後始末屋の特異点   作:緋寺

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隙を作るため

 深雪達が攻めあぐねているところに、うみどりからの援軍。軍師としての実力者、妙高と三隈、そして前回の鎮守府攻略から引き続き便乗している綾波と暁。

 この4人は戦場に辿り着いた時に現在の戦況をひとまずの分析。そして、狙い撃つべきは艦娘ではなく鎮守府であると判断。その上で、重巡洋艦である妙高と三隈では火力が高すぎる可能性を察し、暁が撃ち抜くべき場所に一発入れた。

 

 工廠の奥にある、ただの壁。そこが遠距離から撃たれたことで、工廠の中はそのカケラが散り、埃が舞い上がっていた。

 本来ならば、高が壁が破壊されただけだと何も変わらないだろう。むしろ、艦娘が失われるどころか、傷一つついていないのだ。攻撃が止まるような出来事ではない。

 しかし、妙高と三隈はこれが的確だと判断し、それに乗った暁もすぐさま実行に移した。

 

「もう一発行くわ。綾波、貴女も同じところ狙える? 狙えるわよね?」

「はぁい。全く同じ場所ですかぁ?」

「少し右にズラして。暁は左にズラすわ」

 

 続けて二発目。今度は綾波と共に砲撃。それはさも当然のように鎮守府へと飛んでいき、一発目の両サイドに着弾。そして、壁をさらに破壊した。狙い通りに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 深雪達は、あくまでも傷つけない戦いを徹底していた。最初に攻略した鎮守府でのやり方──艦娘は無傷で斃し、鎮守府にもダメージを与えない──を基本としているため、鎮守府に攻撃するという策がどうしても出てこない。それがあちらの動揺を誘う行動になるとしても、思いつかない。それが自分達から戦場をハードモードにしてしまう。

 勿論、それでどうにか出来るならそれでいい。敵であっても救いたいという気持ちは悪いことではないし、特異点にはそれが出来る力、忌雷を引き抜く力もある。しかし、今はそんなことを言っていられないような状況である。

 

 それを外からの目で判断し、的確な選択をするのが、うみどりからの援軍。軍師としての目で、優しさを持ちながら妥協も出来る2人が策、深雪達ではどうしても至らない策にいち早く辿り着く。

 

「子日さん、あの風のせいで寒いと言っていましたね」

「うん、それに深雪ちゃんの煙幕も吹き飛ばしちゃう。風がすごく冷たいよ。電ちゃんは『空冷』かもって言ってた」

 

 姿を消して妙高達の方に合流していた子日が、姿はそのままに得られた情報を全て展開。敵に小型カメラが搭載されており、こちらの戦闘情報を逐一入手していることも伝える。

 

「やはり、空気を冷やしていたのですね。この海域に入って少しひんやりしましたもの。ただ煙幕を吹き飛ばすだけではないと思いましたが、なるほどそういう仕組みが」

「長期戦で凍えさせて、動きを鈍くさせ、確実に始末する。籠城をするならば、なかなかに賢い……と言っていいかは分かりませんが、厄介な作戦を取ってきたモノです」

「ですが、ここで三隈達がやろうとしたことが、より有効になりそうですわ。暁ちゃんも察してくださいましたし」

 

 鎮守府の壁を破壊されたことで敵が動揺するかと言われればそうではない。あちらはあくまでも冷静に、その戦いに邪魔になりそうなモノを排除していた。

 破壊によって散らかされたモノはそのままにしているとしても、舞い上がった埃は攻撃する際に視界を邪魔するため、早々に撤去する必要がある。そのため、風を起こせる『空冷』持ちが、工廠内に風を起こして埃を即座に取り払った。

 

「視界封じはそう簡単には行きませんね。ですが──」

「綾波、あっちは風を埃払いに使うわ。だったら、もう少し埃を撒き散らしてあげましょ」

「はぁい♪ 少し壊す範囲拡げましょっか♪」

 

 暁の指示により、綾波はさらに工廠に向けての攻撃を続ける。破壊したところにもう一度撃ち込むことで、より大きな埃を舞い上げたり、片付けが追いつかなくなるくらいに広い範囲を狙ったりと、割とやりたい放題。

 それでも、艦娘を直接狙うようなことはしていない。それが暁の指示であるし、それに命を奪うことは後々自分達の鎮守府に迷惑がかかる。鎮守府ならいくら壊しても何も文句を言わせない。命を奪わないだけありがたく思ってほしいと、綾波は目が笑っていない笑みを浮かべている。

 遠目にでもその表情が見えた敵艦娘は、今誰が一番()()()()というのを察した。特異点は前衛で回避を続けており、その仲間達も前に進もうと行動を起こしているが、それ以上に、そのサポートのための援軍、ずっと工廠のみを攻撃してくる、最も遠方にいる艦娘達が一番厄介であると勘付いた。

 

 そのため、弾幕の一部が援軍側に向いた。特異点を止めるための弾幕が薄くなってしまうが、工廠を攻撃させるのを止めなくては、『空冷』の風を深雪に吹かせることが出来なくなり、最も使わせてはならない煙幕が使用可能になってしまう。

 ただでさえ今は風を埃を舞い散らすために使い、視界確保を優先している。深雪が煙幕を出そうとしたタイミングを見計らって突風は吹かせるが、少しでも気を抜くと工廠が破壊されてしまう。

 

「狙ってきたところで、当たりませんよ」

 

 だが、暁と綾波には妙高──『ジャミング』がいる。その目でしっかり狙いを定めて、2人の工廠破壊を食い止めようとするのなら、それは『ジャミング』の餌食。

 2人を能力の範囲内に入れていることで十全の力を発揮し、砲撃は全てあらぬ方向へと飛んでいく。2人を邪魔する攻撃は何もない。

 

