後始末屋の特異点   作:緋寺

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明石の力

 並の力ではなかった艤装人間達の猛攻に、伊豆提督が負傷してしまったが、それを特機の力を借りた明石が救うことに成功した。

 得た力は『工廠』の曲解。そこで出来る全ての事象を極端なカタチで再現するその力で、床を壁に、トラバサミに、そして主砲にすら『改造』して、その行動を全て封じ、意識まで飛ばすことに成功したのだった。

 

「と、咄嗟のことでしたが、何とか出来ましたね……」

 

 その力を得たことにホッと胸を撫で下ろしつつ、今ならばもう大丈夫だと伊豆提督を守るように『改造』した床を元のカタチに戻した。どちらかといえば戻したのではなく、壁を床に『改造』したと言う方が正しい。

 工廠で行える『改造』は基本は不可逆。一度そのように変えたものは、それに戻すことは出来ない。だが、戻すのではなく、()()()()()()()()()という屁理屈により、その場所を元のカタチへと改造し直すことに成功している。極端なカタチで再現するというのは、まさにコレ。

 

「主任もありがとうございます。私自身が『工廠』となったようなモノですから、主任も私の艤装妖精さんになったようなモノでしたね」

 

 そんな明石の肩でサムズアップしていたのは、うみどり自慢の工廠妖精、主任だ。工廠で働き、工廠を統べる妖精さんのトップは、明石のサポーターとしての力も手に入れていた。

 

 そんな主任が、伊豆提督の方を指差す。救われたのはいいが、脚を怪我してしまっているため、その場から動くことが出来ない。ただの擦り傷ならいいが、肉が抉られているレベルなので、すぐにでも処置をしなくては手遅れになってしまう可能性もある。

 

「ハルカちゃん、すぐに手当を!」

「ごめんなさいね、結構痛いわ」

「なんでこれで結構で済むんですか……まぁ骨が見えていないだけマシですけども。入渠出来ないのは不便ですねぇホント!」

 

 流石に人間相手に『改造』を使おうだなんて思っていない。正しい処置のために頭を捻り、それに関しては専門家を呼んだ方が早いと、救護班の誰かに来てもらうようにどうにか手配する。

 今の状態なら川内が艦内を内外合わせて走り回っているため、少しすればここでの戦闘音に気付いてやってくるだろう。本音を言えばもう少し早く来てほしかったが、状況が状況だ。そこをとやかく言ってはいられない。

 

「明石ちゃん、さっきの子達は拘束しただけ?」

「こんな時に敵の心配ですか……まぁそれが貴方なんでしょうけど。はい、今は拘束しただけです。うみどりの床を改造して罠に変え、噛みついたと同時にさらに改造を施し、脚の艤装に癒着させました。拘束でもあり、その場に固定もしています。あそこからは、私の許可なく動けません」

 

 とんでもないことを言い出した明石だが、そうでもしなければ艤装人間達は未だに暴走を続けていただろう。

 

 強烈な威力を持つ水鉄砲で気絶させ、脚を固定されたことでその場で倒れることも許されていない艤装人間達は、さらに改造による変化を施された床が腕をも拘束し、脚と同様に癒着。さらには艤装であることをいいことに、内部に仕込まれた機銃を機能停止にまで追い込んでいる。

 床がそのまま明石の手足と同様の動きをしてしまっている。これまでの力でも類を見ない、大規模かつ汎用性が高すぎる力に、伊豆提督は驚きを隠せない。それを明石自身が説明することで納得してもらう。

 

「私が手に入れた力は、『工廠』の力です。特に『改造』の力が強くて、触れたモノを意のままに変形させられると思っていただければ。ただし、梅さんと同じように、無機質にしか反応しません。工廠は、生身を改造する場所ではないので」

 

 明石の説明に、主任もその通りだと力強く頷く。無機物を触れただけで意のままに変形させられるというのが、どれほど凄まじい能力か。しかしと明石は付け加える。

 

