癒しの時間もそろそろ終わり。うみどりはついに第三の裏切り者鎮守府の海域へと入っていく。
そこには既にこだかが鎮座しており、そこを担当する別の鎮守府の艦娘達と共同戦線を組んでいた。そのおかげで戦いは拮抗を維持することが出来ており、かなり長い時間を戦い続けることが出来ていた。
『代わりにこだかの物資がどんどん溶けていってるんどけどね。今は惜しみなく使うさ』
そう語るのは、ボス代理であり、こだかの艦長を務めているタシュケント。今回はまだ戦闘には参加しておらず、伊豆提督と逐一連絡を取りながら、戦況を報告していた。
今は伊豆提督がタブレットを持って工廠まで来ているため、近くの者とは対話も出来るようになっていた。基本は伊豆提督と話をすることにはなるのだが、時にはそこにいる戦いに臨む者とも話し、こだかの士気は上々であることを笑顔で話す。
「これが終わったら、うみどりの物資を分けるわ。今は持ち堪えてちょうだい」
『勿論さ。伝えている通り、怪我人は出ているけど誰も失っていない。怪我人はイリスに画面越しでも見てもらっているから何も心配はしていないさ』
こだかのやり方は、うみどり以上に安全第一だ。同じ後始末屋であっても、特異点がいるのといないのとでは全く違う。だが、他の鎮守府と比べれば、そこにある力を使いやすいという利点がある。
タシュケントはそういうところは惜しまない。仲間を頼るのに後ろめたいところも無ければ、自分達の力だけでなんて考えるようなプライドも持ち合わせていない。まずは自分も含めたこだか所属の艦娘達の安否を最優先。
それもあり、逐一イリスによる彩チェックがされ、誰にも忌雷が寄生していることがないと言い切れた。勿論、共同戦線を張っている鎮守府の艦娘にもだ。
『あの電磁波のヤツのおかげで、忌雷は全く寄せ付けていないよ。本当に助かった。
電磁波照射装置の発案者と言ってもいい、謎の提督。瀬石元帥が重用しているくらいの頼りになる男だが、全体が集まったオンライン会議の中であっても、一度たりとも顔を見せていない、本当に謎だらけの提督。
しかし、その信頼度は、今の軍内でもトップクラスと言っても良いだろう。元帥が認めているだけでなく、このキレる頭脳でサポートをし、舌戦すらもかなり強い。深雪が納得出来る論理をその場で組み立て展開出来るほどだ。
「アタシもわからないのよ。あの場で名乗らなかったし、顔も見せていないから。勿論名簿はあるし、そこに顔写真だって載ってるけれど、声までは知らないっていう提督は多いから」
『大きな組織ってのは、そういうものなのかな。まぁでもそうか。他の鎮守府な艦娘はわからないみたいなものかな』
「それくらいに思っていてちょうだい。いると知っていても、どんな子かはわからないってこともあるでしょう」
『確かにね』
あの謎の提督の話題はそこそこにして、ここからは裏切り者鎮守府攻略への流れへ。
『うみどりが来てくれたなら、この拮抗は崩せると思う。相手は艦娘の割にはやたらと強いんだ。あと砲撃が止まらないのまでいて』
「装填時間が無い……『連射』ね。秋月ちゃんが持つに至った能力を、そちらでも持ってる子がいると」
同じ力を持つ仲間がいるのなら、対策も考えやすい。『連射』はどちらかと言えば力押しの能力。普通の艦隊では、装填時間無しで弾切れもなく撃たれ続けるというのはかなり厄介で、どう足掻いても消耗戦に持っていかれてあえなく撤退。もしくはその攻撃を受けてしまったことで重傷。
第二世代も手を焼いているようで、今はあちらも鳴りを潜めているようだが、一度攻勢に出られると、それをどうにかするために数人を費やし、どうにか痛めつけて斃したとしても、今度は別の能力持ちが現れるという。
『完全に消耗戦だよ。しかもあちらは……なんていうか、怖いもの知らずって言えばいいのかな。
それもまた洗脳教育の1つだろう。恐怖心を取っ払うことで、常に前のめりに戦いを挑んでくる。ただの
何せこちらは、相手の命を奪おうとはしないため、どうやっても手加減になる。実弾を使わず、模擬弾で決着をつけようとすることもあるくらい。つまり、
『本拠地を叩きたいけど、むしろあちらはそれをやらせないように動いてるみたいでさ、こだかは近付けないし、奥に行けば行くほど強い敵が配備されてる。こちらも後ろ向きになってるのは認める』
「いえ、その戦い方は決して間違っていないわ。慎重に行かないとまずいのは、アタシ達だってわかっていることだもの」
これまでの2つの鎮守府と違うところは、攻めよりも守りに徹していること。こだかの接近を抑えながら、しかし鎮守府はより強力な艦娘を配備して、さらに襲撃を受けても追い返してさらに耐える。勿論始末するなら始末するが、深追いしてこないため、敵戦線が崩せない。
それに対して無理に突っ込んだら、命を奪われるか、寄生されるかの2択だろう。後ろ向きとは言うものの、今の状況での戦い方は最善だと伊豆提督は伝えた。未知の敵との戦いでは、仲間を失わない戦略を基本とすることが必要。
