後始末屋の特異点   作:緋寺

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次の戦場は

 裏切り者の鎮守府から持ち出せるモノは全て持ち出して、伊豆提督達は帰投。水上バイクも見事無傷で無事だったこともあり、向かった時の通りに帰って来れた。

 伊豆提督の帰投は、うみどりで活動していた者達を大きく安堵させた。それと同時に、洗脳教育が行き届いている捕虜達は落胆。そして、これによって完全な敗北を意識することになる。

 特異点が怪我をして帰ってきたのは喜んでいたようだが、鎮守府の仲間達が全員捕虜として置いていかれるのを見たら、その表情は正反対のモノとなっていた。

 

「羽黒さん……羽黒さんも目が覚めたんですね」

「は、はい……皆さんのおかげで、なんとか……」

 

 羽黒は工廠で名取と再会。お互い、鎮守府のやり方に疑問を持ちつつも、忌雷に寄生されて豹変していた仲。その呪縛から解き放たれ、共に救われたことを小さく喜んだ。

 そんな2人の様子を捕虜達がブーイングしようとしたようだが、本当に学習能力が無いねと時雨がニッコニコな笑みを浮かべただけで、一気に元いた方は静まり返った。ここに来たばかりの捕虜達は、こんな駆逐艦に何をビビっているんだと強気の姿勢だったが、また()()出来るぞと時雨はノリノリで説教開始。捕虜達の人格を疑うような発言から始まったそれは、洗脳教育を受けていたとしても、嫌というほど心に刺さり続けるものであった。

 

「深雪ちゃん達は無事に入渠出来たみたいね。それじゃあ、うみどりは次の敵の戦場に向かうわ。鎮守府の後始末も必要だけれど、忌雷が無くなるまで破壊し尽くしてきてるから、少しは置いていけるからね」

 

 本来ならすぐに鎮守府の後始末を始めたいところなのだが、今の戦況はそうは言っていられない状態。終わったところからまだ終わっていない戦場に赴いて、増援として手伝う必要がある。

 最も敵の戦い方に慣れているうみどりですらここまで苦戦したのだ。慣れていない、むしろ情報すら先程入ったばかりの鎮守府にこれをどうにかするのは非常に難しいと言える。

 

 しかし、うみどりも主戦力と言える2人──深雪と神風──が療養中というのが厳しい。勿論、他の面々も充分に戦えるのだが、汎用的な力を持ち、かつ敵の行動に最も対応出来るのはこの2人と言ってもいいだろう。

 その2人がダウンしている上、出来損ないの行動を完全に止めることが出来る白雲も現在入渠中。敵を無傷で捕えることがさらに困難となってしまっている。

 

「先にこちらで元帥に連絡しておく。みんなは次の戦いに備えて少しでも休んでおいてちょうだい」

 

 ここからは小休憩。次の戦いのためにも、なるべく万全にまで戻したい。

 

「ソンナ時コソ、甘イモノヨ。沢山作ッテオイタカラ、ミンナデ食ベテチョウダイネ」

 

 こういう時に頼りになるのがセレスである。やはり心身共に癒される甘味を大量生産しており、艦娘達に振る舞った。コレがあるからやっていけると、疲れている者達はこぞってそれを手に取り頬張る。

 

「貴方モヨ。少シ休ミナサイネ」

「ありがとうセレスちゃん。うみどりの食事情は全部任せてもいいくらいね」

「戦ワナイ分、コッチデ役ニ立ツカラ、任セテチョウダイ」

 

 背中を任せられる者がいるから、伊豆提督もここまでやれるというものである。

 

 

 

 

「お帰り、ハルカ。次の現場にもう動かしてるわ。到着まで最大戦速でおおよそ3時間」

「ありがとうイリス。そこまで離れていないみたいね。何処が向かっているかは聞いてる?」

「ええ。軍港の艦娘達が向かっているわ」

 

 執務室に到着してすぐにイリスから報告を受ける伊豆提督。次の現場も当然ながら敵の鎮守府への出撃になるのだが、そこには軍港鎮守府から艦娘が派遣されているらしい。

 うみどりほどではなくても、他の鎮守府よりは理解度が高い軍港鎮守府。保前提督もその知識を活かして戦いに挑んでいるようである。

 

「トシちゃんにも連絡を取った方が良さそうね」

「ええ。そう言うと思って準備はしてあるわ」

 

 先んじてイリスは連絡が取りたいであろう場所にホットラインを繋いでいるとのこと。1つ目を制圧したことを元帥に、次に助けに向かうことを伝えることを保前提督に、出来るなら2箇所同時でもいいだろうと既に連絡済み。

 手早さに感謝しつつ、伊豆提督は疲れを見せることなく自分の椅子に腰掛け、通話を開始。

 

「お疲れ様です。元帥、鎮守府を1つ制圧完了しました」

『うむ、ご苦労。手間をかけさせてすまんの』

「ただ、敵の力が思っている以上に強力です。現在、深雪ちゃんと神風ちゃんがダウンしてしまっています」

 

 主力がダウンしてしまう程の抵抗をされたことに驚きを隠せない。

 

「トシちゃん、そちらは部隊と連絡取れる? 敵のやり方でどうしても注意しないといけないことがあるの」

『ああ、それは出来るようにしてある。何が問題だ』

「忌雷を複数寄生させた子が現れたの。深雪ちゃんもその子にやられた。よりによって『解体』の力を持ってたみたいで、触れられたら内側から破壊されたらしいわ」

 

 保前提督もそれを聞いて聞こえるほどの舌打ち。厄介極まりない敵の存在に、対策を練らなくてはならないかと頭を悩ませる。

 陸戦となるとどうしても近接戦闘もやらねばならない時が出てくるだろうが、それ自体が特に危険であるとなれば、戦い方も考えねばならない。

 

