後始末屋の特異点   作:緋寺

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共闘に向けて

 現在、軍港鎮守府の艦娘達が対処にあたっている次の裏切り者の元へと向かううみどり。時間はかなり少ないが、少しだけでも休息を挟むことで、勝率を高めていく。

 鎮守府襲撃で大きく傷ついた3人の入渠は、流石にこの短時間では終わりそうにない。また、神風の休養もまだ必要と言えるため、戦線に参加してもらうのは控えてもらう。

 うみどりとしては重要な戦力が4人欠けた状態での増援となるため、準備は先の戦い以上に念入りに行なわれていた。

 

「今の夕立はトラとおんなじ力持ってるから、いざって時は壁になるっぽい」

「ふむ、あちらから砲撃が飛んでくるのなら、私と夕立が止めればいいわけだ。いや、普通に痛みはあるんだけど」

「すぐ治るから誤差っぽい」

 

 夕立とトラ、『ダメコン』の曲解を持つ2人は、敵からの砲撃を食い止めるための盾となるため、工廠でも特に前の方に立つ。しかし、『ダメコン』はあくまでもダメージのコントロール。先の戦いでやられた、いきなり忌雷ビッシリにはどうにも対処が出来ない。

 

「私と潮さんで特機を増やせるだけ増やしました。うみどりの防衛は任せることが出来るでしょう」

 

 そこにフレッチャーも加わる。『増産』は充分であると判断し、一旦その力は手放した。代わりに今手に入れているのは、毎度お馴染みイリスの眼。今回は襲撃をしたり受けたりするのではなく、既に襲撃している仲間達の増援。万が一の場合──既に寄生されてしまっている可能性──を考えると、見た時に瞬時に判断出来る状態の方が戦いやすくなる。

 フレッチャー自身も、ここにいる者達のあらゆる能力を再現出来るようにするため、暇さえあればトレーニングに勤しんできた。その成果が今発揮されている。イリスの力のコピーは、フレッチャー自身の力で戦わねばならないという意味にもなるのだ。

 

「じゃあ、攻め込むのは夕立とフレ子になるっぽい? トラは艤装がおっきいから中に入るのは勝手が悪そうだし」

「子日もいるよー」

「わぁっ! また姿消してるっぽい。今は見せておいても大丈夫でしょ」

「何度かやって慣れておこうと思ってね。ぶっつけ本番であそこまで上手く行ったとはいえ、これから何度も使うことになるかもしれない力だからさ」

 

 夕立と子日は、前回の実績もあるため、ほぼ採用確定。フレッチャーは今回以降、増援の場合はチェッカーとしての役割を持つために必要不可欠となる。目以外の力が無いとはいえ、うみどりで鍛えられた者はまだ戦える方。

 

「まだ正式には決まっていませんので、ハルカちゃんの指示を仰ぎましょう。準備だけはしておくというのが今のベストですね」

 

 まだ突入部隊は決まったわけではない。そのため、誰が選ばれてもおかしくない状態でもある。フレッチャーの言う通り、準備だけは怠らず、いつでも誰でも戦える状態を維持しておくのが今のベストであろう。

 

 

 

 

 そこから時間が経ち、次の鎮守府近海に入る。あちら側の領海となったことで緊張感が高まり、艦娘達もそろそろかと休息の時間を終わらせていく。

 入渠組は当然ながら間に合わず。特に深雪は自己修復も無いためにさらに時間がかかる模様。こればっかりは仕方ない。

 

 しかし、今回は先んじて軍港鎮守府の艦娘達が攻め込んでいる。それが意味するところは、その海域に入った時点でわかることだった。

 

『……敵艦娘確認……したけれど、()()()()()()()()()

 

 デッキから艦載機を飛ばす加賀の呆れたような声色が艦内に響く。そうなっているのではと予想はされていたものの、実際に見るとそんな反応にもなってしまう光景。

 おそらく襲撃を仕掛けた軍港鎮守府の艦娘達を迎撃しようとしたのだろうが、そのことごとくが瞬殺されており、しかもキッチリ手加減も出来ている。しかし、無傷というわけでもなく、的確に艤装が破壊された上に、今後邪魔が出来ないように心を折るくらいにボコボコにされている。致命傷にならない程度の痛みを与え、気も失っているくらいに。

 それこそ、()()()()()()()()()()()()()

 

 また、破壊された忌雷の残骸も其処彼処に浮かんでいた。基本的には改良版の電磁波照射装置の餌食になった結果なのだろうが、うみどりに押しかけてきた数より少ないものの、それが全てボロボロになっているところを見ると、装置の有用性と破壊力、危険性がわかる。

 

『放置されているみたいだから、うみどりが進むのは難しいかもしれない。そろそろ停まった方がいいと思うわ』

 

 加賀の言う通り、領海に入るとまばらに敵艦娘達が倒れていることもあって、うみどりが進むと()()()()()()()()()()。それを防ぐには、もうここで航行をやめ、鎮守府襲撃部隊を出撃させるのが的確。

 また、放置されている敵艦娘も捕虜としてうみどりに引っ張り込んでおくことも必要。掃除が出来れば、うみどりをさらに前進させることが出来るだろう。

 

「ごめんなさいね、襲撃部隊の選出を今させてもらうわ」

 

 そんな工廠に伊豆提督が現れる。ギリギリまで保前提督と話を続け、この現場の状況を詳しく聞いていたようだった。

 

「先遣隊……と言っていいのかしら、軍港鎮守府の艦娘達は、既に敵鎮守府に突入。こちらからの情報も渡したから、慎重に事を起こしてくれていると思うわ。アタシ達はそのバックアップにあたる」

