後始末屋の特異点   作:緋寺

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防波堤

 裏切り者の鎮守府を襲撃することが決定したうみどりは、すぐに目的地に向かって航行を開始。

 そこに辿り着くまでに、おそらく小一時間程度。それまでに、出来る限りの準備をすることになる。

 

「あたし達は確実に向かうことになる。艤装とかも万全にしておこうぜ」

「なのです。補給もしっかりしておかなくちゃですね」

 

 特異点チームとなる深雪達4人は、聞かずとも鎮守府襲撃メンバーに加わることになるだろう。そのため、工廠から離れることなく、妖精さんと共に自分の艤装の整備に勤しんでいた。

 その場で忌雷をどうにか出来る万能戦力とも言える深雪、その増幅装置であり、いざという時に挟んでひっくり返すという裏技も使える電、『羅針盤』も必要になる可能性が高いグレカーレ、そして、出来損ないを封殺出来る白雲。

 今の敵鎮守府は、出来損ないが蔓延る厄介な場所。それも、狭い場所での戦いを余儀なくされるため、その対策が最初から可能な者は最優先で採用される。白雲もそれは自覚していた。

 

「お任せください。倒れてしまわれた神風様に代わり、この白雲が先陣を切りましょう。お姉様、その背を白雲に預けてくださいますか?」

「勿論だぜ。頼りにしてるからな」

「ありがたきお言葉。今ならば、白雲はより戦場で舞うことが出来ましょう」

 

 白雲の言う通り、先の襲撃で神風は相当力を使ってしまっており、鎮守府襲撃には不参加となっている。一応はうみどり待機の残存戦力として、ある意味最後の砦扱い。勿論、疲労が溜まっている状態で戦ってもらおうなんて思っていない。

 そのため、その弟子である白雲が、神風の代わりに襲撃部隊の一番槍を買って出た。神風からも、今の白雲ならば充分にやれると太鼓判を押されている。

 

「先陣切るなら、余計に準備はしておかねぇとな。白雲にはもう特機がいるけど、1体くらい増やした方がいいか?」

「ありがとう存じます。多いに越したことはございませんが、他にも必要とされている方がいるのではと」

「襲撃部隊が何人になるかはわからねぇけど、出来るならうみどりにも置いておきてぇよな。鎮守府に近付くってことは、知らない間に忍び込んでくるかもしれねぇ」

 

 今回の襲撃の少々恐れているのはそこだ。直接鎮守府に向かうということは、既に忌雷がビッシリと配備されており、出撃前にうみどり内に押し寄せてくるなんてこともあり得る。

 いくら忌雷をどうにか出来る力を持っている深雪であっても、数の暴力は簡単には対処出来ない。電磁波照射装置も数に限りがあることを考えると、あちらの『増産』に匹敵するくらいの勢いでこちらも特機が必要になると言える。

 

「流石に今の数じゃ足りないな。全員に1つずつ持ってもらうのも難しいってのに」

「なのです……でも特機に頼り切るのも難しいのです」

「だよなぁ。特機だって数が増えすぎてもあまり良くない気がするし」

 

 数を増やすだけでどうにかなる問題でも無い。それに、そもそも数を増やす手段もない。あちらが出してきたモノを深雪が燻すという手段でないと増やせないのが特機なのだから、特機の増産は完全に受動的。

 

「あ、そうそう、あたしってば思いついたことがあるんだよね」

「そういえば、高波に『羅針盤』使った時にそんなこと言ってたな」

 

 ニンマリ笑うグレカーレに一抹の不安を覚える深雪だが、まずは聞いてみないとわからない。

 

「何を思いついたんだ?」

「アイツらって、『増産』の力で忌雷をバカスカ増やすでしょ? それは自分に寄生した忌雷を増やすって力だと思うんだよね。じゃあさ、()()()()()()()()()()()()()どうなるのかなって思ってさ」

 

 特機が寄生した相手は漏れなくカテゴリーWになる。こちらも擬似的なモノではあるが、グレカーレも白雲も同様。カテゴリー関係なしにだ。以前にカテゴリーYである居相姉妹の妹恵理でも実証済み。

 そして、寄生された者はそれに準じた力も持つわけだが、忌雷に寄生された時と同じ力を持つことも確認されている。グレカーレが『羅針盤』の据え置きだったり、梅が『解体』の据え置きだったりと、そこは忌雷の時と変わらない。

 

