艦娘が改造された深海棲艦の襲撃を迎え撃つうみどりだが、その中にいた敵の中に見知った顔を見つけてしまった。
以前に後始末屋が救い、そして海賊船での戦いで友軍艦隊として救ってくれた、榛名率いる艦隊。その内の3人が変わり果てた姿で襲い掛かってきたのである。
村雨とヘイウッドは夕立のヘッドショットによって気を失っているが、榛名はトラからの砲撃を真正面からまともに受けたにもかかわらず、まだ倒れることはなく、トラを無表情で見据える。
その瞳は深海棲艦らしく青く爛々と光り輝き、焔も燃え上がっているかのように見えた。一撃を喰らっても、まだその本能──植え付けられた破壊衝動は止まるところを知らない。
「顔見知りか!?」
「多分ね。この面子からして、僕達を以前助けてくれた友軍の艦娘
冷静にトラに説明した時雨だったが、やはり知った顔がそこにいると気分が良くはない。人間に対しての呪いを持っているにしても、共に戦い、勝利を収めた仲である艦娘と、こんな再会の仕方は嬉しくない。
「とりあえずは動きを止める。艤装は梅が壊してくれるだろうし、そうじゃなくても殺さなければいい。ここからみんながこぞって出てくるんだ。僕達は最前衛として、仕事を果たせばいいよ」
「……わかった。元仲間とはいえ、このような姿にされてしまっているのなら、容赦している余裕なんてないか。ならば!」
それだけ聞いたトラは、榛名に向けてさらに砲撃を放った。元々仲間だったとしても、ここで手を抜いたら逆にやられかねない。いくら『ダメコン』で傷が付かないとはいえ、砲撃を食らい続けるのは痛いものは痛い。
そのため、榛名にはまず黙っていてもらう。気を失うまで砲撃を撃ち込み、怪我をさせない程度に痛めつけることで、一旦再起不能にするしかない。
いくら榛名とて、変えられたのはイロハ級。装備からして、おそらくタ級。それに対するトラは、近代化戦艦棲姫。戦艦の姫級の中でも最上級に近いほどの力を持つ、序列で言えば上から数えた方が早いくらいの個体。その時点でいくらか実力差がついている。
勿論、榛名の方が経験に圧倒的な優位性を持っているが、ムーサにも従った改造深海棲艦が、それ以上の序列を持つトラに対してまともな戦いが出来るかと言われれば、そんなことは無かった。
「すまないか、
姫を相手にして、明らかに動きがギクシャクし始める。嫌々でも従うことは既にわかっていること。それが敵対する相手だとしても、その序列には抗えない。
これでわかることは、あちらは深海棲艦は扱うが、序列については何も知らないということである。むしろ知るわけがないのだ。深海棲艦とすら和解をしなくては、その事実に辿り着くことなんて出来やしない。うみどりでしか知ることが出来なかった深海棲艦の生態。
「今は寝ていてくれ。きっと救われる。ここでならな」
トラの強大な砲撃を、榛名は徐々に回避出来なくなってくる。序列など関係なく、単純な火力の違いも影響していた。実弾を使う榛名よりも、模擬弾を使うトラの方が一撃の威力が高いというのも、姫とイロハ級の差と言えるだろう。
榛名が序列にも慣れてきた時には、トラが戦場での砲撃にも慣れてくるタイミング。一度掠って体勢を崩してしまえば、そのままその圧倒的な力を以て押し潰すことが出来てしまう。
トラは正直、素人に毛が生えた程度であろう。だが、今この時まで鍛錬を怠ってはいない。それが趣味であるというのもあるが、毎日の積み重ねは確実に身になり、結果に繋がった。
力を振り回しているだけではない。それこそ艦娘と同様の信念の下、この海の平和のために力を振るうこと。今のトラは、裏切り者達より余程世界のために戦っていた。
そして、最後はトラの一撃が再度まともに直撃したことで、榛名の意識を噴き飛ばした。
「すまない、時間をかけた」
「だいじょーぶっぽい! こっちは全部やっといたからね」
「お、おう、私が1人やる間に5人やったのか……ふむ、まだまだだな私は」
トラが榛名と
榛名の部隊であることから、軽巡は矢矧ではないかと思っていた時雨だが、仮面を剥がしてみたら別人だった。そのため、まだ襲撃に来ていないところに使われていると予想が出来る。
「僕達は前衛だ。ここはこれだけで守れたかもしれないけれど、奥に行けば行くほど、厄介な連中が溢れ出してくるだろう。
気絶した榛名達は、この後やってくる大発動艇部隊が拾っていく。梅が艤装を破壊し、抵抗出来なくしてから、睦月と神威が運ぶ。その範囲も少しずつ拡げていき、うみどりやこだかも少しずつ前進していこうという算段である。
この戦いそのものがあちらに情報を渡している戦いになっていそうではあるのだが、こちらは手札がバレた状態でも戦えるだけの経験がある。
「さぁ、僕達は僕達の仕事を続けよう。ここからは、
最前衛である時雨達の露払いが終わったことで、本格的な出撃が開始される。少数ではあるが、あちらが第一陣だとしたら、深雪達本命は第二陣。大発動艇部隊が苦しそうな顔で元艦娘の深海棲艦を運んでいくのを横目に、この戦いを終わらせるために突き進む。
「正直、見たくない敵だな……」
