「これは、艦娘を改造したことによって生まれた存在ではありません。ボスが話していた通り、深海棲艦を艦娘に似せているだけと言えます」
拘束している艤装人間の胴体を分解し、その内部を確認した明石は、そう断言した。
深雪達はまだその話を聞いていないため、明石のその言葉に驚きを隠せない。改造されて深海棲艦に変えられてしまった仲間だと思っていたが、そうではないと断定されたことは喜ばしいことでもある。
「ですよね。でも、私は状況証拠から艦娘じゃないなと言ったんですけど、明石さんは何を見て確信を持ったんです?」
丹陽のそれは当然の疑問。カテゴリーRであることから、あくまでも深海棲艦を艦娘に似せているだけだと予想しただけの丹陽と違い、明石は見たことでその答えを出している。しかも、憶測などではなく断言するカタチで。
そんな丹陽の問いに対して、明石は考えるまでもなく普通に答えた。
「骨格が艤装化していることで、艦娘とも深海棲艦とも言えない形状になっているのは、一旦置いておくとして、体内でも生身のまま扱われている部分、特に動力として使われている心臓と血管が、変質とか無く深海棲艦のモノです。艦娘と深海棲艦、見た目はどちらもヒト型であっても、生活の基礎が違うので、最も重要なココには明確な違いが出てきていますから」
内臓が深海棲艦のモノであるため、明石は艤装人間が艦娘からの改造ではないと確信を持ったとのこと。胴体を真っ先に開こうと考えたのは、どう足掻いても変えられないのではと考えていたそこを見るため。
これで臓器すら艤装化していたとしたなら、その形状からの調査になっていたが、都合がいいことに最も重要になりそうなその部分が据え置きだったことで、その結論に達することが出来たようである。
特に顕著に現れているのが、心臓の
もしこの艤装人間が元々艦娘だったとしたら、心臓の色が変化したという痕跡があってもいいだろう。しかし、艤装人間の心臓は、
「あとは整形痕でもあれば確実ですが、そこは『改造』出来るなら消せると考えてもいいでしょう。それなら
「お任せ下さい」
次に調べるところは、見えている生身の部分。ここは手早く終わらせるために、明石と共に同じ力を持っているフレッチャーの手も借りて調査を続ける。
少し劣化したフレッチャーの『工廠』の力でも、今知りたいことは調査が可能なようで、肩や太腿、そして顔に触れる。
その間に明石は逆に艤装で出来ている部分に触れ、『改造』を交えながら両腕両脚の構造を確認。生身との接合部分はそのままに、また
「生身はやはり見た通りの生身のようです。艤装ではないので、『分解』には対応していません」
「そうですか、そこは予想通りですね。あくまでも生身と艤装を接合……『合成』させることで、四肢として成立させている。神経も艤装を電気信号で動かしているんでしょう。生体艤装が生々しく動くようなモノですね」
明石とフレッチャー、そして主任も加わった調査により、艤装人間がどのように作られているのかが次々と解明される。
見えている頭、肩、太腿の一部は、本当に生身であることが確定。解剖して中身を見ているわけではないが、接合部分、触れてわかる内部構造からして、機械的な部分は存在しないということ。
顔に関しては、主任による調査で明らかに整形であることが判明。整形痕があるわけではないが、治療痕に近いモノが発見されたらしい。工作艦では見つけにくいが、入渠なども司っている妖精さんの目だからこそわかることもある。
今の主任は、『工廠』そのものとなっている明石のサポート妖精さんに近いことが可能。明石の手に入れた力と近しい力を手に入れているようなモノであった。
そうして調査を調べていく内に、結論が出てくる。
「この艤装人間達は、おそらくあちらで『建造』された深海棲艦を『改造』『合成』して、ヒト型に構築し直した存在です。非ヒト型の深海棲艦も、そのパーツを『改造』することでヒト型に適した構造に変えているのでしょう。そして、その際に艦娘と同じ見た目に仕立て上げることで、こちらに攻撃を躊躇わせようとした。駆逐艦であろうがヒト型をしているのは、この『改造』によるモノですね」
明石がうみどりの床を壁に『改造』したように、敵の何者かは『改造』を深海棲艦の生身に使っていると考えた。梅の『解体』と、かつての叢雲の『解体』のように、対になっている同じ力ではないかと明石は予想している。
「それじゃあ、それこそ艦娘も『改造』出来ちまうんじゃないのか?」
深雪の疑問はごもっともである。生身のカタチを変えられるのなら、艦娘を同じように変えてしまうことも可能なのではないかと。だが、そこは明石が違う理由で否定した。
「艦娘を『改造』したところで艦娘のままです。性質そのものを変えることは、いくら『改造』でも出来ないと見ます。無機物は無機物、生き物は生き物。艦娘を深海棲艦に変えることが出来るのは、忌雷の特権でしょうが、これには忌雷の痕跡がない。というか、忌雷は艦娘の要素を壊さずに深海棲艦の要素を足し合わせる『合成』に近い要素でしょう。艦娘を艦娘で無くす効果はありません。それこそ、特異点の力で元に戻せるのがいい証拠です」
