後始末屋の特異点   作:緋寺

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裏切り者への報い

 その後も、深雪は敵艦娘達から忌雷を引き抜いていく。数はどんどん増えて、それを燻して特機にして、それでも心変わりはせずに睨みつけられて。それでも傷付けるようなことはせず、救うというよりは、今後仲間達に危害を加えないように処置を続けた。神風によって戦闘不能にされた擬似カテゴリーK達も、子日夕立コンビによって艤装を破壊された『増産』持ちも、全てから引き抜いてその能力を奪った。

 与えられた高次の力が無くなったことで、余計に恨みを買うことになる深雪。だが、そこですかさず割り込んだのは、ニコニコ笑顔の時雨である。今はグレカーレも加わり、ド正論をぶつけながら言いたい放題の説教をしていた。

 

「本当に君達は理解力が無いね。そういう教育を受けたからなんだろうけど、だとしてもまだ立場がわかっていない。ここまでのことをしておいて、生かしてもらえているというのがどれだけありがたいことなのかもわからないのかい? まさか、そうされて当然だとまだ思っていたりするのかな」

「あり得るねぇ。コイツら、あくまでも自分達が正しいって思ってるっぽいし。特異点はやることなすこと全部悪だから、逆にそれに対して何をしても正義だって思い込んでるんだよ」

「考える力も失わされているわけだ。はは、()()()()()()()()。少しでも賢ければわかることだろうに。あんな汚らしい忌雷を埋め込まれることの何が正義なんだい」

「ごめんシグレ、それ割とあたしにも刺さる」

「おっと、君は特機を使っているからね。でも、特機はまだ君の意思を歪ませないじゃないか。君は君の思うがままに行動出来る。でもあの忌雷は、奴等の思い通りにする力が働いてる。心を歪ませてまで、信念を押し付ける行為の、何処が正義なんだい。何が平和を目指しているんだい。納得の行く説明が出来るのかい」

 

 捲し立てるように喋り続ける時雨は、やはりこの時も呪いを発散しているようだった。溜めに溜めた鬱憤を、暴力などではなく言葉で解き放ち、しかも相手はそれに対して言い返すことすら出来ない。言い返したところで支離滅裂なのだから、そこにまた時雨が上から正論をぶつけて沈黙させる。そんなやり取りがスッキリして堪らないようである。

 

 忌雷を抜いた元擬似カテゴリーKは時雨とグレカーレに任せ、深雪も忌雷の燻しを全て終わらせた。特機はこの場だけでも2桁を超え、そろそろ手元に置いておくのも難しくなり、一部は電や白雲に持ってもらっているくらい。

 

「ふぃー……なんとか終わったな。海自体の後始末はどうなってる?」

「他の皆様が破壊した艤装の破片などは、随時後始末をしているようです。じきに終わるでしょう」

「流石みんなだ。行動が早いぜ」

 

 周囲を眺めてみれば、戦闘の痕跡は既に殆ど無い。海中に沈んでしまった破片なども、出来損ないを拘束する必要が無くなった伊203とスキャンプが処理しており、もう既に薬剤散布の段階まで行けているほどである。

 

 

 

 

 残すところ、この戦闘で鹵獲した敵艦娘の収容のみになる。だが、あまりにも人数が多く、うみどりにも一応存在している懲罰房には収まりきらない。そのため、監視付きで工廠に置いておくことになった。

 その監視はまず時雨が自ら買って出た。呪いの吐き出しはまだ足りないらしく、何か文句があるならここぞとばかりにネチネチ責め立てる気満々。捕虜達もそろそろうんざりしてきているようで、もう何も言わなくなっている。その視線が気に入らないと難癖をつけるようになってからは目を瞑る程に。

 

「……そう……やっぱり出来損ないは……」

「ああ、あたしにはどうにも出来なかった。ああなった時点で、もう死んじまってる」

 

 治療の成果を伊豆提督に伝える深雪だが、その表情はいいとは言えない。今回の戦いで、()()()()()を知った。説得が通用しないだけならまだマシ。既に命が奪われている者はどうにもならない。

 全てはその処置をした裏切り者の提督が悪いのだが、深雪にはそれだけでは終わらない。淡い希望すらも打ち砕かれたことで、自分のやれることの限界を知ることになった。

 

