後始末屋の特異点   作:緋寺

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艦生の始まり

 翌朝、深雪にとっては初めての朝。窓から差す太陽の光で気持ちのいい目覚めを体験することになる。

 昨晩は就寝時間ギリギリまでパジャマパーティーを続け、楽しい時間を過ごすことが出来た。駆逐艦同士での仲は非常に良くなり、もう仲間以上に友人、親友と言えるほどに感じていた。

 

「ん、んん……朝か……」

 

 流石に疲れはない。昨日にやったことと言えば、目を覚まして艦内を案内された後、歓迎会をしてもらったくらい。

 

『総員起こしよ。起床時間になったわ』

 

 このタイミングで、イリスによる艦内放送が響いた。目覚まし時計などが無くても、これによって艦娘達は定時に目覚め、1日を始めることが出来る。

 休日であっても起きる時間と眠る時間は決められており、規則正しい生活により健康を維持するという狙いがあった。伊豆提督のモットーはここにも活かされている。

 

「っし、今日から頑張るぞ!」

 

 よっとベッドから飛び起きた深雪は、備え付けのクローゼットから用意されている制服を取り出してささっと着替える。

 パジャマパーティーの際に朝のルールのようなものもざっくり教えてもらっており、制服に着替えてまずは食堂という流れが決まっているため、それに準ずるためにさっと準備を終わらせた。

 

『深雪ちゃん、起きてるー?』

『初めての朝だよー。朝ご飯と朝礼だよー』

 

 これから出ていこうと思ったところで、扉の向こうから深雪を呼ぶ声。声からして、睦月と子日であることはすぐにわかった。

 

「おう、起きてるぜー。準備も終わったからすぐに行く!」

 

 その声に応えるようにすぐに部屋から出ると、扉の前で2人が待ち構えていた。初めての朝、初めての朝食、初めての朝礼と、艦娘となりうみどりの一員となってから初めて尽くしとなるため、誰かサポーターが必要であろうという配慮。

 この2人が抜擢されたのは、パジャマパーティーの時に立候補したからである。深雪を除いた5人の駆逐艦の中では、人懐っこさTOP2の2人であるため、こういうことを自分からやりたがる。

 

「おはようにゃしぃ、深雪ちゃん!」

「おっはよー!」

「おはようさん!」

 

 朝から元気いっぱいの2人に、深雪もつられて声を上げ、みんなでハイタッチ。

 

「迷わないと思うけど、まずは真っ直ぐ食堂だから、睦月と子日ちゃんで案内するぞよ」

「頼むぜ。まだ完璧に慣れたわけじゃあ無いからな。迷わないとは限らないぜ」

「だったら子日達に任せちゃってね。しっかり迷うことなく食堂に連れてってあげるからね」

 

 迷わないようにと深雪の両手を握って、3人で食堂に向かうこととなった。同じ駆逐艦なのに、この2人はやたらと子供っぽく感じると、深雪は口に出さずに思っていた。

 自分と同じであっても、型が違えばこうも違う。駆逐艦は特に種類が多いため、外見も中身も多種多様。大人っぽい者もいれば、子供っぽい者もいる。うみどりは少数精鋭ではあるものの、それがやたらと顕著に出ているように見えた。

 

 

 

 

 歓迎会の時とは違うものの、朝食からして絶品だった伊豆提督の料理を平らげて、そのまま朝礼へ。

 

「昨日はみんなご苦労様。一晩経っても海上清浄化率は100%のままだったわ。後始末はこれでおしまいよ」

 

 ここまでして、ようやく後始末が終わるとなると、やはり大変な仕事である。

 

 穢れは一部目に見えない部分もあるので、警戒は必要。専用の装置などを使ってしっかり監視することで、終わりをしっかり見届けるわけだ。今回はそれが間違いなく完了したと言える。

 過去に穢れが()()()()()事件があったため、これだけ慎重になっていると、深雪は昨晩神風から聞いている。それもあってか、最終的な作業はより一層慎重になるわけだ。

 

「次の仕事は、直近で明日。ここから少し行った場所で、中規模の戦闘が起きていると連絡を貰ったの。だから、今日の日中はうみどりをそちらに向かわせるからそのつもりでいてちょうだいね。艦から海に出ることは原則禁止よ」

 

