後始末屋の特異点   作:緋寺

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挿し込まれる罠

 うみどりを襲撃してきた謎の深海棲艦達は、その仮面の向こう側に艦娘と瓜二つな顔を持っていた。そのため、それを艦娘から改造された存在であると疑い、沈めるのではなく鹵獲、そして捕虜扱いで工廠に運び込む方針で進むこととなった。

 深海棲艦の序列を使い、ムーサがそれらを管理出来るかを確認したところ、衝動を抑え込むことは難しそうではあるが、相手が姫だと察すると無表情ながらも抵抗が薄くなっていた。艦娘に対しては敵意が凄まじいままではあるが、姫に睨みを利かされたら、それが改造深海棲艦だとしても話が変わるようである。

 その隙に梅の『解体』によって装備している艤装を全て破壊し、暴れる力を全て奪った上で、そのまま洗浄へと向かわせている。その指示を受け持つのがムーサとなる。副官ル級もそうだが、洗浄されて穢れが失われれば、また何か変わるかもしれない。

 

「一応周りは確認してきた。何かいた痕跡は見当たらない」

 

 うみどりが一時的に停泊している間に、伊203率いる潜水艦娘部隊が海中を探索。今回の戦闘を監視する者がいないかを調査した結果、まだ誰もいないことは確認された。

 とはいえ、見たのは海中のみ。この夜中であっても、上空の確認も必要。夜偵による監視が無いとは限らないため、加賀を筆頭とした空母隊も、現在デッキから哨戒中である。

 

「まだ現場までは少し時間があるわ。それでも襲撃を受けたということは、これ自体に意味があるはず……。ただの威力偵察だったとしても、警戒は怠れないわね」

 

 改造深海棲艦相手にどのような行動をするかを事前に知ろうとする可能性は非常に高い。それこそ、深海棲艦だと決めつけて沈めた場合、それを()()()()()()と言い張り、特異点とその仲間達は人類に牙を向く大罪人だとでっち上げてくるようなことだってしてくる。

 それを何処かで見ているのならば、上空か海中のどちらか。何故なら現在は敵の鎮守府の通信設備ごと、機器は何もかもが破壊されているのだから。

 

「既に逃げていたから追えなかったけれど、夜偵がいることを確認したわ。上から見られていたみたい」

「無理して追ったら思うツボだったかもしれない。いたというだけでも大丈夫よ」

 

 加賀からの報告に、そちらだったかと納得する。案の定、上からこちらの戦いを監視し、深海棲艦相手にどのような手段を以て対処するかを確認、今後の糧にしようという算段である。

 3つ目の鎮守府攻略の時のように、どちらかといえば頭を使ってくるやり方。出し抜こうと考えているやり方かもしれないが、厄介であることには変わりない。

 

「罠だとわかっていても、今回は進まなくちゃいけないわ。今の戦いが見られていたというのなら、白雲ちゃんと磯風ちゃんの連携は知られたということ。何か対策を取られてもおかしくないから、尚のこと慎重に。それでもこちらのやることは変わらないわ。なるべく鹵獲で進めていくわよ」

 

 深海棲艦が艦娘を改造したモノであったのなら、治す手段をどうにかして探したい。深雪と電の挟んでひっくり返すがあるが、それはあくまでも最終手段。それ以外の手段が使えるのなら、それを見つけてどうにかしたいところである。

 

「しばらくはこだかとも共同で行くわ。常に通信をし続けて、お互いの状況を確認する」

 

 3つ目の鎮守府攻略戦から行動を共にしているこだかも、今は少し離れているが5つ目の鎮守府に向かっているところ。うみどりに何かあった場合でも先行しすぎず、なるべく固まっての行動になっている。

 まだ戦闘中の艦娘がいて、かつ怪我をしているのならば、どちらかの工廠で手当てをしたい。戦闘要員も多ければ多いに越したことはない。収容出来る人数も多い方がいい。そうなれば、移動鎮守府2隻での行動の方が対応力が上がるというモノ。

 

 また、伊豆提督には1つ気になるところもあった。それがこの共同戦線でわかることになるだろう。

 

