後始末屋の特異点   作:緋寺

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突入部隊

 敵の忌雷から身を守るために必要な特機だが、深雪の燻しでは増やすのに限界がある。そこでグレカーレが考えた、『増産』の曲解を持つ者に特機を寄生させれば、燻す必要もなく特機を増やすことが出来るのでは無いかという案を実践することとなった。

 自らその役目を志願した『増産』持ちの潮と、その力をさらにコピーして効率を上げると言い出したフレッチャーによって、その案が成功することを確認。そして今、鎮守府に辿り着くまでの時間を増産に当てることで、忌雷から身を守るための特機を次から次へと増やしていった。

 

「2人だけでも結構な速さで増えてくな」

「なのです。もうここにいる全員分はあると思うのです」

 

 2人が生み出した特機は、あくまでも身を守るためのモノ。それを寄生させても、得られる力が『増産』に固定されているため、強くなるためには利用不可能。特機の第一の能力である、忌雷を体内から引っこ抜く性能をメインに使っていくことになる。

 今ではもう人数分は取り揃えられたくらい。しかしまだ数は足りないため、ギリギリの時間までこれを続ける。

 

「門を開けたらビッシリ忌雷なんてことがあっては困りますから」

「だよなぁ。それもあり得るんだもんな」

 

 フレッチャーの言葉に深雪はその通りだと首を縦に振る。あちらは『増産』持ちも複数用意しており、かつ、うみどりよりも早い段階からそれを扱っているのだ。時間をかけている分、用意されている忌雷もかなりの数だと予想出来る。

 それをうみどりが近海に到着し、出撃をしようと工廠の門を開けた瞬間に嗾けるなんてことも普通に考えられる。それを回避するためには、まだまだ特機の数が足りない。

 

「外カラモ入ッテクルカモシレナインダ。ジャア、食ベラレルダケ食ベルヨ」

 

 忌雷の数のことを考えると、ムーサでも手一杯になる可能性がある。いくら止まらない食欲があったとしても、ムーサは1人しかいないのだから、手が届く範囲だって決まってしまっているのだから。

 今でこそ高波から増産される忌雷を摘んでいるが、そろそろ準備が必要ということで、一旦解放していた。高波自身もムーサつきのオヤツサーバーであることはもう受け入れており、副官ル級の平謝りに困りつつも笑顔を見せていた。

 

「高波は、何かお手伝い出来ますか……?」

「対処出来ない程の数だと困るから、破壊してもらいたいわ。艤装は……うん、すぐに直してもらいましょ。ムーサちゃん、高波ちゃんの艤装も整備させてちょうだい」

「ウン、ワカッタ。鯖波モ戦エル方ガイイモンネ」

 

 ムーサが一度破壊し、それでも忌雷を増産させるために強引に装備させていたということもあり、高波の艤装はまだ修理されていない。そのため、まずは高波にも万全な態勢になってもらい、鎮守府襲撃の際の防衛ラインに加わってもらう。

 

「あの忌雷、もう寄生されてる人には寄生しないかも、です。だから、高波には多分近付いてこないかも、ですっ」

 

 そんな高波から有益な情報。1人の艦娘に2体3体と寄生することはないという。そのため、既に寄生済みだが『羅針盤』の力で正気を取り戻している高波には、寄生することはない。

 普通一度寄生したらもう一度寄生しなくてはならない状況にはならないだろう。自信があろうがなかろうが、こんな回避が出来るなんて想定はしない。増産の曲解を与える忌雷──性能が他以上に単純ならば尚更である。

 1人に忌雷を何体もつぎ込むくらいなら、その数を他の者に寄生させる方が効率がいいだろう。確実に寄生するより、数を増やす方が()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

「な、なら、私にも大丈夫、ですねっ」

 

 そこに名取も加わった。こちらも『羅針盤』により正気を取り戻しているタイプであるため、忌雷には寄生されない。そのため、艤装を整備して、防波堤として戦いに参加する。

 

 ただし、特機に寄生された者、カテゴリーW相手だと寄生を試みる。これは後始末現場で先んじて忌雷が無いかを確認していた妙高や梅に対して飛びつこうとしたという前例があるため、確証もある情報。

