後始末屋の特異点   作:緋寺

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苦しみからは抜けられず

 深雪の入渠、そして両腕の治療も終わり、ここからは現場到着までの自由時間となる。

 自由と言っても外は夜。やれることなど少なく、ひとまずは次の戦いに備えておくというのが専らやらねばならないこと。

 

「そういや、捕虜がいなくなってんな。何処にやったんだ?」

 

 治療が終わったことで工廠に戻ってきた深雪は、休む前にそこら中にいた反抗的な捕虜達が何処にもいないことに気付く。それを口で言い負かしてニコニコしている時雨の姿も今はない。

 

「捕虜は2つ目の鎮守府で、大本営に引き渡したのです。うみどりがいっぱいいっぱいになりそうだったので。時雨ちゃんが提案したのです」

「そっか、そりゃあそうなるよな。アレだけいたら足の踏み場もなくなっちまうよ」

「なのです。なので、今のうみどりには()()()()()()と、出来損ないを綺麗にした遺体が残っているだけなのです。遺体の方は、電達が入れない立ち入り禁止区域に運ばれたのです」

 

 救った遺体であっても、数が多ければどうしても空間を圧迫してしまうというもの。工廠に放置しておくなんて以ての外だし、部屋に寝かせるにしても多すぎてそこまですることも出来ない。ならば、その辺りは妖精さんに任せるのが妥当である。適当なことをしてはいられない。

 

「限られたヒト……ってのは、ああ、わかってくれた奴らか」

 

 それもすぐにピンと来る。というのも、前回の鎮守府で忌雷を引き抜き、そのおかげで正気に戻った4人の艦娘。それらは今、工廠にはいないものの、各々が出来ることをということで、主に伊豆提督と話をしたり、手伝えることを手伝ったりで貢献している。

 

「あとは、軍港の艦娘さん達も今だけ便乗してくれているのです。担当していた敵が終わったので、次の近場に一緒に行くというカタチで」

 

 軍港鎮守府の3人も、今はうみどりで待機中。次の戦いのために英気を養っているところ。

 保前提督からも是非頼むと言われ、伊豆提督は快諾。今は少しでも仲間が多い方が戦いやすいのだから、強力な艦娘がいてくれるだけでありがたい。

 

「……そういやさ、叢雲はどうなった? ()()()()になるんだ?」

 

 ここで深雪はそこに気付いた。改心した4人はうみどりの手伝いを、改心していない捕虜達は大本営に連れて行かれたというのなら、現状がどちらとも言えない叢雲はどうなってしまったのかと。

 真実を知ってしまったことで戦意を喪失し、むしろ生きる意思すら失ってしまったような雰囲気を出していた叢雲。深雪が最後に見た姿も、力無く項垂れて、自分の力で動くことすら出来なかったほど。

 そもそもが戦闘でボロボロだったというのもあるが、大切なモノを失ってしまったことで空っぽになってしまったようにすら見えた。

 

 深雪のその問いに、電は答える。

 

「叢雲ちゃんは、まだうみどりにいるのです。身体がボロボロだったので入渠させたかったのですが、本人が動けなく……ううん、()()()()()、無理矢理入渠させることも難しく……今は何処かの部屋にいてもらっているところだと思うのです」

 

 強引に入渠させることも出来ただろうが、叢雲自身がそうなりたくないという空気を出していたようで、妖精さんも今はやめておいたらしい。忌雷が抜かれたことで3体寄生の反動で滅茶苦茶になってしまっているのは確かなのだが、死に至る傷は無かったために、一応は自然回復も可能といえば可能とのこと。

 

「……ちょっと話をするか。あたしと話がしたいかはさておき、どういう状況かは見ておきたい」

「なら、ハルカちゃんさんに何処にいるか聞くといいのです。電も細かい場所までは知らないので」

「ああ、そうする。アイツだって、救われるべきだと思うからさ」

 

 グレカーレと白雲もそれには同意していた。鎮守府地下での戦いでは痛い目を見せられたが、その境遇をその場で聞いていることもあり、同情の思いの方が強い。

 確かにやってきたことは罪深いモノである。謝って済む問題でもないし、取り返しのつかない問題ばかり。だが、叢雲だって騙されていたようなモノ。子供の頃からそうなるように育てられてきたと言っても過言ではない。いわば、誰よりも深い洗脳教育を受け続けてきたのだ。

 

「今は考えることばっかだろうけど、まずは話す。それで変わるかわからねぇ。でも、やらないよりはやった方がいいよな」

「なのです」

 

 まだ今は時間がある。その間に、なるべく悩みは解決しておきたかった。

 

 

 

 

 伊豆提督に入渠が終わったことを話すと、やはり両腕のことを気にされた。伊豆提督も明石からそのことは事前に聞いており、動かなくなる可能性、その後の治療法についても理解の上で、全て委ねるカタチで任せていた。

 

 深雪の腕が動いていることを喜びつつも、特機の寄生によるモノであることを説明されると、そうなってしまったのかと悲しそうな表情に。

 深雪自身は、今動いているのだから、ひとまずは問題ないと笑って済ましているが、あまり触れたくはない話題でもあるので、伊豆提督はすぐにその件は切り上げる。

 

「叢雲ちゃんだけれど、今は空いている部屋に入ってもらっているわ。入渠を拒んだけれど、そのままだと不衛生だったから、無理矢理だけど洗浄だけはしてもらった。うみどりのためでもあるから」

