後始末屋の特異点   作:緋寺

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秘書艦叢雲

 暗闇に包まれた鎮守府の地下通路と、そこから向かった先の広間。そこで深雪達は、裏切り者の提督を守るために秘書艦叢雲に立ち塞がられる。

 それだけならば良かったのだが、何と叢雲は忌雷を2つ自らに寄生させ、更なる変化を遂げてしまった。元々1つ寄生させていたため、3つを体内に持ったことで、叢雲は戦艦へと進化、そして深海棲艦へと変貌を遂げる。

 

「ここから先へは行かせない。ここで死ね!」

 

 力を得た叢雲は、早速と言わんばかりに砲撃を放つ。駆逐艦ではなく戦艦の大口径主砲を、広間とはいえ鎮守府の地下で。

 当たったらひとたまりも無いのは考えるまでも無いが、それが地下の壁や天井に直撃すれば、この場所そのものもどうなるかわからない。

 

「避けるしかねぇ……ハルカちゃん!」

「こちらは心配しないで!」

 

 一番の心配は、人間である伊豆提督。深雪達艦娘とは違い、いくら人間と艦娘のハーフであったとしても、確実に脆さが出てくる。

 うみどりのトップである彼を失うわけにはいかないが、伊豆提督は伊豆提督で超人的な身のこなしをすることが可能であるため、回避は可能。

 そのため、次に心配なのは艤装を地上に置いてきている捕虜の羽黒である。そちらは伊豆提督がかなり無理矢理腕を引くことで被害を最小限に抑えるようにしていた。

 

 砲撃が壁に直撃した瞬間、尋常ではない威力が発揮される。並の火力では無くなっており、強固な壁であっても大きく抉れている始末。直撃どころか掠めてもかなり苦しい。

 

「逃がさない!」

 

 しかも、身体が大きく戦艦になっているというのに、俊敏性は駆逐艦と同じ。戦艦主砲を放った直後だというのに、既に接近を始めていた。忌雷3つ分の強化は凄まじく、その速さは異常。出来損ないが身体を壊しながら発揮するそれを、無傷のまま当然のように繰り出してくる。

 狙いはやはり、特異点である深雪。既に深海棲艦化もしている深雪ならば、それに同様の反応は可能である。だが、攻撃を受けることは危険であると判断し、突撃を大きく回避。艤装も大きくなっているため、紙一重なんて言っている余裕なんて何処にも無い。

 

「叢雲……っ」

 

 すかさず深雪は消し飛ばす砲撃を叢雲の艤装に向けて放つ。大きくなった分、的としても狙いやすくなったそれを、深雪の実力であれば確実に射抜くことが出来た。だが、壁を蹴ることで回避行動を取られたせいで、ただ掠めるだけに終わる。

 

「こんなことで、私は止められないわよ!」

 

 だが、掠めたところは即座に何も無かったかのように修復された。傷ひとつない新品同様のモノへ。

 自己修復にしても早すぎる。それに、身体の傷ではなく艤装であってもここまで早いのは深雪は知らない。それもそのはず、その曲解を持っていた者とは、深雪は戦っていない。

 

「『修繕』よ! あの戦いの後、長門ちゃんに聞いているわ!」

 

 その力は、原元元帥(深海鶴棲姫)が持つ『修繕』の曲解。あちらは双胴艦という異常性能も加えることで、心臓を潰されても、首だけになっても、艤装ごと修復して生き延びるという、まさにバケモノの性質を持っていたが、この叢雲はあらゆる傷を身体と艤装どちらも瞬時に修復するという異常スペックを手に入れていた。

 出来損ない以上の回復力。つまりは、あの素早さも、リミッターを外して身体が壊れた瞬間に治っているというだけ。ただし、それがあまりにも速すぎるため、傷付いているように見えない。

 

「叢雲ぉ!」

 

 それを聞いたとしても、攻撃の手を緩めるわけには行かない。砲撃をしても傷つかないというのならば、逆に更に撃つことが出来る。相手が妹であろうが、深雪は容赦するつもりはない。

 

「させるかぁ!」

 

 だが、やはり叢雲は何処かおかしかった。すぐに向き直ると、即座に砲撃。本来ならば戦艦主砲ならば再装填に時間がかかるモノなのだが、それすらも駆逐艦と同様の装填速度となっており、隙を一切見せずに連射を仕掛ける。

 駆逐艦の主砲でのそれでも厄介なのに、戦艦主砲での連射は厄介なんて言葉では片付けられない。しかもこれは()()()()()()。叢雲の深海棲艦としてのスペックアップの証。

 

「まずい……っ」

「避けるのですぅ!」

 

