うみどりから出撃した裏切り者鎮守府突入部隊は、輪形陣を維持しながら最大戦速で真っ直ぐ進む。うみどりは仲間達が守ってくれると信じているため、振り向くこともない。
忌雷を増産し続けている者は、うみどりに直接攻撃を仕掛けてきている艦娘達以外にもいるのは予想出来る。鎮守府内でも増やし続けているからこそ、ここまでの攻勢を仕掛けられるのだろうと。
「まずはアイツらをやるっぽい!」
「あいよー。イリスはアレも増産持ってそうって言ってたもんね」
開門後、真っ先に狙いを定めたのは、イリスが確認していた3人の擬似カテゴリーK。先陣を切る夕立とグレカーレが、まずそれらを蹴散らすために猛スピードで突撃する。
それに対する擬似カテゴリーKは、怯えるような表情は浮かべることなく、夕立に対して砲撃を放つ。特異点に与する者は皆殺しだと言わんばかりに。
「うみどりに手ェ出さないでよね!」
そんな攻撃を夕立が喰らうわけもなく、避けながら接近を続け、手近な1人のゼロ距離へ。砲撃が狙いを定められないほどに近付かれたことで、その擬似カテゴリーKはすぐさま間合いを取ろうとするが、ここまで近付いても夕立が砲撃をしなかったことに何も疑問を思わなかったことで、夕立の中で一つ納得することがあった。
「近接戦闘は知らないっぽい? なら、逆にやりやすいね」
逃がすものかとその胸ぐらを掴み、すぐさま切り返して腕の力のみで投げ飛ばした。
そんなことをされると思っていなかった擬似カテゴリーKは驚愕の表情を浮かべる。あまりのことに、完全に動きが止まってしまっていた。そもそも足が海面から離れてしまっていることもあり、何かやろうと思っても何も出来ない。
投げられた方向にあるのは、他の擬似カテゴリーK。直接殴る蹴るをしたわけではなく、敵同士をぶつかり合わせることで、共倒れを狙いつつ、
とはいえ、今回はたまたまこうなっただけで、夕立の頭の中には、
「気でも失ってればいいっぽい。グレ子!」
「はーい、とりあえず忌雷は抜いとくよ」
その2人に近付いたグレカーレが、自身に寄生しているモノではない、新たに与えられた忌雷を使って、即座に忌雷を引き抜く処置を開始。抜き出した忌雷は燻すこともなく、放り投げると同時に主砲で破壊。
ここまで来たら、わざわざ忌雷を生かす必要もない。それが『増産』なら尚更である。もう特機を『増産』する手段すら手に入ってしまったのだから、忌雷は殲滅、もしくはムーサの食糧である。
「あと1人は……逃げられたっぽい!? 回り込んでうみどりに行こうとしてるっぽい!」
3人いた擬似カテゴリーK最後の1人は、2人がやられている隙をついて、進軍する突入部隊を無視するように撤退、むしろ大きく回り込んでうみどりへと近付いていた。
しかし、それを逃すわけがない。既に子日が対処を始めていた。
「ダメだよぉ。君も『増産』だよね。だったら行かせないからね」
ニッコリ笑った子日が、回り込んでいた擬似カテゴリーKに既に接近していた。そのスピードはこれまでの子日とは一線を画している。カテゴリーWへと変化したことで心身共に強化されていることを示していた。
「傷はつけないから安心してね。でも、
そこで子日が繰り出したのは、両手を包み込むように装備された主砲による渾身の拳。強烈な殴打によって完全に動きを止められた瞬間、その主砲に潜んでいた特機が擬似カテゴリーKに対して触手を伸ばし、内部から忌雷を抜き取る。
「うん、この戦い方なら、あっちの出方次第だけど忌雷抜きながら黙らせられるね!」
そして、特機に忌雷を放り投げさせた後、すぐさま主砲で撃ち抜いて破壊した。
出来損ない相手では難しく、カテゴリーC相手では意味がない戦術になるが、擬似カテゴリーK相手ならば最も有効といえるモノ。しかもまだ自分達より実力が高い者は現れていない。
しばらくはこの戦い方でもどうにか出来そうだと、子日の中で確信になった。