 

 そこから選ばれたのは、やはり実績があることが大切であるということで、夕立と子日、そして予想通りのフレッチャー。軍港鎮守府の艦娘達のチェックをしてもらうことが最優先であり、余裕があればその場で夕立か子日の力にスイッチする。

 

「あとは安全を考えなくちゃいけないから……ごめんなさいね、ムーサちゃんもお願いしていいかしら」

 

 そこに加えられるムーサ。忌雷の匂いを感じ取れるというのは非常に大きく、ムーサに対しては奇襲も効かない。そしてその性質により、忌雷側が本能的に恐れ慄くという普通ではない特性を持っている。

 前回の戦いでは不要だったが、今回は先に入っている艦娘達の安全確保という少し違った目的が追加されるため、ムーサのその特性は非常に有用と言えるだろう。

 

「ハーイ。アッチデモ食ベチャッテイイヨネ」

「いいけれど……お腹の方は大丈夫? もうかなり食べていると思うんだけれど」

「ダイジョーブ! マダマダ食ベラレルヨ!」

 

 ムーサの忌雷に対しての食欲は無尽蔵であり、お腹いっぱいにはならない様子。本当かはわからないが、ムーサ自身も体調に異常をきたしているようには見えないため、苦しかったらすぐに言うことと念を押した。その場で食べられなくてもいいように、ムーサは特殊なタッパーを持つ始末。

 これもまた忌雷キラーとしてのムーサの特性と言えよう。その場で忌雷が始末出来なかったら困るため、いつでもどれだけでも食べられるような構造をしていると考えられる。食べた忌雷は寄生することもなく、体内で消化消滅して勝手に栄養になり、そしてまた食欲に……と無限に循環しているようなモノ。

 

 副官ル級も、他の出撃メンバーに姫を頼むと頭を下げた。その力の有用性は副官ル級も理解しており、この場での選出も納得が行くもの。目から離れることが少し気になったものの、うみどりの面々に信頼が出来ているため、任せることも厭わない。むしろ、姫が迷惑をかけないかを心配するくらい。

 

「それじゃあ、今回の任務は、既に突入している艦娘達と合流後、ここにいる裏切り者を()()()()()()()捕えることよ」

「ぽい! さっきの鎮守府と同じってことだよね。ちょっとボコるかもしれないけど大丈夫!」

「手段を問わないのであれば、私のネットで捕まえることも視野に入れておきましょう。とにかく生かしてここに連れてくるということでよろしいですね」

「ええ、それが絶対条件。死んだら意味がないと思ってちょうだい」

 

 現在、工廠には麻袋も転がされている。つまりはああしろというわけである。

 

「鎮守府自体の破壊も極力抑えてちょうだい。ただ、忌雷の温床となっているような場所は破壊もやむを得ないわ。夕立ちゃんのやり方で問題なし」

「アル程度ハ食ベテカラネ」

「余裕があったらだよー。時間がないかもしれないから、そこは臨機応変にね」

 

 子日に言われてムーサは少しだけ残念そうにする。忌雷の温床になっているドックとかあったら、そこにあるモノを食い尽くすまで止まらないかもしれないが、それだと確実に時間が必要になる。そうしている間に敵はさらに策を練ってくるかもしれないのだから、あまり時間をかけていられない。

 あくまでも今回の作戦は、裏切り者を捕えることが最優先なのだ。忌雷の処理も勿論必要だが、それはどちらかといえば後に回すこと。ムーサにもそこは納得してもらうしかない。

 

「それじゃあ、うみどりが停まったらすぐに向かってもらうわ。他の子は全員、既に斃されてる艦娘達を捕らえて工廠に連れてきてちょうだい。特機は忘れずに持っていって、寄生されているかを確認してから行動するようにね」

 

 これもまた大切なこと。海に放置されている敵艦娘は全員捕虜である。工廠がまた埋まっていくものの、こればっかりは仕方ない。

 

「僕はここに残ってしっかりと()()しておくから、夕立、頼んだよ。無茶はしないように」

「ぽい。時雨なんかキラキラしてるっぽい?」

「いやぁ、呪いが晴れていくような清々しい気分だね。アイツらがあまりにも物分かりが悪いから、何度も説教をしなくちゃいけないんだ。腹に溜まった呪詛を吐くのはスッキリしていいね」

 

 こういう時に時雨は襲撃に参加しそうではあったが、捕虜を上手く躾けることを楽しんでいるようである。ここから増えることが確定している捕虜にも、しっかりその説教を叩き込むことだろう。

 時雨の砲撃は大火力すぎて室内では向いておらず、ストライカーとはいえ触れたらまずい敵の登場によって有効打とは言えないものになってしまった。そう考えると、ここで捕虜達の監視に徹するのは悪いことではないだろう。どうせ1人はその役割が必要なのだから。

 

「もしこうしている間にもうみどりを襲撃してくるようなら、僕も戦力に加わるさ。力は有り余っているからね」

「ぽい。じゃあ時雨、背中は任せたよ」

「任された。安心して攻めに行きなよ。帰る場所の保証はするからさ」

 

 それにと口を開こうとして、時雨は何でもないと閉じる。

 

 今ここには療養中の深雪達もいるのだ。今この時にここを攻撃されるわけには行かない。しっかり守って、誰にも被害が出ることなく、次の戦いも終わらせる。そのためにいくらでも戦おう。そんな気持ちを表に出さずに呑み込んだ。

 

 

 

 

 始まる次の戦いも勝利するため、うみどりの門は開く。今回も迅速に、そして確実に事を成す。

 

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