後始末屋の特異点   作:緋寺

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成れの果て

 軍港鎮守府の部隊が襲撃を仕掛けた裏切り者の鎮守府。そこにはうみどりが終わらせた鎮守府と同様に地下室が存在し、ここを統括する裏切り者提督もそこから逃げ出そうと動いていた。

 しかし、今そこにいるのは、その成れの果てと称された、普通のサイズとは大きく異なる、巨大な出来損ない。戦艦の主砲を放つそれは、もう何処にも原型なんてものはなかった。

 

「ど、どうやったらこんなのになるっぽい!?」

 

 そうこうしているうちに、巨大な出来損ないは夕立達の姿を捉えていた。忌雷から伸びたであろう触手が巻きついた巨腕を夕立の方へと向けた瞬間、その場の熱量が上がる。これは間違いなく主砲を撃たれる。

 コレはまずいと全員が一斉に動き出した。避けられたとしても、今ここで放たれると、地上に繋がる出入り口が潰されることになる。

 前の鎮守府と同じ設計なら、そこ以外にも出口はあるだろうが、それこそ前のようにまともな整備もしておらず、扉を開けるのに時間がかかるとかだと意味がないし、そもそも何処に出るかもわからない。

 

「避けるっぽーい!」

 

 間一髪、放たれた主砲は通路を避けてすぐ近くの壁に直撃。破壊力はやはり並ではなく、掠めただけでも致命傷になりかねない異常なモノ。まるで数人が同時に放ってきたかのような一撃。

 

「最初からああだったわけじゃないんだよ」

 

 ここで先程の夕立の疑問に答えるため、動き回っていた川内が夕立の近くに着地する。まさに忍者のように壁を伝ったり天井に引っかかったりしながら巨体の出来損ないのことを分析していたらしい。地上からは暁が見ているが、それだけではわからないようなことがないか、視野を拡げるために。

 

「あれ、どうなってるっぽい!?」

3()()()()()()()

「ぽ?」

 

 川内はこうなってしまった経緯を掻い摘んで話した。

 

 部隊がここまで来たのは、うみどりの戦いとほとんど同じ。逃げる裏切り者を追ってである。地下室への通路を発見し、何の躊躇もなくそこから進軍、戸惑うことすら無かったおかげで、あっという間に裏切り者に追い付いたらしい。

 尚、こちらでも前の鎮守府と同じように、整備不足によって脱出経路の建て付けが悪くなっていたせいで、より追い付かれやすくなっていたというものもある。こちらもあまりにも愚か。

 そこで裏切り者は、侍らせていた2人の護衛艦娘に更なる忌雷の寄生を促した。既に寄生されているにもかかわらず、追加で寄生させて力を得て追い返そうとしたのだ。護衛の艦娘は洗脳教育が行き届いているため、なんの躊躇いもなくそれを実行に移す。

 

「止められなかったの……?」

「今思えば、寄生前に殺しておけば良かったのかもね。でも、まだ救える可能性があったから躊躇っちゃった。綾波は()る気満々だったけど、暁が止めたからね」

 

 怪我をさせることは抵抗がないが、命を奪うのは違う。ここは保前提督からの指示もあったのだろう。あくまでも全員を捕虜とするという方針は、うみどりだけが実行しているわけではない。

 

 しかし、そこから事態は急変する。複数の忌雷を寄生させた艦娘達に異変が起きたのだ。普通の変化ではない挙動、明らかな過剰摂取(オーバードーズ)に、その護衛の身体が耐えられなかった。

 身体が肥大化したかと思えば、身体中から触手が飛び始め、人間とは言えない生物へと変わり果ててしまったという。これには綾波すらも笑顔が無くなったと川内は話した。

 

「っとと、全員避けながら弱点探して!」

 

