後始末屋の特異点   作:緋寺

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仲間と共に

 第三の裏切り者鎮守府との戦いに到着したうみどり。まずはカテゴリーW部隊と潜水艦隊が出撃し、こだかと合流する。深雪達が工廠で特機を渡し、その後潜水艦隊も到着。

 

「おら、あたいらが増産しておいた特機だ。こだかの中と周りに配備させとけ」

 

 深雪が渡した数とは比べ物にならない程の特機をその場にばら撒いたスキャンプ。ここに来る間にも『増産』を寄生させた利点を使い、こだか防衛用の特機を増やし続けてきたらしい。伊203は無表情でサムズアップ。伊26も笑顔で使って使ってと配備させていく。

 そのおかげで、想定の倍は守りを固めることが出来ていた。忌雷の侵入は絶対に許さない。特機達も、任せてくれた言わんばかりに触手を蠢かせた。

 

 色は違えど敵と同じ形状をしているため、慣れるまでは時間がかかるかもしれないが、こだかの防衛線となってくれるのならば、誰もが受け入れてくれる。それを作り出したのが深雪であるのだから尚更だ。

 

「まさかスキャンプにここまでしてもらえるとはね」

「ここが潰されたら気分が悪ぃんだよ」

「心配してくれるなんてありがたいね。もしうみどりにいられなくなったら、こっちに戻ってきなよ」

「当分無ぇよ」

 

 ケラケラ笑うタシュケントと、舌打ちをするスキャンプだが、話はそれくらいにして、ここからは改めて鎮守府攻略のために動き出す。

 今は拮抗を維持し続けてきたわけだが、敵鎮守府からやってくる少数の敵部隊は、ここに来るまでに白雲が凍らせているため、巻き返しのための準備は整いつつある。

 

「今はまだ誰も鎮守府に乗り込むことが出来ていないけれど、かなり近くまで行くことは出来てる。ただ、ここの艦娘達は守りがかなり堅いんだ。やたらとおかしな力を持ってる艦娘も多い」

「力押しは厳しそうな感じか」

「そうだね。ここまで押し返されたくらいだから、()()と言っていいかはわからないけど、対策を持っていても普通の艦娘には荷が重いのは確かだよ」

 

 話しながら工廠を見回すと、軽傷を負った艦娘がちらほらと見受けられる。これがおそらく追い返された結果なのだろう。入渠するほどでは無くても、少々血が見えているため、状況は深刻である。第二世代の艦娘が第三世代の艦娘を応急処置する姿は微笑ましいモノではあるのだが。

 協力して突破しようと思っても、どうしても敵の攻撃が固い。攻撃は最大の防御とはよく言ったモノだが、今はまさにその状況にあるという。数の面では優位に立てても、敵の力の前では劣勢になってしまう。

 

「よし、ならあたし達が切り込んでくる。厄介な能力持ちを最優先で狙うでいいか。忌雷さえ引っこ抜けば、その力は無くなるからな」

「助かるよ。そうしたら、こちらの連合軍で一気に攻め込む。同志ミユキを先頭にした進軍になるのかな?」

「そうなっちまうのか? ただまぁ、うみどりの仲間達も一緒に行くことになると思うから、結局は数の暴力になると思うぜ。面倒な奴らはあたし達が始末を付ける。その隙に制圧を頼むって感じか」

 

 せっかく3つの部隊がここに同時にいるのだから、その戦力を使わない理由がない。第三世代の鎮守府だって、こういう戦場には精鋭を使っているはずだ。うみどりのような()()()部隊ではなくても、戦闘経験はあるのだから、予想外さえ無くなれば普通以上に戦えるだろう。

 うみどりはその手伝いをする。戦いにくい者達を戦いやすくするため。敵のインチキは、味方のインチキで取り払ってしまえば、あとは実力の差になるだけ。

 

「よし、じゃあ早速行くか。さっき言った通り、あたし達が先陣を切る。ハルカちゃんの方にも連絡してくれ」

「連絡も何も、今まさにこれを聞いているよ」

 

 タシュケントがそっとタブレットを見せると、そこには伊豆提督の姿が。逐一連絡を取り合っているのだから、今も話せないわけがない。

 