 ならば、今『増産』を持っている者に特機を寄生させた場合、同じように『増産』が持てたなら、『増産』されるのは何になるのか。

 考えられるのはたった1つ。

 

「特機が増える……ってことか!」

「あたしはそう思ってるんだよね。たださぁ、あっちって忌雷で寄生させたら与える力を固定化させられそうなんだよね」

 

 増えた忌雷に寄生されたらまた『増産』持ちが増えることから、『増産』持ちの忌雷は与えられる力が『増産』固定に調整されているのではと思われる。

 また、『増産』で増やされた忌雷を燻した特機は、寄生させたら得られる力は『増産』なのではとも。別の力が得られるわけでもなく、ただただ増やすことだけを目的とされているのなら、普通にあり得る話。

 

「でもさ、うみどりを守るためなら充分じゃない? 数が欲しいんだもん。誰かに特機の『増産』をしてもらって、うみどりを守る。これってあんまりよろしくないことかな」

「……うわ、何とも言えねぇ。敵のやり方の対策にはなるけど、よしやろうって作戦でも無いもんなぁ」

 

 こればっかりは簡単には判断出来ない。そのため、グレカーレのこの案を、まずは伊豆提督に話してみることにした。

 

 

 

 

 陣頭指揮のための準備をしている伊豆提督は、今も工廠にいる。鹵獲した捕虜達の監視も必要だが、自分が敵本拠地に乗り込むのだから、それ相応の装備も必要。だからと言って重装だと動きが阻害されて本来の動きも出来なくなるため、なるべく軽装、しかし防御はしっかり考えてというのが基本方針。

 そのため、後始末の際に艦娘が着るようなインナーで身を包むくらいで終わらせている。その繊維は普通のモノとは違い、なるべく忌雷による寄生を防ぐように特殊繊維のそれを使っていたりする。まだ試験的な品ではあるが、それを提督自ら使って試すことになるとは誰も予想していなかった。

 

「……なるほどねぇ、グレカーレちゃんの意見、今回に限っては有用かもしれないわ」

 

 そんな伊豆提督、グレカーレ発案の策、特機増産は無くはないと肯定した。目には目をではないが、忌雷には特機をぶつけることが一番の策とも言える。

 

「うみどりを守るための窮余の策かもしれないけれど、アタシ達だけじゃどうしても限界が来る。そのための設備として考えるなら、特機も選択肢としては悪くないと思うわ。増やす手段もあるといえばあるわけだし。明石ちゃん、調べてくれているかしら?」

「はい、深雪が持ってきた今回の新参特機を調べておきました。主任も同じ意見ですが、この特機に寄生されたら『増産』の力を持つことになりそうです」

 

 伊豆提督の準備を手伝っていた明石からもそんなことが伝えられる。やはり、与えられる能力固定の忌雷というものが使われていたらしく、特機になってもその性質は変わっていないらしい。

 

「ただ、どうしても()()()は感じちゃうのよね。これまで苦しんできたことと同じことをやらせるというのは、ね」

「そりゃあな……そうさせないために救ったんだし」

 

 そこは精神的なモノ。敵と同じことをするのと同じ。対策のために仕方ないかもしれないが、だとしてもまず、特機を増やす役目を担う者が必要になる。今回の敵の真似事をしないとそれが出来ないのだから、どうしても嫌だと思ってしまうもの。

 

 だからこそ、その役目に名乗り出る者がいた。

 

「あ、あの……あのっ、私に、それを……やらせてもらえませんか……っ」

 

 その話を聞いていたようで、勇気を振り絞るように声を上げたのは、『羅針盤』により正気を取り戻した『増産』持ちの高波ではないもう片方──駆逐艦潮。

 

「潮ちゃん、本当にいいの?」

「は、はぃ……罪滅ぼしとして……是非……。私なら……私ならまだ傷が浅いと思います、から……」

 

 これまでの苦しみから解放され、今は艤装も装備していないため、忌雷の魔の手からは逃れることは出来ている。しかし、あえてまたその苦しみ、自らトラウマを抉りに行くようなことをするなんて大丈夫かと、誰もが心配した。

 だが、潮は潮で勇気を振り絞ってその役目を受け持つと決意した。救ってもらえた恩を返すため、これまでの罪を償うため、もう一度だけその力に身を染める。だが今回は悪意なんてものは何処にも無い。うみどりのために、その一点のみ。

 

「それなら、私も手伝わせてください。その力を『量産』することで、効率を上げることが出来ますよね」

 

