後始末屋の特異点   作:緋寺

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周到な敵

 第三の裏切り者鎮守府は、攻めより守りに徹する厄介な敵。深追いもせず、攻めは最小限。しかし、攻め込んだら逆に相応の戦力が待ち構え、消耗戦を余儀なくされる。

 あちらは鎮守府を陣取っているのだから、怪我人はすぐに治療が可能。その上、擬似カテゴリーKになっていれば自己修復も備えるため、徹底して守りに向いている。

 しかし、こちらが即座に治療をするには、最低限こだかまで戻らなくてはならない。戦場が完全にアウェーのせいで攻めきれない。忌雷がばら撒かれているというのもあるため、慎重に行かねばならないというのもあり、余計に進むことが出来なかった。

 

 だが、特異点たる深雪を筆頭としたカテゴリーWチームがここに攻め込んだことで、大きく話が変わることになる。

 

「まだ数は少ねぇ。さっさと黙らせるぞ」

「面倒臭い力を持ってなきゃいいけど、ねぇ!」

 

 敵の数はまだ6人程度。そこで先制攻撃を仕掛けたのはグレカーレ。撃たれる前に撃つ。

 近接戦闘からその艤装の巨腕で有利に戦えるが、むしろそんなことをしたら簡単に殺してしまいかねない。そのため、模擬弾を装填した主砲で、まずは牽制の一発。

 それに対してどのような行動を取るかで、相手の能力を確認する。それをするのは基本は電。暗がりであるため、しっかり探照灯で照らしながら、その分析能力を遺憾無く発揮する。

 

 グレカーレに砲撃を放たれた敵艦娘は、それに対してただ回避するだけ。何か力を誇示するような行動はせず、見た目だけは()()()()()の動きを見せる。これではまだ、カテゴリーCなのか擬似カテゴリーKなのかはわからない。

 わかるのは、そこに出来損ないがいないこと。そこからおそらく、脅威となり得る『操縦』持ちはいないと考える。だが、警戒は解かない。何故なら、目に見えるだけが全てではないから。

 

「潜水艦の反応があるのです。フーミィちゃん達に任せておけばいいのです?」

「ああ、というか多分、あたし達が何も言わなくても」

 

 電がソナーの反応を報告した時、既に行動は起こされていた。ザバッと浮上してきたかと思えば、以前の作戦の成果で味を占めたか、鎖を使って複数体の潜水艦──出来損ないと化した艦娘──を拘束していた。『増産』とはいえカテゴリーWとなった潜水艦3人が手早くそこを押さえている。

 

「流石の速さだぜ、フーミィ」

「遅いのは嫌いだから」

 

 敵艦娘に見せつけるように浮上した伊203達は、出来損ないから忌雷を引っこ抜く。こうすれば戦力を減らすと同時に、元の姿に戻すことが出来るんだぞと教えるかのように。

 

 この時、敵部隊の1人が小さくだが反応した。それを見逃さない電ではない。

 

「あのヒト、多分『操縦』持ちなのです!」

「なら、すぐにヤるっぽい!」

 

 電の発言を聞いてすぐ、飛び込むように駆け出したのは夕立。『操縦』持ちと判断された艦娘に向かって突撃を始める。

 夕立1人が突出したことで、あちらはその艦娘を守るように陣形を変え、そして集中砲火を始めた。1対1ならまだしも、複数人で一点集中すれば、いくら特異点の部隊であろうが勝機はあるだろうと見越して。

 むしろ、これまではそれでどうにかなっていたのだろう。慎重に事を進めるこだかと第三世代では、ここまで大胆な、悪く言えば無謀な突撃をする者がいないのだから、始末は出来ずとも追い返すことなんてすぐに出来る。

 

 だが、夕立はただ大胆なだけではない。()()()()()()()、このような行動も取る。

 

「ぽいぽいぽーい!」

 

 恐ろしいことに、その集中砲火を全て素手で打ち払っていった。『ダメコン』の曲解を存分に使い、自らを敵の脅威と明確に見せることで、動揺を誘いながらもその守りを一点から切り崩す。

 

