後始末屋の特異点   作:緋寺

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暗くなった世界

 ついに深雪の口から電に世界の真実が伝えられた。この世界のドロップ艦は軒並み敵対してしまい、周りにいる艦娘も全員人間。そして、そうなった理由が過去の悪辣な人類が引き起こした呪いによるモノ。その全てを知ったことにより、電は人間不信に陥りかけていた。

 たった一人の仲間である深雪が人間を信じると言っているから、電もそれを信じることにしている。とはいえ、あくまでも信じているのは深雪であって人類では無い。この話を聞いたことにより、電は世界の見え方が変わってしまった。

 

「電、後始末の作業は出来るか? あたしが教えるって方針は変わらないと思うんだけど」

「……はい、やります。その、こういう言い方は良くないと思うんですが、ここにいる艦娘の皆さんの作業を直に見ることが出来れば、まだ何か信じられると思うのです」

 

 人類への不信感を持ったと同時に、深雪から二人以外の艦娘は元々人間であったことも伝えられている。

 同類の艦娘だと思っていた仲間達が実は人間なのだと知ったことによって、仲良く出来ていたはずなのに、途端に見え方が変わってしまった。

 別に騙していたわけではなく、この世界に絶望してしまう可能性があったため、話せる頃合いを待っていただけ。そして、こうなってしまっても仕方ないという覚悟を、うみどりの艦娘達は全員持っている。

 

「深雪ちゃんは言いましたよね。人間は捨てたものじゃないって。それは、話だけじゃわからないと思うのです。今まで一緒に過ごしてきてはいますけど……本当にその姿を信じていいか、わからなくなってしまったのです」

「……そりゃあそうなっちまうよな」

「だから、まずは様子見……ということで今まで通りに過ごしてみたいとも思っているのです」

 

 人類が信じられないという気持ちも生まれてしまったが、ここで過ごしてきたことで艦娘達が悪い人ではないことくらいは理解している。

 深雪との関係がまだ良くなっていなかった時も親身にしてくれていたし、関係改善に向けて力を尽くしてくれた。関係が良くなってから今までも、仲間としてとても友好的で、一緒に進んでいくために力を貸してくれた。

 

 だとしても、それは今まで真実を隠しながら生活を共にしていたということに繋がる。深雪にも言えることではあるのだが、深雪は電が傷付かないようにと配慮していると考えることが出来た。しかし、他の艦娘達も同じように考えていても、言えないような疚しいことがあるのではと電は考えてしまう。

 そんな矛盾した考え方が生まれてしまうのが嫌だから、電は深雪を信じることでどうにかしていた。深雪が仲間達は全員信用出来ると言っているのだから、自分のこの考え方は正しくないのではと進路修正出来ていた。ここでプラスの方向を選択出来ているだけ、電はまだマシではある。

 

「……多分、交換日記にも、変なことを書いちゃうと思うのです」

「いいよ。あれは本心を書く場所だから。ストレスが溜まったらあそこにぶちまけてくれ。あたしはそれを否定しない」

「ありがとう、なのです」

 

 少しだけ無理のある笑顔を見せる電。真実を知った今、この世界の明るい部分が少しだけ遠くなっていた。

 

 

 

 

 午前中は、深雪が知る限りの今の人類のいいところを語り聞かせた。休暇中に出会った、軍港都市にいる人間達のこと。みんなで楽しく生きていることを。

 電よりもほんの数日早く生まれただけとはいえ、その数日で知った人間のことは、間違いなく電をいい方向に導くと信じて。

 

 その話を聞いている時、電は反応しつつも今までのような大きな表情の変化は無かった。深雪からの話であっても、その深雪と接していた人間も裏では艦娘を利用しているのではと勘繰ってしまうからだ。

