伊豆提督達突入部隊が裏切り者の鎮守府に到着した頃、うみどりでは防衛戦が続いていた。
開門したことで雪崩れ込んできた忌雷を、電磁波の照射によって動きを止め、砲撃により破壊。または増産し続けている特機を即戦力として忌雷にぶつけることで、うみどりは有利を保ち続けるために必死に動き回る。
艦娘の戦力としては、うみどりの方が上であることは既にわかっている。しかし、忌雷の扱い方に関しては、あちら側に一日の長がある。それが現状の互角を作り出していた。
「へ、減ってる気がしないのね!」
そんなことを言い出したのは睦月。忌雷の動きを止め、それを破壊しているのに、その数は一向に減らない。あちらが常に増やし続けているとしても、この数は異常だと思えるほどである。こちらは特機だって増やし続けているというのに、艦娘でも対処しなくてはならない忌雷が後を絶たない。
そこから考えられるのは、何者かが今も何処かで忌雷を増やし続けているということ。しかし、最初にいた擬似カテゴリーKは、真っ先に突入部隊が始末している。その中から忌雷も抜き取っているのだから、そこで『増産』を続けているなんてこともない。
「潜水艦が侵入を企てている可能性があります。秋月さん、本来の仕事とは違いますが、対潜掃討へ。梅さんもそちらをお願いします」
「了解です。今は艦載機は見当たりませんから問題ないでしょう。いざとなれば、舞亜さんと恵理さんもいます。防空はお任せします」
「解体は対潜しながらでも出来ます。今はこっちの方が大事大事、ですねっ」
丹陽の指示により、秋月と梅が対潜仕様に換装して出撃。潜水艦による増産に目をつけた丹陽は、すぐさまそちらに対策の札を切る。
敵艦載機が見当たらないため、防空隊として活躍出来る秋月は一旦それから離れ、対潜に参加。長10cm砲ではなくソナーと演習用の爆雷を装備して、梅と共にうみどりから少し出たところで海中を調査し始める。
先行した突入部隊の電が、ソナーでは感知していないと話してはいたが、それでも警戒は必要。むしろ、襲撃してくると予想出来るのならば、先んじて潜水艦を海中に待機させておくのだって常套手段になる。
それこそ、既にうみどりの裏を取っている可能性だって考えられる。忌雷を配置出来るのだから、潜水艦も配置出来ていておかしくはない。
「フーミィさん、海中を見てもらいたいんですが、あちらから忌雷や腐食液の攻撃が来るかもしれません。すぐに忌雷を対処出来る手段はありますか」
「潜水艦でそれは難しい。私なら握り潰すけど、それも安全とは言えない」
「ですよね。海中での挙動がわからない以上、『増産』持ちの潜水艦に近づくのは危険です。艤装だけ確実に破壊出来たとしても、その時点でその艦娘は溺死しかねない」
潜水艦の『増産』持ちが、誰もなるべく傷付けずに終わらせたいという信念を持つうみどりには最も厄介な敵となる。
潜水艦は艤装のアシストによって海中で呼吸が出来るようになっているため、艤装が大きく破損すると、呼吸が出来なくなってそのまま……ということもあり得てしまう。普通ならばそうなる前に浮上するが、『増産』持ちはかなり深いところ、それこそソナーで感知することも難しいような場所に潜んで、ひたすらに忌雷を増やし続けているということが考えられる。そこで破壊しようものなら、まず間違いなく浮上が間に合わない。
「誰かが特機の『増産』持ちになればいい。そうすれば、あちらの忌雷と互角になる」
伊203はそれが一番速いと提案。海中で忌雷を増やし続ける敵に対抗するなら、こちらも海中で特機を増やし続ける。特機と忌雷は、前者の方がスペックが若干高く、それだけで忌雷を破壊することも可能。砲撃などが出来ない海中では、最も信頼出来るモノとも言える。
しかし、丹陽はすぐに首を縦に振らなかった。その案は既に考えているが、採用を見送った理由がある。
「敵の数がわかりません。いるかもわからないわけですが。むしろ、こちらの潜水艦を誘い込んでいる可能性もあります。そうすると、特機の増産だけでは対処が難しいです」
そこにいる潜水艦が多ければ多いほど、そこにある忌雷の数も増える。1体2体なら伊203だけでもどうとでもなるが、今うみどりが襲われている数は文字通り桁が違うのだ。それを海中でも維持されていたらどうにもならない。
