後始末屋の特異点   作:緋寺

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難関

 深雪達の前に立ち塞がった敵は、あくまでも情報収集のための部隊だった。小型カメラを備えて戦い方を分析し、守りを固めるために情報を集める。これまでの裏切り者とは打って変わって頭を使ってくる敵。

 そしてその分析の結果、子日が『迷彩』によって姿が消せることもバレてしまったのではと考えられた。明らかに侵入を防ごうとするタイプの守り方。それこそ、見えない敵を迎え撃つために、より濃い弾幕を張ろうという算段が見える。

 

「真正面からぶつかるのは厳しいか」

「夕立ならある程度耐えられるっぽい」

「そうかもしれねぇけど、それこそ知らない力持ってるヤツが出てきたらまずいかもしれねぇだろ」

 

 夕立の『ダメコン』は、そういう戦いでも重宝するだろう。どれだけ凶悪な弾幕を張られたとしても、真正面から全てを弾き飛ばして突っ込める。

 ただし、あまりにも強すぎる集中砲火を受けた場合、弾き飛ばし切れずに吹っ飛ばされる。事実、叢雲との戦いで不意の衝撃でその場から退かされている。

 それに、未だに出てきてはいないものの、いつか出てくるのではないかと考えている()()()()()()をされてしまったら、夕立だってひとたまりもない。

 

「人数揃ってるなら、いろんな能力を持っててもおかしくないもんねぇ。それこそ、シラクモみたいな凍らせるヤツとかもいるかもしれないし」

「この白雲の模倣も無くはない、と」

「本当ならわけわかんないことされるかもしれないしね。これまでとは違う何かとか」

 

 考え出したらキリがない。慎重に行くのが妥当なのだが、あまり慎重になり過ぎてもこれまでの二の舞だ。

 ならば、自分達の能力を押し出して攻めに転じるのがおそらく一番手っ取り早い。この中で言うのならば、深雪の煙幕が最も攻めやすいだろう。慎重に行くのならば、やはりあちらの視界だけを潰す煙幕が有用すぎる。

 とはいえ、範囲が広すぎるというのも否めない。鎮守府全域に煙幕を張り巡らせることも可能ではあるがそれなりに時間はかかるし、そうしている間に攻撃はされる。

 

「あたしの腕みたいなことがまた起きるかもしれないしな……」

 

 今や深雪は特機無くては腕が動かなくなってしまっている。それもまた、敵が手に入れた力『解体』のせい。そういった敵が今回の鎮守府にいないとも限らない。

 深雪が今を手に入れているのは殆ど偶然の賜物だし、そもそもこの手段は深雪にしか使えないと言っても過言ではない。深雪の血が混じった特異点の煙幕で忌雷を燻すという、あまりに限定的な条件下で生まれた特機を永続的に寄生させるだなんて、今後やりたいと思っても不可能と言える。

 これもあってか、うみどりの面々も強引に突っ込むのはどうしても控えたいと思ってしまった。命は失っていなくとも、直接的な被害者が出てしまっているのだ。

 

「敵の力を判断して、行けそうなら接近戦もやっていく。そうじゃなけりゃ基本は離れながらだ。夕立も、あんま自分の力過信しない方がいいぜ」

「ぽい。傷ついてないけど、これ普通に痛いからね。出来損ないも前衛って言ってたし、なるべくなら離れて戦いたいっぽい」

「だよな。出来損ないは白雲、悪ぃけど」

「無論でございます。成れの果ては是非この白雲にお任せを」

「あたしとイナヅマで電磁波ぶつけていくから、シラクモのサポートで動くよ」

「なのです。電も出来損ないの足を止めるのです」

「子日は『迷彩』で突入出来るか見ながら援護するね。見えないところから攻撃すれば、混乱もするだろうからさ」

「おう、頼むぜ」

 

 役割分担はおおよそ決まった。ここからはただぶつかるのみ。だが、当然当たって砕けるなんて考えていない。最初から勝つつもりで戦場へと向かう。

 