「深雪ちゃん、本当によくやってくれたわ。出来損ないにされた子達は、丁重に葬りましょう。でも、海でそれをやるのは少し違う。これが全て終わったら、また軍港に向かうつもりでいるの。島に向かう最後の準備のためにね。だから、その時にトシちゃんにもお願いして」

「……ああ、そうする。せめて、安らかに眠れるように、だな」

 

 後始末の時にする祈り。それを人間のためにもするだけ。何も変わらない。

 

「……戦いの中で死ぬのは、苦しいけど、悔しいけど、まだ普通だと思うんだよ。命懸けの戦いなんだ。絶対に勝てるなんてことは無いと思う。強敵を前に死んじまうなんて、あたしはまだ見てないけどザラなんだと思う。でもさ……こんな終わり方は無ぇよ。信じてた仲間に裏切られたようなモンだろ。ンなおかしな話あるかよ」

 

 その祈りも、戦場で散った者に対しての感情では行えない。戦場での死とはあまりにも違う、ドス黒い感情が渦巻いた中での死。そしてそれを施した裏切り者は、一切悪気などなく、むしろこうなったのは特異点のせいだと深雪達を非難する、自分のやったことの悪い部分だけを全て責任転嫁するまで予想出来てしまう。

 

「これに関しては、悪いのは何もかもこの子達の所属元の提督よ。ううん、提督と呼ぶのも気分が悪い、ただの人類の敵。アタシ達は何も言われる筋合いは無い。何か言ってきても、心を痛める必要すらないわ」

 

 優しい笑みを浮かべて、深雪の頭を撫でる伊豆提督。

 

「今回の件で、よくわかったわ。あちらは本当に他人の命を何とも思っていないってことがね。それならアタシ達も容赦なく行ける。情のカケラもなく、徹底的に潰すことも厭わない。でも、多分最後はあちらの裏切り者と直接ぶつかることになるかもしれないわ」

「……一応、人間なんだよな、裏切り者でも」

「ええ、だからこそ、やることは決まってる。アナタももう知ってることよね」

 

 相手が人間であるなら、艦娘がそれをどうにかしようとするのはよろしくないことである。これでもかというほど、自分が人間であることを前面に出してくるだろう。

 その状況、深雪は既に経験していた。自分の弱さを盾にし、罪悪感につけ込んで好き勝手するような連中を、既に見ている。

 

「これからアタシ達は、艦娘を差し向けた鎮守府に向かう。目的は勿論、完全制圧と裏切り者の捕縛。もしかしたら既に逃げているかもしれないけれど、陸路を使っているならそれ相応の対処が出来る。海だったら尚更やりやすい」

 

 伊豆提督の表情も次第に冷たくなってくる。これだけのことをしておきながら、それが当たり前だと思っているのならば、絶対に後悔させなくてはならない。地の果て海の果てまでも追い詰めて、相応の罰を与える決意が垣間見える。

 

「ヒトの命を弄んだ報いは、必ず受けてもらう。そこで自分は人間なのにと弱者であることを強調したら──アタシが、手ずから制裁を与えるわ」

 

 この先輩がいるからあの後輩(昼目提督)がいるんだなと、妙に納得が出来た。艦娘達に苦しい思いをさせないために、提督が責任を取る。今回の場合は人間の問題。ならば人間がケジメをつける。

 伊豆提督は生まれが非常に特殊な存在ではあるものの、人間であることには変わりない。人間に対して手を出せる権利を持っている。

 

「だから、心配しないで。人間の問題は、人間がキッチリ終わらせるから」

 

 その笑顔は、頼もしくもあり、苦しくもあった。

 

 

 

 

 その後、周辺警戒も終わらせて他に敵がいないことを確認したため、うみどりは出航。目指すは、刺客を送り込んできた鎮守府。()()()()()()()()()()()()、直接乗り込んで制裁を加える。

 その作戦を全員に伝えるため、伊豆提督は工廠で作戦会議を敢行。そこには捕虜達もいるがお構い無し。聞かれたところで何も出来ないのだから、むしろ聞かせてやるくらいに始める。

 

