後始末屋の特異点   作:緋寺

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深雪の傷

 裏切り者の鎮守府から撤退した深雪達は、なるべく早く、しかし傷に障らないような速度でうみどりへと帰投。幸い、道中には敵艦娘の姿は無く、本当に全滅させることが出来たのだと言える。

 うみどり周辺にも敵の姿はおろか、残っていた忌雷も失われており、現在は周辺警戒中。ここまでしてもまだ何か潜んでいるなんてことがあったら困るため、入念に調査をしているところである。

 

「こっちの戦いは終わったのか?」

「ああ、無事に終わった。そちらは……聞くまでもないな、相当厳しい戦いだったのだろう」

 

 海の真ん中で敵の増援が来ないか待ち構えていたのは長門である。仁王立ちで、どんな敵が来ても対処出来るように準備万端。深雪達が戻ってくるまではここで待つとしていたようだが、ここで一旦任が解かれるかと安心していた。

 しかし、深雪の怪我がかなり深刻であることは見ただけでわかる。ただ見ただけでは、深雪達が敗走しているようにも感じてしまう。そうでなくても心配は心配。

 

「すぐ入渠するといい。いつでも出来るように、常に用意はされている」

「了解。電以外の3人、あたしも含んでんだけど、ハルカちゃんに入渠しろって言われてる。白雲とグレカーレはここまで来る間にも治ってきてんだけど、あたしはどうにもこうにもキツイ」

「ああ、見ればわかる。すぐに行くんだ。工廠までの道は安全であることは保証しよう」

「わかった。ああ、あと大発動艇が多めに必要になった。出せるヤツ全部出してくれねぇかな」

「あちらの鎮守府から運びたいということだな。了解した。私も大発は装備出来る。安全を確保するため、使える者全員に声をかけて、鎮守府に出向こうか」

 

 こちらでの戦いも終わってそこまで時間が経っているわけではないが、周辺調査などが出来るくらいには余裕が出来てきているため、深雪達は安全に工廠まで向かえる。

 だが、その工廠も思っている以上に大変なことになっていることを、すぐ知ることになる。

 

 

 

 

 現在の工廠は、ここまでで撃破している敵艦娘などを全員収容しているような状態。増えた忌雷は全て破壊し尽くしているため、どうしても残骸が見えてしまっている。

 深雪達が出ていく前より増えている捕虜の中には、潜水艦組が海底で捕らえた敵潜水艦もいた。『増産』の忌雷はことごとく抜き取られ、何の力も無いために身動きすら出来ず、他の捕虜達と共に1箇所に集められていた。

 

「おや、深雪。随分と酷い怪我のようだけど、後れをとったのかい?」

 

 そんな捕虜達の管理を任されている時雨が、深雪の両腕を見て驚きつつも、いつもの調子で聞いてくる。

 

「ああ、あっちの秘書艦がヤバかった。勝てはしたけど、忌雷3つ寄生させやがってな」

「3つ寄生……今までにないやり口だ。そんな無茶をしたら、身体が壊れてしまいかねないと思うけれど」

「現に今、動けない状態になっちまった。それも込みにして、大発使えるなら全員に向かってもらいたいんだ」

「残念だけれど、僕は大発は使えないんだ。内火艇だけだからね。だから、もう少しここの連中を見張っているよ。どうもここまで来てもまだ自分達の立場がわかっていないようでね」

 

 チラリと横目で見るのは、やはり深雪の姿を見て騒ぎ立てる捕虜達である。洗脳教育が行き届いているためか、どう見ても重傷な深雪の姿を見て、自分達がやれなかったことを秘書艦殿がやってくれたと大喜び。『勝てはしたけど』の部分が見事に聞こえていなかったようで、特異点がここまで逃げ帰って来たのだと煽るような声まで聞こえた。

 深雪は苦笑するしかなく、電も溜息を吐くほど。白雲は傷が無ければボコボコにしていそうだし、グレカーレは時雨と共に煽りに参加していただろう。それでも何もしないのは疲れているから。痛みは引いていないのだから、そんなことに構ってはいられない。

 

 そんな捕虜達に満面の笑みを浮かべた時雨が静かにと声をかけると、途端にスンと静まる。時雨の説教が相当身に染みているのか、自分達が調子に乗っていたことを自覚させられたように目が泳ぎ始める。

 

「聞こえなかったのかな。深雪達は君達の秘書艦に勝って帰ってきたんだ。確かに傷は負っているけれど、勝ってるんだよ。君達の頼みの綱だったのかな。その秘書艦殿は敗北した。というかだね、深雪達が戻ってこれているということは、普通に考えて鎮守府に残っていた艦娘達は全員やられたとは思えないかい? 君達の大好きな特異点の表情を見ても察することが出来ないのかい? それがわからないくらい頭が悪いなら、そもそも煽るなんてことはしちゃダメだよ。負けた奴がやっていい態度じゃあ無いんじゃないかい?」

 

 しゃがみ込んで手近な捕虜に笑顔を向ける。相変わらず目の奥は笑っておらず、しかし非常に楽しそうに語る姿は、向けられる側からしてみれば確かに怖さを感じるかもしれない。

 

「また一から教えないといけないかな。君達がどれほど愚かでどれほどこの世界に不要な存在かを。特異点に難癖をつける前に、自分の在り方を見直すべきだと何回言わせるんだい。君達の方が生きているだけで罪であるかをまだ理解していないらしい。そもそも海を汚しておいて片付けられないような輩は、純粋種には頭が上がらないと思うんだけれどね。深雪に頭を垂れろとは言わないけど、少なくとも一度や二度はその床に額を擦り付けて感謝するべきじゃあないかな」