「それに、忌雷は基本ばら撒かれてると思った方がいい。潜水艦が『増産』して、うみどりに一斉に襲いかかってきたわ。こちらは特機の『増産』が出来るようになったからそれで応戦出来たけれど、普通の鎮守府だとそこが……」

『いや、そこはあの電磁波のヤツがあるだろ。アレの出力を上げることで割とどうにかなることがわかった。絶対に艦娘には向けられないくらいの出力になるけどな』

 

 忌雷の動きを止めるために開発された電磁波照射装置だが、波長を少し変え、出力を大きく上げることで、忌雷そのものを機能停止どころか破壊出来るところまで持っていけたらしい。

 

 忌雷の放つ電磁波に対して、より高い電磁波をぶつけることで一時的な機能停止を狙ったのが今使っているもの。だがそこでもう一つ手を加えられた。

 波長を変えること、そしてそれとは別の波長も用意し、3つの波長が重なり合うことで発生する振動により、忌雷を内部から崩壊させることに成功したという。なんでも、それをぶつけられた忌雷は動きを止めるだけでなく、爆発することなくそのままヒビが入ってその場で息絶えるとのこと。

 

「……そんなこと、そんな簡単に出来るの……?」

『まぁその場で電子レンジ作ってるようなモノなんだと。そりゃあ艦娘にはぶつけられないな』

 

 流石の伊豆提督も、敵の波長も合わせて崩壊する振動を起こすだなんて考えたことも無かった。内部崩壊を起こすほどの共振なんて聞いたことがない。

 

『事実、それがうまく行っておる。あまりにも危険だから、この兵装は今回のみの特例じゃよ。これ、艦娘に同じことやったら普通に壊れてしまうからのう』

「それは……そうですよね」

『ちなみにじゃが……これの発案者は会議で深雪に食ってかかった()()()()()彼じゃよ』

 

 元々が明石との対話で電磁波照射装置の作製を提案した者。そこからさらにその場で改良案を考え、実際に出来るかを計算し、おそらく可能という判断を以て、軍港都市の定係工作艦である冬月に製作の依頼をした。

 冬月はそんな兵装のことを聞いたら、それはもうノリノリで作り上げたという。電磁波の波長をその場で変えられるシステムまで組み込んで、一度に複数個の波長を同時に広範囲に放てるように改良を加え、テストも出来ず実戦投入。そして成功を収めたわけである。

 

 波長をその場で変えられるようにしたのは、忌雷によって波長が違って破壊出来ないなんてことがないように。その場で波長を合わせるというのは手間がかかりそうなものだが、そこは()()()()()()()がその兵装を扱うことで事なきを得ている。

 

「そうか、軍港鎮守府にはそういうのが得意な子がいるものね」

『ああ、今回の殲滅は少数精鋭だ。だが、うちの中でも特に()()奴が向かったからな』

「暁ちゃん、ね」

 

 その電磁波照射装置を扱っているのは、軍港鎮守府でも特にそういった精度を求める戦術に長けている暁。最初はそんな大役に選ばれてアワアワしていたようだが、いざ実戦となると、途端に冷静になり、表情も消えたという。

 暁は『迷彩』によって姿が見えない敵ですら、その行動パターンから何処にいるかを予測して攻撃が出来るくらいに能力が高い。電磁波の波長合わせも簡単とは言わずともクリアしてくれることだろう。

 

『うみどりに手伝ってもらえるなら万々歳だ。アイツらでも苦戦させられている可能性はある。なるべく殺すなとは言っておいたが、やむを得ない場合はどうしてるかわからないからな』

「そういうことなら、それを防ぐためにも援軍に入らせてもらうわ。もしかしたら終わってる可能性もあるけれど」

『まぁな。むしろその方がいいんだ。うみどりにそこまで負担はかけられない』

 

 とはいえ、洗脳教育を受けているだけの艦娘を殺すなんてことはなるべくしたくはないもの。痛めつけることだってなるべく控えたい。

 しかし、暁が出ているということは、もう一人の()()が大暴れしている可能性が非常に高い。彼女ならば、一切の容赦なく命を奪うことを選択しかねない。

 

「うみどりはすぐにその戦場に向かいます。そこまで対策をしていたとしても、何が起きるかわかりません。それこそ、こちらが見た複数体の寄生で強化されることも視野に入れておいた方がいいでしょう」

『うむ、よろしく頼む。いくら基礎能力が高い艦娘であっても、普通ではない力を前にした時に絶対に勝利出来るとは限らん。それに、最悪は彼女が寄生された時じゃよ』

 

 当然それだって無くはないのだ。彼女──綾波が鎮守府を裏切るようなことは絶対に無いと断定出来るが、どうしても回避出来なかったなんてこともあるかもしれない。それこそ、敵の力が必ず当てる『必中』みたいなモノだった場合は、どうにもならないかもしれない。

 それでも綾波は寄生される前に自害を選択しそうだから困ったものだが。敵対するくらいならその命を絶つ。覚悟が決まりすぎているようにも見えた。

 

「トシちゃん、ここからは逐一連絡を取り合いましょう。連携は大切よね?」

『ああ、それで頼む。回線は開きっぱなしでいいな。ハルカはしばらくそこにいるか?』

「現場に到着するまではここにいる。艦娘達にも今は休憩してもらってるから」

 

 次の戦いは近い。そのためにも、少しの時間を有意義に使っていきたい。

 

 

 

 

 うみどりでなくても対策は出来るように、短時間でも進化していく。

 




小規模なSCP-1012みたいなもの。
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