後始末屋の特異点   作:緋寺

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工廠制圧戦

 うみどりを襲う忌雷の増産は、カテゴリーWとなった潜水艦隊が食い止めた。後は増え続けていた忌雷を全て始末していくだけとなる。

 

 その頃、伊豆提督率いる鎮守府突入部隊は、予定通り裏切り者の鎮守府へと到着。工廠に敵艦娘が並び、侵入を防ごうと弾幕を張っていたが、白雲による目眩しと同時に、夕立が全てを回避して飛び込んでいた。

 砲撃の嵐をモノともせず、一番乗りに鎮守府に足をつけていることに、敵艦娘達は驚きを隠せなかった。何故アレだけの弾幕を無傷で抜けられるのか、何故それほどの力を持っているのか、何故これだけの敵を前に()()()()()()()()()

 

「さぁ、素敵な血祭り(パーティー)しましょ!」

 

 工廠に足をつけた夕立は、真っ先に正面の敵艦娘に対して拳を叩き込む。主砲を握る手でそのまま殴るものだから、酷い音と共に1人が吹き飛んだ。

 群れにはなっているが、流石に間合いだけはちゃんと見えているようで、その1人が誰かに直撃して連鎖的に無力化なんてことは無い。しかし、夕立のこの開幕の一撃はさらに動揺させるには充分すぎた。

 

「この程度で気もそぞろになるとは、程度が知れる」

 

 夕立の突撃によって弾幕がまばらになったため、白雲も前進。神風直伝の居合をもう一度放ち、氷の礫によって工廠を強襲。

 初撃はただの目眩しだったが、二撃目は弾幕もないため、それそのものが逆に弾幕となって敵艦娘に襲いかかる。

 直撃したところで死ぬわけでもなく、ただ痛いだけで傷もほぼつかない。しかし、その痛みも続けば苦しくなるもの。礫を回避するために、敵艦娘達は白雲の方に目を向ける。

 

 近接戦闘なんて普通なら視野に入れていないのだから、それを突然目の前で見せられたら、驚きもするし気もそぞろになってしまうもの。うみどりではこれが普通になってしまっているが、一般鎮守府ではこうなってもおかしくはない。

 とはいえ、うみどりを襲撃しようとしている輩が、このような手段を使ってくること自体を知らないというのは程度が知れるというもの。白雲はこれ見よがしに溜息を吐いていた。

 

「何よそ見してるの」

 

 そして、そんな白雲に注目する敵艦娘を見過ごす夕立では無い。自分から目を背けた者を優先して、一気に蹴散らしていく。主砲を鈍器として扱う攻撃もそうだが、脚部艤装がそのまま装備されたままの蹴りも相当重いものであり、蹴られた者は殴られた者と同様に宙に舞い上がり、そのまま再起不能になっていく。

 

 あまりにも雑な、しかし確実な攻撃に、敵艦娘は敵意だけでなく、恐怖も感じ始めていた。工廠に乗り込んできたのは夕立ただ1人。また、工廠前に立つのも白雲だけ。他の者はまだ戦線に立ってもおらず、最も重要な深雪(特異点)は最後尾で万が一の挟み撃ちを警戒している始末。

 

「もしかして、うみどりは特異点だけで成り立ってると思ってるっぽい? これまでの夕立達の戦いのこと、なーんにも聞いてない? それか、聞いてるのに忘れちゃってる?」

「どちらにしても、こっちは戦いやすくていいんじゃないかな?」

 

 白雲の放った氷の礫に紛れて、子日も工廠に到着。夕立と同じように、手近な敵艦娘から主砲に包まれた拳を叩き込んでいく。

 一旦特機を使って寄生している忌雷を調査し、カテゴリーCだった場合は何もせずに戦闘不能に、擬似カテゴリーKだった場合は力を抜き取ってから戦闘不能にする。抜き取った忌雷は工廠の外に放り投げつつ、砲撃によってすぐさま破壊。

 

「あんまり強くないっぽい。ただ数がいるだけかな」

「その数も大分減ってきてるねぇ」

 