艦娘を完全に深海棲艦に変えることは出来ない。これが結論。あちらは変えることが出来ると思っているかもしれないが、イリスの目があるからこそ、それが出来ないことは確定している。『改造』を施している敵にもわからない真相は、うみどりだからこそ辿り着くことが出来る事実。
これがうみどりで無ければ、仲間が改造されたという結論にしか辿り着けなかっただろう。そして、混乱して余計に敗北に向かっていくか、その恐怖によって戦えなくなるかのどちらかになる。
「とはいえ、艦娘を艦娘のまま、別のモノに『改造』出来てしまう力でもあります。それを考えると、私達よりも前に鎮守府に襲撃を仕掛けた部隊の艦娘が、今どうなってしまっているか……正直わかりません。何か別のモノに変えられているかもしれない。それこそ、ここまで見えていない忌雷に寄生されて、何か違うことをされている可能性もある。最悪を想定するなら……寄生なんてさせずに資源として使い潰されている可能性も」
明石だけでなく、第二世代以前の艦娘なら誰にだって思い当たるところ。艦娘からその力を吸い上げるという、今から考えればかなり
力を吸い尽くされると命を落とす。それは昔から判明していることだ。グレカーレはそれで姉を失っているし、丹陽は自身がその犠牲になりかけている。この場にはいなくても、その被害を受けている、もしくは親族が受けている者は沢山いる。
それを今更やっている可能性が見えた。吸い上げた力をどう使うかはわからないが、だとしてもそれで誰かが犠牲になるのは許し難いこと。
「何かあるとしても、敵の鎮守府に突入する以外に真実を知ることは出来ないでしょう。私が出来るのは、あくまでもこの艤装人間達を調査することだけ。今の調査結果から考えるなら、これは深海棲艦を『改造』し、艦娘に極力似せたカタチにした後、艤装もそのように『改造』し、生身と艤装を『合成』した。追加で、その出力も極力上げている。強化改造もしっかりやっています」
少なくとも、艤装人間に艦娘が使われていないというのは断言出来るようである。そのため、明石は非情ながらも今後の戦いについて言えることがあった。
「なので、余程のことがない限り、この艤装人間達は
その目で見て、カテゴリーRならば、艦娘の要素は何一つない、イコール、仲間達が犠牲になった存在ではないため、沈めることもまだ出来る。それも可哀想なんて思い始めたら話は変わるが。
それ以外、例えば擬似カテゴリーKならば治療が出来ると判断可能。ムーサを使えば忌雷が入っているかわかるし、挟んでひっくり返せばカテゴリーWにすることが可能。内部で特機に変化していることもこれまでの経緯から判明しているため、それを抜けば元通り。
話しながら、開いていた艤装人間の胴体を元に戻す。蓋をしっから嵌め込んで、また開くことのないように接合。『改造』と『分解』が出来る明石にしか開けないようにしっかりと閉じた。
「でも、こいつらはどうやっても敵対してんだよな。どうするんだ?」
「申し訳ないですが、ここで沈んでもらうしかないでしょう。気が引けると思いますので、こちらで
それしかないのかと少しだけ悲しむ。勝手に生み出され、頼んでもいないのにヒト型にされ、頭の中も弄くり回されて奴隷のようにこき使われているという救いのないこれまでのことを考えると、どうしても情が湧いてしまうというもの。
「挟んでひっくり返したら、あたし達の仲間になってくれねぇかな」
「可能だとは思いますが、
責任の問題となると、深雪も何も出来なかった。自分達の都合で艤装人間達を艦娘に変えたとしても、その後の生活などに関しては何か出来るわけでもない。ましてや、解体して人間にしましたとなっても、身寄りなんてあるわけでもなく、下手したら大人の姿で中身が空っぽなんてことにもなりかねない。そんな存在を作って、可哀想だから治して、あとはご自由になんて無責任なことは出来るわけがなかった。
「私の推奨は安楽死とだけ伝えておきます。生み出した者の罪を、私達が背負わなくてはいけないのが何とも理不尽ではありますがね……」
その存在が理不尽の塊と言える艤装人間達。それをどうにかする手段はないだろうかと考えるものの、結論は出てこない。
ならば、やはり痛みなく死を与えてやるのが一番互いに穏やかに終わりを迎えられるのではないかと思えた。
「せめて洗脳が解けちまえば、普通のイロハ級みたいになってくれるのかもしれねぇけどさ」
「なのです……カタチはどうであれ、頭の中がイロハ級なら、誰にも害は無くなるのです。ムーサさんにもキチンと従うようになるかもですし」
「そうですね……そちら方面でも出来ないかは調べてみますよ。ただ、『工廠』は頭を弄るようなことを生業としていませんので、あくまでも案を出すだけで終わりますが」
洗脳だけを解くようなことが出来ればいいのだが、と頭を捻るものの、そう簡単にはわからないこと。何か思いついても、結局それはやってることが敵と同じなのではという倫理的なところで躓いてしまう。
丹陽は特機を寄生させてみればいいのではなんて言い出したが、それも割と躊躇われること。結局やらねばならないことが洗脳されている者に対して再洗脳を施すようなモノだから。
ひとまず艦娘が使われていないことが確定したことだけはヨシとして、調査を終えることとした。少しだけでも前進は出来たであろう。