後始末屋の特異点   作:緋寺

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開門

 突入部隊の準備も整い、後は鎮守府に到着するのを待つのみ。何処から忌雷が忍び寄ってきてもいいように、デッキから海上の監視は怠っておらず、空母隊が常に目を光らせている。

 一度襲撃されているのだから、同じことを繰り返すことだってあり得る。ハッキングにより通信設備が全て使用不能にされているのだから、あちらも戦況がわからないのだ。用心するならば、第二第三の部隊を出撃させていてもおかしくはない。

 だが、うみどりから攻め込んでくることも考えるのなら、襲撃よりも防衛に寄せた方が安全ではある。陽動と本命を送り込んでいるのだから、そちらが事を済ませているとしつつも、籠城に徹するのならば、ここからは攻めより守り。

 

『空母隊の加賀よ。艦載機から鎮守府を確認したわ』

 

 うみどり艦内に響く加賀の声。今回はデッキからも通信が出来るように、妖精さんが設備を移動させてくれている。

 

『外から見る限り、何かされているようには見えない。チラホラ見える艦娘には、出来損ないの姿も確認出来ないわ。()()()()()()()()

 

 加賀の辛辣な感想に、工廠は少し空気が緩む。捕虜達は怒りに燃えているようだが、うみどり防衛であり捕虜達の監査役を自ら買って出ている時雨が腕を組んでニコニコしていることから、何も言えずに俯くのみ。抑止力として完璧な立ち位置を築いた様子。

 

『出来損ないが外に見えない以上、鎮守府内部で守りに徹しているのでしょう。それでどうにかなるとは思えないけれど』

『もしかしたら、ここからでも勝てる術を持っているんでしょうか』

『さぁ。でも、無駄に肥大化したプライドが逃げを許さず、攻めるにも決め手が無いのだから、籠城を選択するのはあながち間違いでは無いのかもしれないわね。私は戦術家ではないからわからないけれど』

 

 辛辣、かつ皮肉まで交えて、翔鶴や祥鳳に語っているのが丸聞こえ。まるで捕虜を煽っているようにすら感じた。

 

『祥鳳です。肉眼でも確認出来ました。戦闘準備をお願いします。忌雷は今のところ目には入りませんが、充分警戒を』

 

 空母隊はここまでで一旦デッキから離れる。万が一忌雷が大量に発生し、デッキにまで登って来てしまった場合を考慮した。うみどりの中でも唯一、直接乗り込める場所であることは違いない。戦標船改装棲姫との戦いでそれを受けているのだから、それ以上に厄介極まりない忌雷を警戒するのなら、この場所にいること自体が危険。

 勿論デッキの入り口はしっかりと封鎖。そこから内部に入り込まれても困る。隙間という隙間を埋めて、少ししてから工廠で合流となる。

 

「さぁ、それじゃあ、覚悟はいいわね」

 

 準備万端の伊豆提督は、以前海賊船に乗り込む昼目提督のように水上バイクを用意。門を開けた後、そのまま真正面にあるであろう裏切り者の鎮守府に真っ直ぐ向かい、あちらの工廠から潜入する。

 うみどりが巨大な艦である以上、秘密裏に潜入なんてことも出来ないし、そもそもそれを卑怯などと言われることも考えられる。故に、あくまで正々堂々とあちらからの文句など一つも言えないような状況から、勝利を掴み取る。

 

『門を開けるわ。全員、警戒して』

 

 次はイリスの声が響く。うみどりは停船し、もう門を開ければそこに鎮守府が見えるような位置につけていた。

 当然、あちらからもうみどりの姿は見られている。空母隊が艦載機によって確認した時にいた艦娘達も、うみどりの存在に気付き、殲滅の準備を始めていることだろう。

 

『すぐ近くに擬似カテゴリーKが3人。おそらく『増産』持ち。私の目では忌雷が見えないから、海中に潜んでいると考えられるわ。電磁波の照射も準備して』

 

