後始末屋の特異点   作:緋寺

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情けは人の為ならず

 深雪が叢雲から受けた『解体』による傷は、入渠では治らない可能性があると明石から示唆された。だが、それを打開するための手段も同時に提示される。

 

「深雪さんの治療、入渠の際の資材に、()()()使()()()()

 

 丹陽が難色を示したというのも無理はない。本来ならば絶対に使わないようなモノを資材として運用するのは、身体に何かが起きてもおかしくないこと。いくら深雪が特異点であり、特機がその特異点の力が詰まったモノとはいえ、普通ではない資材であることは間違いない。

 それに、今や特機はうみどりを守り通した仲間とも言える存在。これまで守らせておいて、次はその命を深雪のために使えというのは酷というものである。特機は喜んで身を捧げそうではあるのだが。

 

 しかし、それをしなければ深雪の腕はこれからずっとまともに動かないという可能性があった。何もしなくても治ってくれるのならば、特機を犠牲にする必要はない。だがダメだった場合は……と考えると、確かにこれは迷うところ。

 

「例えばさ、まず入渠してみて、それでダメだった時に改めて考えるってことは出来るかな。治るかどうかは試した方がいいと思うし」

「大丈夫……だと思います。主任、それでも大丈夫ですか?」

 

 明石と共にいた主任がこれまでの話を聞き、可能であると頷いた。むしろ、そちらを推奨するくらいである。

 まずは通常の入渠をし、本当に不可逆であるかどうかを確認しておかないといけない。しなくても大丈夫なのにしてしまうのは、あまりよろしくない。余計なことをした方が悪影響を与えるかもしれないのだから。

 

 先に話したのは、そうなるかもしれないという覚悟を持ってもらうため。何も知らずに治療を受けて、腕が動かないとなってしまったら、知っているよりもショックが大きいだろう。戦えないと言っているようなものだ。

 だが、今の心境ならショックはまだ受けない。試すことが出来る手段もあるのだから、安心はしなくても不安が大きくはならない。

 

「じゃあ、まず入渠させてくれ。これ、割と痛いんだぜ?」

「すみません、まずはちゃんと知っておかないとお互いに危ないと思いますので。勝手なことも出来ませんしね」

「それはあたしもわかってるよ。診てもらってよかった。動かなくなったら、その時に考える。ただなぁ、特機使うってのは、やっぱ抵抗があるよなぁ」

 

 苦笑しながら立ち上がる。流石に体力も限界に近付いてきているか、そこで少しふらついてしまったため、電がすぐさま支えた。

 

「っとと、悪い電。流石に疲れちまった」

「大丈夫なのです。深雪ちゃんは一番頑張ったのですから、すぐに休みましょう」

「だな。じゃあ、悪い」

 

 そうして深雪はようやく入渠となった。時間はそれなりにかかることが確定しており、おそらく白雲やグレカーレよりも長くかかるだろう。それこそ半日から丸一日は見越した方がいい。

 それでもし腕が動かないようならば、その後に考えてもう一度入渠もいうことになる。二度手間にはなってしまうものの、本人の望みもあるため、この流れで進めることとなった。

 

 

 

 

 全員がドックに入ったことで、電が一時的に浮いた状態になる。今ならば電も大発動艇が使用可能であるため、鎮守府からの引き揚げを手伝おうと考えたものの、うみどりにある大発動艇にも数に限りがあり、梅と睦月、さらには長門と神威、三隈までもが使えるだけ使おうと装備したら、電が装備する分の大発動艇は余っていなかった。

 そのため、既に一度鎮守府に向かっているのだからと、電は先んじて休憩を促される。疲労を感じているのは電も同じ。それに、深雪達の側にいてあげてほしいという仲間からのお願いもある。

 

 今何かあった時、深雪を守れるのは同じ特異点、かつ深雪と最も繋がりの深い電が適任だということも言われ、電は快く了承した。

 

「何か手伝えることがあれば言ってほしいのです。電が出来ることは高が知れてるかもですけど」

 

 そのため、電はまず明石の元へと戻る。入渠さえ終わってしまえば後は待つだけなのだが、深雪達のために何かやれることがあればと、行動しなければ落ち着かないように問うた。

 明石も今はどちらかといえば調査がメイン。しかも丹陽もそちらに加わっているということで人手は足りている。とはいえ知りたいことはまだまだ多い。

 

 そこで、丹陽が予測していたように動き出す。

 

「では電さん、少しお話をしましょう。私達はあちら側のことを何も知らないですから、ハルカちゃんが帰ってくるまでにいろいろ教えてもらえるとありがたいです」

「わかったのです。電は叢雲ちゃんとの戦闘にも参加はしていたので、ハルカちゃんさんが知らないところも知っているのです。全部先にお伝えするのです」

「それはありがたいですね。特に深雪さんをああやって壊した張本人のことが聞けるならありがたいところですよ」

 

 明石に調査を任せて、丹陽は電としっかり話すためにお茶を淹れ始めた。そこまで長くなるとは思えなかったものの、腰を落ち着けて話すことが電の休息に繋がりそうだったため、それを促すためにも見た目から入っている。明石がお茶菓子も提供してくれたため、本当に休憩時間のようになっていた。実際休憩時間ではあるのだが。

 

「それじゃあ、よろしくお願いします。いくらお婆ちゃんでも、今回の戦いはこれまでの知識ではどうにもならないことばかりですからね」

「なのです。電は最近生まれたばかりの新人ですけど、だとしても今の戦いはおかしいことばかりなのです」

「ですよね。では少しずつでもいいので教えてください」

 

