後始末屋の特異点   作:緋寺

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突然変異

 出来損ないから忌雷を引き抜くため、ムーサの猛攻が続く。仲間達のサポートを受けながら、現在2体の忌雷を、芯となっている何者かから引き抜いて、体外へと投げ捨てている。それは暁が電磁波によって破壊しているため、余計な寄生は起きることは無い。

 

「ヨッシ、コレデ3体目ッ、カナ?」

 

 作業を続けるムーサは、続いて3体目の忌雷を引き抜く。芯から抜いている確かな手応えがあり、今やられなければならないことは出来ているという確信がある。

 しかし、出来損ないの力は減ることはなく、サイズもそのまま。むしろより強固に結合しているようにも思えた。忌雷は忌雷なのでムーサには何も影響は無いのだが、引き抜きは終わりが見えなくなってきている。

 

「何も変わらない……」

 

 それには暁も気付いていた。投げられた3体目の忌雷を電磁波で破壊しながら分析を続けているが、ムーサのこの一手が有効打になっているようにはどうしても見えなかった。

 

「バランスは崩しやすくなってますねぇ。でも、性質の変化は綾波にも見えませんねぇ」

 

 綾波もこの終わらない援護に若干違和感を持ち始めている。忌雷が引き抜かれたら少なからず変化があるはずなのに、それがない。『増産』によって補修が繰り返されているとはいえ、芯から抜いているはずなのに。

 

 むしろ、()()()()()()()()と気付くのはすぐだった。やたらと増え続ける忌雷が身体を補修するなら、()()()()()()()()()()()()()()()()のではと。

 

「もっと特別な忌雷があるかも!」

 

 それをすぐにムーサに伝える。それこそ、『増産』とは違う忌雷のせいでそれが発生しているのだから、まずはそれを抜かなければ堂々巡りになると。

 ムーサとしては、無限に忌雷を発生させる存在は嬉しいモノ。しかし、それが襲いかかってくるとなれば話は別。仲間達の援護があるから、何の心配もなく忌雷の引き抜きが出来るものの、それが無ければ質量の差で押し潰されている。

 ムーサとて姫。そう簡単に負けることは無いとはいえ、斃し切れない敵と延々戯れているのは面白くも何とも無い。

 

「特別ナ忌雷、ネッ」

 

 一度引き抜いた手から、特機を1体もう片方の腕にパス。そして、両腕を以て出来損ないの体内を探り始める。

 これまでは片腕で、より奥に届くように手を伸ばしていたが、今回は捜索をメインに据えたので、届くことよりも広範囲に探ることが出来るようにした。

 

 その弊害として、出来損ないの身体に上半身をベタ付けしなくてはならなくなっていた。普通ならこんなことをしたら寄生やら融合やらでひとたまりも無いのだが、ムーサの特性上、その心配はない。

 ここまで肥大化しているとしても、その性質は忌雷であることには変わりなく、どれだけ手を出そうとしてもムーサには傷をつけられない。寄生しようとしても触手が歯が立たず、寄生出来なければ融合も出来ないため、ムーサが何をやってもただ見ていることしか出来ない。

 そして、知性があればムーサから離れようと考えるものだろうが、知性もなければ理性もなく、本能でしか動いていないため、最も近くにいるムーサを排除しようとただただ攻撃を続けるのみ。稀にのしかかりなどの有効打を実行しようとするものの、それもまた考えてやっているわけではない。邪魔なものを排除しようと行動しているにすぎない。

 

 そのおかげで、ムーサは何の障害を感じることなく作業に集中出来た。強いて言うなら、出来損ないが普通の忌雷と比べると()()というのが気になるくらい。鼻が利くムーサにとっては、それがこの上なく不快ではあるのだが。

 

「何処カニ、アルカモ……!」

 

 探し出そうとしているのは、出来損ないをこのようにしてしまっている元凶となる忌雷。なんの力によってここまでの大事を起こしているのかはわからずとも、暁の()()()()()という言葉から、この出来損ないの中に特殊な何かが入っていないかを探り続ける。

 

 そして、特機もそれを発見した。

 

「ンン? ナンカ見ツケタ?」

 

 手首に触手を絡ませる特機が、これまでよりも強く絞めてきたことで、ムーサは確かな手応えを感じた。元凶となり得る忌雷の発見と思い、より深く手を突っ込む。もう顔面は出来損ないに食い込ませるほど。

 その光景を見ながら援護砲撃を続ける仲間達は、ムーサのその行動に素直に感謝していた。自分達ならば絶対に出来ない手段を続け、この戦いを勝利に導く存在。いわば彼女も()()()()()()()()()だと思っていた。

 

「ヨシッ、掴ンダネ! ソレジャア、セーノッ!」

 

 特機が何かを掴んだと手首に合図を送ったようなので、ここからはムーサの力業が始まる。ただそれを体外にまで引っ張り出すため、渾身の力で腕を引き抜く。

 

 しかし、それが本当に大切な忌雷なのだろう、ムーサの腕に纏わりつく忌雷達が、絶対に引き抜かせまいと強引に絞めつけはじめた。むしろ、融合が出来ずともムーサを引き摺り込もうとまでしていた。

 こうなるともう綱引きである。特別な忌雷を引き抜くために踏ん張るムーサと、そのムーサの邪魔を阻止するために食い止める忌雷群。数では圧倒的に忌雷が多いが、ムーサはその忌雷を確殺する者。抵抗があったとしても、その性質によって確実に上回る。