「フーミィ、聞こえてるか」

「なに」

 

 足下に話しかけると、並走するように伊203が浮上してくる。

 

「潜水艦ってまだいるか」

「今のところは見当たらない。でも、鎮守府の近くにはいると思う」

「先に始末しておいてくれ」

「わかった。早めに終わらせる」

 

 話もそこそこに、潜水艦隊は先行する特異点チームよりさらに先行する。戦闘中に潜水艦に邪魔をされるのが特に厄介であるからだ。

 潜水艦に潜水艦をぶつけるのはあまり得策ではないのだが、伊203が加わると話が変わる。水中での近接戦闘を当たり前のように行うというのは、敵でも味方でもどうにも出来ない。だからこそ頼りになる。

 

 これで海中からの攻撃はある程度考えなくてよくなる。勿論警戒は怠らないが、頼れる仲間のおかげで戦いやすくなった。それだけでも、気持ちはより前向きになるというもの。

 

「っし、それじゃあ、あたし達は目に見える奴らから、行くぜぇ!」

「ぽーい!」

「なのです!」

 

 ここからはこの戦いも本番。立ち塞がる敵を、全力で制圧する。命は奪わずとも、敵対するのならば一度完全に屈服させ、可能ならば忌雷を引き抜き、そうで無くても気絶はさせる。

 圧倒的な力で抑えつけるなんてことは出来ないだろうが、勝ち続ければそれだけでも効果があるだろう。

 むしろ、負けるわけには行かない。特異点を撤退させたという事実を作ったら、その時点であちらが調子づいてしまう。それをさせないためにも、深雪達はなるべくならば勝ち続けなくてはならない。

 

 

 

 

 鎮守府がしっかりと目に見えるくらいになったところで、敵艦娘の姿もハッキリと確認出来るようになった。子日の偵察でも聞いていた通り、出来損ないが前衛。あちらにとっては、傷付いても気にならない兵隊みたいなモノであろう。故に壁のように前に置く。

 

「この白雲の出番でございますね。しからば、電様、グレ様、よろしくお願いいたします」

「なのです! 電磁波!」

「りょーかい。動き止めるよ!」

 

 出来損ない相手はこの3人。電とグレカーレが容赦なく電磁波を照射し、出来損ないの足を止める。そしてその隙に、白雲が片っ端から鎖をぶつけて凍結させていった。

 白雲がそういうことが出来るというのは、あちらも分析済みだっただろう。だが、最初に出来損ないを嗾けていないため、電磁波照射装置の存在はまだバレていない。生身に向けては使わないのが功を奏した。

 

「生ける屍は凍りつくがいい。後に元の姿に戻してやろう」

 

 動けない敵をより動けないようにするために凍らせるのも、白雲には抵抗がない。舞うように鎖を振るうと、その度に出来損ないはそのままの姿で凍りついて動けなくなっていった。

 戦場にそれが置きっぱなしになるのは少々邪魔ではあるのだが、しかしそれを動かしている余裕はない。あちらはその出来損ないを盾にするかのように砲撃も放ってくるため、凍らせたらすぐに移動するしかなかった。

 

「自分から仲間を撃つような真似しやがって。しかも装填してねぇな」

「あれが『連射』っぽい? 秋月と同じヤツ」

「多分な。しかも何人かいるだろアレ」

 

 深雪でも勘づく、その力を持った艦娘。砲撃があまりにも続き過ぎているため、回避で遠退いていくしか出来なかった。それも1人ではない、軽く見積もっても3人はいる。それが部隊の中でもそこそこ手前に陣取っているため、出来損ない諸共、敵を始末しようという算段なのがわかる。

 タシュケント達こだかの仲間と、那智率いる第三世代の部隊は、この止まることのない砲撃に手を焼いたのだろうとわかる。さらにあちらにはまだまだ艦娘はいる。

 