「先程のような、床を壁にするには、相応の資材が必要です。今は他の床から資材を掻き集めて壁にしたんです。なので、あの時はアレでよかったんですが、実は少し床が脆くなっていました。今は壁を資材にして床にしているので、多分補完されています。多分」

「そこは曖昧なのね……」

「初めて使いましたからこんな力。カテゴリーWになろうだなんて、ほんのついさっきまで思っていませんでしたし。でも、咄嗟とはいえ、この力を得られたのは本当に良かった。ハルカちゃんが亡くなったら、悲しむだけでは済みませんから」

 

 その辺りは明石もしっかり理解している。自分達がここにいられるのも、こうして面白おかしく生活出来ているのも、伊豆提督の尽力のおかげ。ならば、その恩に報いたいと考える。

 その気持ちにも特機は反応したのだろう。ただ守りたい、伊豆提督を救いたいという純粋な気持ちに応えた、効果範囲も非常に大きな強大な力を、明石は得るに至っている。

 

「さぁ、今は私がやれる限りをやります。脅威が去ったわけではありませんからね。ムーサさん、頑張ってくれましてね」

「ウン、ソロソロコレ、オ願イシテイイカナ」

「ずっと持っててくれたんですね。ありがとうございます。ムーサさんは入渠をしてください」

「ン、ワカッタ。身体、結構痛イカラ、休マセテモラウネ」

 

 ムーサもル級の盾を構えたままで硬直していたため、それを明石が支えてやった。『工廠』の力を持つ今、明石には艤装を運ぶなどのことに関しては艦種の垣根が完全に取り払われていた。軽巡には重く、工作艦には装備など出来るはずのない、深海棲艦の戦艦の艤装を、軽々と持ち上げてしまった。

 これは主任が扱うクレーンなどの力を体現しているだけ。これもまた、『工廠』が出来ることであるため、極端なカタチで再現しているということになる。

 

 ムーサはここで一時退場。伊豆提督を守るため、盾はあったにしても銃撃の矢面に立っていただけあって身体中ボロボロ。これは早いところ治療しなくてはいけないと、入渠することになった。

 そんなムーサを心配そうに見つめるル級に、大丈夫ダヨと手を振って、工廠の奥へと向かっていく。いろいろあっても、副官は副官らしく、仕える姫の安否は心配のようであった。

 

「ル級さんも、ハルカちゃんと高波さんを守ってくれたんですね。すぐに盾を直しますのでご安心を」

 

 そんなル級に軽々と持った盾を返すと、軽く撫でるだけでヒビの入った盾が綺麗なモノへと修復されてしまった。

 工廠の出来ること、『改造』と共に兵装の『修復』も可能。当然ながら資材が必要であるため、ル級の盾は以前と比べると一回り縮んでしまっていたが、それ以上に性能も上がっていたため、ル級は礼を言っているかのように頭を下げた。

 

「あ、明石さん、すごいかも、です。高波、全然動けなくて……」

「仕方ないことです。私だって実は脚が笑っちゃってて。今は気合でどうにかしていますけど、そろそろ休みたいですよ」

 

 何も出来なかったことを悔やむ高波を慰める明石。ル級もそんな高波を軽く抱きかかえ、頭を撫でた。

 

「とはいえ、仕事はまだまだあります。休むことなんて出来ませんね。まずはアレについて調べなくては」

 

 話もそこそこに、明石が今やらねばならないことは、艤装人間の調査。絶対に抵抗出来ない状態にしていることから、今なら触れて調べることも可能であろう。

 知らなくてはならないことは、()()()()()()()。艦娘を改造して作り出された存在であろうと解釈しているが、まずそれは生きているのか死んでいるのか。イリスの目には深海棲艦と映っているが、改造でそこまで出来るのかどうか。

 今の明石ならば、工廠そのものと言っても過言ではない。それを調べ上げることも可能であろう。

 