 

 

 

 一方明石は、深雪の入渠を見ながら、主任と今後の相談をしている。今は『解体』によって壊された深雪の両腕が治せるかどうかを優先して調査しているところ。

 丹陽は電との話のために席を外しているため、現状その部屋には明石と主任しかいない。そのため、今は誰かに話を聞かれるようなことはない。主任自体は結局何かを伝えるためには筆談になるので、明石が独り言を言っているようにしか見えないのだが。

 

「……やはり勝手が違いますね……」

 

 第一声がコレである。真っ先に深雪の腕を細かく調べたが、案の定壊れ方が普通とは違う。ぱっと見でもおかしいとわかったが、数値として出せるようになると殊更におかしなことがわかった。

 

「『解体』……不治のダメージは流石にインチキが過ぎませんか」

 

 これには主任も同意するように頷く。まともに回復してくれるなら何も考えずに入渠で良かったのだが、その希望も今断たれたことになる。

 

 今の深雪の両腕は、やはり解体されてしまったことで、痛みだけ残して解体されたという事実がこびりついてしまっていた。どれだけ治療しようが、深雪には『腕が解体されている』という概念が存在してしまっているということ。カタチだけは元に戻ったとしても、その腕は作り物みたいなモノであり、いわば義手。神経は通っておらず、ただそこについているだけのモノになってしまうだろう。

 戦闘中は痛みと煙幕でその腕の存在をどうにか認識出来ていたが、治療されてしまった場合、痛みという繋がりが失われてしまうため、最後に残った深雪の腕という性質が失われてしまう。つまり、()()()()()()()()()()()()()()

 

「なんて底意地の悪い力……ただダメージを与えるだけならまだしも、後遺症が残るように仕込んでいるだなんて」

 

 治せば治すほど取り返しがつかなくなるという、明石が頭を抱えるレベルの力。今深雪が目覚めたら、煙幕の力をフルで使って、まるで糸で繋がれた操り人形のように自分の腕をコントロールしなくてはならなくなる。

 しかし、それで出来るのは腕の上げ下げくらいだろう。手を握ることも難しい。完全に生活に支障が出るレベル。

 

「そこで、特機を使った治療ですが……主任、これなら治療は」

 

 先んじてメモ帳に言葉を書き記していた主任。

 

『できる』

 

 そこは主任としては確信を持って治療可能と言い切っている。そしてそれは、()()()()()()()()()()()()

 

 特機は特異点の力で進化した忌雷。そして、ここにいる2人は知っているが、素材は妖精さんである。妖精さんのサポート能力を体内に取り込むことで、解体された神経的な繋がりを再現しようという話なのだが、それを受けるのが特異点──()()()()()()()()()()()であるために可能であると考えた。

 主任の目は、妖精さんならではのいろいろと見透かす目。曲解を持つ者の力を読み解くことも出来るが、深雪に対してはわからないことだらけだった。しかし、特機ならばそれが出来ると確信を持っている。何故なら、特機が自分の仲間だから。

 確かに特機も仲間である。資材として使うのには抵抗はあるだろう。しかし、深雪と一体化して、そのサポートが出来るというのだから、妖精さんも本望だとわかっている。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「わかりました。なら、今は入渠を続けて、目を覚ましたら話しましょう。それで腕は治せるということを」

 

 明石も主任のその考え方には乗った。妖精さんを犠牲にするような治療法は、工作艦としても嬉しくないやり方である。というか、何かを犠牲にするということがそもそもよろしくない。やっていることが出洲一派と近いものと感じてしまう。しかし、今回は天秤にかけなくてはならない状態でもある。

 

「でも、1つだけ治療法に案があるんですけど、聞いてもらっていいですか」

 

 明石の提案を主任は黙って聞く。

 

「入渠での資材として使うのではなく、深雪の両腕に特機を()()()()()というのはダメでしょうか。完全に溶け込ませるのではなく、いわば脱着式になります。特機の触手で神経接続……みたいなイメージなんですが」

 

 特機には特有の寄生能力があり、相手をカテゴリーWに変えるだけでなく、新たな力まで与えるほどの優れモノ。しかし、既にカテゴリーWであり、生みの親とも言える深雪には、寄生する必要がないし、そもそも寄生出来るかもわからない。

 他の者のように、身体そのものを変えるというわけでなく、腕だけに寄せて寄生し、特機がそれを弄るのではなく、あくまでも深雪の意思を伝達する役割を持たせるというのはどうかと明石は語る。

 

 それには主任も頭を悩ませる。資材として使うからこそ治療は確実に可能だと言い切れるのだが、寄生となると……と考えている時、蠢く影が2人の前に現れた。

 

「えっと……もしかして」

『じぶんたちにやらせてほしい といっている』

 

 その影──叢雲から引っこ抜いた、新たな特機達が、自分達なら出来ると躍り出てきた。

 

 新人の2体は、血混じりの煙幕で燻された、これまでとは違うタイプの特機である。それこそ、血が混じっている時点で、深雪の身体との馴染み方は他の特機とは比べ物にならない。神経接続だって無理なくやれると、自信満々である。

 

「……試す価値はありますね。主任、やりましょう」

 

 主任は大きく頷いた。

 

 

 

 

 叢雲を救ったことにより、深雪も救われることになりそうだった。まさに、情けは人の為ならず。

 

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