後始末屋の特異点   作:緋寺

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戦況を変える一撃

 3つ目の裏切り者鎮守府の堅牢な守りに苦戦を強いられる深雪達。激しい弾幕は少なくとも3人はいる『連射』の曲解を持つ者により繰り出され続け、カテゴリーCすら攻撃を続けさせることが出来る『補給』と思われる曲解を持つ者、そして深雪の煙幕を吹き飛ばす風を起こしつつ、身体を冷却して動きを鈍くする『空冷』の曲解を持つ者まで完備しているせいで、誰一人として鎮守府に近付くことが出来ていない。

 夕立が『ダメコン』を使って無理に突撃するのも難しく、煙幕も使えない状況となると話が変わる。とにかくその間隙を縫うしか無くなるのだが、それすらも出来ない。

 

「これ、結構まずいな……?」

 

 深雪もこの状況には厳しいと感じ始めていた。回避行動を始めてから時間は経過しているが、一向に進めるきっかけが作れない。今は姿が見えていないが、子日も攻めあぐねているところだろう。

 煙幕を放とうとすると、ことごとく突風が吹き荒れる。その上、その度に身体が冷やされて寒気で動きが鈍くなる。

 

「お姉様、大丈夫ですか!?」

「ああ、まだ大丈夫だ。お前も大丈夫そうだな、安心したぜ」

「白雲に多少の寒気など通用しませぬ。今の白雲は雪女郎、冷気に蝕まれるようなことはございませぬ」

 

 その冷気をただ一人モノともしないのは、『凍結』を持つ白雲のみ。自分が冷やす者なのだから、他者からの冷気は通用しなかった。

 そのため、今この戦場で唯一、『空冷』環境で十全の力を発揮出来る。空気を冷やされているおかげで、『凍結』そのものも強化されているくらいだ。

 そんな白雲は、戦場を縦横無尽に動き回り、今は煙幕を止められた深雪を心配して近付いてきたのみ。

 

 しかし、だからといってこの弾幕を突き進むことは出来ない。氷の礫を飛ばす居合を放とうとしても、まずは一度その場に止まらないといけないため、その瞬間に集中砲火を受ける。そうで無くても、放った礫は『空冷』の突風を上回れるかがわからない。

 出来損ないの凍結は刻一刻と済ませているのだが、その存在も関係なしに敵はバカスカ撃ってくるため、元に戻せたとしても遺体を運び出すことも出来ないどころか、綺麗な遺体だったのに砲撃によって傷つけられてしまうまである。

 

「彼奴等の力は厄介極まりのうございます。今のままでは誰も近付くことは……いや、うみどりにこの状況を打破出来る方がいらっしゃいます」

「ああ、あたしもピンと来てる。きっと来てくれるぜ」

 

 白雲の話す、この現状であっても突破出来る者。深雪もそれは思いついていた。気付いたのはついさっきではあるのだが。

 

「あたし達じゃあ、これ以上の策は練れねぇ。ゴリ押しも厳しいからな」

「お力添え出来ず申し訳ございません。白雲は出来る限り凍らせていきます故」

「ああ、頼りにしてる。お前にしか傷付けずに敵を食い止めることが出来ないからな」

「恐悦至極。白雲、まだまだやらせていただきます。まずは、援軍が来るまでの時間稼ぎをば」

 

 白雲は鎖を振り回して、邪魔をしてきそうな出来損ないを凍らせながら、少しでも前に出られるかを慎重に確かめていた。

 しかし、少しでも進むと『連射』による集中砲火を受けることになる。ダメだとすぐさまバックステップをし、無理な行動はしない。苛立つことなく、あくまでも冷静に、敵の隙を探す。

 

「さ、寒いのです……っ」

 

 この冷気が効いてきているのは深雪だけではない。空間が冷やされているということは、戦場そのものが冷えてきているということ。特に海の上は海水も相まって急激に冷えてきている。その影響は電にも及び、凍りついてはいないものの、確実に体力を奪っていく。

