後始末屋の特異点   作:緋寺

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裏切り者の行方

 深雪達が磯風を嗜めている間、特異点チームと分かれたもう一つのチームは、この鎮守府を統べる裏切り者の提督を探すために、鎮守府の内部を散策していた。

 こちらの鎮守府も、これまでの鎮守府と内部構造自体はそこまで変化はなく、執務室までの道もある意味で一本道。

 

「1つ目も2つ目も地下通路通って逃げようとしてたっぽい。今回も同じかも」

「ですねぇ。そこで整備不足で結局出られずに、追い詰められて発狂するというのが定番みたいですけどぉ?」

「今回もそれだと楽でいいっぽい」

 

 鎮守府の中には、もう艦娘は見当たらなかった。ほぼ全員を防衛線に動員していたのだろうと考えられる。とはいえ、護衛に数人はつけているはずなので、油断はしていない。それに、今この時でも不意打ちを狙って待ち構えている可能性も考えられる。

 

「少なくともカメラの映像を見ていた連中はいるはず」

 

 暁がそう話すように、小型カメラを身につけた敵艦娘のその映像を確認していた者がいるはずである。

 

 今のこの鎮守府には、白雪のハッキングのおかげで、電気が全く通っていない。今も深夜であるせいで暗闇の中の戦いになっている。暁が探照灯で照らしているからまだなんとかなっているだけ。通信設備も機能停止しているはずである。それなのに、敵の情報をカメラから入手しているというのは矛盾が生じる。

 そのため、暁はそのカメラの映像を得ることが出来るような力を持つ者がいるのではないかと考えていた。それは妙高も同じ。1つ目の鎮守府でいう、『電探』の曲解を持つような者が。

 

「今はカメラも全部壊してるっぽい?」

「出来る限りは。ここに監視カメラとかがあったら話は変わるけど」

「そっちは機能停止してるみたい」

 

 その辺りは子日がしっかり確認している。壁をよじ登り、カメラらしいモノを発見したらまず確認。そちらは電気が通っていないために何も動いていないのがすぐにわかる。

 あくまでも艦娘が装備しているカメラ、鎮守府の電源に頼っていないポータブルなモノのみが機能しているのみ。その通信を受ける場所が、鎮守府の設備ではなく、何らかの力を持っている艦娘になっていると予想出来る。

 

「ともかく、今は進むしかありませんねぇ。ただ、ちょっと()()()()するんですよねぇ」

 

 前進はやめないが、綾波が少しだけ不安そうな表情を見せる。

 

「何かあった?」

「こことの戦いが始まって、それなりに時間が経ってますよねぇ。しかもここの裏切り者、ちょっと頭が回るじゃないですかぁ」

 

 これまでの鎮守府の者達と比べると、籠城という戦術を取ったことで、攻略がかなり苦戦させられたのは間違いない。少なくとも、こだかと那智部隊は手をこまねいていた。

 磯風の『空冷』という強力な能力を引き当てたというのもあるが、それを有効活用した戦術をしっかり組み立てている。時間稼ぎがかなり上手い。

 

「流石に時間をかけすぎたかなぁと」

「……それは暁も思ったわ。前のところから半日経ってるものね」

 

 少し頭が回るだけでも大分変わるのではという綾波の見解に、暁もそうかもしれないと同意。そうなっていた場合、ここの裏切り者は艦娘に防衛だけを託し、自分は既に逃げ果せているなんてことも考えられる。

 前回も前々回も、自分の力をどう思っていたのかは知らないが、出口側の整備不良で撤退が出来ず、結局は捕まるか死ぬかしたわけだが、今回はどうなるのか。

 

 

 

 

 辿り着いたのは執務室。地下通路があるならばここである。ここまで奥に来れば、工廠を極寒にしている冷気も届かなくなり、まともな鎮守府という様相に。

 

「開けるっぽい!」

 

 その扉を破壊するかの如く蹴破る夕立。もし中でも敵が待ち構えており、集中砲火を浴びせかけてきたとしても、夕立ならば『ダメコン』で持ち堪えられる。それに、今ならば妙高もついてきているのだから、『ジャミング』によりある程度の回避は可能。

 

「……誰もいないっぽい?」

「今のところは。ですが、『ジャミング』の範囲から出ないでください。罠が仕掛けられていてもおかしくありませんから」

 

 事実、この『ジャミング』のおかげで免れたところが1つあった。

 

「追い詰められた時の保険は、ちゃんとかけていたようですね」

 

 部屋には忌雷が仕掛けられていたのだ。妙高がいなかったら、最初に侵入した者に寄生していたことだろう。これは『ジャミング』によって飛びかかることに失敗し、壁に激突していたようだが。そちらは子日がしっかり蹴り飛ばすカタチで対策済み。

 

「カメラを見てた連中もいないっぽい?」

「別の場所で報告をし続けていたのかもしれませんし、提督についていっている可能性もあります。地下通路への入り口を探しましょう」

 

 妙高の指揮で、ひとまずいつも通りの地下への入り口を探る。すると、案の定同じような場所に発見。執務室自体が綺麗なモノだったため、何かに塞がれているなんてこともなく、すんなり開くことが出来た。

 むしろ、だからこそそれも罠に繋がるかもしれないと勘繰ってしまうところはあるが。

 

「考えられるのは、そこにも忌雷が仕掛けられていることと……」

「毒ガスの可能性もあるわ。吸ったら終わるレベルの」

 