「無理矢理入渠は厳しいのか?」

「そうね……気を失っていたのなら関係なかったんだけれど、叢雲ちゃんはあれだけ消耗しているのに眠ることすらしていないのよ。身体がボロボロでも、無理に入渠させようとして突然暴れられたら困るから、今はあの子の意思を尊重しているのよ」

 

 洗浄は受け入れたようだが入渠は拒む。自分にのしかかる罪があまりにも重すぎて、どうすればいいのかわかっていないとも考えられる。反省のカタチとして、入渠などせず、痛みを以て償う、なんてことも考えている可能性があるので救われない。

 いやむしろと、伊豆提督は思っていることを口にした。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()わね……」

 

 鎮守府制圧の際に夕立の話していたこと──入渠ドックが忌雷の温床になっていたことを思い出した。あの鎮守府のドックは、治療のために使われていなかったのではないかとすら考えられる。

 入渠が忌雷による何かと同義であるならば、痛みを堪えてでも入渠を拒むのはわからなくもない。それこそ、ドックに入れられたら出来損ないになるとか、使い物にならなくされるとか。そういったことを長年見続けてきたのならば、()()()()()となってしまっていても無理はないかもしれない。

 改心出来たとしても、長く刻まれたそのようなトラウマはすぐには抜け出すことは出来ないだろう。しかも今は心が弱ってしまっている。そういう傷はより強く表に出てくるだろう。

 

「詳しいことは鎮守府にいた子に聞きましょ。いろいろ話してもらったけれど、その辺りはまだ聞いてなかったわ。鎮守府の方針とかやり方とかばかり聞いていただけだった」

 

 設備がどのように使われていたなんて考えてもいなかった。入渠ドックは入渠ドックとしてしか使いようがないだろうとしか思えない。伊豆提督は自分がまだ()()と反省。

 

「ともかく、アナタ達は叢雲ちゃんと話がしたいのよね。取りつく島は無いかもしれないけれど、是非話をしてあげてちょうだい。何処にいるかは教えておくわ」

 

 何かあった時はすぐに知らせるようにと念を押されて、深雪達は叢雲のいる部屋へと向かうことにした。

 

 

 

 

 その部屋は、空き部屋の中でも特に奥まった場所にある部屋。今は許可が出るまでは触れてやらないでほしいという伊豆提督からの指示により、誰かがいるという感じはしない。

 しかし、深雪がそこに行くと察したのであろう。部屋の前には、2人の影。

 

「……なんつーか、相変わらずだよなぁ」

「ホントホント。なんかあたし、いるんじゃないかなって思ったもん」

 

 そこにいたのは、神風と丹陽。察しのいい、というよりは良すぎる2人。深雪が鬱憤を晴らすためにスキャンプと大喧嘩をした時にも、さりげなくそこにいたくらい。今回と同じように察して、ついには先回りをしていたようである。

 

「神風、身体は大丈夫かよ」

「ええ、おかげさまで。ゆっくり休んである程度は回復したわ。次の戦いには出られるから安心してちょうだい」

「戦うたびに倒れるなら安心出来ねぇけどな」

 

 神風はついさっきまでは休養中だったが、それも無事終わったようである。2つ目の鎮守府襲撃に参加出来ないのは歯痒かったようだが、後から話を聞いたら行っても足手纏いにしかならなそうだったため、今回ばかりは良かったかもと思っていたようである。

 

「ボスはやっぱりムラクモが心配で来たの?」

「はい、あの鎮守府でいいように使われて、好き勝手されたという子は、どうしても気になってしまいますから」

 

 丹陽としても、自分の知っている者達と似ている境遇の者は気になるようである。どうしても洗脳教育で豹変してしまった丹陽の姉──初風と重なるところがあるらしい。

 

「……まぁ、まずは話せるかどうかってのもあるけどな。叢雲、入るぜ」

 

 さんざん部屋の前で話してはいたものの、改めて扉越しに声をかけた後、軽くノックしてから扉を開ける。

 そこは夜だというのに電気をつけることもなく真っ暗闇。深雪達が使っている部屋と同じ構造なので、ここで一気に6人が入るのは少々狭いかと、神風と丹陽は一旦部屋の外で待機。地下で実際に戦闘した4人が入る。何かあっても困るので、扉は開けたままとしたようだが。

 

 そのおかげで部屋の中に明かりが差し込み、中の様子がよくわかった。

 与えられたまま何も動かされていない部屋の隅、壁にもたれかかるように叢雲が蹲っていた。体育座りで顔を埋め、ずっと何かを考えているような、頭を駆け巡る罪から耐えているような、どうとでも見れる姿。

 

 そんな叢雲は、ずっと震えていた。

 

「叢雲……ちょっと話でもしようぜ。あたし達はお前のことをまだちゃんと知らねぇ。何があったかは多少は察せるけど、結局はそれだけだ。だから、まずはお互いを知ろうぜ」

 

 何を話しても無反応。だが、聞こえていないわけがない。叢雲としても、何をしていいかわからないとも感じる。

 

 だから、深雪は焦らない。状況を変えられるかはわからないが、蹲る叢雲の隣に腰掛け、大きく息を吐いた。

 苛立ちなんて無い。焦りも無い。まだ時間はある。ならば、ゆっくりとその心に触れていく。

 

 

 

 

「叢雲、苦しいことは吐き出しちまえ。いくらでも聞いてやるよ」

 

 そして、そっと頭を撫でた。

 

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