 一度芽生えてしまった不信感は、そう簡単には振り切れない。どれだけ素晴らしい人格を持った人間相手でも、それは表の顔で、裏の顔があるのではと考えてしまい、信用が出来なくなる。深雪が笑顔で楽しそうに語るから、その人は本当にいい人で、自分の考えが間違っているとは思えるのだが、それでも疑うことはやめられない。

 

「あー、そろそろ昼飯の時間だな。じゃあ、話は一回これで終わりにすっか。世間話だし、あたしが一方的に喋ってただけだから、あんまり面白くなかったかもしれないけど」

「そ、そんなことないのです。深雪ちゃんが、今の人間さん達をとても信頼してるんだなってわかったのです」

「ああ、あたしが会ってきた人間は全員いい人間だったって確信が持てるからな。ここのだけじゃなく、あっちの艦娘にも会ってるわけだし」

 

 ピクリと反応する電。深雪としては何気ない話ではあるのだが、電にはどうしても気になる名前が出てきたのだ。

 軍港都市の艦娘であり、睦月の友達として付き合いがある、駆逐艦暁。電とは同型艦──つまり()()である。

 

 電にとって暁は、あまり上下関係は感じられないものの姉であるという気持ちはしっかり持っている。しかし、そこにいる暁は、元人間である。暁であって暁でない。

 そうなると今の電には、()()()()()()()()()()と感じてしまうのである。本来の暁の外見を電は知らないのだが。

 

「……一つ、聞いてもいいですか?」

「なんだ?」

「その鎮守府であった暁ちゃんは……どんな感じだったのです?」

 

 どうしても気になったため、思わず聞いてしまった電。

 

「滅茶苦茶いい奴だったよ。ちょっと背伸びしようとしてる子供っぽさはあったけどな。あたしはアイツのことをレディだと思ってるぜ」

 

 深雪が知り得る限りの暁の情報なんてこれくらいだ。半日も無いくらいの時間を共に過ごした程度。

 しかし、印象にはしっかり残っている。一人前のレディと自称し、カッコつけたがるとはいえ、艦娘としては一流であることが見ただけでわかるほどだった。歩みに迷いがない。

 

「そう、なのですか」

「電としては、本当の姉妹には思えないか」

 

 核心をつくような発言に、電は表情に出るほどドキリとした。

 

「あー、やっぱりか。あたしはまだ姉妹艦ってのに会ったことがないから、そういう気持ちにはなったことないけど、実際に会ったら電みたいな気持ちになっちまうかもしれないな」

 

 広義的には軍港で出会った暁と綾波、さらには今目の前にいる電も、姉妹と言える存在だ。ただ、深雪は姉とか妹とかで上下関係を作ろうとは思っていないため、あくまでも友達として認識している。

 電にはこう言っているが、実際の姉妹艦──吹雪型駆逐艦娘と顔を合わせたところで、姉や妹を人間に奪われたと感じることは無いだろう。全て納得しているし、深雪は人間への不信感が電ほど強くない。あくまでも、()()()()()()()()()()という感覚だ。

 

「そいつが悪党だったら気分が悪いけど、いい奴だったら、あたしはその力を託すことが出来るかなって思ってる。まぁそりゃああたしが考えてるだけの綺麗事かもしれないけどさ」

 

 もしかしたら、元人間の艦娘に、深雪や電がいるかもしれない。いや、むしろ何処かにはいるのだろう。だからといって、深雪は自分の地位や名誉が奪われているだなんて思わない。自分の力を使って世界を平和に導こうとしているというのなら、喜んで力を貸そうと思う。

 だが、それを悪事に使っているならば容赦はしないだろう。相手が人間であるとか、そういうことは関係無しに、命は奪わずとも叩き潰す。自分だとしても気分が悪いが、それが電の力を借りている人間だったら尚更怒り心頭となるだろう。

 

「あんまりあたしが言い過ぎるのは電のためにはならないかもしれないけどさ、出来ることなら、今の世界を守ってる艦娘達のことを信じてほしい、かな」

 