「本当に便利ね。でもおかげで、どんどん壊せるわ」

「ですねぇ♪」

 

 ジャミングの力に感心しながらも、暁も綾波もその手を止めることはない。自分達の安全が確保されていることを知れば、より大胆な攻撃にも出られる。

 ついには一度破壊したところにまで砲撃を重なることで、より大きく埃が舞い散るように仕掛けた。大きく出れば出るほど視界は遮られ、深雪達の前進、弾幕の抑止が可能になる。

 

 すると、一部の痺れを切らした敵艦娘達が、工廠の上からではなく、海に出て弾幕を維持しようとし始めた。工廠に上がった状態で撃つから、舞い散る埃に気が取られる。ならば、その心配が少ない海上ならば、そこまでの心配が無くなるはずと。

 実際、埃自体は工廠内に蔓延しようとし、『空冷』の風で吹き飛ばしているとはいえ、次から次へと砲撃が撃ち込まれるためにキリがない。

 

「前進は賢いわけではありませんよ」

 

 三隈が呟いた瞬間、前に出た敵艦娘の真下が大きく爆発して、空高く舞い上がることになった。何が起きたと動揺を見せるが、少し考えればわかることである。

 

 うみどりの陣営には、()()()()()()()()()()()

 

 海中に潜ませていた敵潜水艦は、伊203達が早々に始末をつけている。それが何人いようが関係ない。伊203とスキャンプが実力行使で気絶させ、忌雷が寄生しているならしっかり引き抜き、そして伊26が今回も持ってきていた鎖で捕縛。海上には既に始末されていることを悟られないようにして、全てを終わらせている。

 その上で、わざわざ工廠から降りてくるような者がいるのならば、模擬戦用の魚雷で狙い撃つ。それだけで、降りようとする気持ちは無くなるだろう。まだ埃塗れの工廠から弾幕を張っている方が勝機があると考える。

 

「埃に塗れながら、それを風で取り払い、それでも弾幕を張り続ける。器用ならばそれも可能でしょう。埃はまだまだ舞い上がる。鎮守府が壊れる程にそれを続けることはありませんが、まだしばらくは続きますよね」

 

 そのおかげで動きが徐々に固定化される。弾幕を張る者達は、妙高の『ジャミング』をみたことで、暁と綾波を止めることを早々に諦めた。接近して始末をつけようにも、潜水艦に狙われてどうにもならない。

 ならば、『ジャミング』が効いていない深雪達の動きを止めた方が確実。これまでとやることは変わらないが、唯一変わっているのは『空冷』持ちの行動。埃による視界の制限をいち早く取っ払うために、工廠内で風は起こしっぱなし。それでも深雪に対しての突風は常に警戒しているため、言ってしまえば、常に()()()()()()である。100%どころか、120%の力を出し続けないと、この戦線を維持出来ない。それなのに、たった1人、完全ワンオペでの維持になってしまっているのだから、精神的にもキツくなってくる。

 

「最初は精神攻撃を考えていました。維持する者を消耗させて、穴を作る。それが最初の策でした。ですが──」

「それ以上の効果が期待出来そうですね」

 

 妙高と三隈が考え、暁がすぐさま実行に移したそれは、敵のみ屋内にいることを活かした、埃による視界妨害。その後、風を起こせる者による対処をすれば、今度はその者に対処を強要する精神的な妨害。持久戦に持ち込めば、メンタルが先に折れるのはあちらだと考えて。

 

 しかし、それ以上の効果が得られる。何せ、埃を取り払う風は『空冷』なのだ。つまり──

 

()()()()()()。貴女達がこちらに仕掛けてきた消耗戦です」

 

 工廠の空気が冷え続けるということ。海上を冷やして寒気による体力の消耗も狙ってきた敵だが、逆に言えば、()()()()()()()()()()()

 つまり、今の工廠は海上と同じ、むしろそれ以上の寒気に襲われていると言えよう。

 

 結果、弾幕が徐々に疎かになっていった。味方が冷えてきているせいである。しかし、風を止めれば埃が舞い散り、確保されていた視界が封じられる。砲撃によって多少は散らせるかもしれないが、それでも邪魔なものは邪魔だ。

 それで隙を作った途端、深雪達は一転攻勢に出るだろう。特に夕立。弾幕が薄くなれば、『ダメコン』を駆使して一気に近付く。そうなれば、そのまま終わりにまで持っていける。

 

「寒気を味方につけることが出来たのは運が良かったですね。そうでなくても、隙を作るための鎮守府破壊でしたが」

「ここからの持久戦、勝機はどちらにあるか、もう見るまでもありませんね」

 

 工廠はどんどん寒くなる。だが、海上は深雪の散らした煙幕により多少は緩和されている上に、そもそも()()()()()()()()()()()()

 

「隙を見せたな」

 

 弾幕が薄くなった隙に、寒気が一切効かない者、白雲が居合の構えを取っていた。

 

「自ら空気を冷やしたことを後悔するがいい」

 

 そして、鎖を抜き放つ。海水が氷の礫になるのみでなく、周囲の空気すら凍りつかせて、『空冷』以上の寒気を工廠内に巻き起こした。

 これまでも自ら作り上げた寒気により動きが鈍くなっていたところに、さらにそれ以上のモノが入り込んできたのだから、鈍くなるだけでは終わらない。手がかじかみ、身体は震え、さらには氷の礫まで飛んでくる。まともに弾幕なんて張っていられなくなる。

 

 

 

 

「皆様方、勝機にございます!」

 

 弾幕は崩れた。ここからは一転攻勢である。

 

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