「アタシ達の目的は、鎮守府で籠城する提督をどうにかすることもあるけど、『増産』持ちを全員沈黙させることもあるわ。まずは忌雷が増えることを止めないと、いつまで経っても戦いが終わらないもの」
突き進みながらも、伊豆提督が周囲の艦娘達に指示を出す。鎮守府制圧が今回の大きな目的であり、そのためには忌雷も全て破壊することが必要不可欠。裏切り者の提督をどうにか出来たところで、忌雷が1体でも残っていたら、それこそ
見かけた忌雷は無視せず破壊。敵という敵を全て沈黙させることがどうしても必要となる。スルーをした時点で後から問題点になる可能性もあるため。
「サーチアンドデストロイっぽい! 見かけたら全部ぶん殴るっぽい!」
「あー、はいはい、今回はユーダチが正しいね。見かけたヤツから大人しくさせる。ユーダチの手綱はあたしが握るから安心してね」
うみどりから離れれば、先程の3人ではない、新手の敵もその妨害に現れる。鎮守府には近づかせない、特異点を止めろと、敵意をこれでもかというほど注いでくる。
そんな敵を蹴散らしていくのが、やる気満々の夕立と、呆れつつもそのやり方を肯定するグレカーレ。先陣を切っているだけあり、まず目につく敵がいたら真っ先にそこに立ち向かっていく。
「夕立ちゃん、その子はCよ」
「りょーかいっぽい! じゃあ、忌雷はないから蹴っ飛ばして黙らせるっぽい!」
今の伊豆提督は、あちらからの行動を全て記録するために、向いている方向をカメラで録画中。そしてその映像はリアルタイムでうみどりのイリスに見てもらっている。
フレッチャーが『増産』をコピーしてうみどり防衛に専念している状況、その目の力で彩を見られるのはイリスしかいない。フレッチャーがその力をコピーしていたとしても、あちらは劣化により裸眼以外の情報から彩が確認出来ないため、尚更イリス頼りとなる。
どうしても見てから彩を伝えられて仲間に話すまでの3ステップがあるため、本来の流れよりは遅くなるのだが、そこは伊豆提督の手腕が光る。今最も必要な情報をすぐさまイリスに尋ね、イリスも即座にそれを答えられるだけの連携が可能なために答えがすぐに来る。
ステップは複数あるとしても、時間の問題は2人の信頼と連携によって大幅に短縮されているといえる。
「加減はしてるっぽい。主砲使ってないでしょ? 殺す気は無いから安心していいよ。それはそれとして痛い目くらいは遭った方がいいと思うけどね」
カテゴリーCを相手にした場合は、忌雷を抜き取って力を取り除くことは出来ない。そのため、暴力に頼ってでも一回黙らせる。そして夕立はそれが出来る。
「ぽい!」
砲撃を華麗に回避しながら手が届くところまで接近した夕立は、敵艦娘が手に持つ主砲を簡単に蹴り飛ばし手放させ、その隙にその脚を返して顎に一撃。骨を折りかねない一撃ではあるものの、艦娘ならば頑丈だから大丈夫だと割と加減はして蹴っている。
その一撃で白目を剥いて倒れた艦娘は、今はもう放っておくことにしている。艤装を破壊して沈まれても困るし、わざわざ運んでいくことも出来ない。ただ、放置しているとそこに忌雷が寄生してしまいかねないので、どうするかは考えもの。
「白雲が固定しておきます。夕立様はまだ先の敵を」
「ありがとっぽい!」
そこで白雲が凍結を使い、その場から動けないように海面で凍結させ、艤装もしっかり機能不全に陥らせた。沈むことなく、しかし動くことも出来ず、ひとまずは放置が可能になる。
それを見た夕立は次の獲物に目をつけ、進撃を邪魔するものを次から次へと蹴散らした。擬似カテゴリーKならば、グレカーレがまず電磁波を照射して怯ませ、夕立が追い討ちをかける。そうでなかったとしても、陣形を少し崩して子日が突撃して夕立と同じように気絶させていった。
「流石だぜみんな。あたし達が手を出せるような状況じゃねぇな」
「深雪ちゃん達は温存しておいてちょうだい。その力が確実に必要になるもの」
「うす、わかってるぜ」
邪魔をする者の中には追加の擬似カテゴリーKもいたが、夕立と子日がさらりと始末していくため、余裕がある時は気絶しているそれから忌雷を抜き取ることもしている。
