後始末屋の特異点   作:緋寺

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詰みを乗り越えて

 複数の忌雷を取り込んだ出来損ないは、内部でそれを『増産』し続けていることによって、自己修復も込みで瞬時に回復するだけでなく、補修すら入って強化されていると分析された。そのせいで、今の出来損ないは触れただけでも寄生される可能性すらあり、近接戦闘は不可能と判断。

 それが唯一出来る存在であるムーサが出来損ないを削ぎながら調査を続けると、その内部に芯となっている何者かを発見、さらにその奥に核となる忌雷が寄生していると考えられるところまで来た。

 

「よーし、じゃあ子日が行ってくるよ。気をつけなくちゃアレに巻き込まれちゃうから、慎重にね……!」

 

 それをどうにかするためには、特機による忌雷の引き抜きが有効。しかし、芯となる何者かに手が届くのはムーサのみ。その結果、ムーサに特機を渡し、それを出来損ないの体内に埋め込むことで対処しようという策に出ることとなる。

 その忌雷を渡す役を引き受けたのが子日。今ならば『迷彩』の曲解を持つため、出来損ないからは感知されないで済む。ムーサが常に自分に目を向けさせているとしても、何も対策を取らなければ、その目が突然向いてくる可能性はある。それも考えて、少しでも確実な者がその役目を担った。

 

「フレちゃん、ひとまずちょっと貰っていくね」

「はい、お預けします。何かありましたら、我々も援護いたしますので」

 

 イリスの目をコピーしているおかげで、『迷彩』の曲解を発動している子日の姿も朧げにだが確認出来ているフレッチャー。裸眼でなければ見えない代わりに、裸眼ならば見抜けるという特性も引き継げていたのは運が良かったとも言える。

 子日の行動が確認出来るため、姿が見えないところに忌雷を預けた。現在フレッチャーは忌雷を5体確保していたが、そのうちの2体を子日に渡している。残り3体は緊急時のために手元に残した。

 

「暁! こっちは子日が行くっぽい! ムーサの援護出来る!?」

「大丈夫。周りに妙な邪魔をされないように援護するわ。飛び散ってる肉片とかは、すぐに電磁波で壊すから」

 

 暁には子日の姿は見えていない。だが、どの経路を通ったとしても害が無くなるように、ムーサが処理をしたことで周囲に散ってしまう出来損ないの肉片は、即座に電磁波照射装置を放ち、忌雷を破壊している。

 確実な道が出来ているわけではないが、子日としてはまだムーサに近付くためのルートは見えていた。撒き散らされる体液を避け、確実に前へと進むために動く。

 

「ムーサちゃん! 今から特機を預けるから!」

「食ベテイイノ!?」

「ダメダメダメ! それの奥に突っ込んで!」

「ジョ、冗談ダヨー。今ハマズコレヲドウニカシナキャダモンネー」

 

 言いながらも少しガッカリしている表情は誰も見逃していない。とはいえ、もう頼れるのはムーサだけなのだから、そこには誰もツッコまない。

 

「子日が合図したら、後ろに手を伸ばして。手のひらに特機を置くよ!」

「ハーイ。ジャア、ソノ時ニ一度、コレヲ突キ飛バスヨ。安全ニ出来ルヨウニネ」

 

 ムーサならばそれも出来ると、改めて出来損ないに向かい合う。

 

 身長差は酷いことになっているのだが、ムーサはものともせずにその攻撃をしっかり避け、時には腕や脚を抉っていく。念のため、自己修復の限界が無いか調査しているのだが、そのせいで徐々に強化されていくのも面倒なところである。

 削いでいけばいくほど、体液は撒き散らされるので、ムーサはその体液が所々に付着してしまっていた。本人は無傷でも、仲間達はムーサに触れることは出来ない。

 

「大キイノニ速イカラ厄介ダナァ。モウ一度腕ヲ突ッ込マナイトイケナイノニサァ!」

 

 ここでコレまでとは違い、ムーサが本格的に格闘の動きを見せる。これまでは受けながら探りを入れていたが、今度は率先して能動的に攻撃を始めた。

 子日に特機を渡してもらいやすくするためにやったのは、出来損ないの膝を蹴り飛ばしながら逆方向に折ること。巨体であるが故にバランスが悪く、上手く小突いてやることで、それだけでフラつかせることは可能。

 

「子日! 今ナラ動キヤスイカナ!」

「ナイスだよムーサちゃん! すぐに行くから合図待って!」

 

 出来損ないがバランスを崩したところでムーサは小さく跳び、胴に向かって強く蹴る。崩れたバランスは更に崩れ、出来損ないは大きく横転。腕を振り回そうとしたこともその原因となったのだろう。

 理性もなく、本能のままに、敵味方の区別なく暴れているからこそ、こういったちょっとした攻撃で崩れる。復帰も速いが、少しは隙が出来る。

 

「ミンナ、少シデモ撃ッテ!」

 

 その復帰を更に遅くするために、横転した出来損ないに掃射を指示するムーサ。そんなことをしても斃せないことはわかっているが、今は子日がムーサに特機を渡す時間を稼ぐことが重要。

 それは誰もがすぐに察することが出来たため、夕立や綾波、角度が違う上から川内による砲撃が開始。折れた脚は既に修復済みではあるが、立ち上がるためには姿勢を変える必要がある。それを重点的に狙った。

 

「これで気にされないというのも癪ですねぇ」

「愚痴らないの」

 

 砲撃が効いていないことに苦笑する綾波を、暁は嗜めながら電磁波照射装置も使って起き上がるのを少しでも遅らせる。砲撃よりも有効打になっているおかげで、明確に影響を与えているが、それでも1秒が2秒になる程度。