 それを防ぐためにも、特機は全員に1体ずつ配備する必要がある。寄生されても何とか出来るとはいえ、やはり何をしてくるかわからないというのがキモであるため、対策は充分に。

 

「特機を持つことで安全性を確保して、確実な防衛を進めていくわ。誰も傷つかないように、今回の戦いは終わらせる。そのケジメをつけてもらわないと、ね」

 

 伊豆提督も増産された特機を1体肩に乗せた。妖精さんと同じように、敬礼するかのように触手を動かした特機に、少し可愛らしさを感じたようだった。

 

 

 

 

 もうそろそろ戦いが始まる。この時には鎮守府突入部隊の発表も執り行われている。

 

「深雪ちゃん、電ちゃん、白雲ちゃん、グレカーレちゃんは、多分自分でもわかっているようだけれど、突入部隊に参加してもらうわ。小回りが利くことは大切だし、いざという時の力を頼らせてもらう」

「うす。任せてくれ。煙幕も使うし、なんならその場で敵から忌雷も引き抜く」

「なのです! 電磁波もそのまま使わせてもらうのです」

 

 ここは予想通り。満場一致で参加を望まれていた者達。

 電とグレカーレは電磁波照射装置も装備したままであるため、鎮守府内で忌雷に襲われそうになっても、その力で弾き飛ばすことは可能。出来損ないにも深雪と白雲が対応可能であるため、この4人が最も万能だと考えられている。

 

「それだけでは足りないかもしれない。追加要員として、やっぱり小回りが利く子が参加してくれるとありがたい。だから、アタシが選ぶのは、子日ちゃんと、夕立ちゃん」

 

 ここで名前を呼ばれると思っていなかったか、2人は少し驚いて目を開く。

 子日は地下施設潜入にも参加している、室内戦闘に慣れた者。そして夕立は──

 

「夕立は戦いに関しては信用出来るところの方が多いからね。まぁ調子に乗らなきゃだけど」

「時雨は一言多いっぽい!」

 

 時雨の言う通りである。こと戦闘に関してのセンスは、カテゴリーBの中でもトップクラス。軍港都市での米駆逐棲姫との戦いでも、そのセンスは遺憾無く発揮されている。それを鎮守府襲撃にも役に立てようという采配。

 ただし、慢心が多いというのも間違ってはいない。それでさんざん説教を受けているくらいなのだから、時雨が皮肉るのも当然のこと。それによって特異点Wでの戦いでは大ポカをやらかしているのだから、注意されても仕方ない。

 

「でも、もう夕立はやらかさないっぽい。やらかしたらハルカちゃんが酷いことになるんでしょ? そんなの良くないっぽい」

「うんうん、子日もそう思うよ。だから、今回の戦いはいつも以上に大真面目だから」

 

 子日も救護班の1人。命を蔑ろにするような者に対しては、深い怒りを抱いている。そのため、襲撃の参加に選ばれたことは、内心喜んでいた。しかし気負ってもいない、リラックスした状態での参加。

 

「以上6人、そしてアタシ、伊豆遥が7人目として襲撃に参加する。人間が人間であることを盾にした時、人間であるアタシが鉄槌を下すわ。人間の罪は人間が裁く。アタシにその資格があるかはわからないけれど、今はアタシしかそれが出来ないもの」

 

 伊豆提督が前線に立ち、戦いながら指揮をする前代未聞の作戦。これまで以上に例外が多い戦いとなるだろうが、それでも不安は殆どなかった。

 伊豆提督の実力はここにいる者達、特に軍港での出洲との戦いを知る者は理解している。その時に怪我を負いはしたが、あの出洲に対して一歩も引かず、むしろ互角に立ち向かう程の実力者。生身で艦載機を破壊するほどの力まで持ち合わせているのだから。

 

「あたし達がハルカちゃんを絶対に守るからな」

「ええ、お願いね。アタシは()()()()()だもの」

「……これって笑っていいところか?」

「笑ってちょうだい。一応場を和ませようと思った冗談だから」

 

 あまり締まらないものの、それはそれで空気は和やかになった。

 

 

 

 

