後始末屋の特異点   作:緋寺

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温かな説得

 執務室にいた擬似カテゴリーK達は、子日の活躍──カテゴリーWとなるにあたって手に入れた『迷彩』の曲解を使うことで、軽々と殲滅。1人を残して気絶させ、最後の1人も戦意を喪失させるに至っている。

 この擬似カテゴリーKは、忌雷を引き抜いたとしてもまだ敵意は残しているタイプだったのだが、全く見えない敵という考えられない存在に圧倒される精神的な恐怖と、出来損ないを嗾けても傷一つついておらず、その拳を壁に叩きつけられる暴力的な恐怖によって、完全に戦意喪失。

 戦闘に敗北しただけならば敵対心はそのままだっただろうが、()()()()()()()()()()()()()()という事実が余計に恐怖を煽り、結果ここまでの事態を引き起こした。

 

「まぁ時にはこういうやり方も必要っぽい。文句を言われる筋合いも無いし」

 

 夕立は完全に開き直っている。一方的にうみどりを始末しようと襲撃まで仕掛けてきた連中が、少し()()()()()()()でやり返されたら、そのやり方に文句を言うなんて、許せるはずもない。正々堂々、持てる力を使ってぶつかり合っただけ。

 

「ちょっと待っててね。子日達の仲間が多分こっち来てくれるはずだから。話してくれるんだったら、みんなの前でお願いね」

 

 未だに透明を維持している子日に言われて、ガクガク震えながら頷く敵艦娘。こちらの艦娘には『迷彩』の曲解持ちがいないのか、それともそういう力があることすら教えてもらえていなかったのか、何も見えないところから聞こえてくる声にただただ怯えていた。

 

「んー、この子はなんだか仲間になってもらえそうな気がする」

「でももう忌雷は抜いてるっぽい。グレ子の羅針盤とかは意味ないよね」

「単純に説得だけで何とかなりそうじゃない? トラさんとか、舞亜ちゃんや恵理ちゃんみたいに」

 

 忌雷を抜いても敵意が残っていたとしても、ほんの少しの想定外でコレだけ怯えるのなら、上手く説得すればうみどりに靡いてくれるのではないか。子日はそう予想した。

 余計な戦いは避けたいし、改心してくれるのならそれでいい。共に戦ってくれるなら尚更である。

 

「それはハルカちゃんに聞いてみればいいよね」

「ぽい、オチはもう考えるまでもないけど」

「あはは、だねぇ」

 

 伊豆提督ならば、迷うことなく説得を選択するだろう。一人でも多く助けたいと考えるのだから。

 

 

 

 

「なんとかここまで来れたわね」

 

 そこから少しして、伊豆提督達も執務室に到着。工廠にいた出来損ない達も、『操縦』の曲解持ちが夕立と子日によって黙らせられたことによって沈黙。元々電磁波と煙幕までかけており、動くこともままならない状態にしてはいたのだが、ここでそれも必要になったため、現在はなるべく通路から退かした状態で今は放置している。

 この場で全員を元の姿に戻すことも考えたが、今はむしろ出来損ないの自己修復能力を活かして、傷つかない状態で待っていてもらう方が安全であると判断している。

 

「あ、ハルカちゃん、お疲れ様っぽーい」

「なんとか全部止めたよー」

 

 最後の1人を暴力をチラつかせて怯えさせている夕立はまだしも、何も無いところから子日の声が聞こえてきた時には、流石の深雪も驚いた。特機のおかげで手に入れた能力であることはわかるのだが、こんな力が何処かにあったのかと、すっと出てこなかったくらいである。

 だが、見えないというところから答えはすぐに導き出された。

 

「え、子日それ『迷彩』か!?」

「うん、特機から貰ったのがコレだったんだ。おかげでここが制圧出来たよ」

「マジかぁ……あの時は敵の声も聞こえなかったけど、お前の声普通に聞こえてくるから怖ぇよ」

 

 子日もここまで来たらもういいかと『迷彩』を解き、その場に姿を現した。

 

「その子だけはそのままにしておいてくれたのね」

「うん、操縦だから忌雷だけは抜いてあるよ。その忌雷は全部壊しておいたからね」

「ありがとう、それなら安心ね。ここで急に襲われるなんてことは無いわね」

 

 怯えている最後の1人に目を向ける伊豆提督。ここで起きたことで震えている艦娘に対して優しく寄り添うと、もう怖くないから安心してと落ち着かせるように語りかける。

 その艦娘にとっては、洗脳教育によって最大の敵と思い込まされている特異点と、それを手に入れたうみどりのトップが目の前に立っているのだから、更なる恐怖に襲われる。

 

「落ち着いてちょうだい。アタシ達はアナタ達を救いに来たの。真っ当な道に戻ってもらいたいだけ。他人の命を蔑ろにしておいて、それを正義と言う連中から、ね」

 

 笑顔を見せ、その艦娘の頭を撫でる。不思議と落ち着く温もりを持っているその手に、怯えは少しだけは解消されたようだった。

 また、施された洗脳教育に対しても少々疑問を持っていたというのもある。既にうみどりで保護している艦娘、名取、高波、潮の3人と同じように、忌雷による寄生が無くなった今は、その意思が表に出てきているようだった。これなら『羅針盤』も要らないだろう。

 

「さて、話は出来るかしら、羽黒ちゃん」

 

 その艦娘──羽黒は、伊豆提督に名前を呼ばれるとビクッと震える。未だにうみとりのことを敵として認識させられていることがどうしても足を引っ張っているようで、怯えはなかなか取れない。

 

