後始末屋の特異点   作:緋寺

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中身

「あちらの狙いは特異点じゃない。()()()()()()()()

 

 気絶している元艦娘の深海棲艦の回収を進める中、妙高が推理し、敵の真の狙いはそれではないかと話す。

 

 これまでの敵の挙動、特に本来の艦娘の時よりも弱く、忌雷が寄生された者とは違って自己修復すらないイロハ級を襲撃に使っているところから、むしろわざと回収させてうみどり艦内にそれらを入れることが目的なのではないかと。

 そして、それによって真っ先に狙われるのは、うみどりの中でも数少ない純粋な人間であり、そこが潰れれば後始末屋がそのまま壊滅するとまで考えられる伊豆提督。

 

「え、そ、それ大問題じゃないですか!?」

 

 梅が声を荒げるが、妙高は至って冷静である。

 

「収容された深海棲艦、あとはここにいる皆さんは、艤装が完全に破壊されています。『解体』されているのですから、艤装を修復するようなことは出来ません。ならば抵抗する力なんてないでしょう」

 

 普通に考えればそうである。いくら深海棲艦とて、パワーアシストまで得られる艤装が剥がされているどころか、取り返すことも出来ないように『解体』されているのだ。その状態ならば、人間と同じ程度にしか力は発揮出来ない。セレスやムーサでそれは証明されている。

 今の改造深海棲艦達は、全員がそれと同じ状態。うみどりにいる艦娘達は全員艤装装備済みで、深海棲艦達は『解体』済み。こうなると、今の状態で実力行使に出られたところで、素人の徒手空拳という程度。普通とは違う武力を持つ伊豆提督の足元にも及ばない。

 

「……と、言いつつも」

 

 ここから少し小声になった。今ここにいる深海棲艦が本当にルーターになっているとして、収音のシステムも警戒して、ここからの言葉はなるべく聞き取られないようにしている。

 

「『解体』されること……艤装が失われることまで意識して、それでも捕えられることを想定しているのなら、話は変わりますが」

 

 ここまで話しても、目の前の榛名がまだ動いてこないところから、気付いた時点で自分達諸共噴き飛ばしてしまえという考え方はないようである。そのため、体内に爆弾が仕掛けてあり、うみどりにある程度回収されたら、纏めて木っ端微塵、ということは少し薄れている。

 それでも徹底して耐えているというのなら、思っているより忍耐力があるかと考えを改めることになりそうではあるが。

 

「ただ……まぁ、自爆はないでしょう。この戦い方からして」

「そうにゃし?」

「はい。自爆させられるなら、もっとすぐやります。捕まった直後に自爆すれば、確実に1人持っていけますから。まとめて持っていくなら、もう自爆させていてもおかしくない。蒼龍さんがまだそのままであることもその証拠」

 

 故に、と妙高は続けた。

 

「今回の敵は、歪んでいますが命の尊さを理解していると感じますね。余計なことをして戦力を減らさない。むしろ、同時に減らすことを極力避けている。忌雷なんてわかりやすい博打じゃないですか。失敗したら出来損ない。取り返しのつかない強化ですから」

 

 死を嫌っているとかでは無く、より効率的に艦隊運営をするのならば、消耗する博打よりもっと確実な手段を扱う。改造が可能だというのならば、忌雷を使い続けるよりも間違いなく消耗は少ない。

 

「命を尊ぶ代わりに、人権は度外視みたいですけれど。そこは褒められたモノではありません。でも、そう考えると、ここからやりそうなことは読めてくる」

 

 手近な深海棲艦──榛名に近付くと、何を思ったか、その衣装、膜のようなレオタードを首元から掴み、一気に下に引っ張った。しっかりと密着していたため、本来ならば指を入れる隙間すら見当たらなかったが、妙高はそれでも簡単にその場所を見つけている。

 艤装のパワーアシストがあっても、それはかなりの強度を誇っており、破れるようなことはなかった。しかし、素材が未知のモノではあったおかげか、上手く伸びてくれてズルリと脱げるように捲れた。

 