 

 それだけ言いながらも一度たりとも触れようとしない辺りが時雨の上手いやり方。暴力は絶対振るわず、態度と言葉だけでここまで抑え込んでいる。

 相変わらずだなと深雪は笑いながら、流石にそろそろ入居しないとキツイとその場を後にする。時雨の説教を邪魔するのも忍びない。

 

「じゃあまたな時雨。あたし達は入渠してくるぜ」

「ああ、なるべく早く帰ってくることを望むよ。これからも忙しいんだ。君が抜けるだけで僕の仕事が増えるからね」

「お前だけじゃあ無ぇ、みんなの負荷が上がっちまう。それに戦いはまだ終わってねぇからな」

 

 最後に少しだけ言葉を交わして、深雪達は工廠の奥へ。

 そこでは既にドックの準備を終えている明石と、指揮を終えて休んでいる丹陽が待ち構えていた。

 

「白雲さんとグレカーレさんは入渠をどうぞ。深雪さんはキツイかもしれませんがお話が」

 

 丹陽がその傷を見た時に若干神妙な表情をしたため、やはり何かあるかと感じ、入渠の前に少しだけ話をすることとなった。

 一番重傷と言えるのだが、それでも丹陽がそれを止めてまで話をしないといけないことがあるというのだから、それは言うことを聞いておく。

 

 心配そうにしつつも、深雪に大丈夫と言われてしまったら素直に従うしかないと、白雲は入渠。グレカーレは丹陽に無理させるなと忠告だけしておいて、白雲と共に入渠開始。

 残された深雪は電に付き添ってもらい、丹陽との話に臨む。

 

「割と早く入渠したいんだけど、話ってなんだ?」

「その腕のことです。何故そうなってしまったのかはわかりませんが、見た目が明らかに他の傷と違うので、入渠前に確認だけしたいと」

 

 丹陽というより、明石がそれを望んだという方が正しい。しかし現在うみどりの戦場は丹陽が指揮を任されているので、経由して確認をすることに。

 

「外傷に見えません。まるで内側から破裂したような壊れ方をしています。もしかして、原型が残っているのも奇跡なのでは?」

「わからねぇ。向こうの秘書艦……叢雲にやられた。触れられたらぶっ壊される」

「梅ちゃんの『解体』が生身に出来るみたいな感じだったのです。電も少し心配があるのです」

 

 応急処置をした電も、丹陽や明石と同じような心配を持っていた。それが、単なる傷では無く、『解体』されたということ。それには深雪も少し不安に感じていたことでもある。それが、()()()()()()()()()()()()()()()()()ということ。

 

「なるほど……これでよく動かせましたね……」

 

 痛みを与えないようにあまり触れずに傷を見る明石。そこで、薄らとだが煙幕がチラついているのが見えた。質量を持った血混じりの煙幕が、動かない腕を無理矢理動かしているようなモノであることに気付いた明石は、少々渋い顔をする。

 

「入渠をしたとしても、後遺症が残るかもしれません」

「……やっぱりか」

「自分でも気付いてましたか」

「どうもこの傷は普通と違うと思ってたからな。最悪、入渠中に腕切り落として生やしてもらうとかするかとも思ってた」

 

 入渠による回復ならば、むしろその方が早いまである。ただし、今回の深雪の傷は、それでどうにかなるような話でも無さそうだという。

 

「解体を受けているというのが厄介です。本来『解体』は()()()のモノ。梅さんの『解体』を見たらわかるかと思いますが、解体したモノに作り直すことが困難なんです」

 

 梅が可能な『解体』は、壊した物質が原型を残さないというところがある。巨大な残骸をバラしたとき、そのカタチに戻らない、戻せないようにしていた。それは全て片付けることが決まっているモノであるために、誰も気にすることは無かったのだが、今回はそれが生身に使われてしまっている。

 深雪の腕に()()()()()()を施されてしまったというのならば、入渠したところでこの傷は治らない。もしくは、治ったとしてもそれは外見上だけであり、中身は解体されたままという可能性すらあった。

 

「なので、先にお呼びだてしたのは治療の方法を先に伝えるためです。ボスは難色を示しましたが……」

「それは仕方ないですよ。あまり褒められた手段ではないですから」

「まぁ、そうなんですけど……いや、何もせずに治るのなら別に問題はありません。なので、もしダメだったらの時の話を先にしたいと思いました」

 

 相当深刻な話のようなので、深雪は息を呑む。電も緊張感に襲われ、スカートの裾をギュッと握りしめた。本当なら深雪のに手を添えたいところだったが、今は両手共に傷がついているため、それも難しい。

 

「その治療法ってのは?」

「治療には妖精さんの技術によって資材を使って行なわれるものです。その資材に、()()()()使()()()()()()()()()()を使うことになります」

「……あの、電はもしかしてって思ったものがあるのです」

 

 声が震えている電。そもそも今、深雪の腕が動かなくなる可能性を示唆されただけでも辛い。それでもそれを支えていこうという気持ちがあるからまだ前を向けた。この治療も本当に可能かはわからない。だが、それでも治るというのならば、深雪の意思次第では電はやってみるべきだとも思っている。

 

「何を使うんだ……?」

 

 勘付いていない深雪としては、その資材、使うべきではないモノが何かを知りたい。聞かないと良しとは言えないのだから。

 

 明石は心して聞いてくださいと前置きをして、語り始める。

 

 

 

 

「深雪さんの治療、入渠の際の資材に、()()()使()()()()

 

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