 そしてそれは特機も同じ。忌雷に特異点の煙幕の力が付与された、本来の忌雷に一段階上乗せされた存在と考えてもいい。忌雷にどれだけ襲われても、破壊されることなんて無い。

 

「抵抗スルンジャ、ナイヨ!」

 

 グリッと腕を捻りながら、確実にその忌雷を引き摺り出す。ゆっくりとでも、その場から離れさせれば、何かが変わる。

 

 そして──

 

「ヨイショーッ!」

 

 一度勢いがついてしまえば、そのまま流れはムーサに来る。体液塗れになった腕がズルリと引き抜かれ、勢いが良すぎてムーサは後ろにすっ転んでしまった。

 その両手には、これまでとは明らかに違う忌雷が握られていた。ただでさえ異形と言える忌雷が、より気持ち悪く進化したようなおどろおどろしい奇形となっていた。それも、2体である。

 

「抜ケタァ! ドウナッテル!?」

 

 その奇形忌雷を握り締め、出来損ないの姿を確認するムーサ。すると、その動きは完全に止まっており、小さく震えたかと思うと、ボタリと四肢の端から肉片が落ちていく。そのカタチを維持出来なくなったか、床に落ちた肉片はすぐに溶けだした。腐食性の体液というよりは、カタチが保てない忌雷のような、そんな雰囲気。

 

「ウッワ、何コレ!」

 

 ここで初めて、自分の手に握り締められた忌雷を見て驚くムーサ。普通の忌雷では無いことが見てわかるそれを掲げて、仲間達に見せつける。

 

「……あれ、突然変異……よね」

「そうとしか思えないっぽい。あんなのコレまでで見たことないもん。深雪が作った特機でも、あんな気持ち悪いの出てきたことがないし」

「身体の中に2つ入れられたことで変なことになったんでしょうね……出来損ないになっちゃったわけだし」

 

 暁の分析でも、コレに関しては憶測でしか話せない。だが、本来許容されていない複数体の寄生が()()()()を出した一例ではないかと考えた。

 ちなみに()()()()が前回の鎮守府で起きた叢雲の変化である。あちらは3体の寄生を耐え切った、本当に相性が良かった奇跡の例とも言える。夕立が暁に叢雲みたいなことがあったと伝えると、暁もその憶測はあながち間違いではないのかもと結論づけている。

 

 事実、2体目の忌雷が、寄生の際に運悪く先に寄生した忌雷に寄生の触手を伸ばしてしまったのが今回の突然変異の理由であったりする。

 忌雷に忌雷が寄生するという前例無しの事象が、出来損ない化と同時に、周囲を捕食する──忌雷に寄生するという特殊な性質を獲得してしまったことから生まれた本能を暴走させてしまい、このようなバケモノにまで昇華されたのである。

 

「ムーサちゃん、流石にそれは食べないでね。何が起きるかわからないし」

「私モコレハ食ベタイッテ思ワナイカナァ。匂イモ変ダシ、カタチモ変ダシ。美味シクナサソウダカラ廃棄デイイヨ」

 

 子日の念押しに、ムーサも流石にコレには食指が動かないと苦笑。そして改めて突然変異した忌雷を真上に放り投げた。それを暁がすかさず電磁波で破壊。突然変異とはいえ、忌雷としての性質はそのままであり、電磁波が効かないなんてこともなかった。

 

 そんな突然変異の忌雷を引き抜かれたことで、巨体の出来損ないはそのカタチを維持することが出来なくなっていた。身体中に増産の忌雷がひしめいているようなものなのだが、先程まで体内にあった忌雷のおかげでそのカタチを維持出来ていたようなもの。

 

「これで終わりでいいっぽい? フレ子、何か変な彩とか見えてない?」

「現状では何も。あの出来損ないからも彩が消えていきます。忌雷としての命も潰えていくのでしょう」

 

 これまで混沌とした黒の彩を見せ続けていた出来損ないも、核が引き抜かれたことによってその役目を終える。ドロドロと溶け出す様子は気持ち悪いとしか言えず、それが腐食性の体液を伴っているのも考えられたので、全員そこから離れた。

 唯一ムーサだけはそれを浴びることになってしまったが、その特性によって無傷。しかし、そんな状態で近付かれても困るため、どうにかして何処かで洗いたいところ。一応この地下空間にも潜水艇──出来損ないの無差別砲撃でグチャグチャに破壊されているが──が存在しているため、それが潜るための海水はそこにある。運良くそこまでは体液が流れ込んでいないため、ムーサはそこで身体を洗うことにした。

 

「……まぁ、こうなっちゃうわよね」

 

 それを待つ間に、出来損ないの残骸を遠目に確認する暁だが、思わず目を逸らしたくなる光景。

 本来ならば忌雷を引き抜かれた時点で元の姿に戻るだけで済むのだが、突然変異に巻き込まれてしまったせいで、元に戻れたとしてもそこには体液がぶちまけられているようなもの。

 つまり、遺体もそれによって腐食させられ、カタチがまともに残らなくなってしまっていた。

 

「裏切り者は別にどうなっても構わないんですけど、巻き込まれた艦娘の方は堪ったものじゃないですねぇ……」

「あの者の下につくことになったせいで、こんな酷い最期を迎えることになったのですね……ただの不幸では言い表せません……」

 

 綾波もその腐った亡骸には同情し、フレッチャーに至っては自分もこうなっていた可能性を考え、涙目になっていた。

 

 

 

 

 出来損ないの討伐はこれで完了。この鎮守府での戦いは、これを以て終了となる。

 しかし、これもまた後味の良くない終わり方となった。

 

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