 襲撃の時から引き続き、うみどり防衛の電磁波照射装置は酒匂と睦月が装備中。また、5つ目の装置は──

 

「スポットライトは浴びる側なんだけどね♪」

「それ浴びたら身体に悪い影響出ちゃうよ?」

「そもそも光が見えないから、スポットライトでもないけどね。でもたまにはこういう()()のお仕事も知っておかないとね♪」

 

 那珂が装備していた。舞風がサポートのために主砲を両手に持ち、危ないと思ったらすぐに忌雷を排除する。連携がモノを言う今回の戦いでは、この那珂と舞風コンビが最も動き回ることになるだろう。

 

『カウントダウンするわ。覚悟を決めて』

 

 未だ特機の増産は続いている。潮とフレッチャーにより次々と増やされた特機は、艦娘達よりも前、門のすぐ近くに配備。流れ込んでくるようならば、その力で出来る限りの殲滅を目指す。

 仲間に入ったばかりの名取と高波も、雪崩れ込んでくるかもしれない忌雷に向かって砲撃が出来るように、固唾を呑みながら門を見つめていた。

 

『3……2……』

 

 全員が緊張の面持ちでカウントダウンを聞く。開き切ったら戦闘開始。しかも近くに増産持ちがいると予告までされているのだから、少しでも開いた瞬間に雪崩れ込んでくる可能性がある。

 

「何処かのパニック映画とか、ゾンビ物のゲームみたいだね。誰かが扉開いてそこから雪崩れ込んでくるみたいなの」

 

 子日が緊張を解すように呟いた。深雪達はそういった娯楽はまだ未経験だが、創作ではちょくちょくあるシチュエーションだよと子日が話すと、少しだけ気が楽になった。

 

「子日ちゃん、そういうのって、あまりいい終わり方しない話も結構あるんじゃないかしら」

「それはそうだけど。縁起悪かったかな」

 

 伊豆提督のツッコミも入り、クスリと笑顔も戻ってくる。こうなれば、緊張は少しは薄れた。

 これなら全力で戦える。やらねばならないことを、真正面からぶつけられる。

 

『1……0! 開門!』

 

 イリスの声が響き渡ると同時に、門が重い音を立てて開き始めた。

 

 瞬間、予想していた通りのことが起きた。

 

「忌雷が入ってきた! 全員で対処ーっ!」

 

 開いた門よりも少し下、海に最も近い場所を注視したらわかった、小さな小さな忌雷の侵入。風呂の水が溢れ出すように浸水してきた際に、その勢いに任せて一気に入り込んできた。

 その数は、本当にとんでもない数だった。1つ2つが素早く突っ込んでくるのでは無い。優に100を超えた忌雷が、一斉に群れを成して波のように押し寄せてきたのだ。

 

「うっわ気持ち悪ぅっ!?」

「いや特機も似たようなもんだからね?」

 

 思わず深雪からそんな言葉が出てしまった。これにはグレカーレもツッコミが出てしまった。これまでも忌雷は見てきているし、なんならそれの色違いである特機を使っているわけだが、忌雷の群れというのは生理的に受け付けないようだった。

 だが、今はこちらにも多くの戦力がいる。潮とフレッチャーが増やし続けている特機が、真っ先に忌雷に向かって取っ組み合いを始めた。どうしても1対1になってしまうものの、特機の性能は忌雷を超えているため、確実に抑え込めている。

 

「道を開くよ! 酒匂ちゃん、睦月ちゃん、電磁波(スポットライト)今日の主役を目立たせちゃえ!」

「はーい! 睦月ちゃん、右側お願い!」

「にゃしぃ!」

 

 それでも数があまりにも違うため、特機だけでは抑え込めない忌雷がかなりの数出てくる。そちらに対しては、那珂を始めとした電磁波照射装置を装備した3人がその機能を無理矢理止めていった。

 照射範囲はなるべく広く、その効果もなるべく強く。多くの忌雷を巻き込んで、まともに行動させないようにする。

 

