後始末屋の特異点   作:緋寺

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2つ目は終わるも

 その頃うみどりでは、海上に散らばっていた艦娘達を拾い集めては、捕虜として工廠に放り込んでいた。

 既にとっ捕まっている1つ目の鎮守府の捕虜の中には、別の鎮守府の艦娘も同じように転がされたことに対して、役立たずと溢す者もいた。それを聞いた時雨はすかさずそんな口を利いた捕虜に向かってニッコニコで向かっていき、しゃがみ込んで顔を合わせる。

 

「よくもまぁそんなことが言えたものだね。君達の方が早く捕まったんだから、よっぽど役に立っていないんじゃないのかい。というか、どんぐりの背比べだよ。どちらもこの世界の役にも立てない、生きているだけで場所を取るような、酸素を消費する生ゴミみたいなモノだというのに。何か言い分はあるかい役立たず」

 

 ここで言い返したら、数倍で返されることを理解している捕虜は、時雨に絡まれた時点でだんまりを決め込む。その様子にこれ見よがしに溜息を吐いて、耳にタコが出来るほど伝えた言葉を吐き捨てた。

 

「ただこれだけで黙るくらいなら、最初から喋らないでくれるかな。自分の立場もわからないのに口が開ける図々しさには、そろそろ感心してくるよ。何度言い聞かせても覚えることが出来ないのは、ただ頭が悪いだけだと思いたいけどね」

 

 本当ならその捕虜に暴力の1つでも振るってやりたいところだったが、そうすると自分達の立場が不利になりかねないため、呪いに苛まれていてもそこだけは我慢。むしろ、暴力を引き出そうと悪態をついているのではないかと勘繰ってしまうほどである。

 

「これで全員ね。うみどりもようやく前に動かせるわ」

 

 倒れていた艦娘達を全員工廠に入れたことを確認し、伊豆提督は改めてうみどりの航行を再開。少しでも鎮守府に近付き、先行した夕立達のサポートをしなくてはいけない。

 特に先んじて突入している軍港鎮守府の艦娘達は、これだけの人数を先に相手してからの裏切り者捕縛任務だ。消耗もかなりしていそうなため、補給を受けてもらうという意味でも、少しだけ急ぎたい。

 

「流石にこの人数をそのまま乗せておくのは難しいんじゃないかい?」

 

 捕虜を黙らせた時雨が伊豆提督に問う。そんなことを言うのも無理はない。今ここにいる捕虜の人数は、既にうみどり所属の艦娘達の人数の数倍になろうとしているからだ。

 1つの鎮守府に所属している艦娘の人数は、その時点でうみどりよりもかなり多い。後始末屋という業務上、最初から少数精鋭であることは間違いないのだが、それでも一般的な鎮守府とは比べ物にならないほどに小規模。

 それだけの人数が生活するには充分余裕があるのが移動鎮守府のやり方だが、ここまで一気に人数が増えることなんてこれまでにない。鎮守府をまるまる1つ回収なんて普通はあり得ないのだ。

 

「そうね……もう工廠もいっぱいいっぱいだものね。足の踏み場もないと言ったら大袈裟だけれど、活動に支障が出ているのは間違いないわ」

 

 今や工廠を見渡せばそこら中に捕虜が入れられている状態。その全員が未だに敵意を失っていないというのが頭を抱えるところではあるのだが、生きているだけでもひとまずはヨシとしている。

 出来損ないから元に戻した遺体も、今は同じところに眠らせているような状況。捕虜よりも丁重に扱ってやりたいのに、とにかく場所がないというのが難点。

 

「そこで提案があるんだ」

「提案?」

 

 不敵な笑みを浮かべた時雨が話を続ける。

 

「生きてるなら別に問題ないだろうと思ってさ、次の鎮守府に全員捨てていけばいいと思うんだよ。どうせそこでも捕虜はいるだろうし、それこそ出来損ないだったら人間の亡骸もあるんじゃないかな。だから、自分の立場もわからない口だけは達者な捕虜は鎮守府に置いて、亡骸だけ回収していけばよくないかい?」

 

 遺体に関しては置いていくことは憚られるが、無駄口を叩くだけの捕虜は置いていっても苦ではないだろうと時雨は語る。

 伊豆提督も、この鎮守府に全員置きましたと大本営に連絡を入れて処置してもらえれば、うみどりは必要最低限の積載で済むと、時雨の意見には肯定的。

 

「余計な気遣いもいらなくなるしね。アレ、自分達がやらかしたことを全く理解出来ていないよ。黙らせておいたけれど、またしちゃ口を開く。学習能力も無いんじゃないかい」

 

 呆れたような、しかし呪いの発散も出来ているために楽しそうな、そんな時雨の表情に伊豆提督は苦笑する。

 

「一度相談しておくわ。アタシの独断で決めるわけにはいかないもの。でも、時雨ちゃんの案はアタシは推してもいいわね。更生施設に入れるとしても、結局は陸路を使うことになるんだもの。わざわざ全員をうみどりを使って一箇所に集めるくらいなら、もうあるこの鎮守府で受け渡しをした方が手早く済むわね」

「僕もそう思うよ。というかそろそろ飽きてきたんだ。アレに説教するのは。どうせなら新しい相手を言葉で滅多打ちにしたいね」

「ほどほどにね……?」

 

 善処すると時雨はニッコリであった。

 

 

 

 

 うみどりが移動出来たことで、鎮守府にかなり近い場所、目と鼻の先くらいにまで近付くことが出来ている。

 そこでは既に戦闘を終えて、この鎮守府で斃された艦娘達を工廠に並べていた夕立達がうみどりの到着に手を振って応えていた。

 

