後始末屋の特異点   作:緋寺

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仮面の奥

 深夜の航行中、うみどりを襲撃してきた深海棲艦。はぐれ深海棲艦の強襲かと考えたものの、その深海棲艦にはおかしなところが多く、さらには共通点まで見受けられた。

 本来の個体とは違う髪型も、どんな艦種であっても総じて、同じ衣装と仮面を身につけていること。イロハ級だとしても、こんなことはこれまでにない。

 

 そこから、このイロハ級は人為的に何者かが作ったモノ、さらには、()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのではないかと予想された。そんなことがあった場合、無闇矢鱈に沈めることは出来ない。まずは調査してみなくては、わからないことも多い。

 

「磯風様、空間の冷却をお願いいたします」

「任された。白雲は鎖で凍結を頼む。ここからでも出来るのか?」

「幸いにも、用意していただいた鎖はかなり長めですので」

 

 それを生かしたまま捕えることが可能なのは、『凍結』により行動不能にさせられる白雲。しかし、それだけでは足りないため、周囲の空気を冷やすことが出来る『空冷』が可能な磯風がサポートする。

 場所はデッキ。うみどりは停止しているが、工廠の門を開けるわけにはいかないと、その場所からの処置を進める。鎖の長さを聞いているのは、デッキの上から敵深海棲艦に届くのかというところから。

 白雲はかなり長い鎖を使っている。振り回すのには相当な力が必要ではあるものの、『凍結』の力をしっかりと浸透させることが出来れば、デッキの上からでも海を凍らせることが可能。

 磯風の『空冷』は、デッキの上からであろうが突風を吹かせることが可能であるため、その『凍結』の冷却速度をさらに早め、触れた瞬間に全身を氷で覆う程に冷えるほどにまで持っていく。

 

 ぶっつけ本番の連携ではあるため、息が合うとは互いに思っていない。だが、息を合わせる必要もないとも考えていた。強いて言うならば、磯風はその風によって、白雲の鎖の投擲を邪魔さえしなければいい。

 

「では、参ります。磯風様」

「ああ、先にやるぞ!」

 

 磯風が海面に手を突き出すと、そこから一気に風が巻き起こった。隣に立つ白雲にはほとんど影響はなく、本当に磯風の正面にしか吹かない暴風。

 深雪の煙幕を吹き飛ばす時にも使われた風と同じであり、冷たく激しいモノ。その動きを止めることは出来ないため、敵深海棲艦達は、風が起きている方を仮面に包まれた目で見る。

 今は夜の海。デッキは念のため灯りを消しているため、簡単にはその姿を捉えることは出来ない。しかし、この深海棲艦達は、身につけている仮面の性能なのか、的確に磯風と目を合わせてきた。

 

「白雲、見られた」

「構いませぬ。空気が冷えてしまえば何も」

 

 だが、何かをされる前に、白雲の『凍結』が猛威を振るう。長い鎖を振るうと、それは的確に深海棲艦へと接触し、その瞬間にその場所を一気に凍りつかせた。

 そんなことをされても表情一つ変えることはなかったのだが、ある者は腕が上がらなくなり、ある者は動くことすら出来なくなる。面倒なことになりそうな空母ヲ級も、頭部の艤装が凍りつくことで艦載機の発艦を阻止し、戦闘不能にしていった。

 

 深海棲艦の部隊は、そこまで多いものではない。冷気を放出し続ける磯風と、その中で鎖を振るう白雲のおかげで、敵深海棲艦部隊は次から次へと戦闘どころか行動も出来なくなっていき、最終的にはその全てがその場で固まった。

 

「初めてにしては、上手くやれたのではないだろうか」

「ええ、これほど長い鎖で凍結させられたのは、磯風様の冷気のおかげでしょう」

「お前の凍結をうまくサポート出来て良かった。同じ系統の力は、組み合わせれば絶大な効果が得られると実感出来たな」

 

 磯風がニッと笑い、白雲も上手く行ったことに安心して息を吐いた。これからも非常に有効な手段であると証明したことで、今後も命を奪うには抵抗がある敵が現れた時には、この手段が最優先で実行されることになった。

 

 

 

 

 見える範囲の敵深海棲艦が凍結したことを確認したため、うみどりは工廠の門を開けた。勿論、細心の注意を払い、増産し続けた特機達の守りも万全。

 門の外から忌雷が押し寄せてくるなんていう悪夢は、今回は起きなかったため、ひとまず安心。

 

 そこから敵深海棲艦の中でも移動させやすそうな1体を選択して、うみどりの工廠内に引っ張ってくる。

 それの対象になった深海棲艦は、本来の個体とは違って髪を二つ結びにしている空母ヲ級。仮面の下でどのような目をしているのかは想像出来ないのだが、抵抗をすることすら出来ず、引っ張られている時も抵抗の素振りは見えていた。

 

「それでは、念のため私が外してみます」

 

 その空母ヲ級の仮面を外すのは、『ジャミング』を使用する妙高。もしこれで仮面に何か仕込まれており、敵対の意思を持って攻撃をしたとしても、『ジャミング』がそれを全て回避させる。

 それでも不意打ちが怖いところもあるため、周囲にはすぐに何とか出来るようにと数人が待機。それもまた、『ジャミング』の範囲内に入っているため、万が一攻撃されたとしても、自動的に回避されるはずと。

 

「……完全に張り付いているわけでは無さそうですね」

 

 顔面の仮面を掴み動かすと、癒着しているというわけではなく、まるで強力な磁石で張り付いているかのようだと感じた。簡単には引き剥がせないが、ゆっくりと持ち上げるようにすれば、艤装のパワーアシストも相まって、その姿が見えるように動いていく。

 

「……この方は……」

 