 大口径主砲の連射なんてされたら、避ける場所すら潰されかねない。そのため、深雪はもう駆け抜けるしかなかった。しかし、駆け抜けたところでその先に伊豆提督達がいたらどうしようもない。

 流石の深雪も、ここでこんな攻撃の直撃を受けたら終わりだ。ならば、やらねばならないのは、煙幕による回避……だったのだが──

 

「深雪、ここは夕立に任せるっぽい」

 

 ニッと笑って深雪の前に躍り出たのは夕立。叢雲の砲撃にも臆すことなく、その身を挺する。

 

「夕立……っ!?」

「今の夕立はトラと同じっぽい!」

 

 そして、その砲撃を真っ向から殴り飛ばした。連射されようがどうされようが関係ない。全てのダメージを擦り傷にしてしまう『ダメコン』の曲解により、とんでもない火力を誇る戦艦主砲による砲撃も拳1つで弾き飛ばした。

 こんなことをしたら身体はバラバラになってしまいかねないが、そのダメージすらも抑え込むのだから関係ない。夕立は一瞬腕が傷だらけになったように見えたが、自己修復によってすぐさま完治する。

 

「そこをっ、退けぇ!」

「ぽっ……!?」

 

 しかし、その夕立はすぐに深雪の前からふっ飛ばされる。砲撃を一旦やめた叢雲が、砲撃と殆ど同じスピードで突撃しており、夕立を蹴り飛ばしていたのだ。

 傷はつかなくとも、不意の衝撃には弱い。正面から受けようとすれば身構えられるためにびくともしないが、突然の横っ腹は耐えようがなかった。傷はつかずとも、そこを宣言通り退かされる。

 

「特異点っ!」

「叢雲っ!」

 

 さらに、その勢いを殺すことなく深雪に拳を振るう。深雪も負けじと拳を振るい、その拳同士がぶつかり合った瞬間、お互いに弾き飛ばされた。

 深雪の拳は嫌な音を立てたが、まだ健在。骨が折れたわけではなく、しかしかなり強く打ち付けられたことで脱臼しかけていた。逆に叢雲は明らかに骨がやられていたが『修繕』により瞬時に回復。

 

「アンタはここで絶対に殺すわ! アイツのところにも行かせない!」

「なんでそこまでやるんだお前は! 人の命を無駄に使うような奴を、どうして!」

「アンタにはわからない! わかられたくない! 私の平和をっ、乱すなぁ!」

 

 殆どゼロ距離と言える位置から、深雪に主砲を向ける。ここで撃たれたら流石に回避は厳しい。

 

「お姉様を傷つけさせるわけには行かない。いくら姉でも関係などない」

 

 そこに飛んでくる白雲の鎖。主砲に絡みついて、一気に凍りつかせることで、内部で爆発させる。

 

「今です、グレ様!」

「あいよ。こっちもぶっ壊せるくらいのゲンコツを持ってんのさ!」

 

 驚異的なスピードで修復する叢雲だが、ほんの少しだけでもラグは出来る。そのため、グレカーレが艤装の剛腕によって修復を阻止するように殴りつけた。

 修復した直後の艤装を抉るように拳を振り抜き、さらに破壊したものの、やはり『修繕』が異常な速度であるために、その攻撃は無駄に終わる。

 

「わーおマジか。ちょっと異常じゃない?」

「先にアンタを仕留めてやろうか!?」

 

 その行動が気に入らなかったか、グレカーレに目を向けた叢雲。その時、グレカーレはニヤリと笑っていた。

 

「イナヅマ!」

「なのです!」

 

 そこには、探照灯を思い切り照らしていた電がいた。いくら身体能力が異常に上がっていたとしても、()()()に耐性を持つことは出来ない。ただでさえこの戦場は暗闇に包まれているのだ。電が探照灯を常に照らしていたとしても、普通よりは眩しさが強い。

 目が焼かれるような痛みに思わず目を瞑った叢雲。だが、そうしたことで余計に無差別に砲撃を放つことになる。見えないのだから全方向をどうにかするため、その場で回りながら死角すら潰して。

 

「っああっ! 姑息な手をぉ!」

 

 この間に『迷彩』を使って叢雲の忌雷を引き抜こうと考えていた子日も、流石にこれは近付けないと退避。

 勿論他の者もどうにか避けるために走り回る。

 

「ハルカちゃんはちゃんと守ってるから!」

 

 叢雲の蹴りでふっ飛ばされた夕立は既に復帰しており、乱射をどうすることも出来ない伊豆提督の前に立ち、またもや『ダメコン』による壁を買って出ていた。おかげで伊豆提督も羽黒も無傷を保っている。どうしても疲労は溜まるが、ここで止まるわけには行かない。

 

「ハルカちゃん! 叢雲はあたし達が引き受ける! 裏切り者を追ってくれ!」

 