「捕虜はこれで全部。出来損ないは夕立達が持ってきてくれた特機で忌雷を抜いて元の姿に戻してる。抜いた忌雷は破壊済みだよ」

 

 大まかな説明は川内がさらっと実施。先に軍港鎮守府の保前提督にも連絡はしているため、伊豆提督もおおよその部分はそこから又聞きしているのだが、本人から聞くことで相違無いことも確認出来た。

 

「援軍、本当に助かりましたぁ。最後の敵は、ムーサさんがいないと絶対に勝てませんでしたからぁ」

「イヤァ、ソレホドデモ」

 

 綾波がそう言うくらいの敵だったのかと伊豆提督は驚いたものの、詳細を聞いたことでなるほどと合点がいった。撃っても即回復するのに、触れるだけで寄生は流石にただの艦娘では荷が重すぎる。忌雷キラーとしての性質を持つムーサが身体を張った手段に打って出たから、戦闘メンバーの誰もが無傷でいられた。

 軍港鎮守府の艦娘達からも評価が高いムーサは、ニコニコしながら改めてうみどりの設備で洗浄に向かっていった。海水である程度は流しているものの、身体が腐食液にまみれたのだから、入念な洗浄が必要だろうと常々言われていたらしい。ムーサ自身も、自分の身体が臭うと思っていたようで、洗浄を望んでいた程である。

 

「先にいろいろと連絡はさせてもらってるわ。うみどりで捕らえている虜囚も、この鎮守府に置いていく。今、元帥直属の艦娘が陸路を使って回収に向かって来てくれているの」

「なるほどね。じゃあ、降ろすの手伝おっか。文句言ったら引っ叩けばいい?」

「それはやめてちょうだい。急に加害者扱いされるかもしれないわ」

 

 川内もそれは嫌だなぁと暴力に訴えるのは控えることにした。腹が立っても自制することと、むしろ綾波に言い聞かせる。

 そんなことしませんよと笑顔を見せるが、その性質をさらに理解している暁がその手綱を握り、悪い方には行かないようにコントロールした。

 

「出来損ないも結構いたっぽい。そっちはうみどりに積み込めばいいんだよね?」

「ええ、お願い。丁寧に扱ってあげてね」

「ぽーい」

 

 流石の夕立も、犠牲になった者達を手荒に扱うようなことはしない。捕虜相手ならその限りでは無いが、今はそちらよりも遺体の運び出しを優先した。

 

「……これだけの被害が出ているのね……これでまだ2つ目よ」

 

 2つの裏切り者鎮守府を処理した時点で、出来損ないを治療した遺体は相当な数となっている。一度の戦いでもここまでの死者はなかなか出ない。鎮守府を運営している中でも見ないほどの数。

 気が弱い者ならば、それだけでも目を逸らしたくなる光景。それに大きく関与している者達ならば尚更である。

 扱いは捕虜だが、今はうみどりの手伝いをしている羽黒や名取も、そちらの方には目を向けることが出来ない。潮に至っては泣きそうな顔である。唯一高波だけはムーサに連れられてここにいないので、どのような反応をするかはわからないが、その気の弱さからして、いい顔はしないだろう。

 ついさっきまで、この遺体達のことを扱き下ろすような心に変えられていたのもあり、苦しみは人一倍と言える。

 

「あと4つ……今頃何処かの鎮守府が対処してくれていると思うけれど……トシちゃんのところの精鋭でもここまで苦戦させられているし、綾波ちゃんが絶対に勝てないって言う程の敵が出てきちゃったくらいだし……大丈夫かしら……」

 

 今一番の心配事はそこである。2つの鎮守府を制圧している間に、当然ながら他の鎮守府も戦いが進んでいるはず。そして、そちらでも今回のようなことが起きていてもおかしくない。

 他の鎮守府は鎮守府で、独自の手段で攻略を進めているだろう。手に入った情報は逐一報告し、対策に役立ててもらえるようにしている。最前線を行っているのは間違いなくうみどりであるため、ここの情報は他の鎮守府としてもありがたいモノ。

 

 先程ここの件を瀬石元帥に伝える時に、他の鎮守府の戦況を聞いているものの、状況はそこまで良いものではないと、苦しそうな表情で語られた。

 うみどりはここまでの戦いと保有戦力の違いで攻略が容易なだけ。他の鎮守府は深雪のような特異点や白雲のような曲解持ちは以ての外、忌雷に対して有利に出られる特機も無い。あるのは忌雷を破壊するための電磁波照射装置のみである。

 そこに敵の情報が追加されたところで、慎重に行くならばどうしても攻めあぐねてしまうところも出てきてしまうし、嫌でも撤退を余儀なくされてしまうところもある。

 

「……酷い戦いね」

 

 そんな言葉も溢してしまう程に、この戦いは見るに堪えないモノである。本来ならば手を取り合って戦争を終わらせるために尽力する鎮守府同士が、思想の違い──片方は私利私欲のようなもの──で内乱を起こしてしまっているのだ。あまりにも無駄な戦い。やらなくてもいいことで時間を費やしているとしか思えない。

 

「早く終わらせなくちゃ……でも、焦ってもダメよね。アタシ達が今出来ることを確実に進めていかなくちゃ」

 

 気合を入れ直し、伊豆提督は現状報告のために執務室へと向かった。

 

 

 

 

 裏切り者との戦いが始まり、精神は疲弊していく。だが、急いては事を仕損じる。

 あくまでも冷静に。心を落ち着けて、この戦いを終わらせるために前進するのみ。




まだまだ終わらない裏切り者との戦い。半分にも達していないけれど、果たしてどうなるのか。
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