 そして、仮面が顔からゆっくりと離れたことで、それが何者であるかが判明した。何故なら、その顔が()()()()()()()()()()()()()

 

「……ハルカちゃん、予想通り……でした。この方は艦娘ですね。蒼龍さんです」

 

 色合いは完全に深海棲艦。肌の色や髪の色はまさに空母ヲ級。仮面を外したら瞳の色までしっかり青く染まり、無表情ながらもその破壊衝動を表しているかのように瞳が燃え上がっていた。

 だが、その顔は艦娘の空母の1人、蒼龍と全く同じモノであった。面影があるとかそういうレベルではない。これは本人だと断言出来るくらいにそのまま。

 

 まるで、艦娘をそのまま材料にして深海棲艦へと改造したかのような姿である。

 

「でも、カテゴリーRなのよね、イリス」

「ええ、それは間違いない。今もそうだけど、GやBの要素は少しも混じっていない、純粋なR、完全な深海棲艦よ」

「特殊個体を作り出した……いや、でもそれでもここまでそっくりなことある……?」

 

 艦娘にそっくりな深海棲艦というのはこれまで何人も出現してきているし、今このうみどりにも該当する者が何人かいるような状態。

 だがそれは、姫級に限られた話だ。イロハ級は深海棲艦側としても量産型というイメージなのか、出現する個体の外見はほとんど変わらない。強いて言えば、何かしら傷を負っているとかくらいで、それ以外は全く同じと言っても過言ではないほどである。

 むしろそれは姫級ですら言えること。同種であれば別個体でも外見は同じ。頻繁に出現する空母棲姫や戦艦棲姫などがその最たる例で、どれを見ても同じ姿、同じ顔。同時に2体3体と現れても、目印が無ければどれがどれだかわからなくなるほどの寸分違わなさ。

 

 しかし、この空母ヲ級はこの性質から完全に逸脱している。量産型ではなく、完全なる別個体。能力は同じでも、身体が違うと言えてしまう存在。

 

「やっぱり考えられるのは改造……よね」

「もしくは……いや、これは私の目があるからそう言えるんだけれど」

「イリスの目……彩として見た場合のことね」

「ええ、深雪と電がやれる、挟んでひっくり返すってヤツね。これなら同じことが出来ると思うわ」

 

 忌雷に寄生されて、擬似カテゴリーKとなってしまった艦娘に対し、忌雷を引き抜くという治療法が確立されていない時に実行された、カテゴリーWをオセロの駒として見立てたひっくり返す技法。黒を白に変えるように、イリスから見た彩をそのままひっくり返すという処置。

 カテゴリーY、米駆逐棲姫に実施した際、カテゴリーBであるフレッチャーへと変化を遂げた。それは、米駆逐棲姫の記憶を有した純粋種が生まれるという、誰もが予想していなかった事態に繋がった。

 色相で考えれば、Yの逆はB。Kの逆はWであるため、そこから考えればCの逆はR。今まさに起きてしまっていることに該当しそうではある。

 

「なら、今回の敵はひっくり返すが出来るということになるのかしら……」

「たまたま同じことになってるだけで、実際はもっと単純なことかもしれないわ。それこそ、敵の能力は単純な人体改造……これまでの法則性から行くと、あの船渠の能力の亜種かも」

「建造や開発をその場でやったっていう船渠棲姫よね。船渠でやれることは、確かに改造もあるけれど……いや、そういうのを極端なカタチで再現するのがあちらのやり方だものね。改造という一点しか見てないならそういうことも出来るのかもしれないわね……」

 

 手段はどうであれ、改造するという事象さえ起こせてしまえば、どうであれ達成出来るというのなら、達成してしまうというのがあちらの力。対象になっている者の都合などお構いなしに、強制的に改造を施してしまう可能性は大いにある。

 それこそ、生きたままやったか、()()()()()()()()()()()もわからない。どうであれ、相変わらずの命の冒涜。

 

「ひっくり返せば治せるかもしれないのか?」

 

 その話を聞いた深雪が、電と共にすぐにやるかと聞いてくる。彩だけで見ればそれが最善かもしれないが、迂闊にやれないというのもある。これが本当に正解かはやってみないとわからないという難しさ。

 

「……今は少しやめておきましょ。敵のやり方が見えてこない以上、思い立ったが吉日なんて言ってられないところもあるわ。それで自分を取り戻せるかもわからないというのも辛いところね」

 

 だが、伊豆提督はその手段を一旦やめておく方向で考えた。艤装だけ剥がし、抵抗する手段を奪った上で、ここに留めておくということくらいしか今は出来ないと言える。

 

「わかった。じゃあ、やるってなったら言ってくれ。まずは出てきた連中は全部足止めする。煙幕も使えるだけ使うから」

「ごめんなさいね。相変わらず負担が大きくて」

「いいっていいって。今回はあたしってよりは白雲と磯風だからさ」

 

 ニッと笑う深雪に救われるような気分だった。

 

「もう少しやり方は考えておく。アタシ達はここからまず前に進まないといけないわ。今出てきた深海棲艦は全員工廠に運んでちょうだい」

「ア、ジャア私ガ見張ッテオクヨ。私、コレデモ姫ダカラネ」

 

 運ばれてきた深海棲艦は、姫級であるムーサの管轄下に。深海棲艦の序列はここでも有効かもしれないと、そこは任せることにしてある。

 とはいえあちらは改造された可能性が高い深海棲艦。この序列が通用するかはわからない。なので、ダメだと思ったら無理せずキャンセル。何にでも例外というものはある。

 

 

 

 

 新たな敵は、完全に艦娘を弄った末に現れた深海棲艦。それが敵の能力なのか、それとも研究成果なのか。

 

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