『深雪ちゃん、こちらからも何人か出すつもりだから、敵鎮守府前で落ち合えるようにしてちょうだい』

「了解。あたし達で掻き乱す。みんなが戦いやすくなるようにな」

『くれぐれも気をつけて。夜の戦いだから、どうしても視界が悪くなるわ。それこそ、忌雷が何処にいるかもわかりにくくなる。緊張感は高まるけど、細心の注意を払うのよ』

「ああ、わかった。そっちも気をつけてくれよな」

 

 うみどりにも敵が流れ込んでくる可能性はある。自衛は深雪達以上に気をつけてもらわねばならない。伊豆提督は勿論だと笑顔を見せて、健闘を祈ると深雪達を見送った。

 

 

 

 

 特機の配備も終わっているため、深雪達は早速工廠を出ようとする。だがその前に、腕章をつけた艦娘達が深雪に声をかけた。

 こだかと共闘している第三世代。実力が無いわけではないが、初めてのタイプの敵を相手にしているために苦戦を強いられている艦娘達。

 

 その代表として前に出てきたのは、見たことのある制服を着た、重巡洋艦。

 

「妙高さんの妹さんか」

「ああ、私は妙高型二番艦の那智。今回の部隊の旗艦を務めさせてもらっている。助力、感謝する」

 

 深雪に握手を求めてきたので、抵抗なく手を握り返す。深雪の特機がその時に那智を審査して、問題ないことを確認した。特機のそんな行動に苦笑しつつも、那智は本題に入る。

 

「君達に先行させるのは心苦しいが、それが一番確実なんだろう。ここの艦長と、うみどりの司令官がそれを選択したんだ。最善の策なのだと思う」

「まぁ……そうだな。駆逐艦のあたしが先陣切るって聞いたら心許ないかもしれねぇけど」

「そんなことはない。むしろ心強いさ。こういう時は、慣れた者が慣れているように戦う方がいい。だが、それで君達に大きな負荷はかかっていないだろうか」

 

 心配してくれていることがよくわかる。那智以外の艦娘も、深雪達の消耗を第一に考えてくれていた。

 特異点という特殊な存在であることは、オンライン会議で全鎮守府に周知されている。それがこの深雪であること、既に誰もが知っていること。その上でこうやって受け入れてくれているのだから、深雪は安心した。

 これでやはり得体の知れない者と扱われ、交流は控えたいなんて言われたら、そうかもしれないと思いつつも傷付くだろう。

 

「大丈夫。あたしは2つ目の鎮守府のことやってる時は入渠してたからさ。むしろ心配なのは夕立と子日なんだけどさ。こいつら、ここで三連戦なんだよ」

「ぽい? 夕立達はまだまだ全然だいじょーぶっぽい!」

「うん、大丈夫だよ。でもこれが終わったら一回休憩かな。知らない間に疲れが溜まっちゃってるかもだしね」

 

 疲労を感じさせない2人に深雪は苦笑。那智も逆に恐ろしいなと笑みを浮かべる。

 

「我々は君達の後から向かう。もし君たちが苦戦していたとしても、それを援護するカタチで戦闘に入ってもよかったか」

「ああ、頼むよ。あたし達が苦戦する場合は、多分戦力不足だ。人数増えてくれるのはかなりありがたい」

「こちらも細心の注意を払って進もう。力になれるよう尽力させてもらう」

「あ、なら1人1体特機を持った方がいいよ。何も無いよりマシだからね」

 

 グレカーレの提案で、鎮守府制圧に向かう者は全員が特機を持った状態で行くことに。都合よく今は『増産』持ちの潜水艦隊がここにいる。むしろ、グレカーレが言う前に伊203が準備をして、1人1人に配り歩いている程である。

 相変わらずの察しの良さ。速さ重視の行動で、仲間達の安全をいち早く確保した。

 

「……正直なことを言うと、これにはどうしても抵抗が出てしまうな」

「はは、そりゃあ仕方ねぇ。誰だってそのカタチには何か感じちまうよ。でも、安心してくれ。コイツらはこれまで何人もの命を救ってるんだ」

「君が言うならば間違いは無いのだろう。ならば、受け入れるさ」

 

