後始末屋の特異点   作:緋寺

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それぞれの馴染み方

 叢雲が立ち直り、磯風と共にカテゴリーWへと生まれ変わった後も、うみどりは変わらず次の現場、5つ目の鎮守府に向かっている。

 2つ目から3つ目の移動と同様に距離があるため、到着予想時間はまたもや深夜。夜の戦いは忌雷の見えにくさなどから控えたいところなのだが、事件発生からもうかなりの時間が経過してしまっているため、そこにいるであろう裏切り者の提督も逃げてしまっている可能性がかなり高め。3つ目の鎮守府ではまさにそれが起きており、残念ながら既に1人は逃がしてしまっている。

 

「次は逃がさない……と言いたいところだけれど、正直絶望的よねぇ……」

 

 伊豆提督も流石にここまで時間が経っていると厳しいのではと思い始めている。4つ目の鎮守府はおおわしとあの切れ者な提督が組んで攻略したおかげで、逃がすことなく捕えることが出来たようだが、こだかや那智部隊の苦戦を考えると、今も攻略完了の連絡が来ないのは不安になるというもの。

 

 とはいえ、うみどりから出来ることは、近い鎮守府に急航するだけ。それが間に合わなかったとしても、誰も咎めないし、咎められない。うみどりは出来ることを出来る限りこなしているのだから。

 

「何を言っても変わらないわ。ハルカ、今は休むべきよ」

 

 小さく溜息を吐いた伊豆提督に、お茶を淹れるイリス。艦娘達に休めと言い、自分も休んでいると言いながらも、なんだかんだしっかり休めてはいない。仮眠くらいは取れていても、メンタルは常にギラギラに研ぎ澄ましているようなモノなのだから、心休まることが全く無い。

 

「ありがと。イリスのお茶は本当に落ち着けるわぁ」

「これでダメなら神威だったわよ」

「あの子は今は叢雲ちゃんに譲ってあげたいところね」

 

 心を落ち着けるなら、神威の排煙に頼るというのもあるが、流石にそこまでしなくても大丈夫だと苦笑い。本当に疲れているのなら、ここでお茶なんて飲んでいられないだろう。

 

「少し仮眠を取るわ。夕食になっても寝てたら起こしてちょうだい」

「ええ、安心して寝てくれて構わないわ。私も朝のうちに寝させてもらってるから」

「お願いね。心配事は多いけれどね……」

 

 本当なら、少しは調子を取り戻した叢雲から話を聞きたいと思っていたようだが、そうなると眠るタイミングなんてまた何処かに行ってしまう。

 話はまた後でも構わない。それこそ仮眠を取ってからでも、戦場まではまだまだ時間はある。それまでに聞ければ充分である。

 

「仮眠室は万全の状態にしてあるから安心していいわよ。アロマも新品。お布団もなるべくいいのに替えておいたから」

「ふふ、それは楽しみね。気持ちよく眠れそう」

「それじゃあ、おやすみハルカ」

 

 伊豆提督はこれで休息に入った。今、うみどりで最も望まれていることでもある。

 

「……夕食まで何も起きてくれないでちょうだいね」

 

 イリスは聞こえないように、ひっそりと、心の底から願った。神様仏様特異点様、伊豆提督の眠りを妨げるようなことはありませんように、と。

 

 

 

 

 伊豆提督が仮眠に入ったことは、艦内全員に伝わる。そして、満場一致で寝かしておいてやろうと意見が固まる。

 

「んなら、あんまり騒ぎが起きない方がいいな」

「なのです。おかしなことをして、ハルカちゃんさんが必要なことが起きても困るのです」

 

 うみどりを束ねる者が眠っているのだから、艦娘達も今は休息を取るべきである。ついさっきまで休んでいたようなモノなのだが、ここからまたさらに戦いが始まることは明白。休める時に休んでおくというのが基本であり、今はそれを提督自身が実践しているのだから、艦娘達もそれに倣うべきである。

 

「となると、何すっかな」

「身体を休めるのが一番なのです。でも、今はあんまり眠くないですよね。夜に寝た方が、次の戦いにも挑みやすいのです」

 

