伊豆提督達に逃げた裏切り者提督を追ってもらい、深雪達は忌雷3体分の寄生により力を得た秘書艦叢雲との戦いに挑む。
叢雲はその提督を守るため、ここに潜入した後始末屋を鏖殺しようと考えていたが、ここで部隊を分けられたことで、提督を守ることすら出来なくなることに強い憤りを感じていた。
提督が失われることを止めることが最優先。しかし、特異点を始末することもやらねばならないこと。前者が今すぐに叶わないのならば、後者の優先順位を上げて、ここにいる特異点とその仲間達を鏖殺してから本題に戻ることを目指す。
「電、まずはアイツの忌雷を抜くことを優先するぞ」
「なのです。力を失ってもらわないと、話もまともに出来ないのです」
叢雲は手に入れた力を使って猛攻を仕掛けてくる。『修繕』の曲解のせいで、どれだけ傷付けても瞬時に完全再生。擬似カテゴリーKとして元々持っている自己修復の力に拍車がかかっており、瞬きをする間に無傷になっていると言っても過言では無い。
また、深雪達は叢雲を始末するつもりは一切なく、救うつもりで戦っている。そのため、命を奪うような攻撃は絶対にしない。それがこの『修繕』と非常に相性が悪い。
これを打開するためには、叢雲に寄生している忌雷を取り除く必要がある。そうすれば持っている力が失われるため、『修繕』もされることがなくなり、無謀なこともしなくなるはず。
いや、それでも無謀なことはしかねない。そのため、その力を奪った後、早急に拘束する。幸い、拘束に適した力を持つ白雲がここに残っているため、それに関しては心配はない。
「それに……早くやらないとまずいかもしれないのです」
電の観察力が、叢雲の
「邪魔をするなら全員殺すまでよ! 特異点とその仲間共がぁ!」
やはり狙いは深雪。進行経路の真正面にいるのだから当然と言えば当然なのだが、それ以上に特異点という存在に強い怒りを持っているような叫び。
「あの裏切り者の何がお前をそこまで駆り立てんだ! 人の命を弄んでるような奴を、なんでそこまで!」
「アンタにはわからないって言ったでしょう!」
深雪を中心に戦艦主砲の連射を再開。掠めたらおしまいの砲撃を、回避出来ない程の密度で、駆逐艦と同じくらいの速度で放つのは、いくら深雪であってもどうこう出来るモノではない。
故に、真っ先に自らの煙幕に頼った。電が隣にいてくれるのだから、その効果も強くなる。煙幕の効果は当然、いつもの『誰も傷付かない』である。
壁のように押し寄せる砲撃も、この煙幕の中では勝手に逸れる。触覚のある煙幕によって、向かってくる砲撃は全て払い除けられた。
しかし、戦艦主砲の重たい一撃を払い除けているため、煙幕はその爆風で掻き消えていってしまう。壁を作っているのではなく、あくまでも煙であるため、万能であっても脆さは付き纏う。
そのため、煙幕を常に放ち続けなくてはならなくなっていた。無くなったら補充して、また壁にし、削られ続け、また補充する。無限の壁かもしれないが、煙幕を放出し続けるのは深雪にとっても負荷がどうしてもある。今は深海棲艦化までして身体も頑丈にしているが、限界が無いわけでは無い。
「説明もせずに決めつけるの、そっちでは流行ってんの?」
そんな深雪のピンチを救うため、動き出すのはグレカーレ。叢雲が深雪の方へと砲撃を集中させているため、真後ろに回り込むことが出来た。
艤装は殴ってもすぐに修復されてしまう。本体を狙うのは万が一死んでしまったら元も子もないのでなるべく避けたい。この戦いはあくまでも叢雲を
「もしかして、自分だけが可哀想ですってアピールしてる? こっちの命を狙っておきながら、いざやり返されると被害者ヅラとかダサいねぇ。なーにが自分の平和さ。ここで艦娘の命を何人も使って、罪のないミユキの命まで狙って、それで平和? 馬鹿馬鹿しい。アンタも、アンタが大切に思ってる裏切り者の提督も、ただただダサいよ。やってることがお子様以下だもん」
挑発に挑発を重ね、真後ろから殴りかかるグレカーレ。艤装の破壊はその攻撃を止めるため、さらに舌戦も仕掛けて集中力を乱す。自分の持ち味を活かし、わざと小馬鹿にするように、叢雲の逆鱗にわざと触れる。
「なんですって……?」
「何処の連中も同じなんだから、いい加減飽きてんの。我儘振り回して迷惑かけといてさ、何の説明もせずにこっちを悪人扱い。納得出来るかっつーの。アンタの平和って何なのさ。何もしてないミユキを痛めつけることが平和なわけがないでしょ。考えてもわからないお馬鹿さんなのかなぁ?」
煽るような口調。怒りをさらに呼び起こすような表情。完全に
この戦場にいる中で、グレカーレだけは完全に他人である。深雪と白雲は吹雪型としての姉妹艦。電も特型という括りで言えば叢雲の妹に当たる立ち位置。だがグレカーレは本当に全く無関係、型どころか国籍も違う、縁もゆかりもない相手。
だからこそ心が揺れない。痛めつけることにも、罵るのにも、何も感じない。自分の妹がこんなことになってしまってなんて思わない。ただの敵艦。始末だって抵抗が無いくらいである。