だからといって魚雷で一掃なんてしたら、間違いなくそれを行なっている擬似カテゴリーK諸共破壊する。それでは救われない。
「電磁波は海中ではそこまで役には立ちません。今ここ海上で見えている限りの忌雷に対しては有効ですけど、海の中では上手く機能しないでしょう。そもそも照射装置がそのように出来ていない。海中には持っていけません」
これもまた厳しいところである。電磁波照射装置は海上艦のみが扱える装備。電磁波は海中だと効果が大きく落ちるからである。
「ならどうすればいいの」
「フーミィさんが言うように、潜水艦全員に特機……『増産』持ちになってもらうのは有用ではあります。海上だけでなく海中でも対策が出来るようになれば、数は確実に減らせると思うので」
「なら考えてる時間が勿体無い。私は寄生されておく」
言うが早いか、伊203は今も特機を生み出し続けている潮とフレッチャーのところに行くと、増やした特機を1つ貰う。
潮は驚いていたが、うみどりに少し慣れてきているフレッチャーは、伊203ならそういうことするなと苦笑。
丹陽も伊203がそういうことをする者であることは理解している。別に煽ったわけではないのだが、ここまで思い切りがいいと逆に不安になる。
「っ……くぅ……これで、いい?」
すぐさま特機を胸元に押し当てて寄生を促し、特機もその意気を汲んで即寄生。伊203を特機増産のカテゴリーWへと生まれ変わらせる。その反応は小さなモノではあったが、伊203も顔が赤くなっているのだから、何も感じていないなんてことはない。
見た目は寄生される前と何ら変わりはないのだが、既に伊203の艤装からは新たな特機が生まれていた。
「思い切りが良すぎますよ。でもまぁ、やってしまったものは仕方ありません。これで海中の確認はしやすくなったと思います。秋月さん! 梅さん! 何か感知しましたか!」
「まだです! 海中の反応は忌雷だけです!」
「でも、忌雷は
ソナー持ちを投入したことで見えてくること。それが、忌雷の発生源。ソナーで見える潜水艦はおらずとも、海中から忌雷が浮上してくるのは確認出来た。何処から来ているかはまだわからない。しかし、ソナーの範囲内に忌雷が
「海中に行くしかない。それは決定事項。スキャンプとニムにも寄生してもらう」
「速さはそれですけど、本人がそれを容認するかは」
「ああ? 別に構わねぇよ。その方があのクソ共を始末しやすいってなら、あたいはそれくらいやってやらぁ。気持ち悪ぃけど、アイツらの好きにされるよか億倍マシだっつーの」
「ニムもそっちの方がいいかなぁ。特機に寄生してもらっておいた方が、忌雷に寄生されにくくなるんだよね? だったらニムはまず寄生されておくよ」
スキャンプと伊26もほとんど二つ返事で寄生を承諾。伊203が増やした特機を受け取ると、自ら即寄生された。こちらの思い切りの良さにも丹陽は驚きを隠せなかった。特にスキャンプのそれにはえっと声が出るほどに。
小さく呻きつつも、しっかり寄生が済んだ2人は、『増産』の力を手に入れた。こちらからも特機が生み出され始める。
「勘違いすんなよ、ボス。あたいだって身体弄り回されるのは気分のいいモンじゃねぇよ。でもな、頭ん中まで弄られることが無ぇならまだマシだ。あたいらは、その嫌な感覚も知ってんだからよ」
「うんうん、まだこっちの方が良かったかな。この子達って、深雪ちゃんの気持ちも入ってるからか、ニム達のことちゃんと考えてくれてる感じするもんね」
スキャンプと伊26も、軍港都市では苦い思いをしている。その時のことを考えれば、頭の中まで弄ってくる敵の洗脳より、現状打破のために寄り添ってくれる特機の方がまだマシだと言い切った。二度も三度もやりたいとは思えないがと付け加えるものの、緊急事態なら別にやらないわけではないとも。
「潜水艦3人がかり、特機も生み出せる。これなら、海中の偵察に行ける」
「おう、ヤバそうならすぐに戻ってくりゃいい。あたいもあの忌雷まみれの海を泳ぎたいなんて思わねぇしな」
