後始末屋の特異点   作:緋寺

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工作艦の本領

 うみどりに無事帰投することが出来た深雪達だったが、伊豆提督の負傷を知り、怒りに拳を震わせることになった。

 しかし、ここで冷静でいられないとトーチカ攻略は上手くいかないだろう。あちらはうみどりに対してここまで踏み込んできたのだ。後始末屋のやり方を逆手に取ったやり方で、ある意味的確に急所をついてきたようなもの。

 

「コイツらがハルカちゃんをやったってことか」

 

 深雪が一瞥するそこには、未だに床に磔にされた、先に鹵獲されていた艤装人形がまだいる。たまに身動ぎをするようだが、完全にロックさせられており、抜け出すことは出来なそう。鎖ならば破壊する膂力があったとしても、今の拘束はその数倍は頑丈である。何せ、両腕両脚の艤装と癒着している程の拘束なのだから。

 

「身体が艤装になっているのです……?」

「妙高さんはそう言ってたな。パッと見だとそうは見えねぇけど」

 

 遠目で見ると、その身体が艤装になっているようには見えない。しかし、触れてみるとわかるモノであり、いの一番に触りに行ったのはグレカーレ。あろうことか、その胸を両手で鷲掴みにしたレベルである。

 

「うん、柔らかくはないかなぁ。触り心地が深海棲艦っぽいね。ほら、ここのプールにいる子達みたいな」

「なるほどな。でも、その触り方はやめとけよ」

「えー、どうせ抵抗出来ないんだからいいじゃん。あたしは調査してるだけだよー」

 

 グレカーレ曰く、生体艤装のようなモノだとは思うが、それとはまた違う()()()()とのこと。艤装らしく硬さもあり、胸を揉んでいるのにそのようなカタチをしているだけの金属という感覚もあると。

 言ってしまえば、非常に精巧に作られた()()()()である。頭以外にも、関節の部分、肩と太腿の部分は生身になっている辺り、稼動性を損なわないようにしているのかと考えられる。肘と膝は完全に機械的ではあるのだが。

 

 そういう部分があるからこそ、この艤装人間は艦娘を改造した結果のようにも見えた。グレカーレが弄り回しているそれは、最初に鹵獲された蒼龍。無表情でグレカーレを見据えているが、当人は素知らぬ顔。

 腕の中に機銃が仕込まれていたのだから、それこそ口からも攻撃してきてもおかしくはないのだが、その辺りは既に調査済み。今の段階で抵抗が不可能であることは明石や主任の手によって判明している。

 

「胸を触ってても、鼓動みたいなのは感じないんだよね。心臓があるかもわかんないや」

「胴がそのように出来ているのですから、鼓動も届かないのでは。触れてみるのなら、腋はどうでしょう」

「お、シラクモ頭いいねぇ。ちょっと触ってみよう」

 

 白雲の助言を聞き、艤装人間の数少ない生身の部分、腋に手を当てるグレカーレ。すると、

 

「あ、脈感じる」

 

 生きている証拠はそこでわかった。機械で出来ている身体ではあるが、脈はあるという。

 だが、身体を通っているモノが血なのかどうかはわからない。とはいえ、この艤装人間がカテゴリーR、純粋な深海棲艦であることも確定しているので、もしここで生身の部分に傷をつけたら、深海棲艦特有の黒い血が流れるのだろうと予測出来る。

 

「あくまでも深海棲艦っつーことかよ。無茶苦茶に改造された」

「前から改造深海棲艦はいたのです。でも、艦娘に似せて作るなんて、趣味が悪すぎるのです……。ましてや、そもそも艦娘をこう改造したかもしれないわけですし……」

「本当に趣味が悪ぃぜ。クソみたいな性格してんだろうな、コレやろうと思ったヤツは」

 

 深雪の悪態に周囲は苦笑。電ですら、このようなことをしてきた相手の性格には難があると思っていたくらいである。ここまで相手にしてきた鎮守府の中でも、やり方が屈指の卑劣さ。

 その上で、本拠地そのものが深海棲艦の艤装となってしまっており、近付くことすらままならないというやりたい放題。今頃敵は、深雪達が撤退したことも確認して鼻高々だろう。あの後始末屋、延いては特異点ですら自分達には歯が立たなかったのだと。

 

 そう思われていたとしても、深雪達は何も気にしていない。調子づかれるのは面倒だが、敵がどう考えているとしても、攻略さえ出来れば何も問題ない。

 

「はいはい、皆さんちょっと退いてくださいね」

 

 蒼龍の身体を撫で回すグレカーレを退かしにかかったのは、奥でいろいろ準備を終えてきた明石と、その肩に乗っていた主任。その後ろには知識によるサポートをするための丹陽と、()()明石の力をコピーしたフレッチャーもついていた。

 艤装人間の解析は工作艦によって行なわれるが、明石のみでそれを全てこなせるかはわからない。そのため、少しでも戦力を増やすため、擬似的な工作艦になれるフレッチャーをサポーターとしておいたらしい。

 そのため、今のフレッチャーも明石と同じでツナギ姿である。これまでのことを考えると、少々物珍しい姿と言える。

 

「あ、そうだ。深雪さん、緊急事態だったので、特機を1つ貸してもらいました。今の私はカテゴリーWです」

「ああ、そうなんだ。別にあたしの許可なんていらないよ。つーか、そうしてくれたおかげでハルカちゃんが助かったんだろ」

「なんとか出来たのは、この力のおかげですね。私の『工廠』の力で、少しうみどりを歪めてしまいました」

 