「さ、みんなぁ! 今日はダンサーが主役だよ!」

「りょーかい! 動きが止まったところから撃つよ!」

 

 そこからは、動ける者が忌雷を破壊していく。まず動き出したのが那珂の相方、バックダンサーの舞風。那珂が止めた忌雷を次から次へと破壊していく。

 

「今日は駆逐艦清霜! どんどん壊すよ!」

「いいね、僕も頑張るよ」

 

 清霜とZ1も負けず劣らず、酒匂と睦月が止めた忌雷を砲撃で破壊していった。大型の主砲は余計なモノまで巻き込んでしまいかねないため、この場では駆逐艦が有利。

 ならば大型艦は何をするかと言われれば、まずやらねばならないことをやる。伊豆提督を押し通すための道を開くことである。

 

「正面に道を作る! 行ってくれ!」

「私達の火力はこういう時に使うべきなんだろう。さぁ行け!」

 

 長門とトラ、2人の戦艦による強烈な砲撃が放たれ、忌雷はその線から一気に押し除けられた。

 装填している弾は、乗り込んでくるカテゴリーCや擬似カテゴリーKのことを考慮した演習用模擬弾。忌雷をそれで破壊出来ることは無いのだが、それでも衝撃でその場から蹴散らすことは可能。

 

「ありがとうみんな。丹陽ちゃん、うみどりの指揮を任せていいかしら?」

「はい、お任せください。今は諦めていないですから、みんなの指揮だってやっちゃいます。お婆ちゃんの年の功、期待してくださいね」

 

 伊豆提督がうみどりを一時的に離れるため、この戦場を指揮するのは第一世代の英雄でもある丹陽。艤装を装備出来ない代わりに、その知恵によって艦隊を勝利に導く。

 潜水艦の時には第二世代の怒りと憎しみを制御出来ずに指揮を諦めてしまっていたが、今は違う。艦娘として、指揮する者として、仲間達を勝利に導くために戦線に立つ。

 

「じゃあ、行くわよみんな! 裏切り者の悪行を止めるため、乗り込むわ!」

「おう!」

 

 伊豆提督の鬨の声と共に、突入部隊が一気に駆け出す。

 

「先陣は夕立と!」

「グレちゃんだよ! あたしが電磁波ぶっ放すから、ユーダチは!」

「止まったヤツからボコるっぽい!」

 

 伊豆提督を守るような陣形を取るのだが、基本は7人の輪形陣。中央に伊豆提督の水上バイクを置き、前方2人は夕立とグレカーレ。電磁波による行動妨害と、そのセンスによる瞬時の判断と攻撃。それが組み合わさった時、この進撃を止める者はいなくなる。

 

「横から来るのは子日が止めるよ!」

「逆側はこの白雲にお任せを。全てを凍りつかせてご覧に入れましょう」

 

 伊豆提督の両サイドを守るのは子日と白雲。こちらは単純な戦闘力で圧倒する。近付こうとする忌雷はそうする間も無く子日に破壊されるか白雲が凍らせているため、何も不安がない。

 

「殿はあたし達だ。それでもすり抜けてくる連中を始末するぞ」

「なのです。電が電磁波をあてるので」

「あたしが消し飛ばす。後腐れなく何もかも無くしてやんぜ」

 

 そして最後尾に深雪と電。この位置につけているのは、何かあった時に全体を煙幕で包み込むため。電とのコンビで放った煙幕は、深雪1人で扱うよりも強力なモノになる。このコンビは絶対に離れられない。

 今は煙幕を使ってまでどうにかしなくてはならない状況ではないが、万が一の場合は瞬時に反応して煙幕を放つだろう。最優先は伊豆提督の命。それを守るためならば、攻撃よりもそちらを優先する。

 

 

 

 

 鎮守府との戦いがここから始まる。突入と防衛、共に完全勝利を狙い、仲間達は突き進む。あっという間とは行かないかもしれないが、それでも有利に事を運びたいと願った。

 

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