 そこにさらにフレッチャーが名乗りを上げた。特機『増産』の力を得た潮を自らにコピーすることで、より増産のスピードを上げ、うみどり全体を守るための設備を作り上げると。

 フレッチャー自身も、まだ罪滅ぼしの気持ちは失われていない。彼女の中にある米駆逐棲姫の記憶が消えていないからだ。故に、こういった時に前に出てくる。

 

「……わかったわ。2人とも、お願いしてもいいかしら」

「は、はい、やらせて、ください」

「是非とも。うみどりのため、我が身を使ってください」

 

 伊豆提督もその決意の固さに首を縦に振った。

 

 

 

 

 まずは潮から忌雷を抜き取るところから始まる。これはすぐに終わることであり、深雪が特機を使うことですんなりと終了。擬似カテゴリーKだった潮は、すぐにカテゴリーCへと戻ることになった。

 問題はここから。その忌雷をその場で燻し、特機へと変え、そのまま潮に戻す。再寄生となるため、トラウマは深く抉られることになる。

 

「だ、大丈夫です。大丈夫、ですから」

 

 潮は涙目で目を瞑っていた。流石に寄生されるところを見ながらはキツイ様子。

 

「大丈夫です。私もついています」

 

 そんな潮をフレッチャーが支える。このフレッチャーも既に特機寄生済み。そちらは『増産』の特機ではなく、深雪が既に用意していた方。既に力を持っているフレッチャーに、固定の力を与える特機を寄生させたら、何が起きるかわからないというのが実情である。

 フレッチャーの寄生の瞬間を潮は見ていられなかったが、喘いだもののケロッとしているフレッチャーの姿に勇気が貰えた。

 

 ちなみにフレッチャーは寄生されたものの見た目は何も変わっていない。衣装も据え置きを望んだため、ただカテゴリーWになっただけである。

 

「じゃあ、行くぜ」

「は、はぃ……っ!?」

 

 そして、特機が潮に寄生。その瞬間目を見開いたが、フレッチャーが優しく口元に手を添えたことで、余計な嬌声を上げることはなかった。

 フレッチャーが前例を見せているため、見た目も何も変わることなく、カテゴリーWへの変化は終了。主任がそれを見て、『増産』が据え置きとなっていることも確認。

 

「潮さん、それではそのまま私にその力を」

「ふぁ……ふぅ……ふぅ……は、はぃぃ……」

 

 今度はフレッチャーが潮の手を取り、自らの首筋に添えさせる。

 

「っくっ……っああっ……その力……貸していただきます……っふぅうんっ」

 

 すると、潮と同じセーラー服姿へと変貌。潮のコピーとして、『量産』が完了したことを示した。

 

「……いつ見ても慣れねぇよ、コレ」

「なのです……」

 

 深雪も電も、見届けはしたものの顔が赤い。白雲も同様。グレカーレだけはニコニコしながらツヤツヤしていた。

 

「それでは潮お姉様、早速やってみましょう」

「おね……い、いえ、大丈夫です、やりましょう」

 

 ここまで準備出来たため、予定通り艤装を装備。そうすれば、自らに寄生している特機を『増産』することが出来るはずである。

 

「……あ」

 

 装備した時点で気付いたのだろう、潮が小さく息を漏らした。そして、その艤装の隙間からポトリと何かが落ちる。

 これまで潮が増やしてきた忌雷とは違う、見た目は同じだが色が違う、特機そのもの。

 

「私も正しくコピーが出来たようです。特機を増やすことが出来ます」

 

 フレッチャーの艤装からも特機が生み出されていた。『量産』による劣化は、特機の性能ではなく、その生み出すスピード。フレッチャーが1体増産する時間で、潮は2体増産が出来るという程度。単純計算で潮の1.5倍の効率となる。

 

「これなら、うみどりに特機の配備も可能だと思います。皆さんを守るため、今はここでひたすらに増やし続けましょう」

「救ってもらえた恩を……こんなカタチでも返すことが出来るなら……っ」

 

 フレッチャーは勿論のこと、潮も今の自分に満足することが出来ていた。人を貶めることしか出来なかったその力が、今は拠点防衛の要、防波堤の役割となるのだから。

 

 

 

 

 これにより、うみどり防衛もかなり期待が出来るようになった。襲撃での不安は失われ、全力で挑むことが出来る。

 




なんと今回で600話です。まだまだ続きそうですが、今後ともよろしくお願いします。そんな記念の話でネームドになった潮は記念キャラですね(嬌声キャンセルから目を逸らしながら
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