 妙高に続いて、暁もそれは危惧していた。前の鎮守府にはそういった仕掛けはなかったが、今回はあるかもしれないと思えてしまう。

 これまでの単純さとは打って変わって頭が多少回る分、ただ逃げるだけでは終わらなそうな面倒臭さが随所に感じられる。前の裏切り者達も忌雷を仕掛けるくらいはしてきたが。

 

 毒ガスというところは、暁には苦い思い出がある。それが、軍港都市での戦い。息を止めていても、皮膚呼吸によって体内を蝕む『排煙』の曲解。無差別に誰も彼もを餌食とするその力は、今こそ警戒せねばならない力。

 

「なら、穴に撃ち込むっぽい?」

「それもアリだとは思いますねぇ。全部吹き飛ばしてしまった方が楽ですよぉ?」

「それで降りられなくなったらどうすんのよ」

 

 物騒な考えの狂犬2人に、溜息を吐きながら呆れる暁。しかし、得策はまさにそれ。

 

 ただ、恐れずに地下へと伸びる梯子を確認した子日が、それどころじゃないと苦い顔をしていた。

 

「……やられた。これではもう……」

 

 地下へと続く梯子の向こう側、これまでと同じならば潜水艇などが鎮座している広間に向かう道は、既に破壊されていた。瓦礫が積み重なり、最初から向かえないようになっていたのだ。

 提督がそこを通った後に、わざわざ自らの手で爆破したようにしか見えない。もう戻ることも無いと確信して、自ら退路を絶っていたのだ。

 

「これならぶっ壊してみればいいっぽい!」

「……そうね。既に壊れているもの、通路が作れるかどうか試す必要がある。夕立、綾波、あの瓦礫を壊しちゃって」

「任せてくださぁい」

 

 こうなってしまっては破壊以外に追うことが出来ない。そのため、夕立が最初に提示した、穴に砲撃を撃ち込む案を採用。既に埋まってしまっている通路が、それで開通してくれれば儲け物。

 

 指示した瞬間に、夕立と綾波が穴の奥に向かって砲撃を繰り出した。いくら駆逐艦の砲撃とはいえ、瓦礫の山に放たれれば、相応の破壊を齎す。木っ端微塵とは行かずとも、通路を塞ぐ山は粉々に砕けた。

 だが代わりに、真上に向かって土埃が一気に舞い上がってくる。それを顔面に受けるのは気分が良くないと、2人ともすぐに顔を背けた。

 

「……周到ね。奥にも瓦礫が見えるわ。上から撃つだけじゃ開通しないようになってる」

 

 暁が探照灯で奥を照らしたが、まだ瓦礫が残っていることに気付いた。梯子のところだけではなく、さらに奥も破壊されており、撤退を妨げられないようにと相当念入りに破壊されているようだった。

 降りていって瓦礫を破壊しようにも、距離が近すぎて自分にもダメージが入ってしまいそう。ならば夕立の『ダメコン』がここでも役に立つと思いきや、妙高がそれを止める。下で撃って、その反動で上が崩れたら、もうどうにもならなくなると。

 

「やるなら爆雷かしら……でもやりすぎると鎮守府そのものが壊れちゃいそう」

「そうですね……ここまでされているとなると、正直追うのもかなり難しいですし、ここで時間を使っている間にもう逃げ切っていると考えるのが一般的になってしまいますか」

「だったら、出口に回った方が確実かも。何処に繋がってるかわからないのは厳しいけど」

 

 地下に降りるのではなく、あちらが脱出の際に出てくるであろう地上に当たった方が、まだ逃さずに済むというのが現場判断。

 しかし、その出口が何処に繋がっているかなんてわかりようがない。内地だとしても巧妙に隠されていそうだし、そうでなくてもこれだけ時間が経ってしまっている。探している間に、タイムオーバーというのも考えられる。

 

「……私としては、一度戻ることを提案します。それこそ深追いしたら、ドツボにハマるような気がしますね」

「暁もその案に賛成。逃がしちゃうのはすごく嫌だけど、これはもう一筋縄では行かないところまで来ちゃってる。前のヒトみたいに頭が悪かったら楽だったんだけど」

 

 諦めるというわけではないが、ここでじっとしていても何も変わらないというのは間違いない。ならば、なるべく行動を起こして、少しでも事態を進展させることの方が大切。

 やるならば、陸を見張ることになるか。だが、それはうみどりやこだか、軍港鎮守府の面々がやることではない。

 

「残念っぽい」

「でも、仕方ないですねぇ。ここまで逃げることに徹されたら、綾波達もちょーっと苦しいですからぁ」

「ぽぃぃ……」

 

 悔しそうな夕立と綾波だが、闘志はむしろ逆に燃え上がっていた。ここで終わりにしてなるものかと。

 

「海は見張っていてもらいましょう。元々こちらを攻略しようとしていた鎮守府の艦娘達がいますから、人員は足りないわけではありません」

「陸だって逃げ道があるわけじゃないし、それで少しは変えられると思う。暁達が出来ることは、残念だけどここまでだと思う」

 

 引き際も大切だと、執務室からは撤退する方針。代わりに、真っ直ぐここまで来ているため、他の部屋も探索して、隠れ潜んでいる艦娘がいないかの調査だけは進めることで全員意見が一致した。

 

 

 

 

 裏切り者を追い詰める戦いで、初めての敗戦。誰も傷ついていなくても、本来の目的が達成出来なかったという事実は、とても悔しい結果となった。

 

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