 ここで深雪が二手に分かれることを提案する。このまま全員ここにいても埒が明かない。本来の目的を達成出来ないようにするために叢雲がここで戦っているというのならば、これでは思うツボである。

 ならば、戦える者が残り、伊豆提督には本題をクリアしてもらう方がいい。いくら普通とは違う人間であったとしても、この叢雲と同じ場所でただ逃げ回るだけというのは効率も悪いし、何より危険、悪い言葉を使うなら()()である。

 深雪としてもこの場所で戦うにあたって、気にするモノが1つでも減ってくれた方がありがたい。

 

「行かせるわけがないでしょうが!」

「行かせるんだよ。お前の相手はこのあたしだ。お前らが始末したがってる特異点、深雪様だ」

 

 叢雲が主砲を伊豆提督に向けようとした瞬間、深雪の手から激しく煙幕が放たれる。伊豆提督への攻撃を全て無効にする、傷ついてほしくないという優しい願いが込められた煙幕。

 さらには電が手を添えたことで出力が上昇。煙幕の勢いは増し、あっという間にその姿を覆い隠す。

 

 そのおかげで、伊豆提督に向けられる砲撃は全てあらぬ方向へと飛んでいく。壁は破壊されるが、伊豆提督は無傷を貫くことが出来た。

 

「夕立! ハルカちゃんを頼む! 子日! お前もいるんだろ!」

「ぽい! 夕立と子日がハルカちゃんを守るっぽい!」

「任せて! まだ何かあるかもしれないけど、絶対守るから!」

「頼んだぜ、あたしは……妹とケリつけなくちゃならねぇ」

 

 煙幕はあれど伊豆提督を狙い撃ち続ける叢雲に、深雪はいい加減にしろよと真後ろから突撃し、艤装を消し飛ばす。すぐに修復されるとはいえ、一度艤装が失われれば砲撃は止まる。

 砲撃を邪魔され、それでも伊豆提督を狙おうとしていた叢雲に、深雪だけでなく、仲間達も妨害に専念し始める。

 

「貴様の思い通りにはいかぬ」

 

 白雲が鎖を投げ、叢雲の腕へと絡ませた。無理矢理向きを変えるだけでも、その砲撃は伊豆提督には向かなくなる。

 同時に凍結を発揮し、腕を凍りつかせることで集中力を鈍らせた。

 

「っくっ、邪魔を……っ」

「するよ。当然でしょ」

 

 さらにグレカーレが叢雲に向けて電磁波を照射。体内にある忌雷に効果があるかはわからないが、出来損ないの動きが鈍るのだから、多少は影響があってもおかしくない。

 

「早く行ってください! ハルカちゃんさん!」

「あたし達が抑えつけておくからよ。多分コイツが一番の強敵だ! ハルカちゃんは、ハルカちゃんにしか出来ないことをやってくれ!」

 

 伊豆提督がここにいるのは、人間である裏切り者を人間の手でどうにかするため。今ここでこの戦いが終わるのを待つ必要もない。その人間が、今ここからいなくなることを防ぐことが、最もやらねばならないこと。

 

「任せたわ、深雪ちゃん。ごめんなさいね」

「構わねぇ。あたし達が選んだことだ。なに、バカな妹にお説教の時間だ。どんな信念があるかは知らねぇが、それでも人を殺そうとするような真似をしたんだ。叱られなくちゃいけねぇだろ。姉ちゃんが、絶対に止めてやる」

 

 煙幕を出しながら、深雪は伊豆提督に笑顔を向けた。勇ましいその表情は、煙幕の中からでもハッキリと見えた。

 ならばもう、ここに留まる必要などない。目的を達成するために、伊豆提督は走る。その護衛として夕立と子日がついていき、捕虜扱いの羽黒もそちらに便乗する。

 

「お前がここの司令をどう思ってるのかは知らねぇよ。守りたいからそんなに無茶してるんだろうな。でもな、それはこっちも同じなんだよ。だからお前にゃ行かせねぇ。ここでぶっ潰してやる」

「姉ヅラするなって言ったわよね特異点。他人様の平和をぶち壊しておいて、タダで済むと思うな……!」

「おう、こっちの平和をぶち壊したお前らもな。何棚上げしてんだよクソ妹」

 

 残ったのは深雪、電、白雲、グレカーレ。深雪といつもの仲間達。怒り狂っている叢雲を正面から見据え、苦しい思いをしながらも、あくまでも冷静にこの場を乗り切ることを考える。

 

 

 

 

 

「さぁ、行くぜ叢雲。お前はここで、絶対に救ってやる」

「なめんじゃないわよ特異点。アンタ達を皆殺しにして、アイツを助けに行くんだから」

 

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