後始末屋の特異点   作:緋寺

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海底での戦い

 うみどりに群がる忌雷がなかなか減らないことから、この海底に『増産』を持つ敵潜水艦が潜んでいるのではないかと考えた丹陽。それを対処するため、伊26発案の鹵獲作戦が決行される。

 

「かなり長めにしてもらいました。これなら大丈夫ですよね」

 

 丹陽がすぐに明石に頼んで用意させたのは、艤装に使われる鎖を長く長く繋げたモノ。白雲が好んで使うそれよりも長く、1人で扱うには長すぎるくらいなのだが、今回の作戦では3人がかりで使うことが決まっているため、むしろこれくらいないと難しいと考えてやたらと長くしている。

 

「うんうん、大丈夫。網だったら底引き網漁が出来たんだけど、鎖だもんね。それでもコレだけ長さがあれば行けるよ」

「3人で使うならちょうどいい。スキャン子、端持って」

「おう、もう片方はニムだな。テメェが真ん中行くんだろ」

「そう。一番速いのが真ん中の方が多分いい」

 

 既に鎖を見てポジションを決め始めている3人。時間がかかればかかるほど、うみどりには不利になっていくのだが、それでも確実性を高めるために念入りに考える。

 不利になれど、敗北は無いと確信しているから。減らない忌雷相手でも、仲間達は健闘し続けているのだ。ならば、それに応えなくてはならない。

 

「よろしくお願いします。元凶を絶ってください」

「任せて。私達は負けないから」

 

 無表情ながら、サムズアップで返す伊203。伊26は笑顔で、スキャンプは拳を突き出して、その意気を見せた。

 

 

 

 

 海上での忌雷の対処は海上艦に任せて、潜水艦組は急速潜航を開始。その間も、海上に向かって浮上していく忌雷の姿を度々見かけることになる。

 

「なるほどね、こうやって使えば対処が出来るんだね」

 

 その忌雷は浮上を阻止するために『増産』により増やした特機を差し向けることで対処。浮上する頃には特機が忌雷を完全に沈黙させていることだろう。

 伊26が出来るならやっていこうと2人に提案し、特機のスペックを正確に知るためにも、見かけた忌雷はある程度始末していく方向で動いている。

 

「コイツら1つで忌雷1つは完全にシメれるってことか。確かに充分だ」

「邪魔な忌雷は、コレに引き受けてもらう」

「おう、それがいいな。あたいらは、忌雷生み出してるクソ共を始末することに専念すりゃあいい」

 

 スキャンプも特機の奮闘には感心していた。厄介な忌雷が確実に止められるとなれば、使わない理由もない。とはいえ可愛げだけはどうしても感じなかったが。結局のところ、見た目は色違いの忌雷。その行動で愛らしさがあっても、生理的に受け付けない見た目を帳消しにしている程度である。

 伊26は特機のことを割と気に入っているようで、自分から生まれたモノに対しては愛着もある様子。とはいえ忌雷に対して嗾けることは躊躇わない。それが今生の別れになるとしても、それが苦痛になることはなかった。非情とかそういうわけでもなく、あくまでもそこは割り切っているというだけ。

 

「見つけた」

 

 そうこうしている内に、伊203が海中から敵の存在を発見した。スキャンプにも伊26にも、それが何処にいるかなんて全く見当がつかない。潜れば潜るほど陽の光が届かなくなり、3人が3人、誰も灯りになるようなモノを持っていないのだから、裸眼で見れなければ何もわからない。

 それでも、伊203はそこに敵がいると確信を持って潜航速度を上げた。スキャンプも伊26もそれに引っ張られるカタチで潜航を続ける。鎖を持っているから、実際本当に引っ張られている。

 

「マジか、テメェこの暗さでアレが見えたのかよ」

 

 スキャンプにもその姿が確認出来るようになっていた。伊203が迷いなく潜っていく方、うみどりの真下とも言える海底に、普通なら無いモノ──潜水艦の影が見えた。

 

 そこに潜んでいた潜水艦の数は、丹陽が予想していた最低限の数、5人。全員が『増産』持ちなのか、5人ともから忌雷が生み出されて海上に浮上していくのが見える。しかも、思った以上に増えるスピードが速いようで、次から次へとという言葉が文字通り当てはまるペース。

 増えるスピードには個体差があるのか、伊203達の特機を増やすスピードと比べると段違いとも思えた。このペースで増やされれば、それは海上でも減ったように思えないなと納得。

 

「止める」

 

 伊203がここでさらに潜航速度を上げた。鎖が無かったらスキャンプも伊26も間違いなく置いていかれた。

 しかし、ここで『増産』持ちとは違う6人目の潜水艦が現れる。同じように潜んでいたようだが、うみどりの潜水艦──()()がここまで来たことで動き出したようである。

 

 それだけではない。さらに後ろから2人の潜水艦が現れた。『増産』持ちと合わせて合計8人の潜水艦。

 

「……邪魔をするの?」

 

 冷ややかに睨み付ける伊203。殺す気も無ければ、なるべく傷付けるつもりも無いのだが、その目からは明確な敵意が放たれる。

 威圧感が半端ではなく、敵潜水艦はそれだけでも小さく震えを感じた。だが、うみどりの艦娘達、特に目の前にいるのは()()()艦娘、忌雷に寄生され力を得ている自分達の敵では無いと、薄ら笑いを浮かべている程だった。

 