 話しながらも戦況を進めるための指示は欠かさない。巨体から放たれる砲撃も普通ではないが、動きも見た目とは正反対に俊敏であり、近接戦闘までこなす。力任せに腕を振るうだけかもしれないが、直撃しようものなら、そのまま肉塊にされかねない。

 それに出来損ないであることは変わらないため、その体液は腐食性。撒き散らされたらそれにも触れてはいけない。その割には自己修復も兼ね備えているという厄介極まりない生命体。

 

 弱点を探してというのも無理はない。綾波が容赦なく急所──それこそ頭を狙って砲撃を放っても、避けられてしまう上に当たったとしても自己修復ですぐに元通り。暁が電磁波を放っても、破壊されたところからすぐに再生してしまうために致命傷には出来ない。あまりにも回復が速すぎる。

 

「ちょっ、回復早すぎでしょアレ!」

「隙を見つけるのも難しい……ですね」

 

 子日とフレッチャーもこれには苦しんでいた。あちらからの攻撃は当たらずとも、こちらの攻撃が全て意味を為さないとなると話が変わる。明らかに一撃で死にそうな場所に命中しても回復してしまう辺り、既に生命体としておかしな場所へと行ってしまっている。

 

 しかし、これは思い当たる敵が存在した。ここにいる面々は直接相対していない。だが、話には聞いているし、そういうものがいる、いや、()()ことは、うみどりの中でも有名な話。

 

()()()()()()()()()()()()……?」

 

 それは、現在おおわしで管理されている生きている首。生命力があまりにも強すぎて首だけでも普通に喋ることすら出来る敵、原元元帥(深海鶴棲姫)

 

 あちらのカラクリは、生命を維持するための心臓が、本体と艤装のどちらにもあり、どちらも破壊しない限り自己修復され続けるというもの。

 こちらと同じではないかと思うと、先程の川内の言葉──3()()()というところが引っかかることになる。

 

「あれ、護衛の艦娘と裏切り者の提督が()()()()()()()()()()()()なんだよ」

 

 ここからが先程の説明の続き。

 

 複数の忌雷を埋め込み、過剰摂取(オーバードーズ)によって肥大化した出来損ないと化してしまった護衛の艦娘は、ほとんど暴走状態だった。死したことにより理性など失われ、有り余る力がただ振り回すだけのバケモノになっていたのだが、その出来損ないはそれだけでは終わらなかった。

 異常な自己修復の速度を兼ね備えたバケモノは、事もあろうか2体の触手が絡み付き合い、互いに互いを捕食するかのように融合をしていったという。夕立は聞いているだけでも吐き気がしそうだった。

 

 そしてそれだけでは終わらない。融合した出来損ないは2体分の力とサイズを持ち、より周囲に被害を撒き散らすだけの存在へと昇華していく。

 裏切り者の提督はそれが自分を守ってくれると思っていたようだが、理性なきバケモノを『操縦』無しでどうにか出来るわけがない。

 その結果、調子に乗った裏切り者は、あの巨躯に巻きつく触手に絡め取られ、耳障りな断末魔の叫びと共に取り込まれていったという。

 

「それで成れの果て……ぽい?」

「そゆこと。自分でやったことで自分もああなったんだから世話ないね。でもそのせいで余計にデカくなっちゃってさ、下手したらあの中で忌雷に寄生されて、出来損ないになった挙句に融合したとかかもしれない」

 

 川内の見立てでは、あの巨大な中でも忌雷は生産されている。使った忌雷がどんなモノかはわかっていないが、今のあのバケモノは異常性が大量に付与されている。瞬時に自己修復がかかるのもその1つであろう。

 

「フレ子! 彩わかる!?」

 

 ここで夕立は共に回避し続けているフレッチャーの目でどう見えているかを確認。

 

「黒々としすぎていて何が何やら……! あ、でも他の皆様に何が起きているようなことはございません!」

「それはちょっと安心したっぽい。でも黒すぎる……かぁ、本当にグッチャグチャに混ざり合っちゃってるんだもんね。そうなっちゃうか」

 