 その間にムーサは自分から目を離させないようにしつつ、子日からの特機受け渡しを待つ。

 

「ムーサちゃん! 真後ろに手を伸ばして!」

 

 なんとか体液などを避けながら器用に移動してきた子日。誰よりも素早く、誰よりもテクニカルに行動が起こせる子日でなければ出来なかった早業。

 声だけの子日からの合図に、ムーサはバトンリレーのように腕を後ろに伸ばした。すると、その手に3体の特機が絡み付いたのを察した。

 

「ヨシ! 子日、スグニ離レテネ」

「あとはよろしくね!」

 

 姿は見せずとも、子日の声が遠退いたことがわかり、ムーサは再び出来損ないに一気に接近。この時にはもうほとんど起き上がってきていたのだが、その胸に腕を突き入れる。その手には3体の特機を持って、体液を撒き散らされても気にせずに。

 特機自身も、この衝撃でムーサの腕から離れないようにしっかりと力を入れて耐えていた。周囲は肉のようになっているが全てが忌雷のようなもの。特機には何も通用せず、腐食性の体液を受けたところでほぼ同種の忌雷なのだからダメージを受けることもなく、目的を達成するために目は無いものの正面を見据えた。

 

 出来損ないもそんなことをされたら黙っているわけがない。その巨腕を振り翳し、ゼロ距離のムーサに殴り掛かる。

 理性と知性が無いバケモノは、それまでそれでどうなってきたのかを覚えていないのか、それとも知っていても本能的にそう動いてしまうのか。

 

「邪魔シナイデネ」

 

 その腕はやはり、ムーサの突っ込んでいない方の手で軽く払われる。すると、やはり触れたところから削げた。飛び散った肉塊は、こちらも暁が電磁波でしっかり破壊。

 

「サッキハコノ辺ダッタト……ッ」

 

 出来損ないに痛覚があるかはわからないが、ムーサは先程よりもむしろ奥まで腕を突っ込んだ。

 少し触れる程度では足りない。特機をそこに届かせるためにも、巨体に身体を押し付けることになっても構わないと、無理矢理に腕を押し込む。

 

 すると、見つかった。確実に手が触れた。指先だけではない、しっかりとその部分を押し込めるくらいの感触で。

 

「アッタ!」

 

 瞬間、ムーサの手のひらに最も近い位置に待機していた特機が、肉を押しのけるように突き進み、その芯となっている何者かの身体に接触。強引にその中へと入っていく。

 

 だが、出来損ないもそれだけでは終わらない。まとわりつくムーサを離れさせるため、逆に突っ込まれることを顧みず、ムーサを押し潰さんと体重をかけてきた。

 質量は当然ながら出来損ないの方が上、普通ならばこんなものは耐えられず、さらには寄生と融合までされてしまうため、そのまま出来損ないの一部になってしまう。しかし、忌雷キラーであるムーサには後者は効かない。よって、質量さえどうにかしてしまえばいい。

 

「今なら頭にぶちこんでやればいいでしょ! 全員同じ方向から頭狙いな!」

 

 それを真っ先に実行したのは川内だった。角度が違う攻撃では意味がないと地に降り立ち、夕立やフレッチャーにも移動を促す。それを受けた2人はその後をすぐさま把握し、撒き散らされた体液に気を付けながらも、ほぼ同じ方向へと移動した。

 それを見ていた綾波や、姿を消していた子日も、効かないとわかっていても一斉に攻撃を始める。全員頭狙いの集中砲火。少しでもバランスを崩し、ムーサへののしかかりを阻止するために。

 

「1体、掴ンダ!」

 

 その攻撃が功を奏し、ムーサは押し潰されることもなく、芯から1体の忌雷を引き摺り出し、強引に真上に放り投げた。

 本当は食べたかったのだろうが、今はそんなことを言っている余裕が無いため、当人としては泣く泣く手放す。

 

「ナイス! すぐに壊す!」

 

 そしてその放り投げられた忌雷は、暁の電磁波によって即座に破壊。それがこの出来損ないの何処の部分を担っているかはわからずとも、核となっている部分が欠けたのならば、何かしらの影響が出てくるはず。全ての核が増産であったとしても、1体欠ければその速さと量は少しは失われるであろう。

 

「次、抜クヨ!」

 

 出来損ないが少し苦しんだように身を揺らすが、ムーサはそんなことお構い無しに、再び腕を突き入れる。1体くらいはおこぼれを貰おうとか少しは考えながらも、まずは暴れる巨体を止めなければ、ゆっくり味わうことも出来やしない。

 

「……あのヒトがいなかったら、本当に詰みだったわね」

 

 暁が改めて溢した。忌雷キラーたるムーサがこの場にいなかった場合、この対処不能のバケモノに対して何が出来ただろうかと。

 おそらく何もすることが出来ず、どうにか逃げる算段をつけて撤退していただろう。出来損ないを地下に放置し、どうにか出来るという深雪や白雲の治療が終わるのを待つしかない。その間に出来損ないがどれだけ暴れても見過ごすしかない。

 そんなやり方を許せるとは思えない。少なくとも綾波は()()()()()()()()()()()()。逃げるような策も取れなければジリ貧もいいところ。

 

「次、コレ!」

 

 そうこうしているうちに2体目が引き抜かれる。1体抜いてからはテンポが良くなっていき、2体目は手早く放り投げられた。それも勿論暁が電磁波で破壊。

 

 

 

 

 ここまで来たら、勝利は近い。しかし、最後まで慢心はしない。ムーサの処置を手助けするため、仲間達は緊張感を持って援護を続ける。

 

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