3つ目の鎮守府は裏切り者の提督を逃してしまったものの制圧は完了。本来の担当である那智の部隊に、捕虜の管理と逃げた提督の捜索を任せることになった。
勿論、そちらには大本営から艦娘が派遣されることは約束されており、艦娘達だけに全てを任せるということもない。特に逃げている提督の行方は、どうにか突き止めなければならないところである。
厄介なのは、護衛の艦娘を数人連れていること。今の裏切り者は、陸でも艦娘に攻撃をさせかねないため、艦娘達以上に一般市民が危険である。その装備のままで市内に入っていったら目立ち過ぎるため控えそうではあるが、それこそ忌雷を陸でばら撒くなんてことがあったら、取り返しのつかないことになる。
「那智さん達には特機を渡してあるんだ。何かあった時は使ってくれって」
「そう、それなら少し安心出来るわね」
そこで、こだかで顔を合わせた時に、1人に1体ずつ特機を渡していることが効いてくる。自分に寄生させるという選択肢を持たせつつ、敵の忌雷も引っこ抜ける。最悪、自分に忌雷が寄生しようとしてきても、特機ならばそれを返り討ちに出来るということもあり、これまでとはまた違った戦いが可能になっただろう。
同様に、こだかにも艦内が守れるくらいに『増産』させた特機達が守りに入っている。スキャンプが提供したそれらは、今もしっかり守りに入っていることだろう。
使い方も当然説明しており、タシュケントは若干引き攣った顔をしたというのは別の話。
「さ、深雪ちゃんも一度休んでちょうだい。まだ夜だもの。戦ってばかりだし、大人の姿になると疲れるじゃない。次のためにも、しっかり息を抜くのよ」
「わかってるよ。今回は怪我まではしてないから、ただ普通に寝るだけになるかな。つーか、ハルカちゃんはちゃんと休んでんの?」
「アタシは提督だもの、もう一踏ん張りしなくちゃ」
ここまでかなり長い時間を戦ってきているが、伊豆提督は休めているのか。これが若干心配事。
2つ目から3つ目の間に半日の猶予があったため、その間に身体は休めているはずなのだが、戦闘中のタシュケントと通信をしながらということもあったため、まともに休んでいるとは到底思えない。しかしながら、伊豆提督は見た目に疲労感が見えない。
「仮眠は取らせてもらってるから安心してちょうだい。流石にここまで半日あったんだもの。タシュケントちゃんにも休めって言われちゃったわ」
「だよなぁ。ハルカちゃんが倒れたら、あたし達終わりだからな?」
「そうはならないようにしてるから大丈夫。アタシだって身体が資本ってことくらい理解しているもの。とはいえ、今回のが終わったら、一度軍港でゆっくりしたいところね」
島への襲撃は当然あるのだが、その前に一度しっかり心身共に休息をとってから先に進みたいと、苦笑しながら話す伊豆提督に、深雪もそうだなと賛成した。
夜が明ける前にうみどりはこだかと共に出発。次に向かうのは4つ目の鎮守府──のはずだったのだが、それは急遽変更となる。それは1つの朗報によるモノ。
「
なんと、うみどりの手を借りずとも、忌雷が蔓延る鎮守府を攻略したという、一番聞きたかった情報がうみどりに入ったのだ。
思わず声を大きく出してしまったが、伊豆提督のそれは強い喜びの声色。慢心しているわけではないが、こだかと那智部隊2つの部隊が手を組んでも突破が難しかったことを考えると、まだ敵の力に慣れていない他の鎮守府の者達が、独力で攻略の鍵を見つけたことが非常に喜ばしい。
そして、それが上手く行った理由の1つは、その報告をうみどりにした者。
『うす、オレ達だけじゃあ厳しかったんスけどね』
おおわしの長、昼目提督。画面越しに少しだけ顔に傷がついているのがわかったため、おそらくあちらの提督とやりあったのだろうと予想が出来る。
『途中で
昼目提督の説明はこうである。
今から向かおうとしていた第四の裏切り者鎮守府。そこに真っ先に当たれたのが、海上を航行しているおおわしだった。手近だったということ、また、敵のやり方をある程度は知っているということもあり、慎重に、かつ大胆に事を起こすことが出来た。
しかし、やはりと言えるのが、敵の曲解。普通の艦娘ならば、その特異性に苦戦を強いられることが当然。3つ目の鎮守府のような籠城戦ではなく、どちらかといえば1つ目の鎮守府のような襲撃を仕掛けてくるタイプではあったものの、大量に『増産』された忌雷によって身動きが取りづらくなり、忌雷を破壊する電磁波照射装置を使っても対処が難しい。その上で敵艦娘まで出てきているので、いくらおおわしでも苦戦は免れなかった。
それでも拮抗を維持出来ていたのは、昼目提督の手腕と、艦娘達のやる気。おおわしの者達は直に洗脳を受けた者はいないが、目の前で寄生される姿を見ている者が多くいるため、絶対にああなってなるものかという反骨心が非常に強かった。