 流石に砲撃が当たっても怯むことなく、むしろ無傷で突っ込んでくる艦娘なんて知らない。敵もそんな戦力を見てしまったことで驚愕の声が拡がる。

 何だアレは、バケモノかと、夕立のことを滅茶苦茶に言っているが、真に怖いのはそれだけではない。

 

「さぁ、素敵な血祭り(パーティー)、しましょ!」

 

 夕立の装備しているのは実弾。殺そうと思えば殺せる。だが、ここではそれをあえて使わずに、演習用である魚雷を、集中砲火のために固まっている敵艦娘達に撃ち込む。

 あちらは動揺のせいで簡単に対処が出来なかったが、わざわざここで魚雷を撃ってきたことを警戒して、集中砲火をやめて散らばる。安全に、しかし撤退することなくここで戦いを続けるための手段としては間違ってはいない。

 

「わけわかんねぇ力を持ってるヤツもいるかもしれねぇ。気をつけろよ夕立!」

「わかってるっぽい! ここからは各個撃破ね!」

 

 散らばった艦娘のうち、手近な者に狙いを定めて主砲を構える。自分と同じ『ダメコン』なら回避を選択しない。だが、そんなことはなくどうにか避けようと回避を選択。

 基本的に『ダメコン』のような砲撃をまともに喰らっても大丈夫なんて力は出てこない。ならばそこまで不安になることはない。

 

「貴様が出来損ないを操縦していたことはお見通し」

 

 その隙に、電が『操縦』持ちと判定した艦娘に白雲が鎖を伸ばしていた。砲撃では無くただの鎖ではあるが、あちらはやはり今までの敵と比べれば慎重。こんな戦場で鎖を持ち出すということ自体が怪しいと、砲撃と同様にしっかりと回避を選択。傷を負わないなら当たってもいいなんて考えは何処にもない。

 

「ざーんねん、ダメだよ簡単に避けられると思っちゃあ」

 

 そしてその回避した艦娘に、グレカーレが綺麗に砲撃を決めた。模擬弾が直撃し、回避を中断させられる。

 白雲とグレカーレは最初から組んで戦っている。片方の攻撃が回避されたなら、もう片方がそれをカバーするように攻撃する。ただそれだけの、定石中の定石なのだが、そこは屈指の熟練者であるグレカーレがやること。精度は追随を許さない。

 

「凍りつき、黙ってそこにいるがいい」

 

 回避を中断させられたことで、白雲の鎖が脚に触れる。その瞬間、一気に凍結が開始。海面に貼り付けられるように凍りついたことで、その氷の重さで簡単には動けなくなる。

 そうなってしまえばこちらのモノ。動けないならばやりたい放題。真っ先にやらねばならないことは──

 

「お姉様!」

「おう、ありがとな!」

 

 動いている敵から忌雷を引き抜くのは難しいが、こうして動きが止まっているなら容易。邪魔をされなければ、即座に接近して抜き取る。

 だが、ここはやはり裏切り者の魔の手が及んでいるのか、動けない仲間ごと特異点を始末しようと考える者はいた。身を削ってでも敵を殲滅出来ればそれでいいと。

 動けるのならば、深雪を羽交い締めにしてでも止めて、自爆も仲間に撃ってもらうのも躊躇なく選択する。特異点さえ始末出来てしまえば、後は鎮守府を守り切ればいいという尖った考え方。

 

「させるかよ」

 

 そこで深雪が実行するのは、毎度お馴染み煙幕である。今回は自分と共に巻き込まれそうな敵艦娘すらも守るために、一気に煙を噴出した。自分と、その砲撃を放とうとした艦娘を包み込むように放たれた煙ほ、すぐさま効果が発揮され、砲撃はあらぬ方向へ飛ぶ。

 

「仲間のことをそうやって使うのはいただけねぇな。1号、やれ!」

 

 それで時間を稼いだことで、凍結を受けた艦娘から忌雷を抜き取ることに成功。都合がいいと、その忌雷は燻すこととした。

 特機は多ければ多い方が戦いやすくなる。特にこういった戦場では手数が必要だ。守りを崩すのにも、攻めに転じるのにも、特機という手札は何枚あっても困らない。

 

「貴女も、そういうことしちゃダメなのです!」

 