「これだけの数を襲撃に使っているけれど、鎮守府が空になっているなんてことは無いと思うわ。裏切り者が逃げ果せたとしても、そこにはまだ艦娘が守りを固めていると予想出来るもの。でも、陸路に関しては心配しなくていい。大本営が海路だけでなく陸路も封じて追い詰めているそうだから」

 

 うみどりの面々、艦娘達には、陸をどうにかすることは出来ない。そちらはそちらの専門家に任せるのがいいだろう。素人が何をしたところで邪魔になるだけ。

 

「もしそれでも自信満々に鎮守府に居座っているなら好都合。アタシ達が乗り込んで、首根っこ掴んでやるわ。でもその場合は間違いなく、洗脳済みの秘書艦を傍に置いているでしょうね。それとの戦いは免れないわ」

 

 だが、うみどりにはその鎮守府の情報が少ない。内部が現在どうなっているか、残った敵の数も、その能力も、今は未知数。それこそこれ以上に強い者を近くに置いていると考えた方がいいくらいである。

 

「でも今は、情報提供者がいるわ。名取ちゃん、よろしくお願いしていいかしら」

「……はい」

 

 おずおずと出てくる名取。グレカーレの『羅針盤』の力で思考が正常化し、元いた鎮守府に対しての不信感が増した今、名取はその罪滅ぼしに知っていることを全て話すつもりでここに立っていた。

 うみどりの面々は、名取のことを敵視などしていない。むしろ、解放されてよかった、これからヨロシクという気持ちを十二分に見せて、既に歓迎ムードである。

 

「ご、ご迷惑をおかけしました……私が知る限りの情報を、何もかもを包み隠さずお伝えしようと思います」

 

 すると工廠でこの話をしていることで起こり得る事態が起きる。ここに捕虜として置いている敵艦娘達が、一斉に名取のことを罵り出したのだ。

 やれ裏切り者だとか、やれこれまでの恩義はどうしただとか。あまりにも聞くに堪えない言葉の羅列に、名取は俯いてしまい、涙目になってしまう。

 

「はぁ……あれだけ言ってやったのにまだわからないようだね」

 

 大きな溜息を吐いて時雨が捕虜の方へと向いた。さんざん言われ続けてきたので、時雨が目の前に立つだけでもビクッと震える艦娘達。

 

「僕が前に立つだけで黙るくらいなら、最初から行動しちゃいけないね。君達は反省の『は』の字もわからない猿以下の存在のようだから、何度も懇切丁寧に伝えてあげてるんだけれど、そろそろしっかり身体に刻んであげた方がいいかい? 痛い目を見ないで済んでいるから調子に乗っているようだからね。むしろ、僕達に先に手を出させて悪に仕立て上げたいのかな」

 

 手近な艦娘に近付いて、ニコニコしながらその顎をクイッと上げて視線を合わせさせる。敵意はそのまま。だが、時雨に気圧されて、咄嗟に視線を逸らす。

 

「僕のようなただの駆逐艦を怖がっているのに、元仲間に対しては強く出られるようだね。その汚い口を開くことなく、自分の弱さを後悔しながら話を聞いていなよ。次に何か口にしたら……そろそろ僕も我慢の限界が来るかもしれないからね」

 

 笑顔は一切崩さない。だが、目は完全に笑っていない。

 

「君達に言論の自由は無いんだ。あまりにも黙らないなら、そうだね、猿轡でもしようか。ただ、あまりおかしなことは言わないでおくれよ。口じゃなくて首を絞めてしまうかもしれないからね」

 

 ここまでしてやっと黙る。

 

「最初からそうしていればいいんだよ。何故それが出来ないんだい。見た目だけは大人なのに、中身は海防艦以下のお子様だね。丁型海防艦の方がよっぽど物分かりがいいよ。ねぇ、スキャンプ?」

「あたいに話振るんじゃねぇよ」

 

 敵艦娘の緊張感はMAXに、しかしうみどりの面々の緊張は一気に解れた。

 これならば名取も話が出来る。裏切り者の鎮守府制圧作戦が、改めて開始される。

 

 

 

 

 対人間の戦いはまだ続く。精神的な疲労は重いものの、これを終わらせなければ本番には行けない。

 

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