後始末屋の特異点   作:緋寺

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元艦娘の深海部隊

 通信設備が狂わされ、電探も使えない可能性があるため、イリスが裸眼で外を確認し、こだかや艦載機には探照灯によるモールス信号で意思疎通を図る程に慎重に進めていく中、敵の襲撃が始まる。

 

「戦艦1、空母2、軽巡1、()()2()! さっきの連中と同じ、なんか変な深海棲艦!」

 

 川内の声が工廠に響く。先んじて駆け回って外を確認していた川内は、そこまでしっかり調べ上げていた。

 

 イロハ級の駆逐艦は人型をしているモノは発見されていない。基本はバケモノ、異形と化した魚類と言えるようなフォルムをしている。うみどりのプールにも小型化した駆逐イ級が住んでいるが、当然例に漏れずに魚雷のフォルム。人型になるような気配もなく、ただペットのように馴染んで仲間達と楽しんでいる。今やプールは一種の癒しスポット。

 だが、今回敵として現れた駆逐艦は、深海棲艦としての性質を持ちながらも、姫ではなくイロハ級のような雰囲気を持っていた。これまでに現れた姫とも違う、()()()()辿()()()()()()()()()()

 髪を下ろしていたり、二つに結んでいたりと、こちらも相変わらず個体差があるようだが、仮面と衣装は他の改造深海棲艦と同じ。まさに、元艦娘ですと言わんばかりの外見。

 

「艦娘改造したってのが丸わかりな敵ってことだな」

「酷いのです……でも、傷つけずに捕まえちゃえば……!」

「治せる可能性があるからな!」

 

 この敵はなるべく振り切ろうとしたようだが、無理をしすぎるとうみどり自体が破壊されかねない。ならば、もうここで停泊し、鎮守府制圧戦を開始してしまうのも無くはないだろうと考えられた。

 

 敵深海棲艦は本能のままに攻撃をしてきていると思われるのだが、今回の部隊は明らかに白雲の鎖を意識している。うみどりに近付こうとせず、遠距離から砲撃と航空戦を仕掛けてきていた。深海棲艦は夜も艦載機を飛ばせるモノは多いので、これも当たり前な攻撃。

 ついさっきの敵部隊を鹵獲する戦術は、夜偵によってしっかり見られていた。その結果、それを踏まえた戦い方をしているということである。近付かなければ凍らされない。遠距離攻撃ならどう出てくると。

 

「まずは威力偵察をお願い! 無線も何も使えないから、行って帰ってくるでいいわ! 妨害してくる敵は、なるべく動きを封じるだけで!」

 

 伊豆提督の指示は、敵深海棲艦も被害者であるため、なるべく傷付けずに救うこと。だがここでは()()()()を強調している。あまりにも救うことに重点を置いてしまうと、戦えるものも戦えなくなる。攻撃をするなとは言わない。だが、命を奪うような攻撃は極力避けて進めたい。

 勿論、最も重要なのは敵の命ではなく仲間の命。救うために傷つくこともよろしくない。優先順位は当然仲間の方が上。見捨てるというわけではないが、万が一の時には撃破以外の選択が無くなる。

 

「門を開くわ! 準備を!」

 

 うみどりの工廠の門が音を立て始める。以前はここで忌雷の群れが入り込んでくるということもあったため、『増産』により増やされた特機達が門前に待機。侵入は確実に防ぐ。

 

「行くぞ、夕立。まずは我々が」

「壁になるっぽい!」

 

 特機達の後ろ、艦娘で言えば一番の前衛。誰よりも先行するのは、夕立とトラ。『ダメコン』持ちが先陣を切ることで、開けた直後に飛び込んできた砲撃を耐える。うみどりが傷つくことも今後に支障が出るため、自らの力で傷がつかない2人が率先して身体を張ってそれを守る。

 

 一番怖いのは砲撃自体に何か仕込まれていることなのだが、ここまでの時間で改造深海棲艦について調査されており、こちらには何かの力が与えられていることは無いことが確実。その存在が圧となっているだけの存在。力業以外の手段が無い、まさにイロハ級と言える戦力。

 とはいえ、その()()()が何かを与えている可能性もあるため、警戒するに越したことはない。夕立とトラは、もし砲撃が飛んできたとしてと、まともに受けるのではなく、殴り飛ばして弾くつもりでいる。

 

「……来ない! ならば!」

 

 門が開いたところを見計らって砲撃を中に放り込んでくるということはしてこなかった。遠距離を徹底している代わりに、命中精度がそこまで高くないか、手前に落ちる威嚇砲撃ばかりになっている。徐々にその精度が上がってきているようにも見えるため、そのまま撃たせ続けるのは危険ではあるが。

 

 脅威はそれだけでは無い。砲撃と同時に飛んでくる敵航空隊、夜でもお構い無しの艦載機群は、砲撃の合間を縫ってうみどりへと向かってきている。

 その一部はデッキにいる空母隊がモールス信号によって艦載機に指示を出し、帰投せずに迎撃を頼むことで拮抗に持っていっていた。夜間であるため扱える艦載機の数が多少減ってはいるものの、敵の空母は2体、それならばギリギリ拮抗までは持っていける。

 そして、うみどりには拮抗を優勢にひっくり返すことが出来る仲間も存在する。

 

「敵航空隊は任せろーっ!」

「この時のための力ですからね」

 