 深雪達は準備万端。そこに新たに突入部隊に抜擢された子日と夕立が加わる。

 

「夕立、大丈夫かい? 君はどうにもこうにも詰めが甘いだろう。僕は不安で仕方ないんだけど」

 

 時雨からとやかく言われて、夕立は頬を膨らませる。

 

「もう二度とあんなことにはならないっぽい。ボスにはこっ酷く叱られたし、痛いし、散々だったっぽい。でも、今の夕立は違うよ。お笑い要員になんてならないから」

 

 実際、詰めが甘いと言われるくらいに終わり側にポカをしでかしたこともあるため、時雨からはここまで言われる。だが、軍港都市での戦いではそのセンスを余す所なく使い、縦横無尽に戦った実績もある。陸での戦闘が他より可能であることは、そういうところで知らしめてはいるのだ。

 伊豆提督もその実績を買って夕立を採用している。今の夕立はやる気に満ち溢れているということもあり、また、人間に対する恨みを晴らすことが出来る絶好の機会でもあるため、そういうところからも気合が入っている。

 

「深雪、特機って余ってるっぽい? 増産のじゃなくて、なんか強くなれるヤツ」

「ん? ああ、一応あるぜ。夕立と子日にはそれを渡しておこうと思ってたんだ。緊急事態の時に使えるようにってな」

 

 そう言いながら、回収してきた特機を2人に渡す。すると、何を思ったが夕立はこの場で特機を胸に押し付けた。

 

「夕立は最初から寄生させて行くっぽい。その方がここの部隊の一員っぽいでしょ?」

 

 特機もその意思を汲んだか、ニヤッと笑ったように見えたと思うと、そのまま夕立の中に潜り込んで行った。

 この言動には流石にここにいる誰もが驚いた。念のためと思っていたそれを、なんの躊躇もなく自分に寄生させるとは流石に思っていなかったのだから。

 

「っ、こ、こんな感じなんだ、グレ子がいろいろ言ってたの、わかるっ、ぽ、ぽぉいっ!?」

 

 ビクンと震えて、特機を受け入れたことで靄に包まれた。忌雷による洗脳とは違う、ただ力を得る心地よさに身体を震わせ、自らもカテゴリーWとなるためにその奔流を耐える。

 

「ぽい! これで夕立も仲間入りっぽい!」

 

 そして、強く手を振るうとその靄が一気に晴れた。中から姿を現した夕立は、寄生されたからと言って何か変化しているというわけでも無い。グレカーレのように、艦娘の姿のままカテゴリーWへと生まれ変わったと言える。

 強いて言うならば服装だけ陸戦を意識した動きやすいモノにしてあった。セーラー服の意匠はほぼそのままだが、袖が無くなっていたり、ヒラヒラとならないように身体にピッチリと張り付いていたり。特に下半身は動きやすさ重視として、深海姿の深雪のようにショートパンツとなっていた。その下にさらにスパッツまで穿いて、より活動的に、より活発に変化を遂げたと言えよう。

 

「あ、じゃあ子日もやっちゃおーっと。最初から寄生されてた方がいいよね。あっちでそんなことやってる余裕なんて無さそうだしね」

 

 夕立に倣って子日も特機を胸に押し当てた。

 

「うにゃっ! こ、これは、ちょっと声抑えらんないなぁっふぁあっ!?」

 

 そしてすぐさま靄に包まれて、そのままカテゴリーWへ。こちらも艦娘の姿のまま、しかし服装だけはより動きやすいように変化していた。

 夕立に倣うカタチでそれを行なったからか、色違いの夕立なような姿。スタイルは夕立の方が格段に上ではあるのだが、子日は普段どころか私服もスパッツ姿なので、その姿が夕立以上に似合っている。

 

「っふぅう、準備万端! これなら狭いところでも何も気にせずに戦えるよ!」

「ぽい! 別に見られたところで恥ずかしくないけど」

「一応アタシは男なんだから、羞恥心くらいは持ってちょうだいね」

 

 でもお姉さんと思ってちょうだいねと強く念を押していたが。

 

 

 

 

 突入部隊もこれで準備完了。到着次第、作戦を実行に移す。

 

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