襲撃を仕掛けてきた深海棲艦が榛名達だと知った深雪は、やはり辛そうな声を上げることしか出来なかった。共に戦った艦娘が、こんな姿に変えられただけでなく、敵対して襲いかかってきたという事実が、その心を締め付ける。
そして敵はこう言うのだろう。『特異点がいなければ、こんなことにはならなかった』と。自分達がやった非道を全て深雪のせいだと宣い、自分達は正義のためにこうしているのだと誇る。
そのためには他人の、むしろ仲間の命や人生のことなんて二の次。結局は、
あちらのそんな思想については、深雪はもう慣れてしまっていた。なので、もう何も思わない。
だが、その犠牲となった者の姿を見ると、どうしても嫌な気持ちになる。軍港都市での戦いでもそうだったが、知らない者が被害を受けるだけでも嫌なのに、知っている者が被害を受けるなんて以ての外である。
「気にするなと言っても難しい話だけど、今はそれでも前を向きましょ。こんなことをしでかした元凶に、その怒りをぶつけてやればいい。私だってそうする気満々よ」
そんな深雪を宥めるように話すのは神風。今回は突入部隊として、深雪を支えつつ、うみどり屈指の実力者としての力を存分に発揮する。明日はまた床に臥すことになると苦笑しつつも、この戦場の凄惨さに心を痛め、そして怒りを募らせていた。
「とりあえず出てきた連中は元艦娘とか関係なしにボコって気絶させればいいんだよね?」
「ああ、殺さなきゃとりあえずいいと思う。ただ、自己修復はなさそうなんだよな……」
「じゃあ傷付けるのも控えた方がいいってことか。うーわ、めんどくさー」
溜息を吐くグレカーレだったが、だからといってやる気が無くなるわけではない。むしろやる気は増す一方である。
ここまで多種多様な巫山戯た戦術を見てきたが、今回のコレは三本の指に入るくらいのモノ。こうしている間にも元艦娘の深海棲艦が襲いかかってくるという現状が腹立たしいことこの上ない。
今は最前衛である時雨達が始末しながら進んでいるものの、時間が経てば経つほど、あちらは策が固まっていくのか、最前衛を避けて行くというモノも現れ始めた。
それをわざわざ追ってまで始末しようとはしていない。直接深雪達の方へと向かった場合は、深雪達に対処をさせる。それよりも後ろに向かった場合は、さらに後ろに控える仲間達が処理する。深雪達と共にこだかからも仲間達が出撃しているため、艦を狙ってくるような輩は足止め出来るだろう。
それもあって、深雪達は後ろのことを考えることなく進軍を続けることが出来た。仲間達ならこの程度の脅威を振り払ってくれるから。敵がそうであると知ったとしても、躊躇う前にどうにかする。気絶させる手段はいくらでもあるのだから。
「……一歩間違えば、私のいたところでもこうなっていたのかもしれないのね」
「ああ、私もそれは思っていた。全く、気に入らないものだ」
今回の深雪の部隊には、叢雲と磯風も参加。磯風は当然、白雲との連携のため。そして叢雲は、その切り札とも言える力を使うため。
かつて裏切り者鎮守府に所属していた2人は、この戦いに現れる深海棲艦もまた、自分達の行く末だったかもしれないと思い、それぞれ表情を曇らせる。叢雲は罪悪感を刺激されて悲しそうに、磯風は怒りを刺激され顰めっ面に。
その感情が表に出ているかのように、磯風は『空冷』の冷気が漏れ出していた。むしろ熱くなる頭を冷やそうとしているだけか。冷気への耐性があるせいで、自分の冷気は涼しい程度で終わってしまうのが残念だが。
「やっぱり、数が増えてきやがった。時雨達だけじゃあ止まらなくなってきてんな」
「なのです。こちらでもどうにかするのです!」
襲いかかってくる元艦娘の深海棲艦は次第に数を増やしていき、最前衛の手から逃がれ、本命の特異点狙いの襲撃を仕掛けてくるモノが増えてきている。
それは真っ先に深雪を狙ってきていた。これもまた、海賊船の時にもあったこと。特異点の光に誘われる、本能のままに行動するイロハ級の行動。
「久しぶりだなコレもよぉ」
「ですが、纏めて動きを止めることも可能です」
束になってかかってくるのなら話が早いと、すかさず深雪の前に立つのは白雲。そして、そのサポーターを自負する磯風。
一度の成功体験は自信に繋がり、同じことをすれは傷付けることなく動きを封じることが可能であることも理解している。
「空気を冷やす!」
「そして、そのまま凍り付くがいい」
磯風の『空冷』の突風によって一瞬動きを止め、その隙に白雲が鎖を振るって確実に凍らせる。うみどりのデッキで繰り出した時よりも精度が上がっており、狙いをつけて放つことで瞬間凍結の域にまで達している。
複数体いたとしても、まるで止まることがない。特異点Wで見せた舞うような動きで、次から次へとその動きを封じ続けた。
「さぁ、お姉様、参りましょう」
「おう、頼もしすぎるぜみんな」
戦いは始まったばかり。まだ現れているのは改造深海棲艦ばかりだが、鎮守府に近付けば、それ以上の強敵も現れるだろう。
深雪、電、グレカーレ、白雲、神風、磯風、叢雲の遊撃艦隊になります。