 睦月も梅も顔を赤らめて背けようとするモノの、その下から出てきた肌を見て、考え方を変える。

 

「これでまろび出てくれればよかったんですけどね。それなら私がセクハラ扱いで文句を言われるだけで済みますから」

 

 そこに現れたのは──

 

 

 

 

 うみどり艦内では、捕虜達を一箇所に集めてムーサが管理している。姫の序列によって大人しくさせているような状態にはなっている。全身の穢れを洗浄するため、衣装はそのままに頭から洗浄液をぶちまけているようなモノであるため、最初はビショビショであったが、そこは深海棲艦の身体だからか、もう既に乾燥している。

 

「ウーン、言ウコトハ聞イテクレナイネ」

 

 序列があっても、敵対心はそのまま。ムーサに対しても、攻撃はせずとも反抗的。牙を剥いてこないだけマシかと思えるくらい。

 念のためと、副官ル級も盾の艤装の装備を許されているほどである。万が一のことがあれば、その身を挺して守ることという気概が見えていた。主に守るのは高波の方のようだが。

 

「……姫の序列って、そんなに強いんです?」

 

 ムーサの隣に()()()()()()()()高波が、素朴な疑問をぶつけた。ムーサのおやつサーバーとしての活動も慣れてきたようで、定期的に生み出しては手渡しするような、ちょっとした管理人のようになっている高波は、副官ル級とも仲良くなり、今では純粋な深海棲艦と最も近い者としての立ち位置を確立していた。

 ムーサも高波相手だと非常に優しく──かなり打算的な部分はあるが、それでも仲がいいと言えるくらいには関係は良くなっている──そんな質問には躊躇いなく答える。

 

「ソウダヨ。私ガセレス様ニ頭ガ上ガラナイミタイニ、本能的ニ従ッチャウンダ。抵抗ハ難シインダヨ」

 

 ムーサもそうだが、ル級も深く頷く。そうでなければ、ムーサに仕えていないと言いたそうではあったが、そこは見て見ぬふり。

 

「なら……それに抵抗出来てるってことは……」

「ヤッパリ頭ノ中ヲ弄ラレテルッテ感ジダヨネ。何サレテモ変ワラナイノハオカシナコトダヨ」

 

 何かあっても困るということで、監視はしているが少し距離を取っている。いきなり暴れ出す可能性はずっと考えられており、艤装を装備しているとはいえ、抵抗出来ないくらいの勢いで攻め込まれたら、対抗するのは少々厳しい。

 工廠で見張っているのも、ここには誰かしらいるからだ。ムーサと高波だけではどうにも出来ないとなった時に、すぐにサポートが呼べるという利点はそれだけでも大きい。工廠の奥になんて連れ込んだら、そこから破壊されるなんて可能性もある。

 

「調子はどうかしら。何も変わらない?」

 

 そんな2人のところに、伊豆提督がやってくる。通信が不可能となると、執務室にいてもやることがない。基本は工廠で戦況をリアルタイムで把握して、すぐに指示を飛ばせるように動く。

 

「何ニモ変ワラナイヨ。ズット睨ンデクルシ」

「それ以外は何もしてないかも、です」

「そう、それならよかった。ちょっと怖いことがあってね」

 

 怖いこととは、と高波は鸚鵡返しする。

 

「妙高ちゃんが少し気付いたことがあったみたいでね、海に他の子を回収しに行く前に、執務室でいろいろ話してくれたのよ。それで、この子達の狙いは──」

 

 と話していた瞬間、蒼龍を筆頭に捕虜となっている深海棲艦達の目が強く輝き出した。ターゲットを捕捉したことで、()()()()()を実行せんがため。

 

 今捕虜達の前にいるのは、あちらからしてみれば、まともではない力を持つものの()()()人間、艤装を装備した一般的な駆逐艦、そして、うみどりに協力している謎の姫級とその副官。対する捕虜はここにいるだけでも6人。数的優位は確実にある。