 次の現場到着が深夜であることも通達済み。今から眠ると、夜通し起きてからの戦いということになる。睡眠時間は問題なくても、疲労感が少々変わってくるだろう。

 ならば、夕食後に仮眠をとって、日が変わったくらいで目を覚まし、次の戦いに備えるというのがおそらくベスト。

 

「なら、やることは1つだな」

「なのです。()()()()()()()()、ですよね」

 

 それこそついさっきまで一緒にいた叢雲や磯風、それに他にも羽黒達とも、改めて交流を深めたいと考えた。みんな同じようなことを考えていそうではあるが、深雪と電もその例に漏れず、これから共に生活していく仲間とは常々仲良くしていきたいと考える。

 

「まぁブラついてれば、誰かに当たるだろ。適当にフラフラすっか」

「それがいいのです。深雪ちゃんもどっちかといえばゆっくり休んだ方がいいのです」

「そりゃあそうだな。今はそんなに疲れてねぇけど」

「気付かない内に蓄積されてるかもしれないのですよ?」

「違いねぇ。あたしにはわかってないのがあるかもしれないからな。そういうの気付いたら、なんか言ってくれよな」

「なのです。電が深雪ちゃんの健康状態をちゃんと見ておくのです!」

 

 相変わらず仲がいい2人は、そのままうみどりの中をブラつくことにした。今この時間もトレーニングに勤しむ者もいれば、これ幸いと昼寝に興じる者もいる。この段階から次の戦いの準備をしている者もいる。どんな選択をしても、誰もそれを否定しない。

 それがうみどりのいいところ。何事も無い時には、そんな穏やかな空気が漂っている。それを新人にも知ってもらいたいものだと、2人は歩き始めた。

 

 

 

 

 磯風はトレーニングルームにいた。神風から鍛錬の指示を受けている白雲とグレカーレと共に、自己鍛錬に勤しもうと同じようなことをさせてもらっているらしい。

 伊豆提督が休んでいる時は、激しいことは出来ない。それこそ、実戦的なスパーリングは万が一のことを考えて禁止される。基本的には筋トレやストレッチで身体を整え、ほんの少しでも積み重ねて、次への励みにしている。

 

 また、トレーニングルームであることから、いつも使っている長門とトラも磯風とは既に仲良くなっていた。磯風は真面目な性格をしているため、こういった鍛錬を欠かさない者達とは相性がいい。

 その代わりに、グレカーレからの熱烈なイジリを受けてしまうわけだが。

 

「以前とはあまりにも違うから、少し感動してしまった。本来の艦娘とはこうあるべきなのだと私は思う」

 

 いい汗をかいたとタオルで拭きながら、得られるモノを実感して清々しい表情の磯風。心地よい疲労感と、充実したトレーニング内容にご満悦な様子。

 

「あー、聞いていいことなのかはわからねぇけどさ、前のトコって、やっぱこういうことも?」

「まったくしていないというわけではない。我々も一応は艦娘という名目を持っていたんだ。海上護衛の一つや二つは当然やっている。だが、あくまでもそれは()()()()()()()()というだけだったんだがな」

 

 磯風のいた鎮守府では、建前上はしっかりと鎮守府運営はしていたようである。しかし、洗脳教育により価値観が捻じ曲げられ、人類の平和が二の次となり、阿手の利益が最優先となっていたようである。

 その利益というのが、人体実験により得られる研究成果。高次の存在となるためのあらゆる手段。他者の命を天秤にかけた、危険な実験から得られる高い知識は、阿手にとって最重要なのだろう。

 

「ここまで充実したトレーニングをしていると、艦娘になったんだと改めて実感出来る。ここの仲間達はとてもよくしてくれるしな」

「磯風は筋がいいからな。教えていて私も楽しくなってきてしまったよ」

「うん、それは私も感じた。彼女は私達と()()だとね」

 

 長門とトラも磯風を絶賛。やはり相性の良さで既にここまで仲良くなっている。

 

「ここで鍛えて、深雪達の役に立ちたいのだそうだ」

「あたし達の?」

「最初から私の役割はわかっているからな。風によるサポート、そして、特異点の防衛だ。そのためにも、これまでより強くならねば」

 