 

 

 

 襲撃してきた深海棲艦に各種処理を施しつつ、うみどりはこだかと共に敵鎮守府へと近付いていく。その間は再度の襲撃はなく、あちらもこちらの出方がわかったからか、慎重になっているようにも感じる。

 

「まだ通信は可能ね。そちらからは何も見えない?」

『ああ、こだかからも敵の動きは見えないよ』

 

 深夜の航行のため、視界は最悪と言える進攻。もし誰かいたとしても、かなり見づらいことにはなっている。

 伊豆提督に加え、こだかのタシュケントも、今のところ敵の動きは無いと判断。見えていないだけだと困るものの、航行中の移動鎮守府にいきなり飛びついてくるような新手はそうそういない。ましてや、使われているのが改造深海棲艦だというのなら尚更。

 

『そちらで捕らえた深海棲艦はどうなったんだい?』

 

 タシュケントからの質問に、伊豆提督は答える。

 

「穢れは無くなったけど、敵意はそのままなの。ただ、こちらには姫がいるから、何とか抑え込めてるって感じかしら」

 

 ル級のように穢れを失ったことで完全にこちらの味方になってくれたわけではなく、穢れが失われたとしても根本の部分に敵意が埋め込まれてしまっているようで、殆ど何も変わらないというのが現状。

 ムーサの序列による制御がまだ出来ているからマシではあるものの、艤装が無くても攻撃的。無表情でもそこはやはり本能に忠実と言える。

 

『全員が……その、艦娘だったってことでいいのかな』

「ええ……本当に全員がね」

 

 そして、蒼龍似の空母ヲ級以外も仮面を外したところ、全員が基になっているであろう艦娘と同じ顔をしていた。艦娘をそのまま深海棲艦にしたと言える程にそっくりであり、うみどりではそういうモノもよく見てきたために、本人だと判断せざるを得なかった。

 

 襲撃に来たものは、殆ど自我も持っていない。本能に忠実な深海棲艦、まさにイロハ級な行動。改造を施した者に従うようなモノであれば、姫の序列など関係なかっただろうが、そうでないということは、ここを襲ったのは差し向けられたとはいえ、制御がし切れていない存在ということ。

 とはいえ、穢れ落としで本当の純粋な深海棲艦とも違う反応を見せていることを考えると、改造により植え付けられた深海棲艦の本能はより強固なモノとなっており、まるで制御が利かない獣にされてしまったと考えるのが妥当。人工的な存在である弊害とも言えるか。

 

『なら、もしあちらに捕まったら、同じようにされるかもしれないってわけだ。これまで以上に慎重に行かないと』

「そうね。それに、捕まえられるだけじゃないかもしれない。それこそ……あの『量産』の時みたいなことだってあり得るわ」

『……嫌なことを思い出しちゃったよ。あたしも覚えがあるからね』

 

 捕らえられて、鎮守府内で改造を施されるというだけならまだマシ。最悪なのは、爪で刺される、数秒触れられる、など、これまで見てきたそれなりにお手軽な手段で、その場で改造が出来てしまうような相手だった場合である。

 船渠棲姫は資材さえあればその場でそれに触れるだけで建造や開発が出来てしまっていた。それと同じである可能性が無いとは言えない。それこそ、資材さえあれば何処ででもやれてしまうなんてことが。

 

 タシュケントも、こだかに所属する第二世代は『量産』の被害者。その嫌な感覚は腹が立つほど理解出来ている。故に警戒心も強い。ワンタッチで改造が始まられても困るが、その時に何かをされて、それこそ忌雷を植え付けられるようなことをされて、そのまま為す術なく改造されるというのが最もよろしくない展開。

 

『改造っていうなら、多分前の『量産』みたいに()()()()ことは無いような気もするけど、そこはあちらのやり方次第だもんね。極端な話、空気感染みたいなことされたら……』

「そうでないことを祈るしかないわね……。触らずとも改造出来るなんて言われたら、こちらもどうしていいかわからなくなるわ」

 