 夕立がメイン、子日がサブで、工廠に集まった敵艦娘を千切っては投げ千切っては投げ、弾幕を張っていたのも既に忘れられそうなくらいに、数が目に見えて減っていった。気を失った敵艦娘は、出ていけと言わんばかりに工廠から海に落とされており、邪魔だからと同じ場所に束ねられている。

 たった2人で、瞬く間に半数に減らした辺りで、ようやく今のままではまずいと判断したか、数人の艦娘は撤退して鎮守府の奥へと向かっていく。間違いなく増援を求めてだろうが、夕立も子日もそれを追うことは無かった。今ここを片付けて、まだ海上にいる仲間達を鎮守府に上げることを優先している。

 

「撃ってもこないから危なくもなかったっぽい」

「だね。というか、こんなところで撃ち始めたら、鎮守府がえらいことになっちゃうよ」

「こいつら頭が悪いから、自分の鎮守府でもぶっ放しちゃうと思うっぽい。それで絶対、こうなったのは特異点のせいだーって責任転嫁するっぽい」

「想像が出来ちゃうなぁ」

 

 世間話しながらでも敵をどんどん減らしていき、最後の1人となったところで夕立が脇腹に蹴りを入れた。そこに入れられたらまともに立っていられなくなり、その場に崩れ落ちる。

 

「戦い慣れてないっぽい? それなのにうみどり襲ったの?」

 

 夕立の見下すような視線に恐怖を感じたようで、しかしそれでも夕立だけは止めなくてはと責任感と危機感が綯交ぜになったような感情を持ち、咄嗟に主砲を向ける。

 だが、トリガーが引かれることはなく、夕立がその主砲をすぐさま蹴り飛ばした。その時点で主砲は破壊されてしまっていたのだが、手元からも離れてしまっているため、もう攻撃手段は残されていない。

 

「それじゃ、そこで寝ててね」

 

 そして、蹲った敵艦娘をもう一度蹴り飛ばす。海上に投げ捨てられ束ねられているお仲間達のところに綺麗に飛んで行って、その山の一部となった。

 

 工廠制圧はあっという間。息を切らすこともなく、笑顔までそのままで、余裕しかない幕引き。

 だがこれはまだ第一陣。工廠だけ制圧したところで、裏切り者は奥で籠城している。それを守るための艦娘もそれなりの数いるだろう。

 

「ハルカちゃん、もう上がってこれるよー」

 

 ひとまず工廠には敵がいなくなったため、水上バイクでここまでやってきた伊豆提督の上陸を促す子日。ここなら置いておけると工廠の端に持っていくと、夕立がニンマリ笑って水上バイクを工廠の上に持ち上げた。海上に置いておくと、もしかしたら流されてしまうかもしれない。それはなるべく避けたいところ。

 

「ごめんなさいね、任せきりになっちゃって」

「構わないっぽい。久しぶりに大暴れ出来たからスッキリしたよ。深雪、電、上がって上がってー」

 

 伊豆提督が無事に工廠に乗り込めたことを確認して、深雪と電も工廠へ。グレカーレも白雲と共に既に上がっており、次の戦いに向けて準備中。

 

「これでまず作戦第一段階だよな」

「ええ、鎮守府突入は無事成功。全員無傷、敵も……まぁアレくらいなら問題無いでしょ。ほとんど傷ついていないものね」

 

 海上で気絶している敵艦娘達を見て苦笑するも、今はそのまま黙っておいてもらうのが一番だと、何かするでもなく放置。とはいえ目を覚まされても困るため、そこは白雲がしっかりと対策。周囲を凍らせることで、簡単には後ろを取れないようにしていた。

 そんなことをしなくても、夕立の強さを目の当たりにしたことで、戦意はかなり削がれていたりするのだが、白雲にとってそんなことは関係ない。死んでいないだけマシだと思えと、もうそちらには目すら向けなかった。

 

「でも、何人か奥に逃げたっぽい。アレ、絶対援軍呼びに行ったよ」

「出来損ないだよね、絶対」

 

 夕立と子日が危惧した通り、もう不揃いな足音が聞こえてきた。敵増援、それも出来損ないがゾロゾロと工廠に向かってきている。

 

