後始末屋の特異点   作:緋寺

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限界の戦い

 叢雲の『解体』を受けた拳を逆に利用し、血液の混じった煙幕を発生させることで窮地を脱することが出来た深雪。その煙幕は今や質量を持ち、叢雲をそれによって突き飛ばすことまで出来るようになっていた。いわばコレは、傷付いた代わりに自由自在に伸ばせるようになった腕。

 深雪の願いは煙幕というカタチで発揮されていたが、それ以上に濃いのが深雪の体液。その血が煙幕以上に願いが込められているのは必然でもあった。

 

 だが、深雪は既に実感している。この煙幕は、コレまで以上に消耗が激しい。

 特異点としての力が強く込められているおかげでここまでの効果が発揮されているが、血を使っているという時点で深雪にも大きな負荷がかかる。やり過ぎれば貧血は免れず、出し続けているだけでも痛みは酷くなり、苦しいモノになっていく。

 

 それでも使い続けているのは、叢雲を早急に救うため。この手段が最も手っ取り早く、そして勝ちに近いモノであると確信しているから。後から倒れることになっても構わない。それで叢雲が救えるのならば安いモノだと、痛みに耐えながらも毅然とした態度で叢雲と向かい合った。

 

「姉ちゃんがぶん殴ってやる、覚悟しろよ」

「その前にぶち殺してやるわよ特異点!」

 

 血混じりの煙幕を拳に纏わせ、真正面から突撃。搦手を使うより、こちらの方が何も言い訳出来ないため。

 叢雲はそれに対して砲撃を放とうとしたものの、思った以上に深雪が速かったため、砲撃ではなく拳で迎え撃つと自らも突撃。『解体』の曲解によって、今度こそ息の根を止めてやると、怒りの形相で深雪に向かう。

 

「また壊してやるわ!」

「二度とされてやるかよ!」

 

 拳同士のぶつかり合いは、『解体』がある分、確実に叢雲の方が有利。だが、今回の深雪の拳には煙幕がある。先程と同じような拳のぶつかり合いが起きようとしていたが、深雪は既に壊された拳で殴りかかってきていることに、叢雲は怒りに頭を焼き尽くされながらも違和感を覚えた。

 しかし、その時にはもう遅い。深雪から繰り出された拳は叢雲の拳とぶつかり合う瞬間に、異変が起きる。

 

「なっ……」

 

 拳に纏わりつく血混じりの煙が膨張。叢雲の拳が深雪の拳に届く前に押し返され、『解体』が発動する間も無く強引に弾き飛ばされる。

 深雪はそれを狙って、さらに拳を振り抜いた。叢雲には触れない。しかし、その拳は届く。

 

「おらぁっ!」

 

 深雪の拳はそこから煙幕の分だけ()()()。質量のある重い煙はそのまま叢雲の胸に直撃し、肺に溜まる空気を押し出す。

 同時に、深雪の壊れた拳からはさらに血が噴き出した。ただの痛みでは無い、腕が捥げたかのようの苦しみに深雪は少しだけ顔を顰める。

 

「かっ……や、やられるかぁ!」

 

 殴られはしたが、叢雲はまだ倒れない。弾き飛ばされた方とは逆の手を伸ばし、深雪のもう片方の腕を掴む。そちらはまだ『解体』の効果を受けておらず、血混じりの煙幕は発生していない。そのため、弾き飛ばすようなことも出来ず、モロに触れられてしまった。

 瞬間、逆側の腕も弾けるように血が噴き出した。拳だけでなく、腕そのものを『解体』されたことで、神経はズタズタに。まともに上げることすら出来なくなってしまう。

 

「ぐぁっ!?」

 

 殴り飛ばすことで煙幕をそこに集約していたせいで、守りに使えていなかった。深雪も血が流れているせいで、本来の判断力が少しずつ鈍ってきている。全身に纏わせることも出来そうなのだが、今痛みを感じている拳の保護にも使っていたのが、このダメージを生んだ。

 

「まだっ、まだよっ!」

「そりゃあこっちのセリフだ!」

 