 磯風が考えているうみどりでの役割は、『空冷』を駆使したサポート。煙幕と凍結の拡張がメインになる。だが、それだけで収まるわけにはいかないと、個人的な戦闘力もしっかり上げていく。サポートというのは、まず自分が強くなければ始まらないし、護衛としても対応出来なければならないと、磯風はやる気充分。

 前の鎮守府では出来なかったこと、明確に海の平和に繋がる行動が出来るのが、嬉しくて仕方ないらしい。艦娘とはこうあるべきと思っていることに繋がっているのだから。

 

「じゃあ、お前にも背中を預けるぜ」

「任せろ。これまでに学んできた良いことも悪いことも全て使って援護をする。それが生まれ変わった私の使命だ。なんてやり甲斐のある仕事、これこそが艦娘だ」

「気負いすぎるなよ。いやマジで」

 

 磯風の瞳が燃えているようにも見えて、深雪は苦笑せざるを得なかった。

 

 

 

 

 既にやたらと馴染んでいる磯風とは対照的に、叢雲はというとまだ少し馴染めていない様子。羽黒達同郷の艦娘と共に、今はデッキで休んでいるところである。

 神威の排煙による癒しも受けているが、こうやって自然の中で癒されることも必要だとアドバイスを貰ったらしく、心を落ち着けるために今ここにいる。

 

「暗い場所に閉じ込められていたようなモノなのですから、広く高い空の下に身を委ねることも大切だと思いますわ。せっかく拡がった視界なんですもの。自分の世界も拡げてみませんとね」

 

 なんて三隈が言っていたらしい。叢雲も確かにと感銘を受けてデッキにあがったようだが、全速力で現場に向かううみどりのデッキは、それなりに風も強い。髪が靡くのをなんとか押さえて、それでも突き進む方向を眺めている。

 

「世界の広さを痛感しているところよ。別に海に出たことがなかったわけじゃなかったんだけど」

 

 そんな叢雲の表情は、やはり最初に比べると清々しさを伴っていた。羽黒達も、叢雲がここまで立ち直ってくれたのは喜ばしいことのようで、いつでも支えられるぞと言わんばかりににこやか。

 

「磯風はやたらと早かったけど、自分の出来る範囲で馴染んでいってくれりゃいい。なんかあったら、あたし達にも相談してくれよな」

「そうね、そうさせてもらうわ」

「たまには姉ヅラさせてくれ」

「……ノーコメント」

 

 叢雲は元人間。深雪とは生まれも育ちも違うため、どうしても姉としての感覚は生まれない。艦娘としては姉妹艦かもしれないが、吹雪型は特にその傾向が強いので尚更。

 だが、横の繋がりをとても大切にしている型でもあるので、叢雲としても、深雪を頼れるのならば頼ることになるだろう。姉妹としてではなく、仲間として。特に親身になってくれているのだし、深雪がいなかったら今の自分は無いと言っても過言ではない。

 

「これまでは、この海のためなんて戦いは考えてなかった。アイツの目的のために力を尽くそうって、ずっと思ってた。でも、それは本当に視野が狭かったってことを痛感したわ。みんなにも迷惑をかけちゃってるし、それで命を失った子も沢山いる」

「……そうだな」

「でも、今は違う。視野は拡がった。見える景色がこんなに大きい。これ全部を、私達みたいなことにしないように力を尽くす。それが、私に与えられた新しい使命なんだって思ってる。それをくれたのは……まぁ、アンタなんでしょうね」

 

 感謝するわと笑みを浮かべる。これから歩くべき道を見据え、そしてそこに向かって歩き出した叢雲は、もう簡単には止まらない。道を間違えることもない。もし間違えそうになっても、仲間達が正しい道に引っ張ってくれる。

 深雪もニカッと笑い、任せろと拳を突き出した。これに対して何をすればいいのか一瞬戸惑ったようだが、クスリと笑って叢雲も拳を突き合わせる。それだけで、心が通じ合うような感覚を得た。

 

 

 

 

 新たな仲間は、それぞれの方法で馴染んでいく。次の戦闘では、早速その力を振るうことにもなるだろう。

 




一方高波はやっぱり忌雷を増産してはムーサに食べさせていた。ル級とはとても仲良くなっている。
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