 貰った特機を肩に乗せる那智。特機も任せろと言わんばかりに敬礼のような触手の蠢きを見せる。

 

「……意外と愛嬌があるな」

「だろ? 大丈夫、敵と同じカタチでも、そいつらは一から十までみんなの味方だ。だからといって無闇に突っ込むのはダメだけど」

「勿論だ。これを借りたからと言っても、無策で突っ込むほど愚かではない」

 

 その辺りを弁えられるのならば、何も心配は要らないだろう。

 

 改めて、共に戦ってくれる仲間達を見回す深雪。那智率いる第三世代の艦娘、こだか所属の第二世代の艦娘、それぞれが肩に特機を乗せて、深雪達に信頼の視線を送っていた。敵意なんて全く感じない。特異点を物珍しい目で見ることもない。

 ただそれだけでも、深雪はやる気が出ていた。見ず知らずの艦娘でさえ、こうして仲間として扱ってくれるのならば、今自分の存在は決して間違ってはいないと確信を持つことが出来るのだから。

 敵の言い分──存在が罪──だなんて、ただの妄言。元よりそう思っていたが、今この時に殊更にそれを感じた。

 

「それじゃあ、先陣を切らせてもらうぜ。みんな、準備はいいな?」

 

 深雪の言葉に、仲間達が頷く。潜水艦隊は言わずもがな、既に海中へと潜って行った。先陣の先陣を切るのが伊203だと理解しているから、これにはもう何も言わない。

 

「じゃあ、出撃だ。次の連中も、これまで通りに行こうぜ!」

 

 深雪の鬨の声で、こだかの工廠は大いに盛り上がった。士気は最高潮。これまでの拮抗は、それで間違いなく崩せる。誰もがそう確信していた。

 

 

 

 

 敵鎮守府への道中。こだかに向かう際に妨害してきた艦娘は、軒並み白雲が凍り付かせているが、それ以外の艦娘は殆ど姿を現さない。事前に聞いていた、守りが堅いというのが、こういうところからわかる。

 

「あくまでも鎮守府防衛に全力をかけてるってことか」

「なのです……攻め込んできたヒト達が全部鎮守府にいるとなると、崩すのは難しそうなのです」

 

 少し弱気な発言だが、電の表情は弱気ではない。前を向き、ここも必ず攻略するという気持ちでいっぱいである。

 

「邪魔をする者は、この白雲が凍りつかせます。動きさえしなければ、お姉様の目的は達成しやすくなるでしょう」

「ああ、そうだな。動いてくれなきゃ、こっちから殴ってやることは無くなる。白雲、お前も気をつけろよ」

「無論でございます。心配していただけるとは恐悦至極」

 

 鎖を握りしめて、喜ぶ白雲。この戦いは、というか不殺を徹底する鎮守府攻略戦では、ただ相手の動きを止めることだけが出来る白雲の凍結は非常に重宝する。その上で殺意も高められるのだから、万能と言って差し支えがない。

 

「子日、行けそうなら『迷彩』使って一気に前に行くか。背後が取れれば、そのまま引っ掻き回せる」

「だね。あっちの弾幕次第だけど、狙えそうなら優先していくよ。その方が戦いやすくなるもんね」

 

 こちらもこの戦いでは非常に有用な能力である『迷彩』持ちの子日。敵がどれだけ多くとも、見つからなければそれだけで優位に立てる。誰よりも先に行き、道を開く力を願った結果なのだから、それを実現することはいくらでも可能。

 

「あとは真正面からだ。一人残さず、忌雷を引き抜いてやるぞ。やれそうならあたしは燻す。難しそうならぶっ壊すしかねぇ」

「あいよー。任せな任せな」

「ぽい! ガンガン行くよ!」

 

 そんなことを言っている間に、守りについている敵艦娘がチラホラ見え始めてきた。暗いものの、鎮守府の外観も目に入ってくる。

 士気は最高潮。どんな敵が来たところで、後ろを向くことはない。やるべきことは、ただひたすら前へ進むことのみ。

 

 

 

 

 

「っし、じゃあ行くぜ!」

 

 敵の籠城戦に挑む。突き崩すため、全員で一気に駆け出した。

 

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