 腕を壊されながらも、ここまで近付いてきたならばと今度は脚を出す。深雪の強烈な蹴りは叢雲の脇腹に入り、メキリと痛々しい音が響いた。本来ならばコレで骨から内臓まで全てがイカれ、最悪蹴りが入ったところから裂けてもおかしくないくらいのダメージなのだが、『修繕』による回復によってすぐさま無かったことになり、ただ衝撃だけが叢雲に伝わることに。

 

「かはっ……っ!?」

「腕が潰れても脚があるんでな。それに、上がらねぇわけじゃねぇよ!」

 

 ズタズタの腕にも煙幕を纏わせ、()()()()()()腕を持ち上げた。見た目はちゃんと構えているように見えたが、その実、血混じりの煙幕がなければ拳も握れないし構えることも出来ない。そしてそのためには流れ続ける血を使い続けていることになる。

 こんなこと、ずっとは出来ないと常に考えながら、それでも叢雲を止めるためにはこうするしか無いと、痛みを堪えながら、表情も変えずに戦い続ける。

 

「後な、あたしは独りじゃあねぇ」

 

 腹への衝撃で動きが止まったところに、もう一撃蹴りを入れ、叢雲の身体を浮かせた。叢雲が戦艦の身体を持ったとしても、それは深雪も同じ。見た目でも同等になっているのだから、力不足なんてあり得ない。

 さらに叢雲の身体を浮かせた直後に身体を捻り、もう一度蹴り込む。少しでも浮いたならば、その一撃で叢雲は小さくでも吹っ飛ばされた。

 

「そうそう、まだあたしがピンピンしてっからね」

 

 その方向には、剛腕を構えて待ち構えるグレカーレ。

 

「卑怯だなんて言わせないよ。ここまで何人がかりで止めようとしてきてんのさ」

 

 そして、その叢雲の身体に剛腕を叩き込む。艤装に阻まれながらも、全力全開、ダメージでは無く衝撃を与えるための一撃。

 背中から一発入ったことで、叢雲の身体にはこれまでとは逆方向の衝撃が伝わる。まともな身体ならば、背骨やら何やらまで粉砕していそうなダメージなのだが、これもまた瞬時に再生。

 

 だとしても、ここまでダメージが入ると、叢雲にも影響が出てくるものである。いや、これはダメージでは無く、()()()()()()()。肺の中の空気を徹底的に狙うことで、自己修復や『修繕』では回復不能なダメージを刻み続ける。

 

「けほっ……っ!? 小癪、なぁ!」

 

 強引に身体を捻りながら、グレカーレに向けて砲撃。かなり無理矢理だったため、その砲撃はまともな照準が定まっていない。グレカーレは当たるもんかと軽く避けるだけで反撃しようと考えたが、その射軸を見て態度を急変。

 叢雲もおそらくこれは狙ったモノでは無い。だが、そうなってしまったモノは仕方ない。

 

「ヤバっ……身体張るしか無いじゃんさぁ!」

 

 その砲撃の向かう先には、応急処置中の電と白雲がいたのだから。

 

 グレカーレも、そこに2人がいることは意識していた。自分が狙われても流れ弾が当たらないように考えながら立ち回っていたし、深雪は尚のことそこに意識を向けていた。

 だが、この叢雲の攻撃はかなり強引。かつ連射による範囲攻撃だったため、そこにいるならば全員がその餌食になってしまうモノ。

 

「ミユキ、あと頼んだよ。多分あたしは艤装がオシャカになるから」

 

 故に、グレカーレは動けない2人の前に立つ。駆逐艦であったとしても、巨腕の艤装ならある程度は防御力が高い。むしろ、戦艦の身体を得た深雪よりも多少は頑丈ではないかという確信もあった。

 だから、グレカーレは笑顔でその選択をすることが出来た。砲撃の前に立つだなんて自殺行為ではあるのだが、それが最善の道だとすぐに決断出来た。

 