 フレッチャーにより、軍港鎮守府の面々には忌雷が寄生していないことを保証してもらいつつ、巨体の出来損ないはあまりにも彩が混ざり合っていて黒にしか見えないという証言も入る。

 そうなれば、あとは仲間達と力を合わせてバケモノを退治するだけ。それだけなのだが、それが簡単に行くはずもない。

 

「子日さん、どうにか隙を作って、力をコピーさせてください。今はもう目は必要ないかと思います」

「だね。多分子日の『迷彩』の方が戦いやすいよ。ただ、フレちゃんって力がちょっとランク落ちちゃうんだよね……何処がダメになるだろう」

「電探に引っかかるとかだと厳しいですね……。おそらくアレは周囲を電磁波で確認しているタイプです」

 

 バケモノは触手で埋め尽くされているような存在。見ただけでも顔と呼べそうな場所が微妙にわかりにくい。それはこれまでの出来損ないと似たようなモノ。代わりに360度全方位に対して視野が届いているとも言える。死角など何処にもない。

 それを潜り抜けられるのが子日の『迷彩』だ。電探なども全て無効化する、完全に()()()()()力。これならばバケモノにも感知されずに行動が出来る。

 しかし、その力をコピーし、劣化した場合、フレッチャーの『迷彩』はどうなってしまうのかは未知数。意味のないモノになる可能性も無くはない。やってみなければわからないが、やるにはそれなりに時間が必要。

 

「足止めは出来るわよ。電磁波を脚に当て続けるから、その時だけは」

 

 暁の電磁波によって脚を破壊し、修復している最中もぶつけ続ければ多少は変えられるとは思われる。

 しかし、そうしていると暁が狙われるようになるだろう。バケモノは本能的に目障りなモノから狙いを定めるようにも見えたため。

 それを回避しながらとなると、作れる時間はかなり少ない。それでもやらないよりはマシか。そう考えていると、ここにいる最後の1人が前に歩み出た。

 

「時間作レバイイノ? ソレジャア、私ガイロイロヤッテミヨウカ」

 

 忌雷キラー、ムーサが出来損ないに臆することなく向かっていく。

 いくら忌雷に対して耐性のあるムーサであっても、ただただ攻撃力も高い出来損ない相手では分が悪いようにしか見えない。姫だからとかそういう次元は超えてしまっている。

 

「砲撃ハ避ケレバイイデショ。デッカイパンチハ──」

 

 ムーサを狙う砲撃は軽々と回避。そこは軽巡棲姫としての実力。だが避けたところに拳を重ねられたら、避けようにも避けられないタイミングというのは出てきてしまう。

 あちらは狙いを定めるなんてことはしていない。理性なく、本能的に、見境なく暴れているだけ。近付いたら取り込む。離れたなら壊す。ただそれだけのバケモノ。

 

 だが、ここで忌雷キラーな姫、本領発揮。

 

「私ニゴハンヲクレルダケダヨ」

 

 襲いかかる拳が、ムーサの前ではゾリッと()()()。ムーサがそこに触れた瞬間、まるでアイスクリームをスプーンで掬い取るかのように、肉が削がれたのだ。

 

「ウワ、美味シソウジャナイシ、実際匂イハ臭イシ、食ベラレタモノジャナイヤ」

 

 そう言いながら削いだ肉片を捨てる。

 

「む、ムーサ! それ平気!?」

 

 夕立が心配しているのは、削いだ際に付着した体液。腐食性のそれは、少し触れただけでも身体を蝕む。

 しかし──

 

「ン? 何ニモナイヨ。タダノ()()()()()()()()()デショ」

 

 ムーサには通用しなかった。

 

 

 

 

 忌雷に対しての絶対的な捕食者であるムーサは、特異点の願いにより生まれた存在。その性質を知っている段階で願われたのだから、そこに耐性だって持っている。

 

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