 それは深雪の本心。本来の艦娘と同じように、人類と共に世界を守るため、協力しあって戦っていきたい。そこに電が加わってくれれば、深雪としては一番嬉しい展開だった。

 

「えっと……その、はい、善処するのです」

 

 今の電にはこれくらいしか言えない。不信感は簡単には払拭されないのだから。

 

 

 

 

 時間としては昼食時。全員揃っての食事ではあるのだが、電の表情は浮かない。周囲にいる艦娘が本当は人間であると知ったことで、不信感からどうしても負の感情が表に出てくる。

 今でこそ近くに深雪がいるからギリギリ止まれているものの、何かのキッカケで泣き出してしまいかねない。ある意味、かなり不安定な心になってしまった。

 深雪との関係性が改善される前に戻ってしまっている。しかも、これまでは深雪にのみ感じていたような感情を、今は深雪以外全員に感じているようなものである。

 

 この午前中に、電が世界の真実について語られたことは、仲間達は全員把握している。それを深雪が伝えたということも。

 必要最低限のことは全て知っていると踏まえて、しかし今までと変わらないように接しようとしている。ここで腫れ物に触るような扱いをする方が不信感を煽るようなものだし、今の自分達の生き方に間違いはないと表したいということで、電には常にありのままを見せ続ける。

 

「話、聞いたのよね」

 

 深雪と電が食堂に入ったところで早速声をかけたのは神風である。深雪は怖いもの知らずだと内心思いながらも、やはり神風だという気持ちもあった。こういう時は率先して動くのが、最古参であり筆頭駆逐艦である神風の真骨頂。

 伊豆提督が触れる前に動き出したのは流石としか言いようがなかった。伊豆提督がキッチンにいたというのもあるのだが、だとしても周囲に常に気を配っていることがよくわかる。

 

「……はい。皆さんが元々人間であることも、昔の人間が酷いことをしたことも」

 

 本心から電からもそんな言葉が出てくる。怒りや憎しみがあるわけではなくとも、不信感がありありと表れているのが誰の目からもよくわかる。

 

「今まで隠していてごめんなさい。言い訳がましく聞こえるかもしれないけれど、最初の電の精神状態で真実を知ったらどうなってしまうかわからなかったから、伝えるタイミングを測っていたの」

 

 包み隠さず本心を語る神風。これまでも隠し事をしていたというのに、ここでまだ何かを隠すような言動をしたら、余計に人間が信じられなくなってしまいかねない。

 だからこそ、神風は普段と言動を一切変えていない。変える必要もない。神風は常に、思ったことを素直に表に出しているだけだから。

 

「私達のことが信じられなくなったと思うけれど、あえて言わせてほしい」

「……?」

()()()()()()()()。私達は、もう何も隠さずに貴女に曝け出すから。言い方は悪いけど、思うがままにここで仕事をしているわ。だから、後始末の姿を見てくれれば、私達の思いがわかる」

 

 絶対的な自信が隠れていない。確信を持って電に接している。自信家のように見えて、これまでの経験がそれを絶対的なモノにしているため、不信感を持っていない深雪からしてみれば、ただ『()()()』と思えるだけであった。

 

「私達の信念は、上辺だけじゃないわよ」

 

 ニヤッと笑みを浮かべる。その自信に溢れた神風の表情に、電の中にある不信感が少しだけ薄れた。

 艦娘であることに誇りを持っているような言動は、自分を奮起させ、周りをも引っ張り上げる。電にとっての深雪とはまた違う、真のカリスマ性を発揮しているようだった。

 

 

 

 

 電が見えている世界は、これまでと比べると暗くなってしまっている。だが、電を引っ張り出すような光は、うみどりには沢山存在している。

 深雪としても、うみどりの仲間達は信用出来るに値する存在だと確信している。だからこそ、電と共にここにいられると思っていた。

 




電を引っ張るのは深雪だけではありません。早速その力を発揮する神風は、艦娘の中でも筆頭となるでしょう。
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