もついているため、もしもの時に()()気でいる。

 艤装は破壊しているものの、まだ残滓として残っているようで、出来損ないを動かないようにコントロールしているようだった。そう、この擬似カテゴリーKの持つ力は、『操縦』の曲解。ここには2人の操縦者がおり、出来損ないを2人がかりで操っていたのだ。

 1人でも出来ることを2人でやっているのは、万が一片方がやられてしまってももう片方で出来損ないを嗾けることが出来るから。堅実な策ではある。

 

「アンタ、手伝ってくれるのか」

「……はい、こんなことを嬉々としてやっていた自分が許せないので……せっかく使える力があるなら……皆さんのお役に立てるように……」

 

 艤装の状態もあるのでこれが精一杯だと念を押すものの、充分すぎる働きであるため、深雪は素直に感謝する。

 

「ありがとな、えぇと……」

「……名取といいます。水雷戦隊の旗艦も務めていたことがあって……」

「なるほどな、だからこういう力になったのかもしれないな」

 

 擬似カテゴリーK──軽巡名取の力を借り、一通り出来損ないの治療を開始。ここで手に入る忌雷6体は、全て燻して特機へと変換する。

 

「睦月ちゃん、大発……持ってきてもらえるかな」

「ん、わかったのね……」

 

 その治療と間に、酒匂は睦月に大発動艇を装備し直してもらうように指示。ここで出来損ないではなくなった艦娘の亡骸をうみどりに運ぶため。睦月も抵抗なく素直にその指示に従った。

 

 

 

 

 6体全ての出来損ないが艦娘の姿を取り戻し、沈むことなく大発動艇に積み込まれたことで、こちらでの作業は終了。同時に名取の艤装は限界を迎え、小爆発を起こして浮力すら失った。ちょうど大発動艇があったため、亡骸と相乗りするカタチで事なきを得る。

 

「……この子達は私が……殺したようなものですから……」

 

 涙目で項垂れる名取に、かける言葉が無かった。大発動艇に並ぶ亡骸から目を逸らさず、自分の犯した罪を呑み込み、ぐっと拳を握る。

 

「罪を……償いたいです。こんなことをするために……私は艦娘になったわけじゃ、ない……」

 

 高波からは出なかった、元いた鎮守府に対しての明らかな不信感。洗脳教育を完全に振り払い、今や本来の艦娘としての姿を取り戻していた。

 




なんと、この後始末屋の特異点の二次創作、艦これとしては三次創作となる作品を書いていただきました。

https://syosetu.org/novel/356173/
「ロスタイム・トゥ・セイ・グッバイ」

時雨を主人公とした物語。自分には無い視点からのストーリーで、楽しまさせていただきました。前半ということなので、続きが楽しみです。
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