「深入りはしないよ。出来ればニム達の特機も置いていって、忌雷を浮上させないようにしておいた方がいいかもだけど」
3人が3人、やる気充分。ならば、元々考えていたことまで伝えておいた方がいいなと、丹陽は意を決する。
「それなら、人数だけは把握してください。10人も20人もいるとは思えませんが、忌雷の増え方からして、潜水艦の『増産』持ちは5人はいます」
「5人ならすぐに終わらせられる」
「貴女の終わらせるは命に関わるので自重してください。その方が今後が遅くなります」
遅くなると言われてしまったら、伊203は押し黙るしかない。自分の計算ではそれが一番速いと思っていても、客観視した場合、しかも丹陽という熟練者から見た場合では、まだ速くなれる手段があるのだということ。
「いいですか、まず貴女達にやってもらいたいのは威力偵察です。演習用の魚雷も持っていってください。それなら当ててしまっても問題ありません」
「ぶっ殺すわけにはいかねぇってことかよ。面倒くせぇ」
「ここで救った方々のように、嫌々やっている人もいるかもしれませんから。それを救わずして、何が艦娘ですか」
優しく、しかし少々厳しく嗜める丹陽。舌打ちで返すものの、うみどりのやり方は理解しているため、そうするんだろうなと納得しているスキャンプ。酒匂もそれを望むだろうしと判断基準は別のところにある。
「なので、まずは敵の人数、それと忌雷の数です。海中で殲滅が難しいなら、それを見るだけで戻ってきてください。特機を置いていくことは問題ありません。減らせるモノがあるなら減らしてしまいましょう。ですが、くれぐれも無理はしないこと。それが一番速いと思って突っ込んだら、想定外の一撃を受ける可能性だってあります。この中の誰かが忌雷を受けた時点でおしまいだと思ってください」
特に伊203に念を押すように話す丹陽。伊203の実力は充分理解しているが、それはあくまでも
だからこそ、今は敵とて救う存在であるという気持ちをしっかり持ってもらう。裏切り者の提督以外は、全員無傷で捕獲したいくらいなのだから。
「あ、じゃあじゃあじゃあ、ニム1ついい案があるんだけど」
「はいニムさん、何かありますか?」
「フレッチャーちゃんを見ていつかやるかもしれないなーって思ってたことあるんだよね。出来損ないがいない前提になるんだけど」
ここで伊26から何やら作戦が提案される。丹陽にも少しはよぎったものの、それが本当に通じるかはわからなかったので、まず口にしなかった作戦。敵の人数を聞いてから言おうと思っていたことを、まず伊26からどうかなと語られる。
速さ重視のため殲滅がメインになる伊203や、元々が攻撃的な性格なスキャンプには思いつかなかった、全員の命を奪わずに救い上げる策。少しは傷つくかもしれないが、死ぬことはない策。
「行けるかもしれませんが、道具はどうしますか。フレッチャーさんのようなものでは大きさが足りませんし、今から作るにしても時間がかかります」
「白雲ちゃんの鎖みたいなのでもいけると思うよ。だって、こっちには3人いるんだもん。本当は網の方がいいけど、準備する時間はないから、艦娘だけ全部縛ってくるでいいよね」
「それなら一番速そう。私もニムの案に乗る」
「はぁ……割と滅茶苦茶だな。でも、それが手っ取り早いか。サカワもそれがいいって言いそうだしな……」
潜水艦全員が乗り気となったことで、丹陽もわかりましたと頷いた。
「ではそれで行きましょう。長い長い鎖なら、用意もすぐに出来るはずですから。貴女達の実力なら、簡単とは行かずとも確実に出来るでしょう。海上は私達に任せてください」
「任せた。すぐに準備して、すぐに向かう」
「クソ潜水艦ども鹵獲作戦だ。少しくらいキツめに絞めても構わねぇだろ」
「優しく……は無理かなぁ。抜け出されても困っちゃうしね」
「基本は威力偵察ですからね? 出来るならやる、出来そうに無いなら無理せず撤退。それだけは念頭においてください。何度も言いますけど、1人でも寄生されたらアウトなんですからね?」
それでも丹陽はその作戦を否定しない。それは、失敗すると思っていないから。
ここでの戦いの最重要ポイントは、海底の敵を如何に捕えるかになった。潜水艦達の力が今、試される時。