「神威さんがいたら落ち着いてもらえたのですが……」

「そりゃあ無いモノねだりってヤツだぜ」

 

 電が言う通り、ここに神威がいれば、癒しの『排煙』で心を落ち着かせることも出来ただろうが、それは今は無理というもの。神威は今、うみどりで絶賛活動中である。

 

「質問に答えてくれればいいわ。言葉にするのも難しいなら、首を縦か横に振ってくれるだけでいい。アナタ達の提督は何処に行ったのかわかる?」

 

 その質問に羽黒は首を縦に振る。流石にここを陣取っていただけあり、裏切り者提督の行方はちゃんと知っているようである。

 

「アタシの予想だと、この部屋に()()()()があると思ってるんだけれど、あってる?」

 

 羽黒は少し驚いたような表情を見せた後、またもや首を縦に振った。これには、ここで戦っていた子日と夕立も驚いていた。これだけ暴れたのに、その痕跡すら見当たらなかったのだから。

 

 今は戦闘の余波で、置かれていたモノが何もかもが壊れている。資料が入った本棚や、来客などのためのソファ、そして提督がそこにいたであろう執務机なども、粉々とはいかずとも壁際に追いやられてカタチを維持出来ていないくらいの散々な光景。

 それでも何処かから逃げ果せたということは間違いない。当たり前だが正面切って撤退するだなんてあり得ない。

 

「白雪ちゃんがハッキングで電子制御系を全部破壊してくれてるから、アナログの隠し通路が何処かにあると思うわ。アタシとしては、多分執務机があった場所の足下だと思うけれど」

 

 伊豆提督がそう言うと、すぐに近辺の捜索を開始。残骸となったモノを雑に退かしつつ、床を隈なく探していくと、本当に見つかった。かなりわかりにくく艤装されたハッチのようなモノ。

 

「どうやって開けるっぽい? 撃ってみてもいいけど、流石に危ないよね」

「ええ、こんなところにある隠し通路の入り口なんだもの、生半可な攻撃じゃあビクともしないようにしてありそうよね。何か開け方があると思うけれど……羽黒ちゃん、知ってる?」

 

 羽黒はそれにもおずおずと首を縦に振った。だが、それを伝えるのは完全な裏切り行為。どうしても抵抗があるようで、簡単には言葉に出来ないようである。

 ここまでやっておいて何を今更と思いつつも、ここで逃走した提督を明らかにするのは、羽黒にとっての一線。

 

「教えてくれると嬉しいのだけれど。何度も言うようで申し訳ないのだけれど、アタシ達はアナタ達を救いたい。だから、アタシ達についてきてほしい。名取ちゃんも、高波ちゃんも、潮ちゃんも、今はアタシ達が保護しているわ。だから、アナタだけが何かしているというわけでもないの」

 

 同調圧力をかけているようで申し訳ないと付け加え、伊豆提督は羽黒を説得していく。折りたいわけでなく、ただ()()()()()()()だけ。苦しいなら全て吐き出してほしいし、それでもこちら側につきたくないというのならそれでいい。それならそれで諦める。

 

「ダメ……かしら」

 

 伊豆提督は終始笑顔で、どうにか落ち着かせるように優しく。

 

 故に、羽黒の心を溶かしていく。

 

「……部屋の端……床の、タイルに……ハンドルがあります」

 

 ただそれだけ。それだけで充分に道が開けた。

 

「ありがとう、羽黒ちゃん。アナタ達の安全は、アタシがどうにかする。任せてちょうだい」

 

 より深い笑みを浮かべて、羽黒に感謝を述べた。羽黒もこの時には少しだけ落ち着けており、震えながらも立ち上がった。

 

 羽黒自身、そのハンドルの場所は正確にはわかっていないらしく、ここにいる全員の力を使ってその場所を突き止める。少しでも剥がれそうなところを探しては、爪を立てたり押し込んだりして、そこが動かないかを確認していった。

 

「あっ、これじゃない?」

 

 それを見つけたのはグレカーレ。タイルを軽くノックして、何やら音が違うところを見つけたらしい。そこに伊豆提督がやってくると、軽く撫でるようにした後、グッと押し込んだ。

 すると、その場所がスライドし、中からハンドルが現れる。そして、それを思い切り捻ったら──

 

「こっちが開くのかよ!?」

 

 真逆の床が音を立てて開いた。艤装を装備した艦娘でも通れそうなくらい大きめな地下への梯子。しかし戦艦などは流石に難しそうなため、ここに来た部隊が全員駆逐艦だったのは功を奏したと言える。

 

「開けた瞬間に忌雷がドバーじゃなくてよかったわよ。ちょっと迂闊だったわよね」

「そこは大丈夫。あたしが煙幕の準備はしてた。寄生なんて絶対させねぇよ」

 

 うみどりの門を開けた時のようなことが起きてもおかしくなかったのだが、それは回避。しかしまだまだ油断は出来ないため、慎重にことを起こしていかねばならない。

 

「ならあたしが先行する。煙幕がすぐに出せる方がいいだろ。寄生だってされねぇ」

「特異点が先に行ってどうすんの。子日がまず降りるから待ってて」

 

 煙幕もかなり強いのだが、そこはやはり『迷彩』が強い。忌雷からも身を隠せるところから、ここでも子日が先行することにした。

 先に進んで仲間の道を切り開くための力は、ここでもその願いの通りに役に立つ。

 

 

 

 

 謎の地下への道が開けたことで、裏切り者を追い詰める道も開いた。ここから先が、この鎮守府の最後の戦いに繋がるはず。そう思い、一同は足を進める。

 

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