「じっくりとやりたいところですが、時間がそんなにあるわけではありませんからね」

「だ、だったら、高波もお手伝いしたいかも、です!」

「ありがとうございます。それなら、少し手を貸してください。いくら今の私であっても、人手はいくらでも欲しいですから」

「はいっ」

 

 ル級もそれを手伝おうと頷き、すぐに調査が始まった。

 

 

 

 

 川内経由で救護班、酒匂が工廠に来たことで、伊豆提督の応急処置はすぐに行われ、事なきを得た。とはいえ、流石に歩くことは難しいため、すぐに車椅子が用意される。

 

「しばらくは安静だよハルカちゃん。酒匂達と違って生身なんだから」

「ええ、勿論。これだと流石に無茶は出来ないわね」

 

 酒匂に車椅子を押してもらい、床に磔にされている艤装人間達の様子を見させてほしいと移動する。舌の根も乾かぬうちにと思いつつも、伊豆提督の指示がなければ先に進めないことも事実。

 無理も無茶ももうしてもらわないようにしていきたいのは山々だが、今の状況は早急に知ってもらわなくてはならないこと。

 

「痛た……やられたのが脚なのは厄介ね。車椅子でも痛い時は痛いわ」

「ゆっくり押すからね」

 

 少しの振動でも痛みがどうしても出てしまうくらいには重傷。それでも今すぐ休めないのは提督であるが故。当人に休むつもりが無いのだから、それはそれでよろしくない。

 この戦いが終わったら、確実に休息してもらう。今ならば、提督代理として動ける者はそれなりにいるのだから。

 

「ごめんなさい、明石さんに言われて避難していましたが、そんなことしていられない状況になってますね」

 

 工廠の奥から出てきたのは丹陽。戦えないのだから、自分の身を守ることに尽力しろと待機させられていたようだが、この状況に待機していられないと表に出てきたようである。

 実際は、伊豆提督が呼んだというのもある。丹陽の経験と直感が必要な事態でもあったからだ。

 

「丹陽ちゃん、この子達を見て、どう思うかしら」

「これは……また、残酷なことをしますね」

 

 床に磔にされていることを言っているのではないと付け加えて、今は大丈夫かと明石に聞きつつ、手近な艤装人間の胴、甲殻のような質感の腹を撫でる。

 

「微かに温かい、それに金属のようで、それでも柔らかさも感じる。生体艤装のようなものでしょうか。あのプールに棲んでいる方々と同じような質感に思えます」

「ボス、あの子達と戯れてましたっけ?」

「少しだけ。撫でるくらいはさせてもらってます」

 

 そういうところからやはり深海棲艦なのだろうと思われる。イリスの目が正しく発揮されていると言えるだろう。

 

「ただ」

 

 しかしここで丹陽は別の意見を出してきた。

 

「精巧に似せているだけで、元々艦娘だったとはどうしても思えないんですよね」

「その理由は?」

「少しでも艦娘の要素があるなら、イリスさんの目にそれが見えてもおかしくないからですよ。カテゴリーBなり、カテゴリーCなり、その残滓が残っていないのはおかしいと思いません?」

 

 艦娘を資材として使ったとしても、その要素が外見にしか出ておらず、純粋な深海棲艦となっているのは何処かおかしくないかというのが丹陽の意見。

 そこから、丹陽は一つの結論を導き出す。勿論、これはまだ憶測であり、絶対に正解だとは言えないと保険もかけて。

 

「敵の能力は『改造』。普通の深海棲艦を、このカタチにしているだけではないかと。ただ、()()()()()()があれば、より精巧に造れるのではないかな、なんて思ったりします」

「あくまでも、見たままをそこに置いている、ということ?」

「はい。それもまた1つの可能性ですが」

 

 

 

 

 憶測の域は出られないが、艤装人間が艦娘を犠牲にした存在ではない可能性も示唆された。

 しかし、真実はまだわからない。断定出来るには、いろいろと足りない。

 

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