数の暴力に抗いながら、どうすると考えていた時に、1つの部隊から連絡があった。その部隊というのが、昼目提督が助けられたという援軍。かなり大規模な連合艦隊が派遣されており、その全員が電磁波照射装置を装備していたらしい。まるでこうなることを予測していたかのような、適切な援軍。
そのおかげで、おおわしに群がる忌雷は掃討され、それを指揮していたであろう『増産』持ちも淘汰された。ちなみにそれは1つ目の鎮守府と同様潜水艦であり、海防艦達が潜水艇を使うことで排除したという。
『どうしても怪我人は出ちまうし、うみどりみたいに治す手段も無ぇ。だから、電磁波で黙らせるしか無かったんスよね』
「それは仕方ないわ。無傷で斃すということの方が難しいし、手段がないなら選んでいられないもの」
襲撃してきた敵艦娘は、全員が大破状態。艤装は破壊され、気も失い、これでもかというほど電磁波を浴びせかけられているため、動くこともままならない。キチンと治療してから入渠すれば、その身体は完治するだろうというくらい。
簡単に言ってしまえば、あらゆる手段を使った
『鎮守府の方にも、その援軍と一緒に乗り込んだんスよ。オレも』
「まぁ、そうでしょうね。最初の鎮守府はアタシも行ったくらいだし」
『マジっスか! ハルカ先輩がバトるの見たかったぜぇ』
「そんな甘い話じゃないわよ全く……。でも、やっぱり人間であることを笠に着てきた?」
『予想していたことでしたけど、マジでやってきましたよ。艦娘が人間を攻撃するのかって。だからオレが直々にぶっ飛ばしてやりました。
そういうところも1つ目の鎮守府と近かったらしい。最初は忌雷による襲撃でどうとでもなると高を括っていたようだが、徐々に劣勢になってきたことがわかると撤退を画策したという。
だが、ここでうみどりとは違う手段でそれを制した。それもまた援軍の艦娘が、おおわしの海防艦と共にやったと言うのだが、地下通路があることを先んじて理解していたということもあり、その潜水艇があるであろう海中の出入り口を、潜水艦が木っ端微塵に破壊したという。
そうしたことで地下には海水が流れ込み、そこから撤退なんて言っていられなくなった。そういうカタチで撤退を阻止するのは、伊豆提督は考えていなかった。優しさが邪魔をする好例。
その結果、地下に逃がすこともなく、執務室で殴り合いに発展。艦娘は艦娘が抑え込み、提督は提督同士での戦いとなる。昼目提督は腕っぷしに自信があるため、それはもうボコボコにした。避けるということもしないで、圧倒的な実力差を見せつけ、身体だけでなく心も折りに行き、勝てない者であると徹底的に刻みつけた。文句を言えば拳が飛び、楯突けば拳が飛ぶ。気を失ったら
「艦娘達は大丈夫だった? 忌雷もそうだけど、何かしら力を持っていたでしょ」
『うす。でも、そこはどうにかしました。ありがたいことに、知ってる力ばかりだったんで。前以て聞いていたことに対しては、ちゃんと対策してたんスよ。あの放電するヤツだけは面倒でしたが、そこは響が上手いことやってくれましてね』
4つ目の鎮守府で苦戦させられたのが、『発電』の曲解。海賊船の戦いで駆逐水鬼が持っていたそれは、砲撃雷撃関係なしに、何処でも放電して攻撃にしてしまうこと。
だがそれは、おおわしの響がどうにかしてしまったらしい。こんなこともあろうかと、と絶縁テープを取り出して縛り付けたというのだから恐ろしい。ついでに鼻メガネを装備させて尊厳も破壊したとのこと。なんでそんなモノ持ってきてるんだという質問に対して、『嗜み』と答えたのは響らしさ。
実際は、これまでに見て聞いた能力の対策になりそうなものは全て持ってきているらしい。放電には絶縁テープ。
例えば、白雲のような『凍結』対策には小型のバーナー。傷をつけられない『装甲』対策は紐──
『それに、援軍がマジで的確だったんスよ。おかげで忌雷の寄生はゼロ。目に見えるヤツは全部ぶち壊してくれてます。今は鎮守府の調査と、捕虜を大本営に引き渡すためにも動いてくれてましてね』
「……なんだかすごいわね。何処の子達なの?」
『ヤツの部下っスよ。あの、オジキの子飼いの。オンライン会議で深雪に食ってかかって裏切り者炙り出した』
それを聞いて、ああと声を上げた。あのキレ者が今回もやってくれたのかと驚きつつも、これまでのことを考えると納得も行った。
「彼……顔も出していないのよねぇ……。名乗りもしないから誰かもわからないし」
『こちらもっスよ。結局名前もわからねぇ。ただ、オジキからは信用出来るから心配するなの一点張りっスね』
「元帥がそう言うなら……まぁ納得するしかないかしらねぇ」
未だに素性がわからない謎の提督。その手腕は相当なモノなのがわかるが、何故そこまで徹底しているのかは、そのうち知ることになる。