 埋護姉妹こと居相姉妹出陣。『防空』の曲解による対空砲火は、フルオートで全てを撃ち墜とすまで続く。イロハ級の艦載機程度ならば、苦戦を強いられることもなく、圧倒的な力の差を見せつけるかのように何もかもを破壊し尽くした。

 

「『ダメコン』使う必要がないなら、突っ込むっぽい!」

「ああ、まずは私が一発放つ。夕立はそこに合わせてくれ!」

「了解っぽーい!」

 

 敵の砲撃も危険水準では無かったため、前衛の2人がうみどりから出ての迫撃を仕掛ける。トラの強大な砲撃を敵部隊に撃ち込むところから始まり、それを回避したとしても、合わせて突撃を仕掛けた夕立がまずは手近な敵──髪を二つ結びにした駆逐艦に対して一撃。命を奪わないという前提の下、凶悪な威力を持つ水鉄砲を顔面に叩き込むことで、その意識を刈り取る。

 

「っとぉ、お顔拝見っぽい!」

 

 狙った場所が顔面だったことで、相変わらず揃いで身につけている仮面が噴き飛んだ。先程は妙高がゆっくりと持ち上げるように外したが、今回は衝撃によって接着が緩んだのだろう。元々強力な磁石のような接続だったこともあり、ヘッドショットを喰らえばそれなりに簡単に外れてしまう様子。

 

 だが、その裏にあった顔を見て、夕立の口が止まった。

 

「……そっか、そういうこともあるよね。あってもおかしくないけど、気に入らないっぽい」

 

 その改造深海棲艦の駆逐艦の正体は、()()()()()。それが元々人間だったとしても、夕立にとっては姉妹。気分のいいものではない。

 だが、その顔を見たらほんの一瞬とはいえ苛立ちからか動きが硬くなった。そこにはまだ敵はいるというのに。

 

「夕立、手を止めないでよ」

 

 そんな夕立をサポートするかのように、近くにいたもう一体の敵駆逐艦を時雨が撃ち抜いた。夕立が前衛を務めるとわかっていたので、誰よりも先に時雨が出撃していたのだ。

 背部大口径主砲を使い、容赦なく撃ち抜いたことで、もう一体もその場から弾き飛ばされるように飛んだ。回避すらさせない一撃。

 

「わかってるっぽい。でも、この顔見たら少しは考えちゃうでしょ」

「……村雨かい。気に入らないのはわかるよ。確かにそれは、僕も気分が悪いね」

 

 すかさず二撃目を空母の一体に叩き込む。しかしこちらは時雨の砲撃の威力を一度見たことで回避を選択。仮面の向こう側の目で時雨を見据え、艦載機の一部を嗾ける。『防空』の曲解の範囲外、撃ち墜とされない低空飛行を維持し、時雨一点狙い。

 

「小賢しいことをしてくれるよ。でも、その程度の腕でどうにか出来ると思っていたら大間違いだ」

 

 それすらも呑み込む大口径主砲の一撃。対空でも何でもない、空母を斃すための砲撃により、低空飛行の艦載機は軒並み掃除される。

 夕立も気を取り直したことで、先程時雨が撃った敵駆逐艦に突撃し、改めてヘッドショット。イロハ級とて気を失うことがわかれば、それで黙らせておいた方が回収が楽になる。

 ヘッドショットをしたということは、村雨の時と同様、仮面が衝撃で外れた。その裏から出てきた顔は──

 

「ヘイウッド……ぽい?」

 

 下ろした髪の敵駆逐艦は、夕立がヘイウッドだと判断。気を失っているため敵意は無いものの、艦娘とは一線を画した表情ではあった。無表情、感情を全て奪われた、ただ本能のままに暴れ回るだけの機械。かつ、今は主人がいるのか、それの命令をただ聞くだけの人形。

 先にやった村雨も同じである。ヘッドショットで終わらせているため気を失っているものの、そうでなかったら、その表情のまま自分達を攻撃してきたのだろう。こちらが誰かもわかっておらず、ただひたすらに破壊衝動に則って。

 

「……まさか。トラ、その戦艦!」

「任せろ」

 

 時雨が声を上げる前に、トラが敵戦艦に迫撃していた。何の能力も持たないイロハ級の深海棲艦に、曲がりなりにも姫としての力を持ち、かつ『ダメコン』という搦手が無ければ突破も難しい力を持っているトラが負ける道理は無い。

 その上で慎重に事を起こしているのだ。慢心すら無いのだから、余計に問題は起きない。

 

 正面からの攻撃も『ダメコン』で弾き飛ばし、お返しと言わんばかりの凶悪な砲撃。こちらも水鉄砲ながら、接近してからの一撃であるため、敵戦艦はモノの見事に宙に舞い上がった。圧倒的な力の差を見せつけたが、トラはそれで満足などしない。

 

「すまないが、私は艦娘にそこまで詳しくない。これは何処の誰だ!?」

 

 その衝撃でこちらも仮面は剥がれていたが、流石は戦艦か、駆逐艦のように気を失うことなく、未だ健在。頑丈である。

 

 しかし、仮面が剥がれたということは、それが誰かがわかるということ。

 

「……榛名さんかい。予想は出来ていたけどね」

 

 その戦艦は榛名。ここまで来ると、敵の部隊がどのような経緯でここにいるかが容易に想像がつく。

 榛名、村雨、ヘイウッドと来れば、何処の誰かだなんてすぐにわかった。

 

 

 

 

 過去、後始末屋が救い、そして海賊船の戦いで救ってくれた、あの榛名率いる友軍艦隊。それが纏めて敵に呑み込まれてしまっていたのだ。

 

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