 今は捕虜として拘束もされており、両手足は鎖で縛られている。普通ならばそれを解くことは出来ない。だが、それをすれば拘束が拘束で無くなる算段があったから、隙を見つけるまでは甘んじて受け入れていた。ここまで来たら、もうそんな必要も無くなる。

 

「この子達の狙いは、戦力をうみどりから引き離しているうちに、アタシを始末すること。イロハ級の実力と誤認させて、わざと鹵獲されて、うみどり内部に侵入することが目的だって話よ」

 

 本来の目的がバレたというのならば、動かない理由がない。本当ならもっとじっくり時間をかけて行きたかったようだが、うみどりには切れ者がいる。ならばここからは力業である。

 

 捕虜の深海棲艦達は、即座に拘束を破壊した。艤装も装備していないのに、ただ膂力だけで。

 その様子を見てギョッとする高波。ムーサとル級も目を丸くした。唯一、伊豆提督だけはそうなんだろうと冷めた目で見ていた。だが、その目は捕虜達に対してではない、捕虜達をそのように改造した、裏切り者の提督に対して向けられたモノ。被害者達には同情の気持ちしか浮かんでいない。

 

「元々艦娘なのに、深海棲艦に改造され、頭の中もあちらの思いのまま。本当に可哀想よ。しかも、多分深海棲艦どころじゃないわ。そこは妙高ちゃんの推理がハズれてほしかった」

 

 何を言うともなく、捕虜が立ち上がり、すぐさま行動に移す。4人の標的を始末するため、手近なところから。

 

「ぎ、艤装も無いのにっ、ですっ!?」

「ええ、だから油断しないで。あの子達は──」

 

 全て言う前に、蒼龍の突撃からの蹴りが飛んできた。狙いは高波だったようだが、すぐさまル級がその強靭な盾でそれを受け止める。しかし、あまりにも速く、あまりにも強い蹴りに、ル級の盾は一撃でヒビが入り、高波諸共ふっ飛ばされてしまった。イロハ級だとか、穢れを失っているとか、そういうことは何も考えさせないくらいに凶悪な一撃。

 

「やっぱり……っ」

 

 敵は蒼龍だけではない。他の捕虜達も同じような力を持ち、追撃を受けたらかなりまずい状態。

 

「ナ、何アノ威力!? ッテ!?」

 

 2人目の一撃はムーサに入ってしまった。うまくガードをしたつもりであっても衝撃が激しく、ムーサは壁際まで飛ばされてしまう。

 

「イロハ級であることは偽装。本能のまま動いていたわけでもない。見た目だけイロハ級にして、それらしく振る舞わせて、実際は()()()()()()()()()()!」

 

 次の1人が伊豆提督に向かう。その拳は、生身の人間ならば一撃で粉砕してしまうほどの威力を持つのだが、伊豆提督はやはり一味も二味も違った。

 その拳を軽くあしらうと、勢いよく突っ込んできた捕虜の横っ腹に拳をあて、踏み込むと同時に強烈な衝撃をお見舞いした。

 深海棲艦だというのに、その一撃を受けたことで体勢を崩すどころか、足が地から離れる。それを見逃さない伊豆提督は、続けて身体を捻り、その脚を腹にぶち込む。相手は元艦娘であることはわかっているが、こうまでしないと止まらないという現実を前に、容赦無く攻撃した。

 

「触れたことでよくわかったわ。やっぱり改造されているのね……完全に。あの身体……()()()()()()()()

 

 身体が艤装で出来ている。伊豆提督がそう言ったことで、捕虜達はもう隠す必要もないと、その場で自らの出力を上げた。それによって、着せられていた衣装は燃え上がるように消滅。しかし、内側から素肌が見えることはほとんど無かった。

 

 二の腕や太腿の一部は深海棲艦の肌を持っていたが、それ以外は深海棲艦の甲殻のような素材で包まれており、その内部も艤装だとわかるように赤黒く明滅していた。

 まるで甲殻で作られたレオタードとロンググローブ、ニーハイソックスのような姿。しかし、見えていない部分は全て艤装。生身でもない、機械。

 

 

 

 

 ()()()()。そう表してもいいような姿に変えられていた。

 

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