 流石にうみどりが動いている状態で海上護衛として艦娘を外に出すということはしないようである。

 

「加賀ちゃん、神威ちゃん、くまりんこ、貴女達はいつものように哨戒機をお願いね」

 

 名前を出されたことで、3人が頷いた。艦載機や水上機を使える3人は、うみどり航行中は艦載機によって周辺警戒をする。現場に向かうまでにアクシデントが起きたら困るからだ。

 万が一の時は、うみどりから戦闘要員が発艦することにもなるだろう。それ故に、()()禁止としている。

 

「他の子達は、丸一日自由時間とするわ。と言いながらも、みんな自主練とかしたがると思うから、設備は好きに使っていいわよ。事前にアタシかイリスに許可はとってちょうだいね」

 

 うみどりが動いている間でも自主練が出来るように、艦内には様々な設備が備え付けられていることは、深雪も昨日の案内で理解していた。自分はそこで訓練をしていくのだろうとも思っている。

 おおよそ見当がついているのが、筋トレが出来るトレーニングルームと、そこそこの広さと深さがある室内プール。特に後者は、疑似的な海上訓練が再現出来そうなほどであった。そんなものが艦内にあるというだけでも驚きである。

 

「深雪ちゃん、貴女は今日から訓練を始めるわ。よかったわよね?」

「うす。やる気満々だぜ!」

「大いに結構。でも、ちゃんと順を追ってやっていきましょ。焦ったら出来ることも出来ないわ。それで怪我なんてしちゃったら、アタシ泣いちゃうかもしれないから」

 

 伊豆提督を泣かせるわけにはいかないと深雪は内心で思う。艦娘第一に考えているだけあって、育成方法も的確だと、これも昨晩に聞いていた。

 そう話していたのは、秋月と梅。特に梅はこの中でも深雪に次ぐ新人なのだが、伊豆提督の育成方針をこなしたところ、メキメキとその実力を伸ばしていったという。今では他の仲間達と遜色ないほどの実力者という話だ。

 

「それじゃあ、いつも通り始めていきましょうか。お部屋の掃除をしてから、持ち場に行ってちょうだい。深雪ちゃんはまずは工廠で艤装のことをやっていきましょ」

 

 こうして深雪のうみどりの一員としての生活が始まる。

 

 

 

 

 まだ殆ど汚れていない自分の部屋をさっと掃除した後、指示された通り工廠へ向かった深雪。今回も朝のように睦月と子日が案内してくれているため、迷うことはなかった。

 そこには今から哨戒をするということで加賀と神威、三隈の3人もスタンバイ中。深雪の姿が目に入ると、小さく手を振ったりしてくる。

 

「艤装は工廠に置いておけば()()が直してくれるにゃしぃ」

「主任?」

「うん、うみどりの艦娘の艤装の整備は、ここの主任が管轄してるんだよ」

 

 話しているうちに、奥の方からクレーンが動き、深雪の艤装が運ばれてきた。それを操作しているのが、睦月や子日が()()と称した者、妖精さんである。クレーンの根元に小さな操作室があり、その中からサムズアップをしながらこちらにニヒルな笑みを浮かべていた。

 

 艦娘が艦娘として戦えるのは、本人の力以外にもこの妖精さんの力添えがあってこそである。艤装や兵装の整備から製造、艦娘のメンテナンス、艤装の制御に艦載機の操縦、果ては鎮守府そのものの管理まで、ありとあらゆるところにその姿を見せる。

 その正体は未だに解明されていない未知の生物に近いのだが、一部は生体デバイスとも言われている。艦娘がいるところに勝手に現れては、好き勝手やりつつ最善の整備をしてくれる最高のお助け役だ。

 

「主任、お疲れ様にゃしぃ」

 

 睦月が手を差し出すと、操作室から降りてきてその上に飛び乗った。身体能力がとんでもないのも妖精さんの特性。自分の何倍もの高さを軽々と飛び越え、何倍もの大きさの物も軽々運ぶ。妖精さんが実物大になったら、間違いなく艦娘よりも強いと言えるほどである。

 

「おお……これが妖精さんか。あたし初めて見たよ」

 

 戦うための知識であるため、深雪にはそういうものがいるというのは刻まれているが、実際に目にするのは当然初めて。深雪も興味深そうに主任を眺めていた。

 その視線を感じたか、主任は睦月の手のひらの上で深雪側に向くと、拳を突き出してきた。

 