 風が直撃している深雪よりはさらに緩やかではあるが、近くで戦えばそうなってしまうのは必然。今はまだ余裕はあるが、そのうち洒落にならないくらいに冷やされる可能性があり、そうなってしまったら回避もまともに出来なくなるだろう。

 

「クソッ、あたしはまだ耐えられるけど、よぉっ!」

 

 このままではまずいと、深雪はひとまず深海棲艦化。身体が大きくなれば、冷える面積も大きくなってしまうが、それ以上に力が発揮出来るため、これまでと比べれば多少は改善出来た。代わりに疲労は溜まりやすくなるが、現状は仕方ない。

 

「電! こっちだ!」

「なっ、なのですぅっ!」

 

 弾幕を回避しながらも、一旦電と合流。『空冷』の風は常に深雪に対してぶつけられ続けているため、共にいる方が寒くなるのだが、こちらにはこちらの手段がある。

 

「少しだけ耐えてくれよ。電、お前となら、もっと出力が上げられるからな!」

「なのです! 寒さなんて、吹き飛ばしてしまうのです!」

 

 補助装置としての自分を使い、電は深雪の腕に触れ、そして願った。それは優しい願いとしてカウントされるかわからないが、今この時、仲間達に救われてほしいという強い願いを込める。

 その願いを受け、深雪の煙幕が溢れ出した。が、それはやはり『空冷』の突風で吹き飛ばされる。攻撃を逸らすことはおろか、姿を隠すことも出来ないが、しかしその煙幕は散らされたことで効果が発揮された。

 

 その願い、救われてほしいという願いは、煙幕として見えずとも、戦場にばら撒かれる。この戦いが進むわけではないが、しかし後ろに下がらなくなるための変化。

 

「っし……寒くはなくなった……!」

「なのです! 暖かいというわけではないですけど、少しだけ変わったのです!」

 

 冷気漂う戦場の空気に煙幕が混じったことで、明らかな寒気は一時的に取り払われた。深雪と電、揃った願いが、この場で叶えられたと言えよう。

 これならば援軍到着までの時間を確実に凌げる。弾幕の突破は深雪達だけでは難しくとも、仲間達ならば確実に成し遂げてくれる。

 

 特異点に対しての対策は出来ていても、まだ情報が備わっていない者だって存在する。その力を他の戦場で遺憾無く発揮していたとしても、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「来た……!」

 

 そして、援軍は到着する。うみどりから向かってくる仲間達は、このような突破が難しい敵鎮守府の籠城戦を乗り越えるために適した人材。

 

「皆さん苦戦しているようですね。我々が来たのは正解だったかもしれません」

「ええ、ここではまず策を練らねばいけませんね」

 

 まず戦場に飛び込んできたのは妙高と三隈。これまでの鎮守府とは勝手が違うということを聞き、うみどり屈指の軍師が2人とも参戦。

 

「やっぱりうみどりに便乗して良かったですねぇ。こんな戦場も面白そうですよぉ♪」

「無闇に突撃しないで。あれ、綾波でも突破難しいわよ。隙間が無い」

 

 そこに軍港鎮守府から続けて参戦する綾波と暁。暁は誰よりも高いであろう分析能力を買われて、綾波はその暁を護るため……というのは若干建前で、新たな戦場で暴れ回ることを楽しみにして。

 この場に来たばかりの暁が、ぱっと見ただけでもわかった。いくら綾波が軍港鎮守府でも屈指の、それこそ一騎当千の力を持っていたとしても、あちらの守りは簡単には突破出来ない。それくらいに密度の高い弾幕。

 

「弾幕は問題ではありません。過信しているわけではありませんが、私の『ジャミング』があれば前には進めるでしょう。ですが、それだけでは勝ち目はありません。数が多すぎる」

「それに、あれだけの数がいるならば、ジャミングの弱点……認識外からの攻撃もいつ来てもおかしくありません。尚のこと慎重に行かねば」

 