 深雪を凍結した仲間共々始末しようとした艦娘の方は、電が対処する。装填しているのは当然模擬弾ではあるが、深雪よりも格段に高い精度を持つため、援護砲撃が非常に優秀。

 その砲撃を回避しようとしたのも束の間、避ける方向すら分析していた電のもう一発が見事に腹に直撃。模擬弾とはいえ、そこに入れば蹲るほどに痛い。

 

「あ、ああっ、ごめんなさいなのですぅ!」

 

 咄嗟に謝ったものの、間髪容れずにもう一撃。それはヘッドショットとなり、そのまま気絶まで持っていった。

 

「イナヅマ、割と容赦ないことするよね。ミユキのこと始末しようとしたヤツだから、それくらいやってもいいけどさ」

「同意します。お姉様に仇為す痴れ者には、あの程度では済ませたくありませぬ」

「まぁ気絶したなら大丈夫っしょ。ほい次だよ次!」

 

 と、周囲を見回すと、戦闘はもうほとんど終了していた。残っていたであろう敵艦娘は、夕立が薙ぎ倒してしまっていた。

 やはり『ダメコン』で突っ込んでくるのは、ただただ恐怖の一言。戦術そのものが敵の恐怖を誘うことに繋がり、ただ動くだけでも夕立の有利に繋がるという、かなりインチキな仕様。

 

「忌雷入ってるかわかんないから、とりあえず全員ぶっ飛ばしておいたっぽーい」

「流石だなホント。でも、多分そいつら忌雷入ってねぇぞ」

 

 深雪がそう言うのは、特機1号の反応から。引き抜かなくてはならない忌雷が入っているなら、今すぐやろうとやる気に満ち溢れるが、それが見当たらないようなので、仕事は今はないと大人しくしていた。

 つまり、この部隊には『操縦』持ちのみで、あとは力も持たないカテゴリーCが突っ込んできただけ。特異点に対しての牽制を兼ねてだろうが、それだけではなかった。

 

「……あ、やっぱりあったのです」

 

 気絶させた艦娘を調査した電が、そういうことをやってきているのではと予想していたモノを見つけた。

 制服に仕込まれた、小型のカメラ。これで情報を鎮守府に送り込んでいたのだろう。特異点チームがどのような戦い方をするかを把握し、防衛にそれを役立てる算段だと考えられる。

 

「あくまでも情報収集、あわよくば深雪ちゃんを始末出来ればいいと考えていたんでしょうね」

「今までとマジで違うな。頭使ってきてるっつーか」

「これまでがあまり考えてなかったようにも思えるのです」

 

 少々辛辣ではあったが、しかしその意見には全員が同意。

 

 力を持ったからと言って、それを見せつけるような傲慢な態度ではない。その力を持ちつつも、堅実に戦おうとしているのがわかる。慢心があまり無いとも感じ取れた。

 

「おーい、一回帰ってきたよ」

 

 そんな戦いの中、ただ1人、子日だけは『迷彩』を使って先行。鎮守府の様子を見に行っている。そこで手に入れた情報を持って帰ってきた。

 

「すんごい防衛線だよ。艦娘いっぱい。出来損ないが前衛って感じ」

「攻略がキツそうだな」

「力押しはちょっと難しいかも。子日1人で行くのもキツイかなって思って、一度戻ってきたんだよね」

 

 偵察して、そのまま防衛線を一部壊してくることも考えたようだが、流石に控えた様子。

 

「むしろ、子日ちゃんの存在がバレたから、そこまで堅くされたのかもしれないのです」

「え、マジ……?」

「ここにいるヒト達、全員カメラを持っていたのです。それくらい周りを見続けているなら、子日ちゃんが姿を消すところも見ていたのかも……」

「うわ、最初っから姿消しておけばよかった。みんなの移動に支障が出るからなぁ」

 

 そうでなくても、敵鎮守府の守りは相当に堅いことが判明した。突破するのは少し難しいかもしれない。

 だが、戦力はこれだけで終わらないのがこちら側。うみどりから出撃した部隊との合流で、戦況を一変させられる可能性は充分にある。

 

 

 

 

 戦いはここからが本番。堅牢な鎮守府を制圧するため、さらに前へと進むのみ。

 

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