 確かに見た目だけは普通の艦娘。特機に寄生されているとはいえ、それは忌雷対策。身体能力を向上させているとは言い難く、あくまでも身を守るための寄生。忌雷によって強化され、さらには何かしらの力を得ているというのならば、普通ならば勝ち目はない。

 

 普通ならば。

 

「ニムは下がってて」

「うん、ごめんね。こういう時はニムは何も出来ないから」

「スキャ子、行ける?」

「ったりめぇだろ。このなめ腐った奴らに吠え面かかせてやんよ。ニム、もう無傷だなんて言ってられねぇからな」

「仕方ないよ。でも、絶対殺しちゃダメだよ?」

「わかってる。……こんなことで殺しちまったら、サカワが何言うかわからねぇからな」

 

 長い鎖は全てをニムに持ってもらう。それなりの重さがあるものの、今のニムならそれを持ち運ぶことくらいは可能。

 その間に特機を増やし、ここで生み出されている忌雷を少しだけでも減らしていくことに専念する。邪魔をする潜水艦は、戦闘力を持つ2人に任せ切ることにしていた。

 

「先に伝えておく。私達は貴女達を殺すつもりはない」

「気に入らねぇけどな。加減はしてやるから感謝しろよ」

 

 敵は3人。対するうみどりは2人。数は負けているため、敵潜水艦はよりこの2人の戦闘力を甘く見ていた。

 海賊船での戦いなどの情報を貰っていないのかと、伊203は内心思っていた。あそこまで大々的に、敵の首を捥ぐというとんでもないことをしでかしているのに、それを知らないのか。ならば()()()()()

 

「……遅い」

 

 ぐっと身体を縮め、脚を伸ばした瞬間、並んでいた3人のうちの1人がその場から消えた。伊203の突撃があまりにも速すぎて、抵抗する余裕すらなく腹に一撃を貰いつつ、そのまま海底にまで持っていかれる。

 伊203がコレを本気でやっていたら、その衝撃だけで上半身と下半身がお別れしていただろう。これでもかなり手加減をしていると言える。

 

 敵潜水艦の1人は海底に叩きつけられると、伊203は完全にマウントポジションをとっていた。『量産』の曲解を持っている可能性を考えて、その両腕は絶対に届かないように押さえつけ、膝はその腹に食い込ませる。

 

「気絶で済ませてあげる」

 

 そして、その膝にさらに力を込めたことで、ドンと衝撃が走った。海底だというのに、その周囲だけは大きく揺れたかのような錯覚を起こした。

 そんな衝撃が腹から駆け巡った敵潜水艦は、何をするでもなく意識を飛ばした。たったそれだけで白目を剥いて敗北。その後ろ側の海底は、強烈な一撃を物語るように凹んでいた。

 

「大分弱くやったんだけど、脆いね。本気でやったら、身体ボロボロだったかもね」

 

 聞こえているかはわからないが、煽るような言葉を囁いてから、気絶した潜水艦の首を掴んで少し離れた場所に放り投げた。『増産』持ちからも離すことで、()()()()()をされないように。

 

「何呆気に取られてんだよ」

 

 あまりにも簡単に1人がやられたことで、口が開いていた敵潜水艦の片方に、スキャンプは肉薄していた。

 

「自分の方が絶対に強いとでも思ってたのか? 上には上がいるんだよ」

 

 その敵潜水艦の顔面を掴み、そのまま急速潜航。何かをさせることもなく、こちらも海底に叩きつけた。伊203の時と違うのは、叩きつけられたのが後頭部からだったことで、ただそれだけでも気絶するほどの衝撃となった。伊203の一撃ほどではなくても、海底にめり込むほどの勢いはあった。

 

 普通の潜水艦では出せないスピードであることは間違いないのだが、伊203に追いつける程になっているスキャンプならば可能である。速力が上がっているわけでもないのに、創意工夫で速さを再現していた。

 そんなスキャンプの一撃を見て、伊203は満足げ。でもまだ遅いとダメ出し。スキャンプはそんな伊203に憤慨するものの、今気絶させた敵潜水艦を蹴り飛ばして1人目と同じ場所に束ねておいた。

 

「あと1人」

「おうよ」

 

 海底から残された1人を睨み付ける伊203とスキャンプ。だが、その最後の1人は、こともあろうか鎖を持って待機する伊26に目をつけた。

 伊203もスキャンプも、強力かつ凶悪な力を持っているのは嫌というほどわからせられただろう。だが、一歩引いた位置にいる伊26は、どう見ても貧弱。それこそ()()()潜水艦。

 

「ニム!」

 

 スキャンプが叫んだ時には、敵潜水艦はもう動いていた。しかし、それ以上に速く伊203が海底を蹴っていた。

 1人目の敵潜水艦に突撃するよりも速いそれは、瞬く間に距離を詰め、何かする暇も与えずにその身体を掴んだ。

 

「やり方は間違ってない。でも、私達はそれを見過ごすほど弱くない」

 

 そのままUターンしたかと思えば、両腕をしっかり掴み、その膝を背中に食い込ませた。そして、海底に向かって猛スピードで落ちていく。

 

「今はこれでやめといてあげる」

 

 そのまま海底に叩きつけられたことで、その潜水艦も気を失った。強烈な一撃だったにもかかわらず、身体は無傷。おそらく骨や内臓などにも傷ひとつない。

 

「ありがとー! 助かったよー」

「大丈夫。ニムはここからが本番だから」

 

 

 

 

 邪魔者はすぐさま排除された。本番はここから。『増産』持ちの5人を捕えるために、3人はさらに動き出す。

 

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