「平和を謳うなら、それなりのモン見せなよ。自分だけが楽しいのは平和なんて言わないよ。それともなに、アンタの辞書にはそう書いてあるの? そんな辞書廃刊しな。禁書だ禁書」
「言わせておけば……!」
「それだけのことをやってるって自覚すらないスカスカの脳味噌だから、何も聞かない、何も見ない。自分が正しくて相手が間違ってる。そんな考え方になるんだよバーカ。これの何が平和なのか考えたことある? 考えた上でその選択したなら、もっとバカだよ。この殺人犯」
打って変わってスンと表情が冷たくなったグレカーレが、艤装では無く叢雲の本体狙いの一撃を放ち始める。真後ろに回っても、後ろから見える後頭部。それに大型になったとしてもまだ見える腕や脚。そこを狙って巨腕を振るう。
少し体勢を変えるだけで、その拳は艤装に直撃するだけで終わり、叢雲の身体には届かない。
「グレ様の言う通りです。白雲もずっと思っておりました。何の根拠もなく、何故自分の求めるモノが平和だと確信出来るのでしょう。他者の命を奪った、屍の山の上に成り立つモノが、何の平和なのでしょう。納得の行く説明をせよ、裏切り者」
さらにそこに白雲が加勢する。グレカーレの方に振り向こうとした叢雲の脚を狙って鎖を伸ばし、その動きを止めるために凍結の力を最大限に発揮する。
主砲を破壊されていることもあり、白雲の鎖はまずいと理解していたか、叢雲は砲撃をやめてでも、その凍結は回避した。
「説明も出来ぬ平和に正義などない。ただ自らの力を振るうことに酔いしれているだけの愚者に過ぎない。仮にも我が姉の魂を持つのならば、正しく説明せよ。それとも何か、平和と謳っておきながら、
白雲のこの言葉に、叢雲はピクリと反応した。小さく、本当に小さくだが、それに気付ける者はここには存在している。
「やっぱり、これが良くないことってわかっていたのです。叢雲ちゃんは、これが悪いことだって気付いているのです」
電のその分析に、叢雲が苛立ちを抑えずに表情に出した。無言であっても、図星を突かれたと表しているようなモノだった。
叢雲は自身の提督がやっている一部始終が悪事であることを理解している。その上で、その悪事に加担し、主犯である裏切り者の提督を護ろうと命をかけている。
「わかってんなら、なんで止めようとしねぇ! あのクソ司令のせいで、何人の命が無駄になったと思ってんだ!」
「アンタには、アンタ達にはわからない。
ゴウと、叢雲の瞳がより強く燃え上がる。その瞬間、瞬きする間も無く叢雲がゼロ距離に接近していた。そのスピードは、本当に見えなかった。瞬間移動をしたのでは無いかと思えるほどの速度は、あの神風や伊203よりも速い。
踏み込んだ床は大きく抉れ、その瞬間に脚が一度崩壊したのだろう、そこには生々しい血が撒き散らされていた。だが、それに伴う凶悪な力が発揮されている。
「ただ生まれただけのアンタ達がっ、
そして、その勢いをそのまま乗せた拳を深雪に叩き込もうと振るう。煙幕があるためにその攻撃は当たらなかったものの、しかしその凄まじい拳は、神風の居合と同じくらいの風を巻き起こし、そこにある煙幕を吹き飛ばしてしまった。
思いの力が、これまで以上に乗っていた。その思いが、一瞬であっても深雪のそれを上回ってしまった。故に、煙幕は脆くなる。
「家族……だと……っ!?」
「この世界にはアンタみたいな恵まれた奴しかいないわけじゃないことを理解しろっ、幸せな特異点! だから頭がお花畑になるのよ!」
煙幕が無くなってしまうと、深雪は無防備とも言っていい状態になる。ここで砲撃を放たれたらひとたまりもないのだが、それは接近のしすぎでおそらくない。ならば飛んでくるのは近接戦闘の何か。
深雪の瞳も青白く燃え上がる。叢雲の次の行動を見定め、適切な対処をするために。
「こうであってもっ、私達の平和は維持されてた! ぶち壊す奴は全部逆に壊してやる! それが何であっても!」
振るわれるのは拳。これだけ近かったら、それが最も威力の出る攻撃になる。深雪でもその選択をしていただろう。
故に、深雪も咄嗟にそれを防ごうと拳を振るう。一度起きた、拳同士のぶつかり合い。力はほぼ互角だったが、叢雲の方が怪我を負い、そしてすぐさま修復した。
「いい加減、目を覚ませっ!」
「煩い! 平和を脅かす特異点はっ、死ねぇ!」
そして、拳がぶつかり合う。ゴキリと、先程以上に嫌な音が響いた。
「っぐぁっ!?」
しかし、今回は違った。叢雲の拳とぶつかり合った深雪の拳が、
逆に叢雲の拳は無傷で健在。一度傷を負って修復されたのでは無く、最初から最後までそのまま。
「……2つ目の力……なのです……っ」
叢雲の力は『修繕』。しかし、忌雷を複数個取り込んでいるのだから、その力が複数あってもおかしくは無い。それがたった今発揮された。
その力は、深雪達も知っている力。しかし性質が逆転している力。
叢雲の第二の力は、『解体』。梅のそれとは逆で、