 綾波がうずうずしているようだが、暁がしっかり手綱を握って止めている。確実に勝てる手段が出来たら存分に戦わせるから我慢しろと言いつけて、綾波もそれをちゃんと守っている。

 

「子日! みんなに情報!」

「にゃっほい! すぐに伝えるよ!」

 

 まだ『迷彩』を解いていない子日が、そのまま妙高と三隈に現状を伝えに向かった。弾幕は止まらずとも、話をするくらいの余裕は作ることが出来る。

 

「全然止まらねぇ……みんなまだ大丈夫か!?」

 

 敵防衛線は突破出来ずとも、まだ無傷は維持出来ている。妙高と三隈が策を練る時間を稼ぐためには、その無傷をさらに維持しなくてはならない。ここで傷を負ったら、その作戦を考え直す必要があるかもしれないのだから。

 

「ああもう! 鬱陶しいっぽい!」

 

 弾幕を稀に弾きながら、少し前に出ようとする夕立だったが、やはり弾幕が濃過ぎて前進が難しい。少しでも前に出ると集中砲火、下がれば薄くなるが撃たれ続けるのみ。そして一切止まらない。

 夕立がコレならば、他の者は更に進めない。煙幕が吹き飛ばされていなければその限りではないのだが、やはり徹底的に対策されていることが厳しいと言える。

 

「シラクモも前に出れないとなると、止めることが出来ないねぇ。これ、結構ヤバい?」

「結構どころか相当ですよグレ様。お姉様が前に出られないとなると、頼みの綱は、今来た軍師殿になります。我々は、その指示を待つ他ありませぬ」

「わお、そりゃあ大変だ。なら、あっちだけは絶対に守らないといけないし、そーゆーこと考えてるって悟らせないようにしなくちゃあねぇ!」

 

 ここでグレカーレ、夕立への傾向から考えて、自分に砲撃を向けるために一歩前進。

 

「ユーダチ! アンタもちょっと前に出な!」

「ぽい!? まぁいっか、どうせ前には行くんだからさ!」

 

 そして夕立も一歩前進。考える時間、敵の攻撃の傾向を知ってもらうため、情報だけでなく視覚情報も持ってもらうため、身体を張った。

 

「深雪ちゃん、電達も!」

「おう、()()()()()ってことだな。やれるだけやってやるぜ!」

 

 そして深雪と電も、さらに煙幕を発生させる。突風で吹き飛ばされてもお構いなし。()()()()()()()()()()()()()というのを見てもらう。

 

「……なるほど。敵は風を操れるのですか」

「煙幕対策が万全ということですか。そして弾幕は秋月さんの如く止まらないと。隙間なく撃ち続けて、それが一切止まらないとなると……狙いは、上ですね」

「ええ、深雪さん達には狙いにくいでしょうが、我々ならば」

 

 すぐにやりたいことは見つかっていた。しかしその策は本当にやっていいかわからず、かつ敵の命も奪いかねないモノ。()()()()()()()()()()

 

「……狙う場所、見えたわ」

 

 その2人の策を片耳に、暁が徐に主砲を構える。何をすればいいのかは、すぐさま察した。

 

「少しくらい傷ついても、文句は言われないわよね。あちらはこちらを殺しに来てるんだもの」

 

 そして、放つ。その砲撃は真っ直ぐ工廠の方へと向かっていき、しかし敵艦娘の誰にも当たらない場所──ただの壁を撃ち抜いた。壁がいきなり破壊されたようなモノであり、その破片が工廠の中で舞い散る。

 妙高や三隈だと、火力が少々高すぎる可能性があった。だが、暁の、駆逐艦の主砲ならば、必要最低限の火力で済む。

 

 

 

 

 この一撃が、戦いの状況を変えるモノとなる。援軍の到着、そしてたった一発の砲撃から、不利を払い除けることに繋がる。

 

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