『でも、ここからは反撃に出られるね。こちらからも戦力は出す。指示をお願い、ハルカちゃん』
「ええ、任せてちょうだい。反撃開始よ」
うみどりとこだかの共闘がここから始まる。敵をなるべく傷つけず、拠点制圧を目指す。それが今回の、いや、今回
深夜の海への出撃は、それだけでも危険。あちらもそれがわかっているようで、夜こそ防衛に全力を傾けているようである。
しかし、こだかの接近だけは許されないと、部隊と忌雷でその場に押し留めているようなモノ。
「まずはコイツらを一掃する!」
そんなこだかを引き留める部隊の始末を任されたのが、入渠も終わり、動かなくなった両腕を特機で補完した深雪率いるカテゴリーW部隊。深雪、電、グレカーレ、白雲は勿論のこと、夕立と子日も連投である。
忌雷による寄生をカウンター出来る者達が多く配備され、電磁波照射装置も、電とグレカーレの2人が装備。
「まずはこだかに入るぞ。特機を届ける!」
「なのです!」
最初の目的は、こだかにも特機を配備すること。忌雷の脅威が幾分か減らせるため非常に重要であり、それを深雪達が実行することにより、それを確実に迅速に進める。
「せっかくのこだかだからね。問題児揃い踏みで行こっか!」
「それ、久しぶりに聞いたっぽい! でも、今戦いやすいのは夕立達だもんね」
「だね。特機寄生の力、見せつけてやるよ!」
グレカーレと夕立はやはり気合が入っているように感じる。
これまでの2つの鎮守府攻略でも大活躍だった夕立は、今回も抜擢。やはりその縦横無尽に駆け回る戦い方が、今回の戦いにあっているというのが大きい。手に入れた『ダメコン』も非常に強力であり、仲間の盾になりながらも、非常に前のめりな戦いを可能にしている。
流石に三連戦になってしまっているため、夕立はこの後確実に休息に入るのだが、救う先がこだかと聞いたらやらせてくれの一点張りであった。
そして問題児揃い踏みという言葉は偽りでは無い。深雪が突き進むこだかへの道のり、そこで不意に海中から大きな爆発が巻き起こる。
「うっは、やってんなぁ潜水艦組!」
「スキャ子もやる気満々だねぇ。やっぱ夜は潜水艦の独壇場かな」
「かもしれねぇ。頼りになるぜ本当にな」
深雪達海上艦の部隊とは別に、伊203率いる潜水艦部隊も参加中。夜の海というだけでも有利が取れる潜水艦を使わない理由がなく、そしてうみどりの3人は全員、『増産』持ちのカテゴリーW。海中に潜む敵潜水艦や忌雷を始末しながら、深雪達の道を切り拓いていた。
その中でも特にやる気があるのは、グレカーレ、夕立と並び、問題児とされていたスキャンプ。恩を返すとか、仲間を守るとか、そういう感情があるわけではないのだが、第二世代のピンチと聞いたら黙って見てはいられない。喧嘩を売られたなら買うまでだと、やる気十分で潜っていったのを見送っている。
先程の爆発も、おそらく潜んでいた潜水艦を始末した音。演習用とはいえ容赦なく魚雷を放ち、気を失わせることでそれ以上何かさせることを食い止める。
見れば海上には打ち上げられた潜水艦が気絶して倒れていた。その背中には特機が忌雷を引き抜いて破壊する姿も見える。あまりにも完璧な対処に、深雪達も感心してしまうほど。
「やべ、艦娘相手になると、どっちが敵かわからねぇ……って、アレが言ってた
忌雷が寄生されているかどうかは、ぱっと見ではわからない。敵の中にはむしろ、寄生もされずに敵対している艦娘もいる。それが現在共闘中の艦娘がどうかは判断するのに時間がかかる。
故にこだかが取った窮余の策は、仲間の目印として腕に即興で作られた腕章をつけてもらうこと。それならば、遠目で見てもそれが味方だとわかる。敵が同じようなことをしないようにしなくてはいけないものの、深雪達には
「身につけていない者は、一片も容赦なく凍り付かせてしまいましょう」
その腕章を持たない者に向けて、鎖を振るい凍結の力を惜しみなく注いでいく白雲。敵艦娘もそれを簡単に回避することが出来ず、その場で動きが封じられる。死なないのだから文句は無いだろうと、その後の表情を見ることすらない。
「っし、到着! タシュケントいるか!」
そうこうしている内に、深雪達はこだかの工廠へと到着。飛び込むように入った後、すぐにボス代理を呼び出す。
「いるよ! 久しぶりだね同志!」
「おう! ひとまず忌雷対策の特機は持ってきた! こいつがあれば、寄生された奴からも抜ける! それに、そいつら自体が忌雷より強いから、増やせば守りにも使えるぜ!」
「Хорошо! 助かるよ!」
深雪から受け取った特機を見て一瞬ギョッとしたものの、目には目をということかと納得。そこで慌てないところはボス代理の風格である。
再会は慌ただしいモノになってしまったが、ここからは改めて共闘。この戦いを迅速に終わらせるため、深雪達は第三の鎮守府に挑む。