「噂をすれば……ってヤツか。あれって、誰かが操縦してんだよな」

「なのです。助けた名取さんが言っていたのです」

「なら、そいつをまずやるべきなんだよな。ここにはいなそうだけどよ」

 

 工廠に向かってきたのは出来損ないのみ。操縦者と思われる擬似カテゴリーKらしき艦娘は、今ここにはいない。

 

 出来損ないとて、元は艦娘。忌雷を引き抜けば、死んでいるものの綺麗な身体に戻れることは実証済み。いくらこれだけいようとも、出来ることならばこちらも無傷で救いたい。

 だが、数がかなり多い。鎮守府の奥から向かってきているということもあり、通路を埋め尽くす勢いで群れを成しているそれらは、数十人は間違いなくいる。これでまだうみどりに向かわせるだけの戦力があったのだから、この鎮守府は相応に大きな規模のモノだったということがわかる。

 それを統括する提督が裏切り者だったばかりに、これだけの人数が犠牲になったと思うと、居た堪れない気分になる。裏切り者では無い、真っ当な鎮守府に所属することが出来たなら、こんなバケモノになんてならずに、正しく艦娘として海の平和に貢献出来ていたというのに。

 そう考えると、深雪だけでなく電も、他の仲間達と強い苛立ちを覚えた。全てはこの鎮守府の提督がこれを引き起こしている。一刻も早く、これまでの行いを後悔させねばならない。

 

「出来損ないはどうやって沈黙させる」

「白雲が全てを凍らせることが出来ますが」

「そうすると通路が埋まっちまう」

 

 出来損ないを簡単に食い止める手段で、一番手っ取り早いのは間違いなく白雲の凍結。体液を撒き散らせることもなく、動くこともさせない、その存在そのものが脅威であるそれの危険な部分を全て封じ込めることが出来る。

 しかし、今ここでそれをやってしまうと、鎮守府の奥に進む道が凍りついた出来損ないによって全て封鎖されてしまうことになる。そうなると逆に敵の籠城を助けることになってしまい、八方塞がりになりかねない。

 

「ぶっ放して道を作るっぽい?」

「そしたら体液撒き散らしちゃうね。ユーダチ、そんな道通りたい?」

「艤装が壊れそうだから嫌」

 

 傷つけないというルールを破ってでも道を切り開こうとしたところで、通路が体液まみれにされるのがオチ。触れた時点で腐食が始まるそれが撒き散らされたら、それはそれで前進が厳しくなる。

 

「うん、それじゃあとりあえず子日だけでも先に行ってみよっか」

 

 そこで子日が提案。ここにいる者の中でも、子日だけはこの状況下でも前進が出来る。

 それは地下施設襲撃の時にも見せた、アクロバティックな戦い方。壁を蹴りながら床に足をつけることなく進むことが出来る技。

 それならば、この出来損ないの群れが通路を陣取っていたとしても関係なく、この奥にいるであろう操縦者を黙らせることが可能である。

 

「なら夕立も行くっぽい。子日がやりたいこと、多分夕立もやれると思うから」

「じゃあ一緒に行こう。ハルカちゃん、いいかな」

 

 かなり危険ではあるが、八方塞がりである今、これをしてもらわないと事態は進むことは無いだろう。

 そのため、伊豆提督もこれには頷かざるを得なかった。

 

「よろしくお願いね。アタシが足を引っ張っちゃってるのは、本当にごめんなさいね」

「大丈夫だよぅ。ハルカちゃんがいないと、多分最後が詰みだもん。そこまでハルカちゃんを送り届けるのが、子日達のお仕事だよ」

「ぽいぽい、だからここで泥舟に乗ったつもりで待っててほしいっぽい!」

「泥舟だと沈むでしょーが!」

 

 グレカーレからのツッコミも冴え渡り、緊張感は弛緩する。心持ちがこうであれば、まだまだ敗北には繋がらない。

 

 

 

 

 敵第二陣、出来損ないの群れを潜り抜け、裏切り者への道を切り開くのは、またもや夕立と子日にかかっている。

 

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