それは逐一燻していき、特機を増やして戦力へと変える。鎮守府内部ではこう簡単に行くとも思えない。そこに特機を使う可能性はかなり高めとも言える。
「今のところ、後ろから回り込まれるようなことは無いのです。ソナーにも反応がないので、潜水艦も多分いないのです」
深雪と電が最後尾に控えているのは、戦場を広く見るためでもある。特に電は、大型ソナーも装備して潜水艦の動きを常に確認しているくらい。以前に出てきたステルスの潜水艦がいた場合は話が変わるものの、今はその反応は見えない。
とはいえ警戒は常に必要である。既に海底から向かっている可能性もある。何せここは既に裏切り者の領海。外面の良さから思えば、誰にも見えないところは真っ黒とも考えられる。海底もその領域だ。
「アタシ達は鎮守府で迎え撃つつもりなのかもしれないわ。この邪魔で斃せたらラッキーくらい、それに戦えば戦うほど消耗はするもの」
「や、厄介なのです……疲れさせて本番で全力が出せないようにするってことなのです?」
「多分ね。それはそれで部下を何だと思ってるんだって話だけれど」
捨て駒を使うことで消耗を誘い、本番で有利にしようという作戦に出ているようにも見える。効率的ではあるものの、倫理的にはと言われれば違うと、伊豆提督は断言した。
「敵がそこまで多くない。カテゴリーもまちまちだけど、出来損ないは出てきてないわ。鎮守府内で全部投入するつもりだと思ってよさそうよ」
「じゃあ、鎮守府の中はあの腐った液まみれの可能性もあるのか」
「無いとは言えないわね。最悪、鎮守府を一部破壊させてもらうわ。テロみたいですごく嫌だけど」
あちらからしてみれば、特異点を内包しているうみどりの部隊の方がテロリストくらいの扱いなのかもしれないが、
「さぁ、ここからが本番よ。夕立ちゃん、グレカーレちゃん、くれぐれも気をつけてね」
「ぽーい! 鎮守府到着!」
そうこうしている内に、敵の鎮守府が目と鼻の先となる。誰の目からも、工廠の入り口、そして鎮守府の内部が確認出来た。
当たり前のようなに並び立つ敵、敵、敵。そして、その全てが侵入者に向けて激しい砲撃を放ち始めた。ここからが本番と言わんばかりに、今までとは比にならない弾幕。
「待ち構えてるねぇ。うわ、出来損ないもしっかりいるよ」
「ホームだから有利だと思ってるっぽい?」
「かもねー。でも、一箇所に集まってくれてるなら、シラクモー!」
「心得ております。ここならば、この白雲の出番でありましょう」
陣形変更。夕立が一歩下がり、白雲が前進。鎮守府に近付けば近付くほど弾幕は厚みが増すのだが、まるで気にすることなく回避を続ける白雲は、普段使う鎖をまるで
それは、神風が大技を発動する時の構え。軍港都市では風を巻き起こし、時には鉄パイプで生身を斬り払ってしまうことまでした、渾身の一撃のルーティーン。
「神風様を師として仰ぎ、そして学び、手にした一閃、御照覧あれ」
そして、思い切り抜刀するかのように鎖を振るった。瞬間、海面が一気に凍結し、工廠に襲いかかった。
神風が風を巻き起こしたように、白雲は海上限定ではあるが、氷の礫を撒き散らすことが出来るようになっていた。範囲もそれなりに広く、弾幕に匹敵する激しさ。
とはいえ、当然ながら氷の礫の方が脆い。凄まじい勢いではあるが、目眩しと言っても否定出来ない。だが、本来の目的はそこではない。この目眩しのおかげで、弾幕は狙いを定めているのではなく、礫を破壊するためのモノへと意味合いを変えた。
つまり、この隙をついて一気に接近が可能となる。
「夕立、一番乗りぃ! さぁ、素敵な
氷の礫を抜け、弾幕も抜け、先陣を切り続ける夕立が工廠に──鎮守府に足を踏み入れた。
ここからが本番。海の上よりも多い敵を、狭い空間で蹴散らし、籠城している裏切り者へと辿り着かねばならない。
容易では無いことは誰もが想像していたが、それでも誰一人として敗北を考えてはいなかった。