 常に最悪を考えるとはいえ、回避不能がすぎる力を発揮されたら、どうすればいいかわからない。だが、それこそうみどりには見えているとはいえ深雪の煙幕という空間単位でどうこう出来てしまう能力があるのだ。あちらがそれをやれるようになってもおかしくはない。

 

『ともかく、充分……警……しながら……」

「ん? タシュケントちゃん?」

 

 だがここで突然、こだかとの通信が乱れ始めた。声がまともに聞こえなくなり、途切れ途切れになったかと思えば、映像もそのままブツンと切れてしまった。再接続をしようとしても、うんともすんとも言わない。

 

「……やっぱり、これが1つ目よね」

 

 伊豆提督はこうなるのではないかと予想はしていた。敵の領海に入った途端に通信妨害。すぐそこにいるはずのこだかとも通信が出来なくなってしまったことから、かなり強力な妨害がされていると考える。

 このせいで、敵鎮守府攻略に出ている他の鎮守府の艦娘達とは通信が出来なくなる。これはわからなくもないこと。だが、それ以上のことが起きる。

 

『っとと、通信がブレたね。ここ、やっぱりそういう小細工がされているみたいだ』

 

 通信が完全に途絶えたと思ったら、すぐに復旧した。まだ画面はまともに見えていない状態ではあるが、声はある程度ハッキリ聞こえるくらいには回復した。うまくチューニングしたとも考えられるが、伊豆提督は小さく眉を顰める。

 

「……タシュケントちゃん、異常は?」

『通信が乱れただけで、異常は見られないね。こちらでも原因を調べてみるよ』

 

 イリスの方に視線を向けると、確かに異常は見当たらないと頷く。しかし、通信にノイズが走ること自体が異常。

 それを見越して、うみどりは既に手を打っている。

 

「タシュケントちゃん、こんな時に言うのも何だけれど」

『なんだい?』

「もしものために合言葉を決めていたわよね。この通信妨害すら敵の仕業であるかもしれないんだもの」

 

 合言葉と聞いて、通信の向こうのタシュケントの声が詰まる……かと思いきや、スラスラと言葉を紡いでいく。

 

『何を言ってるんだい。そんなモノ決めていないだろうに。ああ、なるほど、それが合言葉ってヤツだね。じゃあ、あたしの答えはコレだ』

 

 事実、合言葉なんて決めていない。これで余計な反応をしてくれれば、この通信の声はダミーに差し替えられたと断定出来たのだが。

 

 伊豆提督が想像している敵の能力、それは『通信妨害』の曲解。これだけ身近にいる相手にも確実な妨害をすることが出来る上に、ただ妨害するだけでなく、自分の思い通りの映像と声が出力出来ることで、より行動を妨害することが出来るのではと。

 妨害するという一点に特化すれば、あらゆる事象を引き起こせる可能性を考えれば、先程のノイズの時点で全てを疑う。

 

「正解。合言葉なんて決めてないわ。ボロを出してくれれば簡単だったんだけれどねぇ」

『あはは、用心するに越したことないよ、同志提督。そういうところが提督の器だと、あたしは思うからね』

「ええ、そうね。とりあえず、通信は切らせてもらうわね。ここからは何が起きるかわからないもの。余計なことを言われて掻き回されても困るし。ね、()()()()()()

 

 それだけ言い残して、通信を切った。

 

「やっぱり偽物に擦り替えられた?」

「ええ、だってハルカちゃんって呼んでくれなかったんだもの。最近はタシュケントちゃんもそうやって呼んでくれるようになって嬉しかったんだから」

 

 ニッコリ笑った後、すぐに動き出す。その時にはもう、提督としての表情をしていた。

 

「敵襲に備えるわ、『迷彩』の時のように、こちらのカメラも狂わせてくるかもしれない。イリス、申し訳ないけど」

「ええ、デッキに出て、裸眼で確認するわ。ただ、艦内放送も狂わされるかも」

「アナタには護衛もつける。そこからうまく伝えてちょうだい」

「無茶言うわね。じゃあ、子日を借りるわ」

 

 

 

 

 敵領海に入ったことで、慌ただしくなる艦内。5つ目の鎮守府との戦いは、ここから始まる。

 

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