 伊豆提督を救うためだったのだから仕方ないと、誰もが納得している。これでうみどりが壊れて使いモノにならなくなっていたというのなら、明石に対してもう少し手加減出来なかったのかと苦言を呈していたかもしれないが、そういったこともないのならば、誰も否定なんてしない。むしろ感謝ばかりである。

 

「さて、では気を取り直して。まずはコレを()()()()()()()()と思います」

 

 分解という言葉に、聞いていた者達が耳を疑った。一応は生身の部分も見える艤装人間を分解となれば、もしコレが艦娘を改造した結果の深海棲艦だった場合、そのまま命を奪うまで行ってしまいかねない。

 だが、明石も主任も心配するなと笑顔を見せる。殺すつもりはないと断言。

 

「あくまでも私が分解するのは艤装です。この身体は艤装で出来ているわけですから、工作艦であり『工廠』でもある今の私なら、繊細な作業も出来ると思います。それこそ、薄皮一枚を剥ぐような作業も」

 

 話しながらも作業を開始。グレカーレに退いてもらい、周りからも少しだけ離れてもらってから、磔にされている蒼龍の身体に触れる。

 

「……ここを開いた場合、かなり、その、グロテスクなモノが出てくる可能性もあります。それでも見ていますか?」

「それ、後始末屋に聞くか? そんなモンよりもエグいのいくらでも見てるし、あたし達はミンチになった深海棲艦の肉片を拾ったりしてるんだぜ?」

「そうでしたね、では視覚的な心配はそこまで必要ありませんでしたか」

 

 なら大丈夫だとその身体を撫で回し、脇腹の辺りでその手が止まる。

 

「流石に開くところは用意されていますよね、内部の調整をするための開口部というか」

 

 触れたその部分に指を添えると、何やら力を込めた。するの、カチリと少し高い音がする。

 もう片方にも手をやり、同じように力を込めることで、こちらも同じような音が鳴る。

 

 明石が今やっているのは、艤装の分解。工廠で艤装をチューンアップする際に必ず行なうであろう作業も、『工廠』の曲解を持つ今の明石ならば、簡単には構造がわからないようなモノであっても、()()()()()()()()()()()手で撫でるだけで解析が出来てしまう。

 そして、その力をコピーしたフレッチャーもほぼ同じ。若干劣化する性質はあれど、近しいことは可能。流石に艤装に触れただけで解析などは出来ないが、人手が必要な作業などの手伝いは出来る。重たいモノを持ち上げることや、それこそ『分解』なども可能であろう。

 

「開きますよ。中がどうなっているか……」

 

 本来なら開くような作りになっているかもわからない艤装人間の胴体を、当たり前のように真っ二つにして持ち上げる。

 そこから見える内部はと言えば──

 

「……これは、また……」

 

 艤装に組み込まれた機械と、深海棲艦の内臓が混在した、知らない者が見ればごった煮、そして知る者が見れば非常に高度かつ複雑な改造。

 後始末屋はその業務上、()()()()()()()を見慣れているため、普通にそれを見ていられるが、耐性が無い者であれば直視出来ないような混沌。しかも、そこに鎮座している生体部品、心臓はしっかりと脈打っているのだ。先程グレカーレが腋に手を当てた時に感じた脈は、確実にここから来ている。

 

「外皮や骨格だけではなく、内臓の一部も艤装化しています。でも、心臓とそこから伸びる血管の一部はそのまま使われているし、その駆動がダイレクトに身体を動かすための力に切り替わってる。接続部分も自然になっているし、動力の切り替えが恐ろしく理に適っている……並の技術者じゃないですよコレ」

 

 明石の表情が複雑なモノになる。この技術を別のことに使えば、本当に人類の平和のために使えるのではないかと思える。しかし、それを今のように人権を無視したようなやり方にしか使っていないので、否定的な意見しか出ない。工作艦として、非常に()()()()という気持ちでいっぱいだった。

 

「とはいえ、本当に技術があるからこれが出来ているとは限りません。それこそ、今私が手に入れたような力を使って、艤装と生身を組み合わせている……例えば、『合成』の力を持っているとかなら、こうなってもおかしくはありません」

 

 壊れた艤装を組み合わせて1つの艤装にするような、『合成』の力を持っているとしたら、このような状態になっていてもおかしくないと明石は分析する。

 自分でも取り扱っている未知の力ならば、短時間でここまでの技術も可能であろう。本来なら艤装人間の胴体を開くのだって、徹底的な解析と技術力を以てして時間をかけて行なうモノなのだろうが、それを一瞬で終わらせることが出来たのだ。これも似たようなモノだと考えられる。

 

「『合成』だって私のような工作艦の仕事です。そこから考えるに、敵も私のような『工廠』の力を持っているのではないかということです」

 

 それは脅威としか言いようがない。『合成』が出来るなら、『分解』も『改造』も出来るだろう。そこから考えれば、艦娘を深海棲艦に改造するということも可能に思えてしまう。

 

「ですが」

 

 だがここで明石が確信を持った表情で語る。

 

 

 

 

 

「これは、艦娘を改造したことによって生まれた存在ではありません。ボスが話していた通り、深海棲艦を艦娘に似せているだけと言えます」

 

 明石はそう断言した。

 

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