「ユーダチってばこれ殴り飛ばしてたんだよなぁ、すごいよマジで。でも、出来るって証明されてるんだから、あたしもやってやらぁな!」

 

 そして、向かってくる砲撃に対して全力で剛腕を振るう。弾き飛ばすというより、自分よりも後ろには行かせない。ただそれだけ。

 爆音、そして破壊音。耳を劈くほどの轟音と共に、グレカーレを正面にした一定の範囲だけは、焦げつくことすらなく完全な無傷に防がれていた。

 

「……っひひ、出来るもんじゃんあたし。これでも神風に鍛えてもらってるからね」

 

 ニッと笑うグレカーレ。その笑顔は、渾身の砲撃を防がれて驚愕の表情を浮かべる叢雲に向けられる。

 

 しかし、

 

「……でも、あたしはこれで終わりだ。守れたからいい。それに、余所見してる余裕なんて、アンタにゃもう無いよ」

 

 グレカーレの艤装はそれだけで大破。剛腕は捥げ落ち、火力を全て防ぎ切ることが出来ていなかったため、グレカーレ自身も大きすぎるダメージを受けていた。白雲に近いくらいに半身は焼かれ、艤装の破壊に巻き込まれたことで腕も使い物にならなくなっていた。

 立っているのも精一杯だったようで、笑顔のまま、中指を立てて背中から倒れた。ゴシャリと艤装が音を立て、再起不能となってしまった。

 

 その後ろ側には、咄嗟に手を掲げていた電の姿があった。深雪の思いに呼応して、特異点としての力を行使するために。補助装置であっても特異点は特異点。深雪の強い願い、『グレカーレの無事』を叶えるため、電の手からは煙幕が発生していた。

 このおかげでグレカーレの命は繋がれた。9割はグレカーレの実力。残りの1割はこの電のサポート。コレがあったおかげで、艤装の出力が瞬間的に大幅に上昇していたのだ。

 

「コイツら……っ」

「グレカーレの言った通りだ。もう余所見なんてさせねぇ」

 

 その時には、深雪の力はそこに蔓延していた。血混じりの煙幕は、両腕から流れ落ちる血を使い、より濃く、より重いモノへと変化を遂げていた、

 

 黒煙は、深雪が手を振るうとカタチを成して叢雲に向かい、まるで巨腕が挟み込むように叢雲を拘束する。

 ただの煙と侮るなかれ、その質量は充分なほどに高まり、叢雲を突き飛ばすことが出来るほどのモノ以上に仕上がっている。それで両サイドから挟んだのならば、抜け出すことの出来ない拘束みたいなモノ。

 ここまで出来るようになるには、相当な血が必要だった。故に、深雪もここまで限界を超えている。血を流したからこそ可能な、二度とやりたくないと思える手段。

 

「ぐっ!?」

「これだけやってくれやがったんだ。お腹いっぱいだろ」

 

 身動きが取れない。艤装もまともに使えない。砲撃をしたらただその場で爆発するのみ。煙幕はあくまで煙幕であるため、多少散ってもすぐにそのカタチを取り戻し、叢雲の身体を固定し続ける。

 こうなってしまうと、叢雲は何も出来ない。無駄な抵抗を繰り返すが、煙幕だというのに完全に身体が固定されている。

 

 そこには、深雪の更なる願いが込められている。『もう()()()()は終わりにしたい』という、心の底からの願い。優しい願いと言えるかはわからないが、辛く苦しいこの戦いから抜け出したい。仲間達の、そして何より叢雲をこれ以上苦しませないため。

 

「あたしももうキツイんだよ。それに……お前ももう限界だろ。終わりにしようぜ」

 

 睨み付ける叢雲の表情を無視して、深雪は特機を放り投げた。それを避けることも出来なければ、迎撃することも出来ず、叢雲の胸元に降り立つと、その体内に触手を伸ばした。

 

「や、やめっ……」

「終わりだっつったら終わりだ。姉ちゃんの言うことは聞いとけ」

 

 

 

 

 そして、叢雲の体内から忌雷が引き抜かれた。

 

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