「深雪ちゃん、指先で」

「お、おう」

 

 子日に言われて指先でその拳に触れる。これが妖精さん式の挨拶。主任はそれを受けたことでニッと笑みを浮かべた。

 

 艦娘と妖精さんはサイズ差がありすぎる上に、妖精さんと言語による意思疎通が出来ないため、このようなボディランゲージでどうにかするしかない。

 しかし、小さいながらもかなりわかりやすい動きをするため、思った以上に意思疎通が出来ていたりする。最初はわかりづらいものの、慣れれば目と目が合うだけで何をしたいかわかるようになると子日は語った。

 

「よろしくな、主任」

 

 妖精さんからの言葉は聞こえずとも、艦娘の言葉は理解出来ているようで、深雪の言葉にサムズアップで返した。

 

「深雪ちゃんは背負うタイプなんだね。それじゃあ、まずは装備してみよう!」

 

 睦月に促され、運ばれてきた艤装を背負う深雪。本来ならば機械の塊、重量も相当なものになるのだが、そこは艦娘、適性がある艤装に対しては重さすら感じない。

 この艤装を睦月や子日が持ち上げようとしても無理なのだが、深雪ならまるで空の箱を持つかのように軽々と扱えた。

 

 ちなみに、妖精さんは全艤装に適性があると言っても過言ではない。サイズ差がありすぎる場合はこのようにクレーンで持ってくるのだが。

 

「おおう……なんかすげぇしっくり来るぜ。あたしの身体の一部みたいだ」

「艤装は艦娘の身体の一部っていうのは間違ってないかも? でも、今日は武器は無しだって。まずはちゃんと、海の上で浮けるかどうかのチェックだよ」

 

 艦娘であっても、生まれたばかりとなると身体の動かし方がわかっていない可能性があった。勿論、生まれたばかりでも身体を自由に動かせる者はいるが、深雪がそれに該当するかは確認しないといけない。

 必要ならば海上歩行の訓練からスタート、不要ならそれ以降の訓練がスタートとなる。それも武器は使わないところから始まる。

 

 深雪がここまで準備したところで、前以て準備をしていた加賀達も深雪に話しかける。

 

「今日から貴女の艦娘としての人生……艦生が始まります。この鎮守府の一員として精進なさい」

「うす、頑張るっす」

「よろしい。身体を動かした後はご飯が美味しいですから、頑張りなさいね」

 

 何でもご飯に繋がる加賀ではあるが、深雪のことを思っての言葉。表情はあまり変わらずとも、空気からその意図は伝わってくる。見た目以上に、加賀は優しい性格をしている。

 

「そのうち三隈達と一緒に後始末の仕事をする時が来るでしょうから、それまで頑張って鍛えてくださいまし」

「うん、頑張るよ、くまりんこ!」

「うふふ、頑張りんこ、ですよ」

 

 不思議な雰囲気ではあるが、三隈も深雪のことを思って声をかけてくれた。こちらも優しく深雪を導こうとする意思が見えてくる。

 

「アリキキ、深雪さん。神威も応援していますね」

「あ、多分それは頑張って的な言葉だ。うす、頑張るぜ!」

「何かあったら何でも言ってくださいね」

 

 神威も2人と同じように優しい言葉をかけてくれる。補給艦であるため、何かあればサポートが出来ると胸を張って話していた。

 

「なんかみんな優しくて嬉しいな。この鎮守府だからかな」

「それはあるかもしれないにゃあ。みんなハルカちゃんに優しくしてもらってるし、仲間にも同じようにするのが道理だよ」

「うんうん、睦月ちゃんの言う通り。自分が貰ったものは、みんなにあげなくちゃね」

 

 鎮守府全体の空気がよくわかる一幕。誰もが誰もに優しく楽しく。福利厚生がしっかり行き届いているから、心に余裕があるというのもあるだろう。

 

 

 

 

 これより、深雪の艦娘としての訓練が始まる。その前から優しさに触れ、深雪のやる気はMAXに辿り着いている。

 




 みんなが深雪に対して気にかけてくれています。やっぱり後始末という仕事をするにあたって、こういうところで精神的な安定を求めるよね。
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