「電、分析出来るか!」

「い、今見てるのです! でも、『操縦』が奥の方にいるのです!」

 

 それは間違いない。敵部隊は工廠で横に並び、侵入を防ぐように深雪達を攻撃してきているのはぱっと見でわかることなのだが、明らかに攻撃に参加していない艦娘が何人かいるのも見えた。出来損ないの『操縦』に割り当てられた艦娘が数人。攻撃もせずに専念していると考えられる。

 だが、それだけでは無さそうというのも電の見解。ただ奥にいるだけではない。

 

 1人か2人、完全にサポートとして動いている艦娘の姿も見えた。今は白雪のハッキングにより完全に機能を停止しているはずの工廠で、それを覆す動きを見せているそれは、最悪『補給』の曲解を持っている可能性が考えられた。

 ただ補給をするという概念を曲解した結果、()()()()()()()()()()()()という、自己修復を仲間に施すような能力へと仕上がっていた。これにより、擬似カテゴリーKのような能力を持たないカテゴリーCでも、この戦線を維持することが出来てしまっている。弾切れが間接的に失われているのだ。

 

「確かに硬ぇ。突破には骨が折れるぞ」

「子日は行ってる?」

「あたし達にも見えねぇから何とも言えねぇけど、これは難しいかもしれねぇ」

 

 そんな曲解持ちがいるからだろう。あちらは片っ端から撃ち続けるという、単純明快だが確実に近付けなくなる防衛に徹していた。深雪達の姿が見えている間はそれを止めないだろう。

 そうなると、子日は近付くことが出来ない。いくら姿が見えていなくても、弾幕をすり抜けることは出来ないのだから。

 

「んなら、あたしが道を開いてやらぁ!」

 

 ここまで弾幕が激しいならば、煙幕で当たらない状況を作る。この戦いを終わらせるという強い願いを込めて、深雪は煙幕を放出し始める。

 

 だが、煙幕を扱うというのは特異点の常套手段であることは敵側にも完全にバレている上に、先程の調査部隊にもそれは見せている。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「って、そりゃそう考えるよな」

 

 この弾幕の中から、突風が吹き荒れる。まるで神風が居合で起こす暴風、白雲が作り出す氷の礫交じりの風のように、深雪の煙幕を散らす。

 それもまた敵の曲解であろう。考えられるのは──

 

「『空冷』……なのです?」

 

 白雲の曲解、『凍結』と似て非なる能力、『空冷』。エンジン維持のための冷却のシステム、強制空冷式の風の部分を曲解し、()()()()()()部分にのみ焦点を当てた結果、風をコントロールする力となっていた。

 白雲のそれは、タービンの冷却の冷却部分の曲解だが、さらに細分化された部分を抜き出した力。それ故に──

 

「っく、寒ぃ! 風と一緒に冷やしてきやがる!」

 

 白雲のように明確な冷却、凍結ではなく、深雪の周囲だけ真冬にしたような、芯から冷やす風にやられる。煙幕散らしと同時に、寒さでスペックを下げる一石二鳥な技。

 タシュケントの話していた得体の知れない力とはこのこと。鎮守府に近付けば近付くほど寒く感じ、そして動きが徐々に緩慢にされていく。一気に固めるのではなく、緩やかに弱体化。

 

「なるほどな、そりゃあ苦戦もするぜ。前までとは全然違う。えらい能力引き当てやがって……!」

「突撃しない方がいいっぽい?」

「寒くて弾けなくなるぞ。傷はつかないだろうけど、タコ殴りにされるようなもんだ」

「うーん、それは夕立もあんまり嬉しくないっぽい」

 

 突破方法がかなり難しい話になってきた。そうなると頼れるのは潜水艦なのだが、わざわざ工廠の中を陣取っている辺り、しっかり潜水艦対策までしている。

 

 

 

 

 これまでにない頭脳戦を仕掛けてくる裏切り者鎮守府。特異点でも苦戦させられるここは、最難関なのかもしれない。

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